俺達は抱き合いながら、ベッドに崩れ落ちる。圧倒的な快感に目が眩み、ベッドがグラグラ揺れているようにさえ感じる。
そんな俺の下にいる慧が、頬にキスしてくる。
キスキスキス。慧は何度も俺の頬にキスしてくる。柔らかい唇が俺の顔で何度も弾ける。くすぐったい。
「や……、やん。な、なんだよぉ……」
「だって、佐奈ちゃんかわいいんだもん……」
慧は腕を背中に回しながら、さらにキスしてくる。耳や首筋にまで口唇が当たる。俺はむず痒くって思わず顔をそらす。
「あんっ……! うッ! うぅ……」
「ちょっと触っただけで、スカートの中がグチャグチャになるほど射精しちゃうなんて……、佐奈ちゃんすごいね。そんなに感じちゃってた?」
「感じちゃってたって……」
「お口で、感じちゃったんでしょ」
ドクンと心臓が跳ねる。全部、慧にはバレてしまっている。
「分かるよ……。僕も佐奈ちゃんの舐めたことあるから。お口でも感じちゃうんだよね。フェラチオって、している方も気持ちいいんだよね……。知ってるよ……」
「け、慧ぃ……」
慧が俺の耳元で甘く囁く。そっと吐かれた息が耳の産毛をサワサワを揺らす。
「佐奈ちゃん、コンサートの後、オナニーたくさんしちゃうでしょ。……僕もだよ。僕も佐奈ちゃんのおちんちんのこと考えながらオナニーしてたの」
慧が俺の背中をまさぐる。右手は上から服の中に差し込まれ、肌を直接さすられる。
慧の口がさらに俺の耳元に寄ってくる。
「ドピュドピュって佐奈ちゃんが射精するところを、何回も頭の中でリプレイしたの。匂いや手触りを思い出して、自分のおちんちんをいじったの。そうやってずっと佐奈ちゃんを汚していたの……」
「う、うあぁ……。慧ぃ……」
静かな声が透き通るように俺の脳に入ってくる。糸のような吐息が、鼓膜を震わす。ゾクゾクと背中がざわめく。
「だから、昨日はどうしても耐えきれなくて、佐奈ちゃんのおちんちん、舐めちゃったんだ……。ごめん……、ごめんね……」
慧はついに左手をスカートの中にまで手を伸ばしてくる。お尻がタプタプと波打つように撫で上げられ、一緒にスカートの裾が揺れる。
俺はお腹を中心に体をくねらせる。体中をいっぺんにまさぐられる感触に耐えきれない。吐き出す息が再び熱をはらむモノになっていく。
予告なしに耳たぶを甘噛みされる。
「ひっ?!」
俺は体を縮める。慧の左手はついにショーツの中にまで入ってくる。端の方に指をかけられ、少しずつゴムが下ろされていく。薄い布が精液で濡れた陰茎をこする。
右手の指が少し立てられ、背筋の上を滑りながら後頭部へ……。その動きを追って快感が頭に這い登ってくる。
「ひああぁっ! あっ、あっ、あっ……」
喘ぐ口を慧の舌が舐める。硬く尖らされた先端が、歯列をなぞる。
モソモソと動く腰は、スカートを胸元まで上げていく。俺達は徐々に下半身を部屋の空気にさらしていく。
ついに、おちんちんとおちんちんが、直接触れあう。
唇も重なる。
上と下、俺達は両方の粘膜で同時にキスをする。
舌が絡みつく。俺達はねじるように首を回し合い、口の密着を強めていく。溢れた俺の唾液が慧の中に落ちていく。
腰は二本の鞘を上手く重ねようと必死に動く。だが、どうしても芯が噛み合わず、下半身はもどかしげに振られることになる。
プルプルと陰茎が揺れる。先端からは透明な汁が漏れはじめる。
「ふうぅ……、うんっ! うぅ……」
気持ちいい。お口も、おちんちんも、背中も、全ての快感が一つになって伝わってくる。
潮の満ちてくるような快感がこみ上げてくる。泣きそうなほどの切なさで、心臓がキュンを縮む。
俺はたまらず、慧の柔らかい舌を吸い上げる。甘い唾液が口に広がる。
腕を慧の腰に回す。肌の接する面積がさらに広がる。おちんちんはその角度をずらし、お互いのお腹でサンドイッチされる。
慧が腰を持ち上げてくる。精液で濡れたお腹が二本の肉棒をヌルヌルと押しつぶす。
「ふぐぅ……、うあぁ……あっ……、あぁ……」
「ふぅ……うッ! うぅ……うんッ!」
キスの続く口からは、発声を邪魔されたくぐもった呻きが漏れている。唾液の泡沫が潰れる。グチャグチャという粘着音が異様に大きく耳に響く。
ついに腰がおへそに突きを入れるように動き始める。
幼い性衝動はゆっくりとしたペッティングなんて許してくれないらしい。俺達は二人でお互いのペニス同士を犯し合う。
ガツガツと亀頭どうしがこすれる。飛沫が腹部に飛び散る。
黄色と青の女装少年が、柔らかいベッドの上で重なり合いながら、お互いのペニスをぶつけ合って喜んでいる。
長いキス……。しかし、こみ上げる悦楽から俺達の呼吸は詰まっていく。薄い酸素のせいで、頭の中に霧がかかっていく。
意識の焦点が定まらない。動物的な本能が腰を乱暴に突き動かす。射精間際のうずきが股間を痙攣させる。
「うぅ……慧ぃ……。や、やばいよぉ……。い、イくよぉ……」
だらしない声で俺は限界を伝える。
「うん……。ぼ、僕もぉ……。僕も出しちゃう……。佐奈ちゃんのお腹に……出しちゃう……ッ!」
慧を抱く力を強める。
もっと慧を近くに感じたい。慧に向かって射精したい。さっきみたいなスカートの上なんかじゃなくて、慧にかけたいッ!
――かわいい慧を、もっとかわいくしたい!!
二人で狂ったように体をこすり合う。もっと強く、もっと近くにと願いながら、ドロドロに溶け合っていく。
「ひああぁ……ッ! け、慧ぃッ! イくうぅッ! イく、イく、イくうぅッ!!」
「ああぁッ!! あっ、あうぅっ! あっ! さ、佐奈ちゃ…………、さ、さ、あああぁぁッ!!」
ドビュウウウウゥゥッ! ビュルウウゥッ! ビュルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュウゥッ!
ビュルウウゥッ! ドビュウゥッ! ビュルンッ! ドビュウゥッ! ビュッ! ビュウウゥッ!
二人で、同時に弾けた。
二人分の精子がお互いの腹に吹きかかった。それは密着した肌に反射し、白い白濁液が爆発でもしたかのように左右に広がった。白濁液はシーツにまではじけ飛んだ。
痛いくらい力を入れた腕が、射精の衝撃で硬直する。俺も慧もまるで凍えているかのようにブルブルと震えながら、快感を受け止める。
「あ…………あ、あぁ……」
「さなちゃ……ん。さなちゃん……」
収まらない荒い呼吸が、慧の胸を激しく上下に波立たせている。俺はたまらず、慧の顔を撫でる。
溢れる涙を指ですくい、自分の口に運ぶ。
……甘酸っぱい。
その指を、半開きになった慧の口へ。慧はおしゃぶりでも入れられたかのように、指を吸い始める。
かき回すと、慧が小さく呻く。
間違いなく、お口で感じている……。
グチャグチャ。――今の俺達を形容するなら、この一言でいい。
大量の精液が、スカートの裏も表も汚している。それはお腹に張り付き、太ももに雫が垂れる。
キスで溢れた唾液はアゴをコテコテに濡らし、ポタポタと胸元にまで落ちている。
そして、頬は涙で光っている。
染み一つ無かった綺麗なシーツも、激しいプレイでグシャグシャにシワが寄り、たくさんの体液があちこちに吹き飛んでいる。
俺はベッドの上に寝ころびながら、股間を開く。膝の裏を自分で掴み、両足を持ち上げる。
たくし上げられたスカートは、もう装飾としての役割を果たしていない。俺は勃起したペニスを晒し、肛門を突き上げる。液の溜まったおへそが少し涼しい。
「佐奈ちゃん……、いいの?」
お尻の向こうで、慧が聞いてくる。おちんちんをピクピクと痙攣させながら、半泣きの笑顔だ。
「うん、いいよ。慧に奪って欲しい。俺の大切なもの、慧に上げたい……」
「佐奈ちゃ……ん」
慧はグスグスと慧が鼻をならしている。……泣くなよ、俺だって我慢してるんだから。
「だから、お尻濡らして……。俺も一生懸命広げるから、……舐めて」
「うん、分かった……」
慧は俺の腰を少し持ち上げて体勢を直す。そして、浮いたお尻に顔を近づけていく。
お尻の割れ目に、慧の舌が潜り込んでくる。
「ひゃんッ!」
窄まりに、なま暖かい舌が這う。
クチャクチャという水音が響きはじめる。俺は肛門のシワまで一本一本、丁寧に伸ばされているのを確かに感じる。慧の舌使いはとても優しく、俺を傷つけないための細心の注意が払われている。
俺は出来る限りのリラックスを心がけ、ゆっくりと息を吐き出す。少しずつ括約筋から力が抜けていく。
開いた肛門に舌が入り込んでくる。柔らかくも力の込められた舌は確実に歩を進め、俺の奥まで進入してくる。
濡れた粘膜が、直腸に唾液を塗り込む。モゾモゾと動くと、さらに肉環は直径を広げる。
不浄の器官を最愛の人に奉仕させる幸福と罪悪感。それらは全て脳髄を介し、複雑な趣の快感に変換される。
(気持ちいい……。やっぱ俺、お尻でもすごく感じる……)
吐き出す息に熱がこもる。頭にはボンヤリと霧がかかり、全身がしっとりと汗ばんでくる。
薄紅の肌……。その中でも二点、特に充血の度合いを増していく部分がある。それは俺の乳頭だ。
両の乳頭は、まるで横半分に切った苺のように三角形に勃起していた。噛んだら果汁まで溢れてきそうだ。
俺は自分の興奮を伝えたくて、サマードレスの裾を胸の上にまで持ち上げた。勃起した乳首を慧に見せる。
「へへー……。ほら、凄いよ……。俺さ、慧に舐められてこんなになっちゃった。慧のこと好きだから……もう体中が感じちゃってる……」
慧は俺のお尻を舐めているから喋ることは出来ない。しかし、さらに気の入った肛門愛撫で俺の言葉に応える。
ジュルウウゥッ……チュウゥッ……、チュッ……、チュム……クチュウゥッ……。
さらに唾液をかき回すためなのか、直腸を吸われる。体の芯が抜けてしまいそうな感覚に、俺は呻く。
慧は出し入れをひたすら繰り返す。舌によるピストン運動。俺の体は高まっていく。
ついに開いたアヌスに、確認のために指まで添えられる。
硬い爪先が括約筋を抜け、俺の中に指が一本入る。
慧は更にもう一本増やす。二本もの棒を、俺の直腸は飲み込んでいく。
出し入れされると、息が詰まる。俺は強引に腹筋に力を入れて、準備が終わるまで耐える。
もう、いい……。もう、入れて欲しい……。
「け、慧……」
「……なに?」
「欲しい……。もう、慧が欲しい……。慧のおちんちんが欲しくって、せつない……」
俺は胸の前で手を合わせる。
――欲しい! 慧が欲しい……ッ!
「お願い。……どうかその熱いおちんちんで、俺の中をかき回して……。……俺を……犯して」
慧は俺の願いを聞き入れ、お尻から顔を離す。そして膝立ちしながら、自分の勃起した逸物を俺の尻にあてがう。灼けてしまいそうな肉棒の感触に、俺はわななく。
これが、俺の中に入る。そう思うだけで心が満たされていく。
こんな小さな胸にはとても納まらない、許容量を遙かに超えた幸福。
……溢れる。
「それじゃあ、入れるよ。……僕も我慢できないから。……佐奈ちゃんを犯したいから」
「うん、入れてぇ……ッ! 好きなようにしてぇ! 俺はもう慧のモノだから……慧にされたら幸せだからぁッ!!」
ズグンッ!!
慧のペニスが、俺を刺した。怒張は上からの圧倒的な力で、一気に根本まで埋め込まれた。
その瞬間、
「ひ、ひゃあ……ッ!! あうぅッ!!」
ドビュルウウゥゥッ! ブビュルウゥッ! ビュルンッ! ビュウゥッ! ビュウゥッ! ビュルウゥッ!
「さ、佐奈ちゃん……ッ?!」
慧が驚くのも無理はなかった。俺はまた、突発的な射精をしていた。
ただ挿入されただけでイっていた。あまりの衝撃に全身がガクガク痙攣している。白濁液は三回目の射精でもまだ量は十分で、俺の体に白い液溜まりを作っていく。
「うあ……、あ……あぁ……慧……、ごめん……」
俺は整わない呼吸で、慧に言い訳する。
「ごめん……。なんか、幸せすぎて……イっちゃった……。ブワッて……きちゃった……」
「さ、佐奈ちゃん……」
慧の動きが止まる。
……慧が困っている。
そうだろう。慧はもっと動きたい、ガシガシ腰を振って絶頂に達したい。なのに、肝心のパートナーがこの調子なのだ。まだ行為を続けていいモノかの判断がつかない。
慧の荒い呼吸が薄い意識の俺にも聞こえる。お尻に入ったペニスの熱さを感じる。
「いいよ……。動いて……」
俺は慧を促す。重い頭を持ち上げて、恋人の潤んだ瞳を見つめる。
「で、でも佐奈ちゃんが……壊れちゃうよ……。僕、佐奈ちゃんを壊しちゃうよ……?!」
慧の声が震えている。
優しい……。慧はとても優しい。そんな慧だから、俺はもっと愛されたい。
「……いいの! ……壊していいのぉ! お願い、動いてぇ! 俺のお尻に、精液出してぇッ!!」
「さ、佐奈ちゃんッ!!」
ガツンッ!
慧が力強くストロークを打ち込む。杭で打たれたような痛撃が俺を襲う。
圧迫に合わせて、ペニスの先からは液が飛び出す。俺の絶頂は収まっていない。
慧の腰がヌチヌチと動く。連続する射精で収縮する括約筋は、大きなピストン運動を不可能にさせているようだ。小刻みな中挿が俺の尻肉を振動させる。
「佐奈ちゃん……、佐奈ちゃん……。はあっ……さ、佐奈ちゃ……ん」
譫言のように慧が俺の名前を呼ぶ。
腸壁をこする熱い勃起肉。唾液と腸液の混合物が擦過し、イヤらしい粘着音が体の奥から響いてくる。
「はあぁ……、あぁ……、け、慧ぃ……、ひぃ……い、イく……、俺、ずっとイってる……」
俺の鈴口からは絶え間なく粘度の高い透明の液が流れている。止まらない射精のような感覚が延々と続く。
柔らかいベッドのスプリングが、音もたてないで波打っている。まるでフワフワの雲の上だ。そんな夢見心地のような空間で、獣のようなセックスが続く。
溢れる腸液が潤滑剤になってか、慧の動きが少しずつ大きくなっていく。シャフトの滑りが速くなり、火がついたような熱を、アヌスに感じる。
「佐奈ちゃん……、佐奈ちゃん……」
慧がより俺に体重をかけてくる。体は前にのめり込み、俺の体は潰される。更に深くなる挿入感に、俺はアゴを反らせて呻く。
「あううぅ……、け、慧……。ひッ! ひぐうぅぅっ!」
絶頂感が終わらない。登った山から下りてこられないような錯覚さえする。視界が妙に光に溢れ、慧の顔までぼやけてくる。
その時、慧は両腕を前に伸ばし、だらしなく投げ出されていた俺の手を握ってくる。指と指を硬く絡め合い、そこに新しい熱が生まれる。
腰にのしかかるようなきつい体位。それを支えるのは結ばれた両腕。上手く力さえ入れられない俺の両手は、プルプルと震えはじめる。
お尻に慧の体重がかかる。一撃一撃が眩暈さえ起こすとてつもない重さになる。圧倒的な快感が俺の脳幹を揺さぶる。
――壊れる。
もう意識が保てない。気持ち良すぎて気が狂いそうだ。
慧と繋がっているという幸福が、俺を法悦の彼方へと導いているのだが、その感覚を慧を共有できないのがどうしても口惜しい。
(やだ……、俺一人で……こんなに感じてるなんて……。もっと、慧にも気持ち良くなって欲しいのに……)
俺は慧の腰に足を絡ませる。
密着が強まり、衝撃がさらに重くなる。でも、慧が気持ち良くなってくれるなら、もうどうでもいい。
俺は意識して、お尻に力を入れていく。中で暴れるペニスの形が分かっていく。
カリが前立腺を掻き上げている。亀頭と竿では摩擦係数が全然違う。でも、性器の構成要素の全てが快感への仕組みになっていることに俺は気づく。
玉のような汗が全身から滲み出てくる。唾液を飲み込むことが出来ず、ヨダレが垂れ流しになる。苦痛とも喜悦とも区別のつかない涙がトクトクと流れ出す。
ポタッ……、ポツ、パタタッ。
俺の顔に、熱い何かが当たる。
「佐奈……ちゃ……ん」
慧の顔がすぐ上に見える。額まで赤くなった顔、だらしなく開いた口、そして、濡れた瞳。
泣いている、慧も目の端から涙を垂れ流し、雫がアゴまで伝っている。
「け……い……」
俺は指に力を入れる。二人の手が、一つの強固な塊になっていく。
それでも、引きつる肺では不規則な細い呼吸しかできない。意識が薄まる。
股間では勝手に射精が続いている。一突きごとにピュルピュルと出てくるカウパーはまるで水鉄砲だ
もうダメだよ……。慧……、お願い、射精して……。
「佐奈ちゃん……」
慧の顔がぶれる。腰がものすごい速さで動いているのだろうが、上手くそのことが認識できない。連続絶頂に俺は恍惚とし、間抜けな顔を慧に晒している。
(慧、ごめんね……。俺、慧に謝ってばっかりだ……)
慧の涙が頬に当たる。熱くて、痛い。
「佐奈ちゃん……ッ! さ、佐奈ちゃん……!!」
慧がビクビクと震え出す。すさまじい振動が俺の快感の芯を揺さぶる。なんか凄いモノが来る。
(慧は……俺を許してくれるかな。俺を……好きでいてくれるのかな)
「さ、佐奈ちゃんッ! あっ! あっ! ああぁっ!! さ、佐奈ちゃ……、ぼ、僕ぅ、僕うぅっ!!」
(け、慧……ッ!!)
「……あ、愛してるうッ!!」
ドクンッ!!
ドビュルウウウゥゥッ! ビュルウウゥッ! ブビュビュウウゥッ! ビュルウゥッ! ビュルウぅッ!
「……あ、あぁ、ふああああぁぁ……ッ!!」
愛の咆吼と、引き絞られた喜声が交錯する。
思いの丈、全てを込めた熱湯のような精液が、俺の直腸から注ぎ込まれる。体内にマグマが広がる。
「け、けぃ…………。けい…………」」
慧の痙攣が収まらない。ドクドクと熱いたぎりが絶え間なく俺の中へ……。
「佐奈…………ちゃん……、愛……してる……のぉ……。あ、あぁ…………うあぁ……」
俺も魂を引きずり出されそうなほどの深い絶頂を感じている。そのまま、意識は消えていく。こんなに近くにいる慧が、どんどん遠くに離れていく。
(慧……愛してる。俺も……慧のこと……愛してる……)
頬が二人分の涙を受けてグチャグチャになる。
慧……、また泣いてる。
でも、涙ってこんなに暖かいんだ……。
星空が、ひっくり返っていた。
それがスイートルームから夜の街明かりだと気づくのに、ずいぶん時間がかかった。
俺は、慧に後ろから抱かれていた。一枚の毛布にくるまって、窓際に座っていた。
「あ、気づいた?」
「…………慧」
俺達は絨毯にベタ座りだった。それも裸で。慧の肌がとても柔らかくって、気持ちいい。
……状況がよく分からないけど。
「えっと……、なにしてるの?」
「佐奈ちゃんと一緒に、お外を見てるんだよ」
「そっか……」
俺は慧の体に背中をすりあわせる。合わせて慧も俺を優しく腕で包み込む。
「佐奈ちゃんが起きた時、一番気分がいいだろうなって感じにしてみたかったんだ。……どうかな?」
「……うん、綺麗だね」
俺達は一緒に、キラキラ光る夜の街を眺めた。ものすごいまったり感。なんか、時間が止まってるみたいだ。
俺の肩に乗せられた手が、そっと肌を滑る。背中にトクトクという慧の鼓動を感じる。暖かい気息が、髪を浮かす。
気持ちいい……。
体には力が入らない。たぶん今は立つことも出来ないだろう。腰が抜けるってこういう感じなんだと分かる。
俺は体を全て慧に預ける。慧は全て受け止める。
(愛してる……)
慧が言ってくれた言葉を噛み締める。たぶん、世界で一番素敵な言葉だ。これ以上何もいらない。もう、慧しかいらない。
「……俺、慧のお嫁さんになりたい」
ふと、言葉に出てしまった。
別に冗談にとられてもよかった。言った本人が笑ってしまうような、ばかげたセリフだ。それでも、無意識で言ってしまったことだから、これは本心だろう。
ずっと、慧を一緒にいたい。それが俺の願いだった。
「うん、いいよ」
慧の声が後ろから聞こえた。
「結婚しようよ。……そして、二人で暮らそう」
「け、慧……」
「お仕事の時も、遊ぶ時も。……お食事する時も、寝る時も。ずっと一緒。……ずっと一緒にいようよ」
「……あ、…………あぁ」
俺は何も喋れなくなった。さっきあれだけ泣いたのに、まだ涙がこぼれてきた。
なんか、もう幸せすぎた。
(ダメだよ、泣いちゃ……。慧は泣いてないのに……。俺だけ泣いちゃ……ダメだよ……)
でも、嗚咽は止まらない。俺は引きつる体をだらしなく慧にすり寄せることしかできない。それ以外、何も出来ない。
慧は、俺を優しく包み込む。
綺麗な夜が目の前に広がるスイートルーム。俺達は生まれたままの姿で体を寄せ合う。
夢みたいだ。……本当に、夢みたいだ。
目をつぶると、とても幸せな光景が浮かんでくる。
森の中の教会で、俺と慧が結婚式を上げている。塔の上の鐘が、荘厳な音を奏でている。
俺達は二人とも、ウェディングドレスを着ている。薄い純白のケープが頭にかかっている。
二人で同時に、顔を上げる。ステンドグラスの光がまぶしい。そして、
キスをする。
慧にキスされながら、俺はそんな夢を見ている。
「持ち物検査ぁ?」
「いや、検査じゃなくって、持ち物拝見。そういう企画ね。スタジオトークでバッグの中とか見せるっていう、定番のヤツ」
「あー、あれ……」
俺は鏡を見ながら、本番前に念入りに髪をブラッシングをする。
「だからさ、一応バッグの中とか確認してよ。見られちゃ困るものとか、入れてないよね?」
「そんなの入れてないですよ。なぁ、慧」
「え? うん、たぶん……」
慧はクロスワードの雑誌から顔を上げ、答える。
今日は歌番組の収録。ツアー終了後のオフからは初仕事だった。
短い期間の休暇、俺達は約束通りずっと一緒に過ごした。
一緒に起きて、一緒に食事して、一緒に遊んで、一緒に寝た。本当に幸せな三日間だった。
このままどこかに逃げちゃいたいくらいだった。だけど、そこは我慢。俺達は現場に戻ってきた。
慌ただしくって、キラキラしてて、とっても騒がしくって、楽しいお仕事。やっぱり俺は歌を歌うのも好きなんだ。
マネージャーさんは俺達の鞄をのぞいている。まあ、見られて困るものなんて無いし、どうでもいい。それは慧も同じだろう。
「……あ。ちょっとこれ、佐奈ちゃん」
「なんですか?」
「やばい……」
「え?」
俺は後ろに振り返り、マネージャーさん手元を見る。そこには俺の携帯が握られている。
「佐奈ちゃん、これ……。何……?」
「携帯ですよ?」
「貼ってあるプリクラ……」
「え……っと、あっ……! ああぁッ!!」
俺は慌ててマネージャーさんの手から携帯を奪い取り、鞄にしまう。しかしそれでは何も解決していないことに気づいて、とりあえず背中に回して隠す。冷や汗がダラダラ出る。
俺の悲鳴で事態を理解したのか、慧も慌てて鞄から携帯を取り出し、後ろに隠す。しかし、その行為には意味がない。俺のモノを見られたなら、慧のだって同じだ。
マネージャーさんはため息をつく。
「あのさ、仲がいいのはいいんだ。プライベートで何をしていても、会社的にはあまり問題にはしない。……でもさ、キスしてるプリクラくらいはどっかに隠しておいてよ……」
「はーい……」
「……あ、あうぅ」
俺と慧がチューしているプリクラ。それはオフの日に遊園地で撮ったものだった。始めは普通に撮っていたんだけど、なんだかとても楽しくなってきて、最後にはお互いキスしてしまった。それを俺達は何かの証のように、携帯に貼っていた。
バカすぎる……。いや、初めて見られたのがマネージャーさんでよかった。はっきり言って大問題。殴られたって文句言えないよ、こんなの。
「とりあえず、それは預かっておくよ。いいね」
「はい……」
俺達は携帯電話をマネージャーさんに渡した。そして反省。
コンコンと控え室の扉がノックされる。そして向こうからADさんの声が響く。
「モースタさん、本番五分前でーす」
「モーニングスター、シャイニンッ!」
「シャイニーンッ!」
俺達は互いの拳を頭の上でぶつけ合う。
白い階段を模したセット、夕暮れの色の背景。スポットライトの束が俺達に集まる。
ディレクターさんのカウントダウンが始まる。流れるイントロ。一斉に六台のTVカメラが動き出す。
俺達はカカトでリズムをとる。腹式呼吸で空気を吸い込む。――さあ、歌おう。
俺は祈る。
今日も綺麗にハモれますように。いつも練習していることが出来ますように。
そして、全ての恋する男の子たちに、この声が届きますように。
聴こえますか。……俺達の歌、聴こえますか?
(了)
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