『女装アイドル モーニングスター・2』

「やっぱりすごいね……本物は」
 蝶ネクタイを締めたデブが、目尻をだらしなく下げて顔を見ている。その薄気味悪い笑みに、俺はたじろぐ。
「なんていうの、スターのオーラってヤツなのかな。……光って見えるよ。テレビで見るよりずっとかわいい」
「そうですか……」
 ジットリと背中に汗が染み出していくのが分かる。こんなに緊張したことは今まで一度もない。オーディションの時も、デビューの時も、こんなになったことはなかった。
 頭の中で警報音が鳴っている。
 恐い。
「……それにしても、小さいなぁ。実際に見ないと分からないことだらけだ。コンサートにも行ったのに、こんなことも分からなかった」
 男はそういうと部屋主である俺に何の許可もなくベッドの中央に座る。俺はそれを黙って見ているしかない。
「佐奈ちゃんも、座ったら?」
「いえ、いいです……」
「座りなよ」
 男の声は一段低くなっている。
「……はい」
 俺はこいつに逆らえない。しかたなく、ベッドの端に腰かける。
「もっと、近くに」
 全身に悪寒が走る。俺は両手で腰を浮かして、少しずつデブとの距離を詰める。
 近づくに連れて、身体に震えが走る。本能がこいつとのコミュニケーションを拒否しているみたいだ。
 俺の動きはついに止まる。デブとの距離はあと八十センチ。湿度のある体温が、もうそこにまで感じられる。
「どうしたの佐奈ちゃん。もっと……」
「……で、でも」
「もっと近づかないと、あの写真をばらまくよ」
 俺の背筋が、ガチンと凍りつく。
「インターネットの掲示板に貼りまくる。共有ファイルにして世界中に回す。佐奈ちゃんのアナルオナニーを全世界にばらまいてやる。パンティーくわえて一心不乱にチンポしごいている佐奈ちゃんを、……世界中の変態に届けてやる」
 男は首の蝶ネクタイをグイッと前に引っぱり、首に掛かったゴムが伸びきったところで手を離す。バチンと、黒い蝶ネクタイが襟元に収まる。
「……どうなっちゃうかな。なにせ動画ファイルだし、みんな一斉にオナニーするね。佐奈ちゃんの射精と一緒に世界中が射精する。はは、すげーすげー。それもいいかもな」
 男が流し目で僕を見る。細められた目の奥に光る鈍色の瞳。口の先が上に引きつり、不気味な笑いが喉奥でなっている。
「佐奈ちゃんが望むなら、それでも俺は全然いいけどね。ボクに近づく? それとも全世界の変態に慰み者になる?」
 俺の拳に力が入る。爪が手のひらに食い込み、鋭い痛みが走る。このまま握り続けたら手の皮さえ破りかねない。
 ……沸々と怒りが湧いてくる。

 このデブ男の正体は、正真正銘ホテルの従業員だった。
 一応、モーニングスターのファンらしい。でも、こんなヤツがファンでも俺は全然嬉しくない。こんな人間ばかりとは思いたくないけど、もう世の中が信じられないって気分だ。まさかホテルの人間が部屋にカメラを仕掛けるなんて誰が思う?
 この男はモーニングスター一行がこのホテルに滞在すると分かるや否や、俺の泊まる部屋を調べて小型カメラをセットしたらしい。まったく最低だと思う。
 そして、俺はこうして脅迫されている。
 でも、もう我慢できなかった。はっきり言えばまだ恐いし、力を抜けば奥歯もガチガチ鳴りだしそうだ。それでも、俺はイヤだった。これ以上脅されて、こんなヤツのいいなりになるなんてまっぴらだった。
「やれよ……」
「はい?」
「ネットにでも何にでも流せよっ! いいよ、どうなったって構うもんかっ!」
 男は困惑の表情を浮かべる。俺のこんな答えを、どうやらこいつは想像もしていなかったらしい。
「さ、佐奈ちゃん……。なに言ってんの?」
「嫌いなんだよ、こんなことをするヤツはッ! 俺のことが好きなら道で声でも何でもかけろよッ! 口説いたっていいよ! でも……、俺はこんなのだけは絶対に認めないからなぁッ!」
 俺は一気に思いの丈をぶちまける。こんな行為を許せないという思いが、一気に爆発する。
 デブはあっけにとられている。ポカンとだらしなく口を開け、目を丸くさせている。身体は硬直し、服のシワひとつ動かない。
 しかし、しばらくするとブヨブヨの丸い頬に空気がたまり、ブッと嘲笑が漏れ出す。そして声を殺して含み笑い、最後には天井を見上げながら呵々大笑する。
「ぶははははははっ。なーに言ってんだよ、このガキンチョ。とてもスターとは思えないな。いやー、まいったまいった」
 デブは自分の膝をバンバン打つ。明らかに人を愚弄する態度。こんなガキのいうことなんてチャンチャラおかしいらしい。
「な、なんだよっ! 俺は好きにしろっていってるんだよ! さあ、部屋から出てけよ!」
「あー、あのさー佐奈ちゃん。キミのその一言で、いったい何人の人が迷惑すると思っているの?」
「え……?」
 迷惑……? 俺はそれが何を意味するかはじめは分からなかった。
「つまり、モーニングスターは君一人の持ち物じゃないってことさ。ボクは興味ないけれどメンバーの慧くん。事務所の人達やスタジオミュージシャンの方々。そしてステージスタッフ。みんな君たちを中心に仕事をもらって生活してるんだぜ」
「……あ」
 その時、俺は脳裏に慧の笑顔が浮かんできた。それは俺の大切なパートナー、自分たちを一心同体だとまで言ってくれた親友の顔だった。
 そして、マネージャーさんや衣装さん、メイクさん、ダンスやボイスの先生、その他たくさんの人達の顔が一斉に頭の中に流れ込んできた。
 血の気が引いていった。寒くもないのに足がガクガク震え、さっきまでの勢いなんてどこかに行ってしまった。肩の上にみんなの体重分の石でも乗せられたかのような気分だった。
「理解できたみたいだね。君は一人で生きているワケじゃない。このファイルが流れたら、その多くの人達が全員不幸になるんだ」
「……っく、う……うぅ」
 俺は悔しかった。こんな卑怯なことをされて、それでも何も出来ない自分に腹が立った。いや、そもそもの原因は俺が慧のショーツなんて持ってきたことなんだ。一番悪いのは、おそらく俺だ。
 バチが当たったんだ……。大切な人をオナペットにして、汚した罪が帰ってきたんだ……。俺はそんなことを思った。
 プルルルルッ! プルルルルッ!
 その時、突然部屋の電話が鳴り響いた。俺は反射的にその方向を見た。
 しかし男はさらに早く、電話を取った。そしてわずかに受話器をもちあげると、カタンと落とした。電話のベルはあっという間に切れてしまった。
「……せっかく佐奈ちゃんが言うことを聞いてくれそうになってるのに。邪魔するなんて無粋だよね」
 男は不敵に笑った。持ち上がった唇にたるんだ頬が引きつり、弛んだ肉が不気味に持ち上がった。



 それは最低の格好だった。
 女物のランジェリーセット上下、色はカーマイン。赤いレースがヒラヒラと揺れる。とても軽い。
 しかし、そのブラジャーの布部分は縦に裂けている。つければ隙間が開き、中から乳首があらわれる。
 パンティーなんてもっと最悪だ。形ばかり腰に装着できるようになってはいるが、真ん中の部分は丸々無い。つけてもペニスもアナルも丸見えで、ない方がマシなくらいだ。
 しかし、俺はそんな恥ずかしい格好を無理矢理させられている。赤いエロ下着をつけて、ベッドに座る男の前に立たせられる。
 俺は両手で前を隠しながら、うつむく。顔が熱く、耳の先まで痺れている。
「すげえ……。佐奈ちゃんすげーよ……」
 男は目を皿のように見開き、上から下まで舐め回すように俺を見つめる。粘着質な視線が、肌に絡みつく。
「こんな馬鹿馬鹿しい下着まで似合う男の子が世の中にはいるんだな……。なんか……信じられねェって感じ」
 俺は激しい羞恥に耐える。室内の温度は適温のはずなのに、額からは汗が垂れてくる。膝の関節が不安定で、少し気を抜いたら、その場にへたりこんでしまいそうだ。
 俺はただうつむきながら、唇を噛み締める。
「だめだよ下を向いてたら。ボクの目をみてくれないかな?」
 ここまできてしまっては、もう逆らうことなんて出来ない。俺は仕方なく首を上げる。男の細められたイヤらしい視線と、俺は正面から向かいあう。
「かわいい……。はぁ……佐奈ちゃん、デタラメなくらいかわいいよ……」
 男が熱っぽく言う。その息は少しずつ荒くなっていき、興奮しているのが一目で分かる。
(なんだよ、こいつ……。みんな、こんな目をしているのかよ……? 俺達のファンって、みんなこんな目で俺達を見ているのかよ……ッ?!)
 そんなこと、考えたくはなかった。この男だけが異常なのだと信じたかった。
 しかし、俺は思い出してしまう。あのコンサート、色とりどりのサイリウムを振りながら俺達を見つめるファンの人達……。何千人もの熱狂的な視線……。
 ビクンッ!!
「あっ?!」
 手で隠した股間の下、おちんちんが突然震えた。その動きは止まらず、鼓動に合わせて血液が海綿体に凝縮していった。
「な、なんで……?! あ、あぁ……ッ」
 ペニスが勃起していった。こんな格好させられているのに、こんなになってしまう自分が信じられなかった。でも、それは隠しようのない証拠になってしまった。俺は性的に興奮していた。
「は、ははッ。佐奈ちゃん勃ってるじゃんっ! なに、ボクに見られて興奮してるの……? 嬉しいなあ……。は、はは、ははははははッ」
 男は大喜びで笑い声を上げる。膝を力一杯たたきながら、足でバンバンと床をならす。
「はは、そういえば言ってたっけ。最前列でコンサート見てたヤツが、佐奈ちゃんのスカートの下、勃起してたみたいだったなんてさ。そうか、本当だったんだ。佐奈ちゃんは人に見られると興奮してチンポ勃てちゃう変態だったんだ」
「う、うぅ……ッ」
 男は俺を辱める冗談のつもりで言ったのだろう。でも、その言葉は真実をついていた。今だってそうだ。俺はコンサートを思い出して興奮してしまったのだ。
 どうにか俺はこわばりを押さえつけようと、必死で股間を隠す手で、ペニスを押しつぶす。しかし、熱を持った淫茎は萎える気配さえ見せやしない。返っていきり立ち始め、その存在を主張する。
「佐奈ちゃん、手ぇどけてよ。ボク見たいな……。その勃起した生チンポ……」
 男が命令する。
 俺は嫌々、手から力を抜き、気をつけの姿勢をとる。小さな手のひらが股間から離れ、形を変えた性器が現れる。
 小さいながらもピンク色の亀頭が剥き出されているペニス。充血は十分で、先っぽは柔らかいお腹にまで当たっている。
(やだ……、見られてる……。こんな男に見られてる……。それなのに、俺……興奮している……ッ!)
 あまりの恥ずかしさに、俺は手で顔を押さえる。そんな所を隠したって、意味なんか無いのに……。
「佐奈ちゃん、なにしてるの……? 誘ってるようにしか見えないよ、その仕草……」
 男がベッドから腰を浮かし、床に立つ。そして、俺にゆっくりと近づいてくる。
「なんか天性の素質って感じだよね。男の喜ばせ方を本能で知っているっていうかさ……。まさにスターだ」
 太い指が俺の髪に触れる。細い毛に指を通し、下に向かってすいていく。
 イヤらしい感触に鳥肌が立つ。でも、俺は顔を出すことが出来ない。目からは涙までこぼれているのに、他の動きをとることが出来ない。
「我慢強いね……」
「ぐ……うぅ、うあぁ……」
 嗚咽が漏れる。
 しかし、そんな悲痛の泣き声も、男を喜ばす材料にしかならない。
 男は俺の足下にしゃがみ込む。そして勃起したペニスを近距離で、趣深げに鑑賞する。
 おちんちんは硬く屹立しながら、先端から先走りを垂れ流している。男はその様を目の前でまじまじと見続けている。
 なま暖かい息が粘膜にかかる。僕は先の見えない恐怖に震える。
「すごい綺麗だ……。美少年はチンポまで美しいってわけかよ。……はは」
 そして、男は口を大きく開き、舌を肉棒に寄せてくる。
 ベジョオオォッ……!
「ひっ!」
 唾液たっぷりの舌が、俺のペニスを下から舐め上げていく。ゾクゾクと、快感とも悪寒とも区別のつかない感覚が、ペニスから背筋へ走り抜ける。
 舌はそのまま這い続け、やがてペニスの先端が男の口の中に入っていく。
 ネトネトの粘膜壁が俺の肉棒にまとわりついてくる。こんな男の口でも、そこは柔らかく、気持ちいい。
「ひああぁ……、や、やだ……。イヤだぁ……」
 感じたくなんかない、気持ちよくなんてなりたくない。しかし、その行為がフェラチオだというだけで、俺の欲望の渦は勝手に大きくなっていく。性経験なんてあまりない少年は、その相手が誰であろうと構わず発情してしまうということなのか。
 頭で必死に否定しても、肉体はすでに快感を受け止めてしまっている。身体の芯がとろけてしまいそうな感覚から俺は逃れられない。
 ――もう、死んじゃいたい。
 俺は本気でそう思った。こんなイヤなコトされて、こんなに喜んでいる最低の俺なんてこの世から消してしまいたかった。
 しかし、いくらそんなことを思ったって、陵辱が終わるわけではない。この男が俺にどこまで望んでいるかは分からないが、こんな行為がまだ序の口だと言うことだけは想像がつく。
 男が愛おしげにペニスをしゃぶる。買い与えられたキャンディーのように美味しそうに、俺の陰茎を舌で堪能する。
 舌がカリ首と包皮の間をなぞる。喉の奥では吸飲が続き、先端から溢れる果汁を吸い上げる。
 さらに男の右手が俺の下にある二つの柔球のまで伸びてくる。その手つきは優しく、まるで羽毛でくすぐるかのように袋を撫でていく。
「ふあ……、や……、やあぁ……。やら…………やらぁ……」
 俺は男の行為を必死で嫌がる。しかし、その声には説得力がない。舌のもつれた嬌声は、俺が男の口淫から快感を得ていることを男に伝えてしまう。
 デブはいよいよ調子にのる。開いていた左手は俺の太ももを撫で回し、指が柔らかい肉を揉んでいく。
 さらにその手は指先を肌に寄せたまま上がっていき、ついには臀部へ……。
 大きな手が広がり、お尻の右半分が鷲掴みにされる。グイッと力任せに握られ、俺はたまらずうめき声を上げる。
「いぎっ……ッ! ひあぁ……! や、やらぁ。揉んじゃやらぁ……。そんな、強いぃ……。強すぎぃ……」
 そんな声で男はとまらない。反応の薄い精巣部への刺激にも飽きたのか、ついには両の手で俺の尻は掴まれ、グチャグチャに揉みしだかれる。
 乱暴な愛撫。レイプ犯が女の乳を揉む時だってもっと優しいのではないのだろうか。俺のお尻は両手十本の指でデタラメにかき回され、尾てい骨までグリグリと犯される。
「ああぁ……、い、いやらあぁっ!! や、やらッ! やッ! やああぁぁっ!!」
 俺は反射的に腰を引く。しかし、ガッチリ捕まえられた腰に、ペニスをくわえらえていては逃げられるはずもない。
 しかも、この陵辱に対し俺の性器はわななきながらも先走りの量を多くしている。俺はこんな最低の行為にも感じてしまっている。
 男の動きが速くなる。頭はピストン運動のように激しく上下し、唇が肉棒を滑る。尻にかかる指にも力が入り、その狙いはさらに中心の肛門部にまで伸びてきている。
 ついに長い指が窄まりにまで届く。敏感な性感帯への攻撃に、身体が魚のように跳ねる。
「ひぎいっ!!」
 俺は肩を抱えて、皮膚に爪を立てる。
 限界が近い。
 こんなレイプまがいの行為で射精なんかしたくない。でも、デブは同性の確信からか、確実に俺の性感帯を見抜き、執拗に攻撃を繰り返す。一番感じるところを的確に攻め抜かれ、俺は悶える。
 身体をくねらせながら快感に耐える。お尻に力を入れて、射精をこらえる。ギリギリと歯を食いしばる。
 でも、快感のボルテージはもう上がりきっている。これ以上はどうやったって我慢できない。俺はアゴを反らし、悲鳴を上げる。
「やああぁッ! やらッ! やらああぁッ! イひぃっ! イくうぅッ! イくのやらぁッ! やらああぁッ!」
 ズグウウゥッ!!
 それは肛門をまさぐる指が、ついに内まで進入してきた衝撃だった。強烈な前立腺への圧迫は、俺に強制的な射精を促した。
「いッ、いやああぁッ!!」
 ブビュウウウゥッ! ドビュルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ブビュウゥッ!
 精液は男の喉奥めがけて穿たれた。
 カクカクと膝が笑う。俺は立ったまま痙攣し、止まらない射精に震える。指は肩に深く食い込み、大きな痣を作っている。
 首から力が抜け、僕の頭はだらしなく下を向く。口からは涎が垂れ、アゴを汚していく。
 やがて男が離れると、俺は床に崩れ落ちた。
 まだ痙攣は収まらなかった。ダラダラと精液の残滓をペニスから吐き出しながら、俺は絨毯の上で泣き続けた。



「こういうの、見たことあるかな……」
 男が鞄からとりだしたものは、いわゆる大人の玩具だった。
 細長い十数センチの棒。材質はビニールだかゴムだか分からないけど、柔らかいモノ。規則正しく節くれが並び、どこか芋虫を思わせる形状。色は淫靡な紫。
 男はそんな代物をまだ虚脱感もとれず床にうつぶせに寝そべる俺に、目の前でプラプラさせながら見せつけた。まるで子供が宝物を自慢するかのような仕草だった。
「アナル用のバイブレーターだよ。見てよ、ここのプリプリ……。気持ちよさそうでしょ?」
「……わかりません」
 そんなもの、知識としては知ってても生で見たことなんかあるわけなかった。使用感なんて想像もつかない。
「凄いよぉ……。これからこいつが佐奈ちゃんのかわいいお尻の穴をツンツン突っつきながら、アナルを何回も往復するんだ。……はは、楽しそうだぁ」
 男は遥か上から僕を見下ろしている。遠くにある男の目には、確かに狂気の光が見える。
 大切なものを壊して喜ぶ、いじめっ子の目……。
 さらに鞄から何かを取り出し、俺の横にしゃがみ込む。そして、俺のお尻に目標を定めて、手を伸ばす。
 ブジュウウウウゥッ!
「なっ、……なに?!」
 突然お尻の周りにひんやりしたモノが吹き付けられる。俺は反射的に身を捩る。
「あ、動くなよォ。ほら、お尻をちゃんと上に向けるぅ……」
 男は俺の背中を押さえつけると、スプレーの噴射を再開する。
「ローションだよ。傷つけたくないから、たっぷりね。……ゆっくりと拡張してあげる」
「か、拡張って……」
「ボクの、太いからね。いきなりなんて入れられない。だから、少しずつさ……。こうやって」
 男が俺のお尻に太い中指を差し込む。
「ひっ?!」
 割れ目に入れられた指が、こわばった肛門に向かっていく。ヌルヌルと蛇でも這っているかのようなその感触に、身の毛がよだつ。
 大きな爪がくすんだ色の肉口に押し当てられる。俺は身を縮ませ、絨毯の毛を強引に掴む。
(恐い……、恐い……ッ!)
 震えるお尻に、指がつき立つ。
 ズッ、ズズッ……、ズズウウゥーッ!
「ひぃ……、あ、あぁ…………、あうぅ……」
 凶悪な挿入感に、俺は女の子みたいな泣き声をあげる。額を床に擦りつけながら、涙をこぼす。
「いい声だ……。感じてるんだね、佐奈ちゃん」
 たっぷりと塗られたローションのせいで、太い指は大きな抵抗もなく俺の中に飲み込まれていく。指の腹が俺の腸壁をさすり、さらに潤滑剤を奥まで塗り込む。
 緊張で身体がこわばっていく。括約筋にも力が入り、俺は男の中指を肛門できつく締め上げる。
「……うわ、佐奈ちゃんの中、モニュモニュ動いてるよ。自分でわかるかな、佐奈ちゃん?」
「いやぁ……、言わないで…………。そんなこと、嫌だ……、やだぁ…………」
 感じていると思われるのが嫌だった。こんな強姦まがいの行為で快感を得ているなんて知られたくなかった。
 でも、俺は股間は……。
「やだ……、やなのにぃ…………。やだよぉ……」
 ムクムクと絨毯の上でその体積を膨らませていた。
 いくら頭で否定しても、身体は素直に快感を認めていた。俺は尻を陵辱されながら、確かに興奮していた。
 敏感な粘膜をたっぷりの潤滑油を介して刺激され、何度も何度もこすられると、肛門の出口を中心に甘美なパルスが広がっていく。
 しばらくすると、鼻にかかった呼吸が漏れだしてくる。筋肉が弛緩し、絨毯を握る指にも力が入らなくなる。
 お尻が、開いていく。
 プジュッ! ブボオォッ! ブジュウウッ! ブジュッ! プブウウゥッ!
 イヤらしい粘着音が背中の向こうから聞こえてくる。泡沫が弾け、しぶきの飛び散る音がホテルの部屋に響く。
「はは、垂れてきた、垂れてきた……。熱い液が奥から出てきたよー。佐奈ちゃん、自分の身体がどうなってるかわかる?」
「うぅ……、うあぁ…………、あはぁ…………」
 俺は上手く言葉を返せない。 男は調子づいた声で、笑いながら語りかける。
「熱いでしょ。腸液が出てきたんだ。茶色くって汚い、男の子の愛液さ。こんな綺麗な身体でも、やっぱり感じれば噴き出してくるモノなんだね。……エロいな、佐奈ちゃんは」
 グリイィッ!!
「ひぎいいぃっ!?」
 中に入っていた指が曲げられ、グルリと回された。直腸の奥が強引に広げられ、俺はたまらず悲鳴を上げる。
 しかし、痛みさえ伴うその刺激も、引き際には強烈な快感を導いてくる。身体の芯を打つ法悦の一撃に、俺のペニスがビクンと跳ねる。
「あぅっ、ん……ッ。うぅ……」
「もう、準備はいいみたいだね」
 ついに指が引き抜かれる。排泄の擬似的感覚に、俺はさっきまでの挿入とは別の快感を感じてしまう。
(ダメだ……、こんなのダメ……。でも、俺……このままだと)
 ――堕ちてしまう。
 この変態は的確に俺の感じるところを攻め、快感を誘発してくる。もう身体はコンサートの時のように火照り、さらなる悦楽を期待して震えている。
 もうダメかも知れない。そんなどうしようもない絶望感に捕らわれる。このままされたら、俺、俺の身体……ッ!
 ズボボボボボボオオォッ!!
「ひやああぁ……ッ!!」
 開いたアナルに、バイブレーターが一気に突っ込まれた。
 ガツンと直腸を最奥を先端がぶち当たる。僕の体がスイッチを押されたかのように反り返る。
 さらにバイブは壁で反射するボールのように、今度は一気に僕の中から引き出される。節目がプリプリと肛門を滑り、俺はそこから生まれる複雑な感覚に痙攣する。
 バイブレーターによる激しいピストンが始まる。俺は無機質な玩具で徹底的にアナルを犯される。
「あはははは、いい反応だよぉ。ビクビクしちゃって、まるで生まれたての仔猫みたいだ。すごい、すごいよぉ。佐奈ちゃんやっぱ才能がある……ッ!」
「あううぅっ! うぐっ! うっ! ううぅ……ッ! ひいっ! ひっ! ひあぁっ!」
 もう嬌声を押さえられない。絶え間ない快感に狂わされた理性が、俺の口から女の子みたいな喘ぎ声を上げさせる。
 俺はいつのまにかバイブの出し入れに合わせて腰まで振っている。ペニスを床に擦りつけながら、もっと快感をどん欲に引き出そうとしている。
 玩具なんかでもてあそばれながら、赤い下着の少年はカクカクと犬のように腰を振る。
 全身がいやらしくくねる。俺は薄い胸を床になすりつける。形ばかりのブラジャーが乱れ、充血した乳首が潰れる。
(あぁ、気持ちいい。……また出しちゃう、……射精、しちゃう!)
「開いてきた、開いてきた。佐奈ちゃんのお尻、とっても柔らかくなってきた。じゃあ、こんどはかき回してあげる」
 カチリ、というプラスチックのスイッチをひねる音が耳に届いた。そして、
 …………ヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィイイィッ!!
「あっ、あぐううぅっ! や、やあぁっ! お、お尻ぃ! お尻があぁっ! お尻死んじゃううぅっ!!」
 破壊的な快感だった。
 激しくピストン運動をするバイブレーターのスイッチは電源を通され、激しく震えながらグルグルと回転した。
 俺はバリバリと床を掻いた。爪が剥がれそうなほどに力が入れられ、絨毯にはむしられた爪痕が幾筋もたてられた。
 痙攣が止まらなかった。身体が上気し、悪い風邪でもひいたように汗が噴き出した。
 俺は舌をつきだし、目を見開きながら床に突っ伏した。
「ほーら、ほらほら。いいねぇ、いいんだよねぇ。感じちゃってるんだよねぇ。いいよぉ、もっともっと凄くしてあげる」
 バイブの動きと手の動きがさらに速くなっていく。ローションがブジュブジュと飛び散る。
 俺は足をまっすぐに伸ばし、指を丸める。お尻をさらに締め、尻肉にえくぼが寄る。身体が硬直していく。
 全身がバイブレーターになったかのような小刻みな振動が体の中から始まる。
 熱い。体が溶け出しそうなほど熱い。お尻の穴が燃えそうなほど熱い。
(す、すごいぃ……、イっちゃう……。おちんちんに手で触ってもいないのに……射精しちゃう……ッ!!)
 お尻で……、玩具で……、こんな男の手で……。
「ほら、イっちゃっていいよ、佐奈ちゃん……。精液ビューってしちゃお? …………そらっ!!」
 ブンと空中を何かが走る音がした。そして直後、
 ビシイイィッン!!
「ぎっ! ……ひぁ、うああああぁぁっ!!」
 お尻がはたかれた。力一杯の強打にブルンと肉が波立つ。骨ごと持って行かれそうな一撃が、俺の脳を揺らし、射精の引き金を引く。
「あ、……あぐっ!! ぐあぁッ!!」
 ビュウウゥッ! ドビュルウウゥッ! ビュルウゥッ! ビュルッ! ビュッ! ドビュウウウッ!
 ついに、俺は射精した。ほとばしりが絨毯の上に巻き散らかれ、白い模様を床の上に作っていた。
 脳を灼くような快感だった。お尻だけの刺激で強制的に伸ばされた絶頂は、どんなオナニーをしても得られないような法悦となった。
「あ……、あはぁ…………あ、あぁ……」
 下半身が高圧電流でも流されたかのように痺れている。皮膚の感覚が無い。ゆっくりとバイブが抜かれているようだが、もう俺は何も感じない。
 混濁する意識。体だけが時々、ビクビクと瘧がついたかのように痙攣する。
 ダメだ……、何も考えられない。ただただ、全身がおちんちんになってしまったみたいに気持ちいい……。
 男の言葉が届かない。あざ笑うような声が上から聞こえるが、それに答える余裕はない。
 精液、腸液、ヨダレ、涙。体中の全ての体液をだらしなく垂れ流す。



 うつぶせだった体を返され、俺は天井を向くことになる。
 照明が異様にまぶしい。涙でぼやけた視界に、光が乱反射する。
 影が差し込む。
「もう、よさそうだね……」
 近づいてくる。ピントが少しずつ合ってくる。
 顔だ。贅肉のたっぷりついた頬の奥、これから起こることへの期待に満ちた目がランランと輝いている。唇はとがり、俺の口へと距離を縮めている。
「……や、やああぁっ!!」
 俺は反射的に男をはねのけ、立ち上がる。
 しかし、その足には力が入らなかった。俺は足をもつれさせ、再び床につんのめる。受け身もろくにとれず、顔をしたたかに打つ。
「痛……ッ、うあっ……はぁ」
「おいおい……。何するんだよ、佐奈ちゃーん」
「や、やだ……ッ、それだけはやだ……! やなんだぁッ!」
 キス、されそうだった。唇をあと十センチで奪われていた。
 それだけはダメだった。アナルまで犯されておかしな話なのだけど、これが俺の最後の一線だった。
 俺は抜けた腰を引きずりながら、腕で床を張った。強引に出口を目指して、虫のよう這いつくばった。
 しかし、もちろんそんな速度で逃げられるはずもない。男は俺の髪を掴み、グイと引っぱる。強引に重心を持ち上げられて、頭皮に激痛が走る。
「あ、あううぅっ!!」
「なんだよ、佐奈ちゃん何してるの……?! こんなに気持ち良くなっておいて、ボクには何もしてくれないの? それは非道いじゃーん」
 そう言うと男は背中から俺の脇を抱え、脱力した体をベッドに放り投げる。
 バフッ! 俺はお腹から柔らかいクッションに着地する。シーツに顔が埋まる。
「ふぐぅッ!」
「逃がさない……、逃がすわけないじゃん……。ほらぁ、ボクだってこんなになってるのにさぁ……」
 俺は体を返して、男を見た。
 下半身が丸出しだった。下着も脱いでいる。そして、股間には隆々と上を向いた性器が見える。
「う、うそ……」
 それは見たことのない大きさだった。思っていたよりずっと大きい。まるでスプレー缶を肉色に塗って、強引に股ぐらへ取り付けたかのような逸物だった。俺は思わず後ずさる。
「あんまり手間かけさせないでよ……、せっかく優しくしてあげてるのに。さあ、キスしよ。きーすー」
「い、イヤだ!」
 俺が逆らうと、男の顔はあからさまに不機嫌になった。眉根が寄り、アゴが上を向いていく。
「はあ……?」
 男が俺に近づき、腕を振り上げる。平手が俺の頬を狙っている。
 ブンッ!
 軽いうなりを上げて、スナップされた手首が顔に飛んでくる。
 バシンッという鈍い音が、鼓膜の奥に響く。

(続く)

[投下 : 2chエロパロ板『女装空想小説』 2004年04月16日(874〜889)]

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