『女装アイドル モーニングスター・1』

 遠くから歓声が聞こえる。本当に、遥か彼方の遠くから……。
 おそらくは「アンコール」と叫んでいるのだろうが、今の俺にはそれが意味をなした言葉になんて聞こえない。
 ……熱い。まるで頭の中を茹でられて、ボコボコと沸騰でもしているみたいだ。俺は息を荒げながら、必死に肺に空気を送り込む。
 どうにか舞台袖までは来られたけど、そこで俺の足は止まった。セットのベニヤ板に手をついて、うつむきながらゲホゲホとえづく。
「佐奈ちゃん、だいじょうぶ? ……いける?」
 パートナーの慧が俺に歩み寄ってくる。
「……いくよ。みんな待ってるしな。……慧こそ、だいじょうぶか?」
「ヘトヘトだよ……」
 慧はかわいい顔に眉をひそませながら、むりやり笑顔を作る。
 それでも、慧にはまだ余裕がある。もちろん身体は疲労困憊なのだろうが、その質も度合いも俺とは全然違う。
 俺は心の中で慧に詫びる。――ごめんな、こんな情けないヤツが相方で。
 衣装スタッフが俺達に走り寄ってくる。その腕には、アンコール用の衣装が抱えられている。彼女たちは五分の幕間で俺達を着替えさせるために、今まできていたワンピースのジッパーに速攻で手を伸ばす。
「あ、……あんまり強くやらないでっ」
 俺は慌てて叫び、自分の股間を押さえる。事情を知っている人が相手でも、見られるのはやっぱり恥ずかしい。
「わかってるってば。もう誰も気にしてないから。これが終わればツアーもあと一回なんだから、最後まで頑張って。ほら、手をどかすっ」
「あ、……やぁ、やあっ!」
 グイッと強引にスカートの裾を下に引っぱらる。俺はまるまる下着姿をスタッフみんなに晒すことになる。
 それは白いスポーツブラに、シンプルな無地のショーツ。機能性を重視しているため、着ていたコスチュームとは対照的なくらい飾り気は無い。ただ一点、本来のアイドルにはついていないモノがそこには見える。
 薄い布地の下に、勃起したピンク色のおちんちん……。
「うわあぁっ!」
 急いで隠したってもう遅い。はみ出したかわいい亀頭は衣装さんにも、マネージャーさんにも、慧にだって見えてしまった。
 ダメだ、みんな知っていることでもやっぱり恥ずかしい……。俺はいよいよのぼせ上がり、頭がグラグラと揺れる。
「はは、佐奈ちゃんはまた一段と発情しちゃってるね」
 マネージャーさんなんか、さらに追い打ちかけてくるし……。俺は思わず目に涙をにじませる。
 目尻で玉になった水滴を、メイクさんが海面を押し当てて吸い取ってくる。
「だめだよ、泣いちゃー。せっかくの綺麗な顔が台無しでしょー」
「うぅ……、すいません」
 俺は情けなくなって、無意識に肩をすくませる。
「だめだめ、そんなに縮こまっちゃ。はい、腕上げるのっ!」
 衣装さんは俺の手首を強引に引き上げ、コスチュームの袖を通していく。鮮やかなタンポポ色のサマードレスだ。
 この衣装は俺が今回の舞台で一番好きなコスチュームだった。俺はほんの少しだけ、元気が回復してくる。
 俺はまだ顔をはたいているメイクさんに聞いてみる。
「ねえ、俺、かわいいかな……?」
 メイクさんは少しその手を止めた後、笑いながら答える。
「なーにいってんだかー。日本で一番かわいい男の子がー」
 そっか、俺かわいいんだよな。もうお世辞でもうぬぼれでもなんでもいいや。俺の心は落ち着いていく。
「僕もかわいいと思うよ、佐奈ちゃんは。……うん、やっぱいいね、その顔」
「まったく慧まで……、なーに言ってんだよ」
 慧がかけてくれたとても言葉はとても優しかった……。よし、俺は完全に回復した。勃起は収まらないけどしょうがない。いいさ、発情したまま最後まで乗り切ってやる。
「ありゃ、これ持ってきたけど、もういらない?」
 マネージャーさんが持ってきたのは酸素スプレーだ。噴出口にマスクがついていて、新鮮な空気を吸い込めるヤツ。……持ってくるのが一歩遅い。
 でも、ありがとう。俺は無理矢理マネージャーさんの手からスプレー缶をひったくり、酸素を吸い込む。
「アンコールッ! アンコールッ!」
 客先からの声がはっきりと聞こえてくる。そうだ、ファンのみんなが俺達を待っていてくれている。あー、なんだか嬉しくなっちゃうじゃん!
「行きますっ!」
 俺は酸素の缶をマネージャーさんに投げ渡し、舞台へ振り返った。
「よし、行こうねっ」
 慧が答える。俺達は拳を握り、頭の上でガツンとぶつけ合う。
「モーニングスターッ、レッツシャイニンッ!」
「シャイニーンッ!」
「スタンバーイッ!!」
 俺達のかけ声と共に、一斉に会場のスタッフが動き出す。このアンコールで今日のステージも終わりだ。悔いの無いよう、やらしてもらおう。
「「みんなーっ、あっりがとーっ!!」」
 俺達は感謝の言葉と共に、ライトもまぶしい舞台に駆け出した。



 最初はオーディション番組の冗談企画だった。
「女装少年のアイドルユニットを作ろ思うねん」
 ヒットメーカーであるプロデューサーがそう発言すると、テレビには『女装少年?!』と大きな赤いテロップが出てきた。会場の笑い声も一段と甲高いモノになった。
「女の子よりかわいい男の子、大募集しますっ!!」
 間抜けなナレーションに、司会進行のコメディアンもズッこけていた。真面目にその言葉を受け止めている人間は、そこに一人もいなかった。
 でも俺、水無瀬佐奈はテレビの前で興奮していた。ついに俺の時代が来たくらいに思ってしまった。
 俺は常日頃からかわいい格好が好きだった。ずっと、女の子の綺麗な洋服に憧れていた。
 いつか女の子になれるように、髪だって伸ばし続けていた。先生に怒られてもじっと耐え、サラサラのストレートヘアーはついに肩まで届いていた。
 テレビを見たその日、俺は姉ちゃんの服を借りて写真を撮り、ラジカセを持ってカラオケボックスに突っ走った。そして履歴書を書き上げ、番組へ送りつけた。
 応募総数は意外と多く約三千通。そんな中、俺は書類選考を通っていた。
「俺、すっげーかわいいでしょ。ピースっ!」
 面接でアピールと言われて、俺はこう答えた。会場は大ウケだった。
 なにせそいつは、顔はどう見ても美少女なのに、言葉遣いだけがワンパク少年だった。キャラクターは突出して立っていた。
 その後もオーディションは続き、最後に二人の少年が残った。
 水無瀬佐奈と中山慧。
 俺達は世界初の女装少年アイドル『モーニングスター』としてデビューすることになった。
 デビュー曲はガーヴィッジのカバー曲『アンドロジニー』。
 オリコンでは、なんと初登場で六位だった。累計では三十万枚も売れた。この売り上げ、……はっきり言って奇跡でも起きたのか日本人が全員バカになったかのどちらかだろうと言われた。事務所は大騒ぎになった。
 そしてオーディション番組のバックアップもあり、俺達は歌い続けた。
 男言葉のメチャクチャかわいい女の子、でもやっぱり男の子という水無瀬佐奈と、少年らしい顔立ちを僅かに残すも、優しい性格が女の子より女らしい中川慧。ちょっとちぐはぐなこのコンビは、世間でも大いに受け入れられることになった。
 気がついたら、俺達は色物ながらもいっぱしのアイドルになっていた。

 でも、やっぱり問題はあった。それは俺の体質だった。
 ――水無瀬佐奈は、舞台の上で発情した。
 気づいたのは、最終オーディションで観客席に向かって歌った時だった。大勢の視線に刺されると、俺の股間は激しくいきり立ち、皮が引っぱられて激痛が走った。
 その時はそれだけで済んだが、プロになってからはいよいよこの体質が重荷になった。
 歌番組一本なら、見ている人も少ないし割と平気だった。でも観客がたくさんいる会場になるともうダメ。俺は限りなく興奮して、熱い息を吐き出しながら歌い踊り続けることになった。
 それは、死ぬほどつらいことだった。俺はコンサートの度に激しい興奮や羞恥心と戦い、精神的にも肉体的にも消耗していった。
 この最低の体質のことを、俺はデビューしてすぐ慧に相談した。慧はこんな相談にも親身になってのってくれた。
 慧はスタッフのみんなに告白することを進めた。自分もついていくから、いっしょに頼んであげるからと言ってくれた。
「佐奈ちゃんがダメなら、僕も芸能界なんて辞めるよ。だから、みんなにちゃんと言おう……?」
「なんだよそれ……。せっかく……デビューできたんだぜ? 一緒に辞めることなんてないよ。慧だけでも……」
「もう僕達はユニットなんだよ。一心同体なんだ。佐奈ちゃんがいないモーニングスターなんて、考えられないよ」
 俺は、嬉しかった。
 こんな変態な自分を笑顔で受け入れてくれる慧に心から感謝した。気づいたら、俺は慧の胸の中で泣いていた。慧はそんな俺を、まるでお母さんみたいに優しく頭を撫でてくれた。
 そして、スタッフのみんなも俺を許してくれた。こんな俺のために最大限までいろいろなフォローをしてくれるようになった。
 慧は俺の心の中で、一番大切な人になった。



「はぁ……あ、はあぁっ……」
 俺は控え室のソファーに崩れ落ちた。体はさっきよりもっと熱くなっていた。もうどっちが上でどっちが下かも分からない。柔らかいソファーのクッションに、俺の体は沈んでいく。
 おちんちん、熱い……。
「佐奈ちゃん……」
 慧が心配そうに俺の顔をのぞき込む。俺は熱をはらんだ吐息を静かに吐き出す。
「慧……」
「お疲れさま……。今日はミーティングも早めに終わらせてもらおうよ。早くホテルに帰って、休もう……?」
「そう……だな……」
 とにかく衣装を脱がないといけない。俺はフラフラと体を起こし、スカートの裾をまくる。
 衣装を脱ぎ捨て、ソファーの背もたれにもたれかかる。熱い身体が外気に晒され、ほんの少しだけ気持ちいい。俺はゆっくり息を吐き、こわばった身体から力を抜いていく。
 スポーツブラにショーツというあられもない姿。しかも乳首は左右とも大きく膨らみ、おちんちんは下着からはみ出すほど勃起してしまっている。ほんとうに恥ずかしい。
「佐奈ちゃん、じゃあ、いつものヤツ……してあげるね」
「う、うん。……お願い」
 そう言うと慧はうなずき、俺の足下にひざまずく。
 そっとショーツに手を伸ばし、張り出した俺の肉棒に触れる。
「うぅっ!」
 限界まで敏感になっていた俺の性器に電流のような衝撃が走る。続いて慧はその柔らかい指で下着の上からシャフトを撫で回す。グニグニと布の中でたぎった欲望が暴れる。あまりの快感に背筋が反り返っていく。
「あぁ……け、慧ぃ……。いいよぉ……、指、いいのぉ……」
 慧の指の動きが少しずつ速くなる。まだ直接触られてもいないのに、俺の足はピンと伸びきり、指先がキュウキュウと引きつる。
 肉棒の芯を、ツウッと慧の指先が伝う。上へ、下へ……。ナイロンのツルツルした表面を指はなめらかに滑りながら、俺のあまり気味の皮を刺激していく。
「佐奈ちゃんのここ、ピクピクしてる……。かわいい……」
「な、なんだよ……。それじゃ慧まで……変態じゃん……」
「はは、ごめんね。……じゃあ続けるよ」
 慧は俺のショーツに手をかけ、少しずつ下にずらしていく。俺のおちんちんはビクッビクッとしゃくり上げるように跳ねながら、その姿を現していく。
 先端からはトクトクと透明な液が流れ、雫が下にまで垂れはじめている。醜く血管の浮き出た肉棒……、そしてその下にはパンパンに張ってしまった二つの袋まである。
「すごいね……」
 慧は俺のものをまじまじと見ている。一方、俺は慧のことなんてとても見られない。恥ずかしすぎて、どんな顔をしていいか分からない。
「あぁ、やだぁ……。はやく、はやくしてぇ……」
 俺は慧に懇願する。こんな恥ずかしいこと、早く終わらせたい。慧だってこんなことをするのはイヤだろうし、本当にとっとと始末しちゃいたい。
 でも、慧はまだ俺のおちんちんをしごいてくれない。ずっと俺の前でしゃがみ込みながら、何やら考えている。
「佐奈ちゃん」
「な、なに……?」
「今日は、ありがとう……。いろいろ助けてくれて」
「え……?」
「今日のコンサート、僕が何回もキーを間違えちゃっても、フォローしてくれたよね。ダンスでミスしても、かばってくれたし……」
「そ、そうだっけ……」
 正直に言うと、よく覚えていない。俺は舞台の上ではテンションが上がりすぎて、いつも記憶が曖昧だ。ただただ必死に、お客さんが喜んでくれるように、はっちゃけているだけなのだ。
 だから、礼を言われる筋合いはない。たぶん慧のカバーはしているんだろうけど、それは無意識の行動だ。丁寧に頭まで下げる必要はないんだ。
「慧、そんなこと……」
 しかし、慧はそんなことを思う俺に構わず、言葉を続ける。
「佐奈ちゃんには、いつも助けられてる……。だから、お礼がしたいの……。だから……」
 突然、慧の呼吸を近くに感じた。湿り気のある口先が、俺のペニスに近づいている。
「け、慧……ッ!」
 俺は慌てて腰を引く。しかし、慧はこんな油断しきったバカより早くその腰を抱き込み、亀頭にキスをする。
 チュッ。イヤらしい音がペニスの音で弾ける。
「や、やあぁっ……! な、なんでっ……?! 慧っ! ダメだよ、汚いっ! そこ汚いからっ!」
「平気だよ、佐奈ちゃんのだもん……。じゃあ、するね」
 そう言うと、慧は俺のおちんちんにしゃぶりつき始めた。柔らかい唇が一気に前に進み、硬くなった肉茎が粘膜の中に飲み込まれる。
「ひやああぁッ!!」
 俺は鋭い悲鳴を上げる。
 フェラチオ……。言葉は知っていても、自分には縁のないものだと信じていた性行為だった。正直に告白すれば、俺はまだキスさえしたことがなかった。
 いつも、おちんちんを触ってはもらっていた。慧が「一人でするより、効率がいいはずだから」とコンサートの後だけしてくれたのだ。でも、それはただそれだけ。たぎりきった俺の性欲を沈めるための手伝いというだけのはずだった。
 でも、慧はいま、俺のペニスをしゃぶっている。衝撃的な快感に、全身がブルブルと震え出す。
 柔らかい……、なんかクチャクチャしてる……。
 慧の口の中は、まるで何か別の生き物の様だった。唾液で濡れた舌が俺の勃起した竿にに絡みついてくる。そして、とても熱い。俺は溶けてしまいそうな愉悦に包まれる。
 ズズッと、鈴口を吸われる。身体の芯が抜けてしまいそうな感覚に、俺はうめく。
「うぐうぅっ! うあぁ……、や、やらあぁ……、らめらよぉ……」
 俺はアルコールでも飲まされたかのように、舌がもつれている。圧倒的な快感に酔いしれている。なんだか目の前が霞んでくる。意識がはっきりしない。
 ……俺、おちんちんを舐められてる。
 そう考えるだけで気持がちいい。ペロペロと、舐められちゃってる。慧に、おちんちん、食べられちゃってる……!
「あぁっ! け、けいぃ……ッ! けい……、きもちいいよぉ……。す、すごいよぉ……」
 慧は熱心に俺のおちんちんをしゃぶっている。その様は、まるでおっぱいに吸い付く赤ん坊のようだ。俺を気持ち良くさせるためだけに、一心不乱に舌を動かし、首を前後に振ってくる。
 もうたまらない。俺はだらしなく快感を享受し、惚けた顔を上に向けながら慧の頭に手を置く。
 慧の柔らかい髪の毛が指に絡まる。気持ちいい。慧って、全身が気持ちいいんだ……。
「けい……、出るよぉ……。もう、でひゃうよおぉ……」
 ブルッ、ブルブルッ。肩が小刻みに痙攣する。
 あっというまの限界だった。先走りが漏れ出す。慧の口は変な味であふれかえっているだろう。
 ごめん……。慧、ごめんっ! 俺は心で詫びながら、快感の堰を切る。
「うああぁっ! で、出りゅうぅっ! 出ひゃううぅっ!!」
 ブビュウウゥゥ! ドビュルウゥッ! ビュウウゥッ! ビュウゥッ! ビュウウゥッ! ビュルルウゥッ!
 精液は一気に俺の精輸管を駆け抜け、慧の喉奥に噴き出した。いったいいつになったら止まるのか、俺のペニスは延々と白濁液を慧に吐き出し続けた。ただ狂おしいまでの快感に震えながら、俺は慧の頭を掴んでいた。
 慧は少しむせ込みながらも、俺の白い粘液をコクコクと飲み込んでいった。
「あ……、あぁ……」
 飲んでいる……。慧が俺の汚らしい精子を飲んでいる……。
 俺は嬉しいと思い、同時にそんなことを思う自分が本当にイヤになった。慧はただのパートナーなのに、こんなことまでさせるなんて……。
 ようやく射精も終わり、慧は俺のペニスから離れていった。口元は唾液やら精液やらでベトベトになっていた。
「佐奈ちゃん、いっぱい出したね。もう、平気?」
「ふあぁ……、あ……」
 俺は佐奈の言葉にまともに答えることができなかった。快感、恥ずかしさ、自責。いろいろな想いが頭の中を渦巻いて、その場で震えつづけるだけだった。



 慧は女の子より女らしい。俺の脱ぎ捨てた衣装も自分の服と一緒にまとめてたたみ、控え室の隅に置く。
「はい、佐奈ちゃんの私服。スリムのジーンズが似合うのっていいね」
「あ、サンキュー……」
 俺は慧から着替えを受け取る。細身のジーンズに、淡い緑のジャケット。いくつかのアクセサリー。それは普段でも街でできるギリギリの女装だった。
 慧はとっくに着替えを終えていた。鞄から趣味のクロスワードパズルを取り出して、淡々とマス目を埋め始める。
 俺はモソモソとジーンズに足を通す。そして、シャツを着る。
 しかし、頭の中はさっきの慧のフェラチオでいっぱいになってしまっている。なんだろう、なんだかやり場のない感情に心が支配されている。
 ……なんで、慧はあんなことをしたんだろう。……いつもみたいに、手でするだけじゃダメだったんだろう。
 慧は俺の大切なパートナーだ。本当に大切な人だ。だから、あんなことをされたくはなかった。
 慧を、汚したくなかった。
 でも、そんなことを思いながらも、やっぱり俺は喜んでいる。慧の口は気持ち良かった。とっても柔らかくって、暖かかった。あの感触を忘れるなんてできやしなかった。
 慧の横顔を見ると、なんか照れる。だめだ、どうしたらいいか分からない。俺はたまらず視線を落とす。
「あ……」
 そこには、さっき慧がたたんだ俺達の衣装が見えた。
 ほんの少し前まで俺が舞台で着ていた衣装。そして、慧の着ていた衣装。
 そうか、さっきまで慧がつけていた下着も……、あそこに……。

「で、俺はいったいなにがしたいっていうんだよ……」
 自分のノープランっぷりに我ながら呆れてしまう。
 あの後、俺達はホテルに帰ってきた。ここは個室で、基本的には俺のプライベート空間ということになっている。
 だから、自由にオナニーもできる。発情した自分を沈めることも出来る。そういう事情もあって、スタッフが気を利かせてくれた結果の一人部屋だった。
 俺はドアの鍵をしっかり閉める。そして、ポケットに手を伸ばし、入っている小さな布きれを確認する。
 それは慧のはいていたショーツ……。俺は控え室からここまで持ってきてしまった。
「バカ……。なにやってんだよ……」
 俺は荷物を放り投げ、ベッドに腰を下ろす。そしてため息をつきつつ、改めて慧のショーツを目の前で広げる。
 純白のシルクで作られた三角形二つ分の布きれ……、それはただの、たんなる女物の下着だった。
 でも、慧がはいていた。俺の視線は自然と布きれの中央部に向いていく。
 ここに、慧のおちんちんが当たってたんだよな……。
 そう思うと、ズクンと自分の股間にも血液が集まっていく。心臓のリズムが速まっていく。
 意識が、遠くなる。
 ――俺はまた、激しく興奮してくる。
 もともとコンサートの後は、どうしてもダメなのだ。いくら慧が控え室で俺のペニスに触ってくれても、俺はその後ホテルで何回もオナニーした。
 それが今日は、おかずつきだ。……俺、どうなっちゃうんだろう。
 多分、俺は病気なんだろう。オナニーを止めることが出来ない、最低の変態病……。一度こうなってしまうともうダメだった。
 慧のショーツを鼻先まで近づけて、匂いを嗅ぐ。麻薬犬の様に、クンクンと匂いの奥の香りを探る。
 ツンと鼻孔をつく体臭を見つける。俺は糸をたぐるようにその香りを追っていく。
 慧の匂いがする。慧のきつい、おちんちんの匂い……。そう考えるだけで自然と俺の息は荒くなる。
 汗の匂い……オシッコの匂い……。俺は勝手な妄想を膨らませながら、どんどん発情していく。
 慧が踊っている時、この布地はおちんちんを押さえつけていたんだ。そして流れる汗を吸い込んで、ちょっと溢れたオシッコとかも吸い込んだんだ。
 ああ、……いい匂い。……とってもいい匂いがする。俺はついにショーツを顔面に押し当てる。
「ああぁ……、慧……、慧ぃ……」
 たまらず、慧の名前を呼ぶ。官能を刺激する香りに、俺の脳は爛れていく。
 俺は慧のおちんちんを想像する。慧のまだ半分皮を被った、かわいい性器。
 勃起したら、どうなるのかな……、ちゃんと剥けたりするのかな……。
 いろいろな想像を巡らせながら、俺は慧の匂いの発生源を口に含む。布の真ん中から、その香りを押し込むように。
 そして唾液を含ませて、吸う。
 ……ちょっとしょっぱい味が、口の中に広がっていく。これが、慧のおちんちんの味だと俺は錯覚する。
(慧のおちんちん、これが慧のおちんちんなんだね……)
 俺はひたすらに薄い布地を吹いたてる。唾液が次々と口内に溜まっていく。
 もう自分のペニスもガチガチに硬くなってしまっている。俺はジーンズのジッパーをもどかしげに下ろし、ベルトを引き抜く。
「慧っ、慧……ッ」
 ズボンを脱ぎ捨て、ブリーフを引き下ろす。そして、そのままベッドに転げる。
 仰向けの体勢のまま俺はショーツをくわえ、勃起したペニスを握る。
「ううぅっ……! 慧ぃ……、慧のおいひい……おいひいよぉ……」
 布きれを詰め込んだ口から、くぐもった嬌声が漏れる。俺はショーツを吸いながら腰を振り、手に握った欲望の化身をしごきたてる。
 俺はさっきのフェラチオを思い出しながら、一心不乱にペニスをこする。あの気持ちいい口の暖かさを頭の中でリピートする。
 這い回る舌、絡まる唾液。優しくしごきたてるプリプリとした唇。熱い息。愛おしい記憶の数々を引き出していく。
「ふうぅ……うぅ…………、うっ! うぐうぅッ!」
 慧の下着をくわえながら、慧を想ってするオナニーはその背徳感からか、圧倒的な快感を俺にもたらす。体中の産毛が逆立ち、玉のような汗が噴き出してくる。
 でもまだ足りない。俺は、今だもどかしげに自分の薄い胸をサワサワと撫で回しているだけの左手に気づく。もっと強烈な一撃を、この左手で欲しい……。
 俺は左手中指を口に運ぶ。ショーツの中をさらに押し込み、湿った布地で指を濡らしていく。
 指で口内をかき回すと、恐ろしいほど気持ちいい。これがキスの気持ちよさだったり、フェラチオの気持ちよさだったりするのだろうか。俺はいよいよ乱暴に指で口の中を犯す。
 喉への強い刺激からか、口には唾液が溢れ出してくる。それは十二分に中指を湿らせ、いよいよクライマックスへの準備が整う。
 俺はベッドの上で両足を大きく広げ、M字型に折り曲げる。そして、少しずつ腰を浮かせていく。
 こんな格好、慧に見られたら死んじゃうな……。そんなことを考えながら、俺は唾液で濡れそぼった指を下に回し、肛門に押し当てる。
 まずは周囲から濡らしていく。色素の沈着した窄まりのシワを伸ばすように唾液を塗っていく。
 コリコリした括約筋が気持ちいい。俺は恍惚としながら、アヌス周辺を刺激していく。
 やがて指先は螺旋を描きながら、穴の中心部へ向かう。俺の一番汚らわしい場所、肛門に爪が立つ。
 湿りを帯びた指を、中に入れこむ。
「んううぅっ!」
 唾液だけでは粘性が足りず、まだ痛い。でも、それでかまわない。俺はお尻を犯される錯覚が欲しかった、
 指がギリギリと進入する。第一関節、第二関節。秒速数ミリという速度で、少しずつ、少しずつ……。
 あぁ……、おちんちん入ってきた……。これは慧のおちんちん。慧のかわいい包茎ちんちん……。俺は慧の身体の重みを想像しながら、指を中にねじ込んでいく。
 やがて、中指の全てが俺のお尻に埋没する。俺のさもしい穴は、ろくに準備さえしていない指先さえも飲み込んでしまう。
「入ったぁ……。慧のおひんひん……全部、入っひゃったよおぉ……」
 指で感じるお尻の穴はとても柔らかく、敏感だった。少し間違えたら傷でもつけてしまいそうな、デリケートな感覚だった。
 俺は指をこねるように動かす。ゆっくりと回しながら、一番気持ちのいい場所を調べていく。
「……ふうぅっ! やらぁ……。慧、エロいのぉ……。エロすぎぃ……」
 もちろん違う。エロいのは俺だ。でも、これは慧のおちんちん……。エロいのは慧……。
 ああ、慧はとってもいやらしいから、俺を犯しながらちんちんもこすってくれる。俺はバカみたいに腰を振りながら、自分のペニスをしごきたてる。
「うふうぅっ! う、うぅ……ッ! ふうぅん……。慧ぃ……、けいぃ……」
 俺は譫言を吐き出しながら、イヤらしく身体をくねらせる。半女装の少年が、女物の下着をくわえて、恥知らずに悶えている。
 最低だ……。もう、本当に変態だ……。
 でも、そんな卑下する言葉ももう官能を奮い立たせるエッセンスにしかならなかった。……恥ずかしい。でも、こんな姿を慧に見られたいんだ。ああ、慧……、俺、おれ、変態だよおぉっ!
「ううぅっ! 慧ぃっ! けい、けいっ、……けいいぃっ!」
 中指を激しくピストンさせると、やがて異物にも腸壁になじんできたのか、奥から生温い腸液があふれ出してくる。俺はよりスムーズになった挿入感にのぼせ上がり、目からは涙まで流れ落ちる。。
 おちんちんもこする手も、お尻をえぐる指も、その速度はどんどん増していく。俺は絶頂の極みへ追いつめられていく。
 腰が動物的本能からか、激しく上下に揺れ出す。俺は虚空に突きを入れるように、ペニスを天井に向けてシュコシュコとしごく。
(ああ、ダメ……。慧……、俺もうダメぇ……ッ)
 バシッと、フラッシュが目の前でたかれたような光が、俺の脳を撃った。それは、法悦の光、俺を狂わす最終宣告だった。
「ひぐううぅっ!! け、けいいぃっ! い、イくっ……イくううぅっ!!」
 ドビュルウウゥッ! ブリュリュウウゥゥッ! ブビュウウゥゥッ! ビュルウゥ! ビュッ! ビュルッ!
 たぎった白濁液が鈴口で弾け、真上に噴き上がった。雫は部屋の上まで飛び散り、ヨーグルトのような精液が俺の腹や胸に降り注いだ。一滴一滴が、火傷しそうなくらい熱かった。
 俺は腰を突き出したまま硬直していた。ブルブルと足先を引きつらせながら、中指を自分の最奥まで突っ込んでいた。
 泣き出しそうな程の快感。慧に愛されているという錯覚は、とんでもないくらいの悦楽を俺にもたらした。
 でも、その圧倒的な快楽も波が引くように急速に失われていった。欠けた心には強烈な罪悪感が流れ込んできた。
「あ……、ああぁ…………」
 慧を、汚してしまった。また、自分の快楽なんかのために……。
 お尻から指を抜き、ペニスから手を離す。口の中の下着をとり出し、俺は放心する。
(……非道いこと、……しちゃった)
 慧を陵辱してしまった。一番大切な人を、辱めてしまった。
 いままでは、できるだけオナニーする時、慧のことを考えないようにしてきた。それは、なんだかとても悪いことのように思ってきたからだ。。
 しかし、ついに俺はそんな線引きも越えてしまった。こんな薄い下着一枚に惑わされて、慧に汚らわしい行為をしてしまった。
「くっ……」
 だるい身体を無理矢理回し、枕に顔を沈める。
「う、うぅ……。慧、ごめんね…………。ごめん、ごめんなさいっ……」
 俺は許しを請いていた。自分以外誰もいない部屋で、虚しく……。
 誰も何も答えてくれないのに、謝っていた。こんな思いをするくらいなら、始めからするなよと、頭の中でツッコミなんかいれながら、泣いていた。



 いつまでそうしていたのだろうか。
 コンコンというドアのノックで我に気づいた。
「は、はーい」
 俺は慌ててブリーフをはき、ジーンズにベルトを通す。鏡台の前でササッと髪を直し、入り口に向かう。
 ノックはまだ続いている。コンコンという、催促の音。
「はいはいはーい」
 俺は返事をしながらも、扉の前で立ち止まる。そして背を伸ばして、のぞき穴からドア向こうを見る。
 ホテルの人だろうか、白いワイシャツに蝶ネクタイをつけた人が、何かを手にして立っている。
 俺はもっと顔を見る。誰だろう、知らない人だ。丸々と太った、なんだかオタクっぽい人。
(おっかけの人……?)
 そういう可能性も十分あった。今までだって変な人は結構見てきている。だから、俺は少し用心する。
「あのー、どちらさまですか?」
「ホテルの者です。水無瀬佐奈様に見て欲しいものがあります」
 ……怪しい。まだ鍵を開けるのは早すぎる。
 男は俺の警戒を察したのか、続けて言葉をかける。
「あー、そこののぞき穴からでも結構です。あのですね、是非この写真を見て欲しいのですよ」
 そういうと、男は手に持っていた何かをのぞき穴の近くにかざした。
 そこには、へんなモノが写っていた。
 男の子が、ベッドで寝ていた。でもその足は広がり、お尻には指が入っているようだった。もう一方の手では性器をいじっていた。
 そして、口には何か白いモノをくわえていた。おそらく女性モノの下着だろう。
 血の気が急激に引いていった。まるで心臓の栓でも抜けたかのようだった。
 だって、これ………………俺だ。
 さっきまでの俺の姿だ……!!

 俺は膝から落ちた。ガクンと重心を失い、ドアに手をついて体勢を保つしかなかった。
 向こうからは、ヘラヘラした無慈悲な笑い声が響いてくる。
「開けてくださいよ。悪いようにはしませんから……」

(続く)

[投下 : 2chエロパロ板『女装空想小説』 2004年04月09日(851〜865)]

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