男の人を好きになってしまった自分は、変態なんだと思った。すごく悩んだ。 それでも、思い切って高梨さんに告白した。僕はその時、半泣きだった。 高梨さんは「よくがんばったね」と言って、僕の頭を優しく撫でてくれた。……嬉しかった。 でも、そのあと分かってしまった。高梨さんは、僕以上の変態さんだった。
部屋の壁にズラッとかけられた女の子の服。赤、黄、青、橙、白、黒……。 どれもレースやリボンで飾り付けられていて、まるでフランス人形の衣装みたいだ。 「さぁ、今日はどれを着たい?」 「はぁ……」 僕のため息は重い。今日はこの内のどれか一着を選んで、遊園地でデートするのだ。 いや、デート自体は嬉しい。すごく嬉しい。前の晩なんかなかなか寝られず、ずっとベットの上で笑いながらのたうち回ってたくらいだ。 でも、いざ女装となるとやっぱ気分は複雑だ。高梨さんはすぐ僕に女の子の服を着せたがる。 高梨さんはいわゆる『デザイナー』さんだ。依頼された洋服を作るお仕事をしている。 高梨さんは好きな人には自分の服を着て欲しいらしい。でもそれは、僕にはやっぱり恥ずかしい。 「じゃあ……、この黒いの」 僕は少しでも地味なものを選んだつもりだった。 「ゴスロリっ!!」 高梨さんは大声で叫んだ。 「いやぁ、やっぱり優くんはすごいなっ。最高っ! 自らこれを選ぶとは……、俺マジで嬉しいよ!」 そういうと高梨さんは僕をギュウゥっと抱きしめた。……落ち着け。よく分からないけど落ち着け。 高梨さんは僕から離れると、衣装ケースを引き開けた。 「えっと、これはそれ用の下着ね。こっちは首に掛けて。で、これは腕につけて欲しいんだけど……」 僕の目の前にポンポンポンっと黒いショーツやストッキングにガーターベルト、十字架やビーズのアクセサリーが飛んできた。 とどめは厚底ブーツがドンッ! 「さぁ、着替えたら行こうぜ遊園地! ああぁ、生きててよかった!」 高梨さん、なんでそんなにテンション高いの……?
遊園地に着いても高梨さんは上機嫌だった。僕はあらゆる意味で恥ずかしい。 そもそもこの格好が恥ずかしいのに、高梨さんは「かわいい、かわいい」と騒ぐので、周りの人がみんなこっちを見る。僕は目立ちたくなんかないのに……。 ……まあ、好きな人に「かわいい」って言われて、悪い気はしないんだけど。 「しかし、なんでこんなに似合うかなぁ。知り合いのモデルでも、こんなにハマらないよ!」 「はいはい……」 どうせ僕は女顔ですよ。それにしてもそんなに騒いで、知り合いとかに見つかったらどうするつもりなのか。僕の同級生だってここにはいるかもしれないのに。
それでも、デートを続けるうちに、僕の緊張は少しずつほぐれてきた。 やっぱり高梨さんと一緒にいるのは楽しいし、嬉しい。コーヒーカップとかグルグル回しちゃったり、お化け屋敷でキャーキャー言ったりするのはとても楽しい。 一つのジュースを二人で交互に飲んじゃったりさ。 ……そして、僕たちは観覧車に乗った。 僕らを乗せたゴンドラがゆっくりと上がっていく。下にいる人たちがどんどん小さくなっいく。景色がすごく遠くまで見えるようになる。 「うっわーっ♪」 すっごい綺麗。地平線が丸いのが分かるみたい。空が近い。 そして、こんな空間に高梨さんと二人っきり……。 「高梨さん……」 「なに?」 「今日はありがとう。僕、すっごく嬉しいよ。家族や友達と来たってこんなに楽しいわけないもん」 「優くん……」 「ホント、高梨さんを好きになってよかった。心からそう思うんだ」 そして、僕は高梨さんの頬にキスした。 高梨さんはその頬そっと撫でた。そして、その手で僕の頬も撫で上げた。 「あっ……」 今度は高梨さんが僕にキスしてきた。口に……。舌で口をグシャグシャにする大人のキスだった。 「んっ……、ふぅ……」 上の歯をゆっくり舐められると、自然と口が開いてしまった。僕たちは舌を絡めた。 少し離れて鼻の位置を変えた。今度は口の中を丁寧に愛撫された。 甘い唾液が流れてきた。僕は口の中でそれを転がして、自分の唾液と一緒に高梨さんに返した。高梨さんはそれを飲んだ。 「あぁ……、高梨さんっ……」 僕は高梨さんに抱きついた。ジャケットからはコロンの甘い香りがした。 「優くん……、俺……」 「なに……」 「したい……」 「………………はぁ?!」 ロマンチックな雰囲気を一発でぶち壊す発言だった。したい、ってなにを? まさかエッチ? 「あのね高梨さん。今、僕たちはデート中なんだけど……」 「デートの時には、するもんじゃん」 「デートの最後でしょ! まだ途中! まだ昼!」 「だって勃っちゃったんだもん……。ねぇ、しよーよ。俺、優くんとしたいよぉ……」 デリカシーの欠片もない言葉だった。でも、甘えんぼうモードになってしまった高梨さんは止められない。 「あのさぁ、今日はお尻もきれいにしてないし……。うちに帰ってからじゃなきゃ無理だよ……」 「持ってきてる」 そういうと高梨さんは鞄からイチジク型の浣腸を取り出した。 最低だ……。この人、始めから外でするつもりだったんだ。どおりでこのハイテンション……。 「だからさ、ほら、俺が入れてあげる……」 そう言うと高梨さんは僕の後ろに回り込んで、スカートの中に手を入れてきた。小さいゴンドラがグラグラ揺れる。 「ちょっと高梨さん! 上のゴンドラから見えちゃうってば! ここじゃ無理だってば! 駄目っ!」 「大丈夫、大丈夫♪」 何を根拠に……! でももう高梨さんは僕のショーツを下ろして、お尻の穴を触っている。 「入れるよー」 僕のお尻の穴に、浣腸の細い先端が入り込んできた。そして溶液がトクトクと直腸に流れ込んでくる。 「あっ……、うあぁ……」 「最近優くん、浣腸でも感じちゃってるよね。お尻そんなによくなってきちゃった?」 もう限界。僕は高梨さんの頭をおもいっきりブッ叩いた。
僕たちは観覧車を降りた。高梨さんの頭にはたんこぶが一つできている。 「浣腸が効いてくるまでは、もうちょっとかかるよね」 「うん。あと十分か、十五分くらい……」 僕はもう、とっととトイレに行きたかった。なんでデート中にこんなことしてるんだか……。 「じゃあさ、それまでの間、あれ乗らない?」 「あれって…………、あれぇ?!」 僕はサーッという自分の血の気の引く音が聞こえた。だって……、あれって……、 「ジェットコースターじゃん!!」 「優くん、乗りたがってたでしょ」 「いや、確かに乗りたかったけど、でも、なんで今なの?!」 「目の前にあるし、ほら、列もすいてる」 確かに今なら待ち時間なしで乗れそうだ。それでも、こんな状況で……? 僕は足がすくんでしまう。 しかし、高梨さんはお構いなしに僕の手を引っぱった。 身長制限はギリギリ足りていた。低い身長は僕のコンプレックスだったけど、この時ばかりは自分の成長を恨んだ。 フリーパスを見せて入場すると、ちょうど向こうから車両が帰ってきていた。 ケタケタ笑っている人や、青ざめている人、反応は様々だった。彼らはちょっと離れた降車場から降りていった。 そしていよいよ、僕たちの目の前に車両が滑り込んできた。 「優くん、震えてるよ。まさか怖いのぉ……?」 「怖いよっ!!」 僕は高梨さんをにらみつけた。この人、明らかに僕の反応を楽しんでる!
安全シートが下がり、発車のアナウンスが流れた。 カタカタと金属のベルトが回り、ジェットコースターが動き始めた。 もうこの時点で、僕の額には脂汗が出始めていた。振動がお尻に響く。 「高梨さん……」 「なぁにー?」 「一生、恨んでやる……」 車両はドンドン上に上がっていく。遊園地の全景が目に入ってくる。こんな状況じゃなければ、もっと楽しめるのに……。 そしてついに、車両は一番高いところに到達した。僕は手すりをギュッとつかむ。 フッと、体重が無くなった。 次の瞬間、世界が猛スピードで落下した。いや、落下しているのは僕だ。えっ、どうなってるの!? 考える間もなく、今度は世界が右にぶっ飛んだ。そして左、また右。 ギュギュウウウゥゥッ……! 「あっ……?!」 僕のお腹が鳴った。なんか溶液が一気に体中に染み渡ったように感じた。全身に鳥肌が立つ。 今度は世界が回った。一回、二回。 「いやあああぁぁっ!!」 僕は自分がかき回されているように感じた。お腹がグルグル回っている。やばい! 僕は必死になってお尻に力を入れようとする。だが、上手くいかない。体重が軽くなったり重くなったりして、自分で自分が制御できない。 今度は、自分の重心が一気に下に降りてきた。 「…………えっ?」 車両は大きなループにさしかかっていた。 「うわあああぁぁっ!!」 他の乗客はキャーキャーいいながら両手を離したりしているが、僕にそんな余裕はない。歯を食いしばり、どうにか体の中の汚物が抜けてしまわないように耐える。 全身から汗が噴き出る。でも背筋は寒い。もう、僕は何も考えられない。ただ、この拷問が速く終わることを祈るだけだ……。
ガガガガガガガアアァッ! 車両はすごい振動を立てながら急停止した。そしてゆっくり降車場に近づく。 「いやぁ面白かったねぇ、優くん。……優くん?」 「……だめぇ、…………だめなのぉ」 僕はもう、それしか言えなかった。泣き声でのどが詰まっていた。うまく息もできない。 全身に力が入らなかった。ただ前に突っ伏して、ガクガク震えていた。 限界だった。もう本当に限界だった。お腹が痛くて爆発しそうだった。 「あぁ……、ごめん! ごめん優くん!」 僕の様子を見て全てを察したのか、高梨さんは安全シートが上がった瞬間、僕を抱きかかえて走りだした。 高梨さんは僕をお姫様だっこしながら、階段を駆け下りた。そして、トイレに向かってダッシュした。 「だめぇ…………、だめえぇ!!」 僕は高梨さんに抱きついた。デッドラインだった。こうしてないと体がバラバラになってしまいそうだった。 振動が全身に響く。もうジェットコースターは降りたはずなのに、世界が揺れる。回る。 「あ、ああぁ…………、いやあああぁぁっ!!」 ビュッ、と溶液がもれるイヤな感触がお尻に走った。 バンッ、とドアを開ける音が響いた。その小さな個室には洋式の便座があった。 高梨さんは僕のスカートをたくし上げ、ショーツを引き裂いた。ビイイッという悲鳴にも似た音が響く。 「いいよ、速く!!」 「ああぁ……、あぁっ…… うあああぁぁっ……」 僕は便器にむりやりお尻を向けた。 「いっ、いや……、いやあああぁぁっ!!」 ブビュウウウゥゥッ! ブリュウウゥッ! ビュウゥッ! ブリュリュッ! ブシャアアァッ! ビブウッ! ミチ……ミチミチィ……ブリュウゥッ! 僕は高梨さんに抱えられながら、熱い汚物を一気に吹き出した。 高梨さんの胸で、僕は泣き叫んでいた。そして、弁器官を駆け抜ける快感に震えていた。 あぁ……、気持ちいい……。ごめん、高梨さん。僕、やっぱりお浣腸気持ちいい……。 ……高梨さんの息も荒くなっていた。胸が大きく上下してる。僕のウンチしているところを見て興奮しているらしい。 「はぁ、ふああぁ……」 そしてついに、僕は内容物を全部出し切った。とても長い排便だった。 体から力が抜け、膝が折れる。そんな僕を、高梨さんは優しく抱き止めた。 脱力した僕を、高梨さんは便座に座らせた。もうクニャクニャの僕の体は、後ろのタンクに背をもたれて、ただ、不規則な呼吸をくり返した。 カチャカチャと、高梨さんがベルトをはずす音が聞こえる。ズボンを下ろす衣擦れの音が聞こえる。 「たかなしさん……、するの……?」 「うん、したい。俺、優くんとしたいよ……」 高梨さんの声は、とても熱っぽいものだった。 「ぼく、まだ汚いよぉ……、いいのぉ……?」 「……優くん、自分が今、どのくらい綺麗か分からないの?」 「…………えぇ? ……わからないよぉ」 だって、僕は今、女の子の格好して、顔は汗と涙でグシャグシャで、それでも気持ちよくってヨダレとか垂らしちゃって……。 それに、お尻はウンチまみれで、おちんちん痛いくらい勃起させちゃってさぁ……。 「やだ……、僕いま……、すごく恥ずかしい……。恥ずかしいよおぉぉ…………」 声もすごく震えてる。恥ずかしい……。たぶん、今の僕は最低だ……。 「優くん、やっぱ君は最高だよ。すごくかわいい。世界一かわいい。どんなに言葉を重ねても足りない。俺は今、君をおもいっきり抱きたい」 「ははぁ、……たかなしさん、……やっぱ、……へんたいさんだぁ」 「違うよ。かわいすぎる優くんが、全部悪いんだよ」 もうそれ以上言わないでよ。くすぐったい……。高梨さんの言葉で体中が舐められてるみたい。 僕はたまらなくなって、スカートを自分で持ち上げた。 ショーツが引き裂かれたそこは、僕のおちんちんが精一杯硬くなっている。その下はお尻の穴が、まだ汚いままヒクヒクと息づいてるはず……。 そういえば、ガーターでストッキングをとめていたんだっけ。汚しちゃったかな……。 「いいよ、こんなぼくでよければ……、いれて……」 「ゆ、優くん……」 高梨さんの声も震えてる。僕たちは一緒に興奮している。本当に、変態同士の恋人だ。 「ぼくを……、ぐちゃぐちゃにしてぇ!!」 「優くんっ!!」 高梨さんは僕の足をもち、ペニスの先を僕の汚い肛門に押し当てた。そして、一気に突き入れた。 「あはああぁぁっ!」 僕は歓喜の声を上げる。女の子の格好をして、女の子みたいな声を出している。 高梨さんは僕をおもいっきり突き上げる。僕はバランスをとれなくなって、慌てて後ろに手を回し、タンクをつかむ。 「やだあぁ……、たかなしさん、ちょっと……、つよすぎるよぉ……!」 「あぁ、そうだね……、じゃあ、ゆっくりするね」 そういうと、高梨さんはピストンのペースを落とした。 「あぁ、あうぅ……、たかなしさん……、それぇ……、それいぃ……」 高梨さんは僕の前立腺を丁寧に、熱い肉棒でこすりあげる。 僕は腰をよじらせながら、喘ぐ。複雑に重なったスカートのレースが揺れる。 「あぁっ……、あっ、あはあぁ……、いぃ……、たかなし……さん……、いいよぉ」 「ああ、俺もいいよ……、優くん」 「うあぁ……、すきぃ……、たかなしさんっ……! ぼくぅ、たかなし……さんがぁ……、すきぃ……! すきぃっ!!」 僕はここがトイレだということも忘れて、恥知らずな愛の告白をする。 さすがに高梨さんは理性が少し残っていたのか、僕の口を塞ぎにかかった。 ……ただし、唇で。 僕の口の中に、大きい舌が割ってはいる。歯の裏を丸く舐め上げ、頬の裏をつつく。 上の方を舐められていると、直接脳を舐められているように錯覚してしまうくらい、気持ちいい。 「ふぅ……、んぐぅ…………、んんうぅっ……」 僕は高梨さんの首にしがみつく。たまらない。この人が愛おしい。 高梨さんも合わせて、僕の足から手を離して、胸を抱きかかえる。肛門への挿入を続けたまま、僕らは体位を変えていく。 キスしたまま、僕の体は便座から離れた。高梨さんは僕を抱きかかえたまま、後ろの壁にもたれかかった。 そのまま、少しずつ高梨さんは腰を床におろしていった。僕らは薄汚いトイレに座り込みながら、キスして、腰を振った。 ようやく、キスが終わった。僕の舌と高梨さんの舌の間に、一本の糸が伝っていた。 高梨さんは僕の耳元に口をもってきて、囁いた。 「優くん。俺も、好きだよ……」 ……さっきの返事だ。吐息のような言葉が魔法のように全身に広がり、体中が幸せになった。 「あぁ……、たぁ……、た……かぁ……、たか……な……し……さぁん……」 うまく喋れなかった。感動で胸がいっぱいになった。ボロボロと涙がこぼれ落ちる。 高梨さんはそのまま、僕の耳たぶを甘噛みした、ああ、これもすごい気持ちいい……。 僕の全体重がかかり、高梨さんのペニスはすごく奥まで入っていた。中でドクドクしているのがわかる。すごい……。 「優くん、そろそろ俺、全力でいくよ」 僕は黙ってうなずいた。いいよ。もっと気持ちよくして。僕を、壊して。 高梨さんは腰を大きく上下に動かし始めた。僕の体はゴムマリのように弾む。 「うああぁっ! あぁっ! いぃっ、よぉっ! あぐぅ……、あんっ! あああぁぁっ!」 僕の口からは、勝手にやらしいよがり声がでてしまう。スカートの中から、結合部で粘液のこすれる音が聞こえる。 目の前に高梨さんがいる。視線が絡む。僕らはお互いのリズムを合わせる。 ……好き。僕はこの人が好き。この人と一緒に気持ちよくなりたい! 「優くん……、分かるよね……。もう、出すよ……」 「うん…………、だしてぇ……、ぼくも…………、ぼくも……だすからぁ!!」 心が重なり合うのがわかる。僕らは同時に登りつめていく。 イくよ、高梨さん……。僕、イっちゃうよぉ! 「優っ!!」 「た、たかなしぃ……、さんっ……、あぁ、うあああぁぁっ!!」 ブビュウウウゥゥッ! ブビュウッ! ビュクン! ビュルウウゥッ! ビュン! ブピュウウウゥゥッ! ドクン! ドブウウゥッ! ビュッ! ブジュウウウゥゥッ! ビュキュン! ブビュウウウゥゥッ! 高梨さんが僕の直腸に射精したのと同時に、僕は高梨さんの作ってくれたスカートに精液をぶちまけた。 僕たちは、しばらく射精の虚脱感で動くこともできなかった。 でも、そのうち二人で見つめ合って、笑い合って、……キスした。
「はい、買ってきたよ……」 僕は黙ってラッピングされた袋を受け取った。中身は新しいショーツだ。 さっき、ショーツは勢いで破られてしまった。ノーパンではこの後、帰ることもできない。 高梨さんは「ノーパンでいいじゃん」と強く主張したが、それ以上言うなら別れると宣言し、むりやり買ってこさせた。 トイレで確認したら、その色はやっぱり黒だった。 こだわるなぁ、この人は……。どこまで買いに行ったんだろう。
「そんなにスカート長ければ見えないのにぃ。もったいない……」 「もったいないってなんだよ! 僕が困ってるところ見たいだけじゃん!」 「はい、そぉでーす」 いったいなんで、こんな人を好きになっちゃったんだろう。さっき愛の確認をしても、やっぱりそう思う。 人を好きになるって、不思議だ。 「……ほら、おいで」 高梨さんは肘でわっかをつくって、僕が腕を組むのを待っている。 なめんなよ、そんなにあなたの思い通りになってたまるかってんだ。 「べえぇーっだ!」 「え?」 僕は走りだした。夕闇に染まる遊園地、ライトアップされた並木道を。 スカートがひるがえる。厚底のブーツがガクガクしてしまう。レースがはためく。 「おーい、待ってよー!」 高梨さんも追いかけてくる。僕はこの人からは逃れられない。すぐに追いつかれるだろう。 あと十メートルくらいで後ろから抱きしめられちゃったりするかな? ……それって、結構いいよね。 キラキラ光るメリーゴーランドが見えてきた。さぁ、今度はあれに乗ろっか……?
(了)
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