「ご、ごめんなひゃい……ッ! 宏一さん……、ごめんなひゃいーッ!」
小さな天使が、俺の腰に抱きついて泣きじゃくる。
「あー、もういいよ……。いや、ぜんぜんよくないけど……、でも、もうしょうがないよ……」
俺は、この子の背中に生えたフワフワの羽根を撫でて慰める。
それでも、神様見習いを名乗る少年の嗚咽は止まらない。小さな肩をしゃくり上げながら鼻をすすり、俺のシャツに涙で濡れた瞳を押しつける。
「ふえ……、ふえぇ……」
おろしたてのTシャツに、青っぱなが染みを作る。
(まったく……。泣きたいのはこっちなんだけどなぁ)
俺はサラサラと流れる少年の金髪を、頭上で光る輪っかを避けながら撫で上げる。指の間を流れる旋毛がちょっとだけ気持ちいい。
――ウァル。この幼いエンジェルの扱いに、俺はほとほと困っている。
そもそも出会いからして、この子はインパクト抜群だった。
俺のアパートの天井には小さな天窓があって、それが気に入って借りたのだが、よく考えてみるとカーテンがつけられない構造になっていてちょっと困っていた。
そんな夏の日曜日。俺は特にすることもなく、ソファーに寝ころんでグダグダと過ごしていた。
彼女欲しいなー。お隣の矢吹さん、可愛いなー、などと薄ボンヤリと考えていたそんな時、
天窓に、ふと影が差した。
「え?」
一瞬遮られた夏の日差し。俺は反射的に窓へと目を向けた。
ギュンと風が鳴り、何かが猛スピードで近づいていた。そして、
爆音。
「うおおおおぉッ?!」
衝撃と共にガラスが割れ、何かが俺の部屋に飛び込んできた。それは寝そべる俺にぶつかる直前、ヒラリと宙で一回転し、真っ白な羽根を勢いよく広げた。
「あなたの願いを叶えますッ!」
ハキハキした声で、その少年は宣言した。
真っ白な肌に真っ白なローブ。美しい黄金の髪に、背中に生えた純白の羽根。
何より、頭上に輝く天使の輪。
「は、はは……」
そいつは、まごうことなき神の使いだった。
小さな食台を挟んで、俺は天使の話を聞いた。砕け散った窓ガラスはとりあえず破片だけ処理したけど、天井の大穴は空いたままだった。
「えっと……。つまり、ウァルが神様になるには誰かの願いを叶えなきゃいけないんだ」
「はい。それが神様の基本ですから」
「へー……、基本ねぇ」
なんて殊勲な心がけだろう。まったく、俺のお賽銭をただ丸飲みした世の神社仏閣どもに聞かせてやりたい。
この小さな天使は、いくつかの神器を持っている以外は、まるきり人並みの力しかないらしい。あとは羽が生えてて、頭に輪っかがついてるくらいか。
その状態で、一人の人間を幸福にできるかどうか。それが、天使たちの現世での修行なんだそうだ。
「初め出会った人を一回幸福にするごとに、このカードにポイントがつくんです。全部たまれば無事課程修了というワケです」
「ふーん……。変なトコで俗っぽいなぁ」
まあいいや。とにかく俺はこのドリームな設定に驚喜した。
こんな都合のいい話、そうそうあるもんじゃない。空から天使が落ちてきて、好きなだけ願いを叶えてくれるって? すげえ。人生勝ち組じゃん。
俺はさっそく小さなところから幸せになることにした。
「それじゃ、とりあえず昼飯でも作ってくれよ。焼きそば作れるくらいの材料はそろってるからな」
「はいです!」
ウァルはパタパタと台所へ向かった。
はは、なんかすごくいい拾いモノしちゃったな。なんて考えた瞬間、
ガンガラガッシャンシャーン!
鍋やらフライパンやら、棚の全てをひっくり返すような音が、ドア一枚隔てたキッチンから響いてきた。
俺は、自分の考えが相当甘いモノだったと思い知らされた。
その後も、ウァルは数々の大失敗を繰り返し続けた。
料理を作れと言えば、真っ黒な消し炭を持ってくる。掃除をしろと言えば、部屋の全てをゴミに変えてしまう。だいたい、全自動洗濯機で服一つ洗えないってのはどういうわけだ?
「うー……、人間界の機械はよくわかりません……」
「そうか……。でもどうしたらこういう状況になるのかも、俺にも分からん」
山盛りのあぶくで溢れかえる脱衣所を見て、俺は軽い眩暈を起こした。
そして、ついに極めつけの事態が起こった。
「やっぱ、彼女とか欲しいよなぁ……」
レポートをやりながら何気なく呟いた一言に、ロフトで絵本を読んでいた押し掛け天使は耳ざとく反応した。
「分かりました。その願い叶えますッ!」
「いや、いいからッ!」
俺の反応も早かった。
ウァルがこの部屋に飛び込んできてからはや一週間、こいつの善意にはもうほとほと懲りていたからだ。
悪気があってしてることじゃない。それは分かってる。でも、もう被害金額が尋常じゃないのだ。今月のバイト代は全部修繕の費用に消え失せてしまった。
しかし、ウァルは今回も引き下がらない。
「いや、今度こそダイジョブです。もう絶対、絶対に!」
「そんなこと言って……。まだ1ポイントも入ってないくせに」
「うぅ……。でも、今度は自信あるんです!」
そう言うと、ウァルは背中から一組の弓と矢を取り出した。
「なんだそれ?」
「もちろん、天使の矢ですよ。……人間界でもそこそこ知られてません?」
あー、なるほど。いわゆるキューピッドと矢ってやつか。俺はほんの少しだけウァルの自信に納得がいく。
矢じりにピンクのハートをあしらったオモチャみたいなデザインの弓矢、それはつまり……、
「はい、そうです。この弓矢で打たれた人は、いちばん始めに見たモノに恋してしまうという、まさに究極のアイテムです。これさえあれば、彼女なんてすぐにできちゃいます」
ウァルは弓矢を握りしめ、反らした胸を誇らしげにドンと叩く。直後にゴホゴホとむせこむところがいまいち決まらない所なのだが。
「うーん、でもそれはなんか卑怯くさくない?」
「そ……、そんなことないですよぉ……」
しかし、ウァルはそう言いながらもバツが悪そうに俺から目を反らす。やはり、こんな人の心を操る神器を使うことにはためらいもあるのだろう。
それでも、ウァルには今日まで俺の願いを叶えられていないという焦りがあるようだ。頬を伝う冷や汗が、ほんの少しだけもの悲しい。
そして、俺は決意する。まあ、本当に彼女が出来るなら、それに越したことはないだろうし。
「じゃあ、いいよ。そろそろ本気で願い事も叶えて欲しいしな。……やってみようぜ」
「は、はいッ!」
これが、そもそもの間違いだった。
俺達は、他人様の庭に勝手に入り込み、垣根の向こうの路地を葉っぱの隙間からのぞき込んでいた。
目標は、毎日飼い犬の散歩コースにこの道を利用している矢吹さんだ。
ウァルは小さな弓に矢をつがえ、来るべき獲物を今か今かと待ちかまえている。俺はそんな少年天使の背後から、おとなしく事態を伺っている。
「なんか、限りなく犯罪臭いことやってるよなぁ」
ていうか、今してることはそれこそ不法侵入だったりするわけだけど。
……いや、そもそもこんなこと、道徳的にもどうかって話だ。いつかバチが当たるんじゃないか、俺。
そして、待つこと数分……。
「あ、来ました来ました。彼女ですよね?」
「あ、あぁ……」
何も知らない矢吹さんは、向こうから豆柴を連れてやってきた。右手に紐を握り、左手にはふん処理用のスコップとビニール。タンクトップに形のいいおっぱいがプルプルと揺れている。
あー、やっぱ可愛いなぁ、矢吹さん。思わず顔が緩んでしまう。本当にあの人が彼女になってくれるなら、嬉しいなぁ……。
「それじゃいきますよぉ……。僕が矢を打ったら、宏一さんは彼女の目の前に飛び出してください。矢に打たれて一番始めに見たモノに、その人は恋に落ちるんです」
「よし……」
俺は頬をパンとはたいて気合いを入れる。
ウァルはキリキリと弓を引き、サンダルを鳴らしてこちらに歩いてくる矢吹さんに照準を定める。そして、
「えいッ!」
バインッ!
矢は真っ直ぐと矢吹さんの方へ……、は、行かなかった。
そもそも少年の握力で弓を放つことなど不可能だったのか、ハートの矢はすっぽ抜けて真上に上がり……、
よりによって、ウァルの真後ろにいた俺の頭に落下した。
ガクンと俺の首は下がり、その視線の先には、
――めちゃくちゃ可愛い豆柴が、媚びるように小首をかしげていた。
まだ俺に抱きついてダクダクと泣くウァルの肩に手を置き、しゃがみ込む。視線の高さを同じにして見つめ合えば、天使の綺麗な顔は、グチャグチャに歪んでいる。
「こ、こういちさぁ……ん」
「もういいよ……。ほら、泣くなってば」
俺は小さな肩を揉む。
「やっぱ神様ってどっからか見張ってんじゃないか? ズルいことしようとしたからバチが当たったんだよ」
「でも……、でもあんなこと、非道すぎますうぅ……」
改めてそう言われると、こっちも落ち込んでくる。憧れの矢吹さんの飼い犬に突進し、そのままベロベロとキスしたこと。さらには矢吹さんに頭を殴られ、勢いでみぞおちまで蹴られたこと。確かに非道い。
もう、彼女とは口もきけないだろう。……困ったもんだ。
「うあぁ……、どうしよう……。僕……、もうどうしたらいいのか分からないよぉ……」
「ウァル……」
「もう人間界に来てから一週間も経つのに、何一つ宏一さんの願いを叶えてあげられない……。単なるお手伝いさえ出来ない……。僕、やっぱダメだよぉ……」
うーん……。ダメ……、なんだろうなぁ。この子のドジキャラ属性は究極だ。
それでも、今はこの子を慰めてやるしかない。
「そんなこと言うなよ……。お前が役に立つ日まで、俺は気長に待つからさ。ほら、鼻ふけってば。……ちょっと待ってろ」
俺はウァルから手を離し、机の上からティッシュをとる。一枚じゃ足りそうにないから、ワサワサと。それを、涙や鼻水で濡れたウァルの顔に押し当てる。
「ふに……」
ウァルは僅かに首を反らして、顔を拭く。
しかし、この程度の紙片では涙を全部ぬぐうこともできず、ウァルの頬には水滴がポロポロと滑り降りている。顔はやっぱり真っ赤で、口もだらしなく半開きだ。
それでも少しは落ち着いたのか、失意の小天使は俺の瞳を見つめながら、ゆっくりと語りかけた。
「宏一さんって……、優しいですね……」
「泣いてるガキを放ってはおけないだろ」
井戸に落ちそうな赤ん坊は誰でも助けるってのが、性善説の根拠だっけ。いや、そんな説話をもってこなくったって、俺はこの幼い天使を見捨てることなんかできない。
だって、コイツはいつだって一生懸命なんだから。
「うぅ……」
ウァルは小さく唸ると、大きな瞳を薄く閉じて、うつむいた。どうやら、何かを考えているらしい。
「宏一さん……」
「ん?」
「決めました……。僕、宏一さんの願い事、彼女が欲しいって望みを叶えます……ッ」
「……あ、それはもう」
いいんだ。と、言おうとした瞬間、言葉はウァルの叫び声でかき消された。
「僕が宏一さんの『彼女』になりますッ!!」
俺の中で、時が止まった。ウァルが何を言っているのか、理解が及ぶまでにものすごく時間がかかってしまった。
えっと、それはどういうこと……?
気がついた時にはもう遅かった。なんとウァルは言うが早いか俺の首に手を回し、自らの唇を俺の口に押し当てようとしていたのだ。
「……?!」
クチュリと小さな水音が鳴り、俺の唇に柔らかい粘膜が触れた。そっと下唇を吸われた後、ウァルは頭の角度を変えてさらに密着の度合いを強めてきた。
「ちょ……、ちょっと……ッ」
俺は抗議の声を上げる。しかし、小さな天使の強引なキスは止まらない。絡まる腕をさらに縮め、俺の口内に甘い吐息を流し込んでくる。
「は、はふ……」
チュッ、チュッと、小鳥がエサをついばむように、俺の唇でキスが弾ける。
「ちょっと……、ちょっと待てってばッ!」
俺はウァルの肩を掴み、しなだれかかる天使の肢体を強引に引き離す。
「あ……」
悲しげにひそめられるウァルの眉。涙に揺れる瞳が、さらにひしゃげる。顔は先にもまして紅潮し、少年の羞恥と興奮を俺に伝える。
しかし、それでも俺はコイツを受け入れるワケにはいかない。
「な、なに考えてるんだよ、お前はッ! いきなり、こんな……ッ!」
「だって、僕は『彼女』なんですッ! 宏一さんの『彼女』になるんですッ!」
「『彼女』って……。お前、彼女ってのがどういうモンか分かって言ってるのか?」
「……わ、分かってます」
ウァルは茹でられたように赤くなった顔を背けて、呟いた。
「彼女って、こういうことをする人です。……恥ずかしいけど、……死ぬほど恥ずかしいけど、それでも、宏一さんに喜んで貰えるなら、僕はやるんですッ!」
――分かってねえぇッ!
今の言葉で確信した。コイツは、おそらく人間の恋愛感情なんて理解していない。恋人というものを、単なるエッチする関係だと勘違いしている。
違うんだよ、ウァル! 彼女っていうのはもっと、もっとさあ……。チクショウ、俺もなんて説明していいのか分からないんだけどッ!
そんな俺の悩みなんてお構いなしに、小さな天使は再び俺の唇に吸い付いてくる。今度はさっきみたいに剥がされないよう、もっとしっかり首に腕を回し、さらに気を入れてキスしてくる。
「う……、うぅ……ッ」
俺はそんなウァルを拒むことができない。短い舌を必死に伸ばして口内をまさぐり、泣きながらヨダレを垂らす少年を、俺はあしらうことができない。
「うぁ、ウァル……」
俺の腕が、徐々にウァルの羽の生えた背中に回っていく。こんなことをしてはイケナイと分かっていながら、俺はこのワケの分からない衝動に逆らうことができない。
そして、ついに抱いてしまう。天使を、この腕に抱きしめてしまう。
「あ、あぁ……」
少年は、歓喜に震えている。たったこれだけのコトで、ただ抱き締められたというだけで、ウァルは小さい胸を引きつらせながら、涙をポロポロとこぼしている。
(くそ……ッ! なにしてんだよ、俺。こんな恋人の意味も分からない子供に、こんなことするなんて……ッ!)
まだ脳の片隅では、理性が、ダメだ、やめろ、引き返せ、と繰り返し俺を説得する。しかし、俺は自分の行動を押さえることができない。
つい、舌を伸ばしてしまう。そのままウァルの舌と絡め、唾液をすすってしまう。そのまま可愛い歯の列を右から左へと舐め上げ、少年の口を強引に開いていく。
さらに歯茎をなぞり、歯の裏を舐める。口の天井に舌先を伸ばし、丁寧に撫で上げる。
「は、はぶぅ……ッ! うッ! うぐ……ぅ」
ウァルが苦しげに呻く。しかし、一度火のついた俺の欲望は止まらない。
小さな後頭部を掴み、ウァルの動きを封じる。そのままさらに舌を突き入れ、口内をグチャグチャと掻き回す。
ウァルの背中が反射的に縮まる。初めての口内性感に溺れ、ピクッ、ピクッと足の指先を痙攣させる。
そのまま、俺達は飽きるまでキスをする。ただひたすら唇を貪り続ける。
やがて唇は離れ、俺達の間に一本、唾液の橋が伝う。もう口の周りは互いの唾でベタベタで、雫は顎先まで垂れている。
「あ……、あふぅ……」
ウァルはがやけに甘ったるいため息をつく。
上気した頬に、とろけた瞳……。本能で男を誘うようなその表情に、俺の興奮は高まっていく。
「……ウァル」
「ふあ……?」
「やばい……。俺、今、心臓が破裂しそうなくらいバクバクいってる……。こんなこと間違ってるって分かってるのに、止まらねぇ……。たぶん、このままだと、お前を壊しちまう……ッ!」
俺はウァルの肩を潰してしまいそうな勢いで握りしめる。
「逃げろよ。今ならまだ間に合うから……ッ! 俺はこのままオナニーでもなんでもするから、お前は家から出てけよッ!」
しかし、ウァルはその場に腰を下ろしたままだった。肩を掴んだ俺の手を細い指で撫で、微笑みながら呟いた。
「いいえ……、これは僕が望んだことです」
「……う、うぅ」
まぶしい笑顔に目が眩む。そして、天使はさらに俺を誘惑する。
「いいんです。壊してください……。そして、僕を『彼女』にしてください……」
「や、やめろよ……」
俺は目を瞑り、顔をそらす。そんな俺の耳にウァルはそっと口を寄せ、吐息を流し込むように言葉を紡ぐ。
「好きです……。宏一さんが、好きなんです……。何もできない僕だけど、宏一さんは優かった……。だから、僕は『彼女』になりたいです……。天使だとかそういうこと関係なく、愛されたいです……」
「……ッ!」
「だから、僕を……、好きにして……」
そして、俺の頭の中で決定的な何かがプツンと切れた。瞬間、俺はウァルをソファにねじ伏せ、タダでさえ細い体を力まかせに抱き締めていた。
「うぁ、ウァル……ッ! ウァルぅッ!」
「ふぐうぅ……ッ」
腕の中で苦悶する小さな天使の律動を全身で感じ、俺の息も荒くなっていく。
俺はとにかく体をこすり合わせる。手で二の腕を撫で回し、脇をくすぐる。胸と胸を重ね合わせ、足を絡める。
溶けそうな程の勢いで、俺はウァルに全身で絡みつく。
「はぁ……、はぁ……」
ウァルはなすがままにされながら、熱い呼吸を繰り返す。
やがて、強引な愛撫に促されて、ウァルの方も腰を揺らし始める。小さな陰茎がローブの中からその存在を主張し始め、俺のヘソ当たりにツンツンと当たる。
(感じてる……のか?)
俺は腹筋に力を入れ、ウァルの下腹部にお腹をこすり合わせる。
「は、はうッ!」
天使は小さな悲鳴を上げる。しかし、その後はウットリと目を伏せながら、体をヒクヒクと震わせる。
「あ……、あぁ……。なんか、ジーンってきます……。体の奥から……、こみ上げてくるみたい……」
「そうか……」
そう言われると、俺の方もそんな感じがしてきてしまう。胸の中から潮が満ちてくるような心地よさが、波紋になって全身に広がっていく。
「気持ちいい……。俺、ウァルを抱いてるだけで、凄く気持ちいい……」
「ぼ、僕もぉ……」
俺達は互いの体を抱き締めながら、全身を揺する。相手の体温を体中で感じ合いながら、気持ちを高ぶらせていく。
いつの間にか、俺の腰も上下に動き始め、ウァルの股間を突き上げている。まだ下着も着けたままだし、入ってしまうなんてことはあり得ないが、それでも、こんな擬似的なセックスで俺はもうイってしまいそうなくらいの官能を感じてしまっている。
「あ……、当たってるぅ……。硬いの、当たりますぅ……」
「ああ……。もう我慢できない……。このままだと、本当にしちまう……ッ!」
俺は歯ぎしりする。
俺は今、この天使が可愛くて仕方がない。自分のモノになるならしてしまいたい。……奪いたい。強引にでも奪いとってしまいたいと心から思っている。
しかし、一方で理性は、やはりそんなコトは許されないと叫んでいる。その声は遠く、もう微かにしか聞こえないけど。それでも、俺はギリギリで思いとどまる。
そんな俺の葛藤を知って知らずか、ウァルは一言で全てを打ち砕く。
「お願い……、してぇ……」
そして、体が勝手に動いた。俺は小さなウァルの体をひっくり返し、そのままソファに押しつけた。俺自身もウァルの背中から抱きつき、せめて羽根を折らないように気をつけながら、首筋にキスをした。
「ひゃうッ」
ウァルの体がビクンと跳ねる。しかし、そんなコトはお構いなしに、俺はキスの雨を背後からウァルの首周りに降らせる。同時に手はおっぱいをまさぐり、肋骨さえ浮き出た胸をデタラメに掻き回す。
「やッ! ああッ! ……ふああぁ……ッ!」
もっと優しくできたらとは心の片隅で思っている。しかし、いったんついてしまったこの勢いは止まらない。俺は体をよじるウァルを抑えつけながら、羽根の根本に舌を這わせる。
「あ……、そ、そこはッ!」
少しだけ人体と違う構造に戸惑いながらも、俺は羽根の付け根を唇で挟み、舌で愛撫する。白い羽毛が湿りを帯び、その体積を縮ませていく。
「やあ……ぁッ! あ、あは……、はうぅ……ッ! だ、ダメです……ッ! そこ、ダメえぇッ!」
こんなところが性感帯なのか、ウァルの背筋が小刻みに震え出す。爪はソファーのカバーに突き立てられ、放射状のシワを深く刻みつけている。
羽根への刺激を指で続けながら、後れ毛の生えた後頭部をペロリと舐める。
「ひうッ!」
そのまま舌を伸ばし、触れるか触れないかくらいの感触で先端を下へと移動させる。
「……あッ! あ、あ、あ、あ!」
背中に、濡れた一本線が走っていく。その距離が数センチ伸びるたびに、ウァルは絞り出すような悲鳴を上げる。
舌は背骨の峰を伝いながら腰元へ。そして、その先は二つの柔らかな丘が控えている。
俺は羽根から手を離す。そして指先は脇腹をくすぐりながらお尻へと這っていく。
「やはぁ……、あぁ……ッ! あぁ……ッ!」
堪えるつもりもない大きな喘ぎ声が、たまらなく嬉しい。俺はそのまま臀部を鷲掴みにして、開いた割れ目に口をつける。
「きゃうぅッ!」
ウァルの悲鳴は、オクターブが跳ね上がる。しかし、俺はお構いなしに肉の隙間に顔を埋めていく。口を開き、舌を伸ばし、薄く色素の定着した皮膚を舐める。
プチュッ、クチュッ、ピチャッ……。
淫靡な粘着音が小さなアパートに響く。舌先が一往復するたびに、ウァルはビクンと背中を痙攣させ、口からは甘い吐息を吐き出す。
やがて、小さな窄まりに舌が当たる。
「はぁ……、そ、そこはぁ……」
構わず、舐める。
「ひゃああぁッ!」
舐める、舐める、舐める。丁寧にシワを伸ばし、唾液を塗り込め、少しずつ突き入れてこじ開ける。
チロチロと動かし、肉環をなぞりあげていく。口に含み、息を吹き込み、吸いたてる。
「ひゃうッ、うッ、うぐうぅッ! うあ、あッ、あああぁッ!」
一つのアクションに、一つの絶叫。ウァルはソファーの背もたれを腕で挟みながら、体を揺すって声を上げる。
腰が面白いように跳ね上がり、白い羽根が大きく揺れる。総毛が逆立ち、細かな羽毛が舞い飛ぶ。
体が熱いのか、肌は上気し、汗がジットリと浮かび上がってくる。口は閉じることも出来ずに涎が垂れ、雫がポタポタと落ちていく。
「やあッ! やッ! やはあぁッ! ……あ、あうッ! うッ! うあああぁッ!」
ついに全身から力が抜け、ガクンと体が落ちる。幼い肢体が柔らかなソファーに沈んでいく。
それでも俺は尻から顔を離すことなく、ただひたすらに舐めまくる。母乳も求める赤ん坊のように、必死に、優しく、愛情を持ってアナルを口で愛撫する。
「あ……、あー……、あ、あ……、あっ……」
ウァルはもう抵抗も出来ずに快感を享受する。何も考えられないくらいに快感に押しつぶされながら、ただだらしなく口からうめき声を上げるだけだ。
俺はそんな天使の腰にそっと腕を回し、屹立した肉の茎に手を添える。
「はあ……ッ!」
ウァルは、肺の息を全て吐き出すようなため息を漏らして、背筋を若干反らす。
それなりの硬度と熱を持ちながら、先走りに濡れる天使のペニス。さながら灼熱のアイスキャンディーの様な性器を、俺は揺するように撫でる。
「ひゃ……ぐうぅ……ッ! お……、おぉ……」
もう堪らないのだろう。尻肉を徹底的に舌で嬲られながら、もっとも密度の高い性感帯を弄られる快感は。ウァルの不規則に全身を痙攣させながら、腰をくねらせる。
その動きは、初めは俺の舌から逃げるための動きだ。左右にめいっぱいまで引きつらせ、限界が来たら再び逆に振る。そんな逃避行動だ。
しかし、口唇愛撫とテコキを続けること数分、ウァルの尻はモゾモゾと俺の鼻に押しつけられ、穴にかかる力も皆無になった。
そして、足がピンと伸びきり、床の絨毯を掻いた。痙攣が小刻みになり、声のオクターブがさらに上がった。
「ひいッ! な、なにか来るうッ! な、なにぃッ? あ、熱い……ぃ、熱いのくるうぅッ!」
ウァルがイく……。俺はさらに気合いを入れて舌を回し、手の動きを早める。
嬉しい。俺の手でウァルがイくことが、とても嬉しい……ッ!
「あッ! あッ! あッ! 変に、変になるうッ! ひゃ、ひゃああぁッ! あ、あ、あああああぁぁ……ッ!」
登ってくる奔流を俺も感じる。だから、噴出と同時にペニスに掛けた指を思い切り引っぱり、舌を突き入れる。ウァルはいななく駿馬のように全身を反らし上げ、天井へ叫びながら射精する。
「うああああぁぁッ!!」
ドビュルウウゥッ! ビュルウウゥッ! ビュルッ! ビュッ! ビュウウゥッ! ドビュウウゥゥッ!
それは、こんな小さな柔袋に入っていたことが信じられない、大量の白濁だった。
熱い奔流は激しく噴き出され、椅子の背もたれに当たった。さらに跳ね返った雫はクッションやらシーツやら、天使の可愛いお腹にまでかかった。
「あ……、あぅ……」
ウァルは背もたれの上を千切るような力で掴みながら、天井を見上げていた。口は開いたままで、周りは垂れた唾液でベトベトだった。
瞬間的に硬直した体も、やがて少しずつ力が抜けていき、天使の裸身は崩れ落ちた。俺はそれを背中から抱き、羽根を潰さないように注意しながらソファーに横たえた。
(後編へ続きます)
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