十二
葬式の次の日ぐらいから、母は変わってしまった。
父の写真を見ながら何かをブツブツと呟くようになった。
そしてその写真に微笑むと、それをギュッと抱きしめた。
僕の所為だ。と思った。
僕が居なければと、思った。
葬式から一週間経った頃から、母は本格的におかしくなってしまった。
毎日行く宛てもなくブラブラ街をうろついた。
夜遅くに家に帰ってきて、僕を…殴った…。
「アンタが居なければいいのよ。」
と、母が叫んでいる。
「アンタが居なければ…恭平さんは…っ!!」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
いくら謝っても母は…ニコリともしなかった。
僕はもう、信じない。
何も、信じない。
生活には、苦労しなかった。
父の会社から毎月200万円ほどのお金が届くから。
因みに父の会社は、父の弟が代理社長になっている。
母の機嫌が良い日には、よくケーキを買ってきてくれた。
そのケーキを一緒に食べながら母は狂ったように微笑んだ。
「美味しいね。」と、微笑んだ。
「うん。」
と言わなければ、殴られる気がした。
僕は中学生になったときぐらいから、母はたまにしか家に帰らなくなってしまった。
1週間か10日に1回ぐらい帰ってきて、メモを残してまたどこかに出かけていく。
そのメモには必ず、「愛してるわ。」と書いてあった。
メモの隣の1万円札は、僕にはそのメモ以上に気持ち悪く見えた。
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