君 は 少 し も
悪 く な い
第三話
― Masaki side
「見−ちゃった、見−ちゃった。」
音楽室の前を通っていたら、発情した猫とネズミの声が聞こえた。
面白半分に少し覗いてみた。やっぱり…。胸が躍る。
松本は櫻井が好きなんだ。櫻井だって松本を離しはしない!
そうしたら、二宮は俺のもの!
この状況を二宮に見せないわけにはいかない!
気がついたら俺は教室に向かって、全力疾走をしていた。
今日、日直だった二宮は、予想通り教室に残っていた。
「ニノ、来てよ!おもしろいもの見せてあげる!」
「おもしろいもの…?」
俺は二宮の手を取り、また音楽室まで走った。
「相葉さん、相葉!どうしたの!?」
「静かにしてよ!いいから、黙って着いてこいって!」
音楽室に到着した。儀式はまだ終わっちゃいなかった。
終わるどころか、大盛り上がりのクライマックス。
これ以上におもしろいものはないだろう。
「・・・・・っ。」
その光景を見た二宮は目を見開き、口をあんぐりと開け、後退りした。
「な…んだよコレ…。」
そのまま儀式が終わるまで二宮と俺はその場を動かなかった。
顔が真っ赤になって、制服が淫らになった櫻井と松本が出てきた。
ぶつかりそうだったので、二宮を引っ張った。櫻井が目を細める。
「相葉と二宮じゃん。何してんの?」
さすがに“覗きにきた”とは言えなかった。
後ろに、松本が恥ずかしそうに隠れている。
ため息をついて、櫻井は財布を内ポケットから、1,2万くらい出して俺らに押し付けた。
「黙っとけよ。先公にバレっとやべえからさ。」
俺は「ありがとうございます」と頭を下げ、まだ呆然としている二宮を引っ張って逃げた。
逃げている途中に 大野智先輩とぶつかった。
「す、すみません大野先輩。」
「いやあ、いいよ。大丈夫。それより、ほら。」
大野先輩が指差した先には一万円札が落ちていた。二宮の分だ。
俺はサッと取り上げると「すみません」とまた言って走って行った。
その後、どうなったのかはよく覚えていない。
ただ 櫻井先輩からもらったお金は、全部俺の懐に入っていったのは確かだった。
― Sho side
二宮にセックスしてるところ見られた。様見ろ。松本をお前に渡すもんか。
ものすごくア然としていた二宮の顔が頭に焼きついている。すごくムカついた。
今までに無いくらいムカついた。殴り飛ばしてやりたいくらいだった。
「櫻井先輩、顔怖いですよ。」
廊下を歩いていると、松本にそう言われた。自然と眉間に皺が寄っていたのだ。
「ごめんごめん。」
そう言って松本に笑い掛ける。松本と一緒にいると、すごく癒される。
すごく幸せな気分になる、どんなに落ち込んだって。
だから、今 コイツを二宮に渡すわけにはいかないんだ。
松本が 二宮のことが好きと言い出したら、もう俺は終わりだ。
だから 松本に嫌われないように、尽くす。
「なあ、何か欲しいものある?」
「え?」
「ほら、この前出たブランドの新作バックとか。欲しがってたじゃん。」
「で、でも先輩、何かヘンなバックとか言ってませんでした?」
「あれ、そうだっけ。」
そのまま迎えにきていた車に乗り込んだ。勿論、松本も一緒だ。
「先輩、何か今日ヘンですよ。妙に…優しいっつーか…でも顔怖いし。」
「こんな俺、嫌?」
「…嫌じゃないですけど。」
車は快適に走り出す。何だか俺の悩みなんてちっぽけな感じがした。
でもものすごくデカすぎるような感じもした。
押し付けられる気がして苦しいし、小さすぎてスルリと逃げていきそうで、寂しい。
「お坊ちゃま、お顔色が悪いようですね。」
…みんなからそんなこと言われて俺はどうしたらいいんだよ。
すると、松本が「止めて」と言って車を降りた。
俺は追いかけようとしたが、すぐに松本は戻ってきた。
「ごめんなさい、近くでタイムバーゲンやってるっぽいんで、行ってきます。
母親が寝込んでるから、今日俺が晩飯作らなきゃいけなくて。」
そう言う松本の腕を掴み、急いでポケットからクレジットカードを手渡した。
「ほら、使え。」
「いいです!そんな!もう、本当、いいですから…。」
「いいよ。ほら、使いなよ。別に、俺全然困らないし。」
「俺が困るんです!」
松本は俺から逃げるのに必死だった。これで嫌われて、終わりになったらどうしよう。
自分がものすごく慌てて、焦っているのがわかる。
「俺はお前に使って欲しいの!だから…。」
手の力を弱めると、松本はカードを受け取ってくれた。
「…ちょっとだけ、使わせてもらいます。ごめんなさい。」
松本は逃げるように 走って行った。涙が出そうになった。
松本は貧乏だった。
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