君 は 少 し も 


      悪 
 な 






第四話




― Satoshi side


 
昨日、学校の廊下で2年生の二宮と相葉にぶつかった。えらく慌てた様子だった。
二宮の手元から落ちたのは、1万円札で、相葉の手にはもう1枚あった。
あのお金は何なんだろう。カツアゲでもしてきたのかな。
いや、この2人に限ってそんなことはないかな。
「先輩、顔怖くなってますよ。てか俺もう帰っていいですか?二宮と約束があるんで。」
「ごめん、あとちょっとだから待って。」
そんな相葉は目の前にいた。俺は美術部で、今彼をモデルにしてデッサンをしている。
相葉は腰に手を当て、まるでメンズ雑誌のモデルだ。すごく似合ってると思う。
「だいたい何で俺がモデルなんですか?」
「スタイルがいいし、描きやすいんだよ。」
黙々と描き続けながら、相葉の問いに答える。俺はずっと無表情だったが心は躍った。
相葉が好き。簡単なこと。すごく楽しくて、時間が止まればいいのにと思う。
わざと絵を描くペースを遅くした。それも相葉と長く一緒にいるためだ。
「先輩、女の子は描かないんですか?」
「女の子は興味ないね。」
「ふうん…。」
相葉はニヤニヤと笑っていた。すると「ヌード描かないですか?ヌード!」と言ってきた。
一瞬、何のことかわからなくて頭が真っ白になった。
「誰の?」
「俺の!


 その後 すぐに学校を出て、家の横にあるアトリエに入った。相葉も一緒に。
まさかこんなことになるとは思わなかった。学校で裸は描けないから、家で描く。
緊張して俺の耳は真っ赤になっているんじゃないだろうか…。
アトリエの鍵を掛け、窓もカーテンも全部閉め切った。
それをチラっと確認して 相葉は服を脱ぎだした。ほっそりしてて今にも折れそうだ。
「下まで脱ぐの?」
「だからここに来たんじゃないですか。いいでしょ?!別に。
 描きたくないならいいですけど。」
相葉は何だか怒っている様子だった。何か嫌なことでもあったのだろうか。
「相葉君、何かあったの?その…俺で良ければ相談に…。」
「先輩、俺のこと好きですよね?」
「え?」
「わかりますよ、見てたら。俺のこと、好きなんでしょ?」
相葉はボクサーパンツを放り投げ、俺に悲しく微笑んだ。
俺の気持ちを相葉はすっかり受け止めてくれた様子だった。俺は少し戸惑う。
「す、好きだよ。だったら…何なの?君には二宮君もいるし…。」
「フラれました、二宮には。彼は松本が好きなんです。
 もう俺には止められません。でも諦めたくないです。
 悔しくてたまんないです。だから、どうしていいかわかんなくて。」
心の底から二宮が好きだったんだろう。相葉の頬には涙が伝っていた。
「俺を抱いてください。」




― Jun side


櫻井先輩に、少し酷いことをしてしまったかもしれない。
せっかく俺のことに気を使ってくれてるのに…。
でも俺が先輩を頼りにしてたら、周りから「金目当てに付き合ってる」とか
「セックスして金をもらってる」とか思われそうで嫌だ。
それは俺の迷惑でもあるし、先輩に迷惑をかけることにもなる。
俺は純粋に、櫻井先輩が好きなのに…。とても苦しかった。
それでも櫻井先輩と一緒にいるだけで全てを忘れられるような気がする。
それは櫻井先輩も一緒だと思う。
お互いに互いを求め合ってるのは、ベッドに入るとわかる。
すごく楽しくて幸せで 恋って素晴らしいことなんだと思う。
ただ、1つ思うのは…


 「先輩…。」
「どうした?
学校の帰り、先輩と行き付けの高級ホテルへ向かった。
そこいらのラブホテルとは分けが違う。
ちょうど明日が土曜ということもあり、そのまま泊まってデートをする。
母親が寝込んでいるから早めに帰ってあげたいけど、
昨日、きつく言ってしまったことが悔やまれて、こっちを優先してしまう。
俺って櫻井先輩に弱すぎるんだろうか。
「先輩、あの…、いつも思うんですけど。」
「いいよ、言えよ。」
「その…お金とかを…寄付っていうか、助けてくれるのはすごく嬉しいです。
 いつも感謝してます、ありがとうございます。でも…。」
俺が言葉に詰まっていると、櫻井先輩は俺の心の中を読んだようだった。
「何故イジメは止めてくれないのか…って言いたいんだ。」
「…はい。別に、全部を頼りにしてるわけじゃないです。
 自分に責任があるのも、ちゃんとわかってます。だけど…その…。」
「ごめん、また今度にしてくれない?
先輩は起き上がって 服を着だした。その姿を見て、ものすごく胸が痛む。
「ご、ごめんなさい!!先輩…帰らないで下さい、俺の傍に居てください。
 もう、何も言わないから…お願いします…!!!
そう言うと先輩はまたベッドに潜り込んで、キスをしてきた。
「お前を置いて帰るわけないじゃん。ごめん、今少し頭回らないんだ。
 俺も悪いと思ってるから…泣くなよ。悲しくなるじゃん。」
頭を先輩の胸にうずくめた。すごく温かかった。俺はそのまま眠ってしまった。


 朝起きてみると、そこに先輩の姿は無かった。
テーブルの上に置手紙があって午前中には戻ってくると書いてあった。
その文章とは裏腹に、俺はもう先輩が戻ってこないような気がして
涙が溢れ、止まらなかった。


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