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アイツが俺、上田智也(うえだともや)の前から居なくなってから4年。肌を
刺す寒さが強くなる十二月にアイツは再び俺の前に現れた。
「・・・薫?」
「お兄ちゃん、ただいま」
そう、俺を兄と慕ったアイツは女になって俺の前に現れた。
仕事の帰り道。俺は高校を卒業後、これといった定職にも付かずにアルバイト
をしてその日を食いつなぐ生活を続けていた。もう22歳か。
「うぅっ、寒っ」
風から顔を守るようにコートの襟を立てる。今年は寒いな。
「何度通っても寂しい道だな」
長く続く塀。広大な敷地に純和風な造りの日本屋敷。比良坂流日本舞踊の家元。
ここは普段から人通りが全くない。そして、この家にはあまり思い出したくない
想い出がある。
俺がガキだった頃ひょんな事から知合った少年、比良坂薫(ひらさかかおる)。
薫は精神を患っていて・・・。簡単に言うと精神が幼い頃のまま止まってしまっていた。
ちなみに女みたいな名前だが薫はれっきとした男だ。
学校帰りにこの道を通った時、門の脇に寂しそうに座るあいつに声をかけたの
が始まりだった。初めは話が繋がらずチンプンカンプンな答えをする薫を俺は
『なんだこいつは?』と訝しがった。普通なら気にも止めずに放っておく所だが
あの時は何となく興味をそそられて1時間近く話し込んでたと思う。
薫との話しでわかった事は薫が俺より4歳年下だと言う事。踊りの稽古がイヤ
で逃げ出して隠れていた、と言う事だけだった。
それから薫が屋敷を抜け出して俺が遊びに連れて行く。そんな関係が始まった。
アイツは俺の事を『お兄ちゃん』なんて鼻がむず痒くなる呼び方しやがったけど
悪い気はしなかった。
「そう言えばあいつ病気ばっかりしてたっけ」
ある時、俺が迎えに行くといつも居るはずの薫が居ない。そんな事があった。
それまでどんな天気でも門の外で俺を待っていた薫が居ない事を不思議に思い、
俺は屋敷に忍び込んで、まぁ、今思えば家元の屋敷に忍び込むなんて恐ろしい事
を平気でやってたっけ。それで忍び込んでみれば薫は庭に面した部屋で寝ていた。
俺が会いに行った時、アイツ嬉しそうな顔してたな。それから門の前に薫が居
ない時は忍び込んで会いに行っていた。
アイツ身体が弱いくせに俺の後ろを一生懸命ついてきてたんだよな・・・。
「・・・やめよう。アイツもう居ないんだ」
4年前、俺が高校3年生の時。薫は俺の前から居なくなった。屋敷の人間に聞
いてみれば病気の静養で親と共にどこか遠くへ行ってしまったらしい。場所まで
は教えてもらえなかった。
「早く帰ろう」
冷たい風が身体を通り抜ける。寒さから逃げるように俺は歩みを速め、比良坂
の屋敷から遠ざかった。
・・・・・・何も言わずに俺の前から消えやがって。
「なんだ美奈。来てたのか」
「あ、智也遅〜い」
俺のアパートの部屋の前。二年前から付合っている斎藤美奈(さいとうみな)
が手を擦り合わせて待っていた。腕にはスーパーの袋が下がっている。
「今日は少し遅かったのね」
「ああ。バイトでへまやらかしてね」
最近バイト先で失敗ばかりしている。いや、正しくは4年前から・・・か。薫
が居なくなってから心に穴が開いたような気がして俺は無気力になってしまった。
卒業の時も就職も進学もせずにフリーターを選んだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
思考を中断させる。この季節になるとこの事ばかり思い出してしまう。
「ほら、寒いんだから中に入れてよ」
「ん?ああ、悪い」
ポケットから鍵を取り出す。鍵に付いている鈴が綺麗な音を奏でる。
「智也、まだそのボロっちい鈴つけてるんだ」
「ああ」
薫から貰った物だ。我ながら女々しい事だ。
「ふ〜ん・・・。誰かからのプレゼントだったりして」
「そんなもんだ」
「ちぇ、やっぱり教えてくれないんだ」
美奈が口を尖らせる。付合ってから何度となく交したやり取り。
「ほら、入れよ」
「相変わらず殺風景な部屋ね」
「必要な物はあるんだ。別にいいだろ」
俺には物欲が欠落している。1Kの部屋にはベットにテレビ、冷蔵庫の他に
必要最小限の家電製品があるだけだ。本も、コンポも、ゲームも持っていない。
別に欲しい物もない。
「智也お腹減ってるでしょ?」
「ああ」
コートを脱ぎベットの上に投げ出す。
「もう、不精ね」
それを美奈が拾い上げ、自分もジャンパーを脱ぐとハンガーにかけてしまう。
手馴れたものだ。
「それじゃテレビでも観て待ってて。ご飯作っちゃうから」
「ああ」
ベットに腰掛けるとテレビをつけタバコを咥える。テレビの中のアナウンサー
がつまらないニュースを垂れ流す。タバコに火をつけ煙を深く吸い込んだ。
「美味しかった?」
「ああ」
メンソールの煙が肺に染み渡る。煙を吐き出し灰を叩く。
「ホントに作り甲斐のない彼氏なんだから」
美奈がキッチンから手を拭きながら戻ってくる。エプロンを畳むと俺の横に座った。
「ねえ智也。智也って冬になるといっつも心ここに有らずって感じよね」
「そうか?」
鋭く見抜かれたな。女ってやつは男の事を良く見てるもんだ。
「気のせいだろ」
「もう、そんなんだと彼女に逃げられちゃうわよ」
美奈が俺の肩に頭を預けてくる。美奈のやつ、本当にこんな俺のどこが気に
入ったんだろうな。
しばらく二人共無言のまま時間が過ぎる。
「ねえ・・・智也」
甘えたように美奈が俺の顔を覗き込む。俺は美奈にかからないように煙を吐き
出すとタバコを灰皿に押し付ける。
「なんだよ。欲しくなったのか?」
「うん。ね、しよ?」
「ああ。いいぜ」
顎を掴み上を向かせ多少強引に美奈の唇を奪う。
「んん・・・」
舌を刺し入れる。美奈の舌がそれに応えて絡まってくる。
「ふ・・・んふ・・・・・・んあ」
たっぷりとタバコ臭い唾液を飲ませてから唇を離す。
「ん・・・ふう」
手早く美奈の服を脱がしていく。その間も耳たぶや首筋にキスをする。
「あっ・・・智也、気持ちいいよ」
美奈の息に艶が混じる。ブラジャーのホックを外すと形のいい乳房をパンを
こねるように揉みしだく。
「あんっ・・・もっと優しく・・・」
かまわず固く尖った乳首を人差し指と中指で挟み込み胸を揉むと同時に刺激
してやる。
「ひぅっ・・・あぁん、ふぁ・・・」
身体に回された美奈の腕に力がこもる。片手を胸から離しショーツに包まれ
た秘唇にはわす。
「なんだ。もうびしょびしょじゃないか」
「あぁん・・・だって・・・・・・智也上手なんだもん・・・」
そこはすでにおもらしをしたようにグッショりと潤っていた。ショーツの上
から割れ目を指でさする。
「んっんっんあっああっあぅん・・・いいよぉ」
ショーツの上からでもヌチヌチと音が出るほどの蜜が染み出す。
「淫乱だな。美奈は」
「ふぅんっ・・・だってあっ!気持ちいいよぉ」
十分に指に蜜を絡めるとショーツの中に手を潜り込ませヒクヒクとわなない
ている割れ目に刺し込む。
「んんんっ!はうっ!はぁん・・・」
クチュクチュと卑猥な音を響かせて指が蠢く。親指でクリトリスの皮を剥き
強めに刺激する。
「ああっあっあっああんっ!トモヤぁ」
美奈が切なげに喘ぎすがりついてくる。首筋に顔を埋めうなじに舌をはわす。
「トモヤぁ・・・もう我慢できないよぉ」
「わかった」
美奈をベットに寝かせショーツを片足だけ脱がす。俺も手早く服を脱ぎ、既に
ギンギンにいきり立って先走り汁を溢れさせたものを数回しごく。
「いくぞ」
「んん・・・早く・・・きて」
ものを割れ目に当てがうと美奈の腰を掴んで息を吐き一気に押し入れる。
「んあっ!ふああぁぁん!」
「うぅ」
先端が子宮口に当たる。360度全てからゆるゆると包み込んでくる圧迫感
に思わずうめく。
「んん・・・智也のでいっぱい」
美奈がうっとりした表情で俺のものが納まっている自分の腹の部分を撫でる。
「動くぞ」
「うん・・・あうっ!」
返事を聞く前に腰をギリギリまで引いて抜ける寸前で一番奥まで叩き付ける。
そのまま欲望のままに腰を振る。
「あっ!あっ!ああっ!んあっ!ああんっ!!」
美奈の嬌声と腰を打ち付ける音が重なる。
「ともやっ・・・すご・・・ああん・・・激し過ぎるよぉ」
ピストンにグラインドを加えてさらに腰を早く振る。
「あっ・・・かはっ!うああぁぁっ!」
「くうぅ」
腰の後当たりが痺れて射精感が急速に高まる。
「み、美奈。イクぞ!」
「あぁん!キテ・・・いっぱい出してぇ!」
「うぅっ!」
腰を美奈が壊れるかと思うほど強く叩き付ける。熱いものがせり上がってくる。
そのまま一番奥にドクドクと音が聞こえそうなほどの量の精液を放った。
「うぁっ!あぁっ!!」
射精の勢いのままにさらに数度腰を打ち付ける。
「あ・・・ふぁ・・・・・・熱い・・・」
「はぁ・・・」
ぐったりと美奈の上に倒れ込む。
「智也・・・重いよ」
「・・・ああ」
美奈の膣内(なか)に収まったままのものを引き抜く。
「あん・・・」
自分のものと美奈の秘唇をウェットティッシュで綺麗に拭き取る。
ベットの縁に座るとタバコを咥えて火をつけ煙を吸い込む。
「こら。セックスの後のタバコは禁止って言ったでしょ」
「ああ」
後から美奈が咎めるような口調で、だが、あまり怒ってないように非難する。
「智也。女の子にはもっと優しくしなきゃダメなんだからね。セックスも」
「ああ」
タバコを揉み消し睡眠薬の錠剤を3錠飲み込む。軽い不眠症ってやつだ。
美奈と一緒に横になる。そのまま俺達は抱き合いながら眠った。