5

「辰実〜、邪魔するで〜」
「辰実ちゃんやっほ〜」
「いょう、辰実」
 翌日の放課後、和久、ノリ、桜子の3人が俺の家にやってきた。
「よう、いらっしゃい」
 3人を部屋に通し、冷えた麦茶とスナック菓子を運ぶ。
「俺女の子の部屋に上がるなんて初めてだぜ・・・どわっ」
「ぶっ飛ばすぞ」
 部屋に入りながらノリに蹴りをかます。
「おう、綺麗に片付いとるやないか」
「色々不本意な物買ったからな」
「ダメよ辰実ちゃん、女の子なんだからこんな色気のない部屋」
「だからさ・・・」
 もう何も言うまい。
「さて、集中力が続く間くらい頑張って勉強しちゃいましょ」
 桜子がテーブルに教科書を並べ始める。
「おいコラノリ、和久。お前らは何でPS2を引っ張りだしてるんだ?」
 二人はテレビの前に陣取りゲーム機をセットしていた。
「いや、これは今まで学校で勉強しとったんやから少し息抜きをと思てやな・・・」
「この前の和久との勝負の決着がまだだったから・・・」
「・・・お前等」
 何かもう疲れたよ、俺は
「はい没収〜」
「ああ!そんな殺生な!」
「30分だけでいいからやらせてくれー!」
 桜子が素早くゲーム機を取り上げてしまう。
「ダメよ。せめて1・2時間くらい頑張りなさい」
 うん、こう言う事に関したら桜子はしっかりしてると思う。
「ほら、腐ってないで少しはやる気出せ」
 二人がしぶしぶと教科書を取り出す。
「まずは数学からね。解からない所があったら教えてあげるから」
「ああ」
「へ〜い」
「あいよ」
 桜子は俺達の中ではダントツで頭が良い。教え方も上手いのでテスト前には
本当に助かる。

「ん〜〜〜〜」
 座りっぱなしで固くなった身体を伸ばす。あれから4時間ほど経っていた。
俺と桜子は何とか勉強を続けていたが和久はテレビの前に噛り付きゲームに熱
中している。ノリは夕飯にと頼んだピザを食べ終わった後俺のベットを占領し
て爆睡していた。
「あら、もうこんな時間」
 ふと時計を見ると10時を回っていた。
「私は帰るわね。ほらノリ、起きなさい」
「むにゃむにゃあと9時間だけ・・・」
「おらっ」
「ぐおぉっ!」
 ノリの鳩尾に肘打ちを入れて叩き起す。
「和久はどうする?」
「ん〜?俺は家も近いし明日休みやしもうちょっとおるわ〜」
 どうやらゲームの最後が近いようだ。勉強しろよ。
「またね辰実ちゃん。明日もよろしく」
「じゃ、じゃあな」
 ノリはまだ苦しそうに腹を押さえている。自業自得だ。
「また明日な」
 ノリと桜子が帰り家には俺と和久だけが残った。

「・・・なあ和久」
「何や?」
「俺、ずっとこのままなのかな」
「なんや、不安なんか?」
 和久がゲームを止めて俺の方を向く。
「そりゃ・・・な」
「大丈夫や、原因はわからんが男が女になったんや。女が男にだってなるはずや」
「そういうもんかな」
「そういうもんや」
 その妙な自信がどこから出てくるかはわからないけど今は頼もしい。
「でも俺恐いんだ」
「恐い?」
「俺が女になった途端クラスのやつらの俺を見る目とか対応が変わったのがわ
かるんだよ。」
「今までの俺を否定されてるみたいでさ・・・。『お前は男より女の方がいい』
って言われてるみたいでさ」
「情けない話俺はお前等も本当はそう思ってるんじゃないかって疑いそうにな
る事だって・・・」
 それまで黙って聞いていた和久がポンっと俺の頭に手を置く。
「なんやそないな事か」
「そんな事はないだろ。真剣に悩んでるんだぜ」
「今はブルーになってるだけやて。お前らしくないけどな」
 そう言うと和久はニッと笑う。
「それにな辰実。誰もお前を否定なんでできひんねん。否定できるとしたらお
前自身や」
「俺・・・自身?」
「そうや。だから辰実がしっかりしとけばそれでエエんや。問題なんてない。
辰実は辰実やろ」
「あともし万が一辰実が元に戻れんでも俺にとっても辰実は辰実や。俺の一番
の親友っちゅー事にかわりはあらへん」
「・・・・・・和久」
「ノリと桜子も一緒のはずや。しっかりせえ」
 和久が笑いながらわしわしと俺の頭を撫でる。胸の奥の方が熱くなる。
やばい、ちょっと泣きそうだ。
「・・・ありがとな、和久」
「礼なんていらんいらん。親友として当然の事を言ったまでや」
 こいつはホントに鼻の曲がりそうな台詞をぺらぺらと言ってくれる。
「さて、俺も帰るわ。おとんとおかんがうるさいからな」
「ああ」
「じゃ辰実、元気だせよ。俺達はいつでもお前の味方や」
「ああ、わかったよ」
 そう言うと和久も帰っていった。・・・本当にありがとうな、和久。

 あれからテストが終るまでの数日間は何事もなく過ぎた。和久に励まされた
のが効いたのか俺もくよくよと悩むのを止めた。
「やっとテストから解放されたで」
「何とか乗り切ったな」
 駅でノリと桜子と別れ二人で歩いていると前方に手を振っている女の人が居
る事に気がついた。
「ん?どないしたんや辰実」
「・・・・・・・・・はい〜〜!?」
 謎のお姉さんだった。ニコニコと笑いながらこちらに手を振っている。
「ちょっ、何で!?」
「あ!おい辰実て!」
 気が付くと俺は駆け出していた。
「はぁ〜い」
「お、お、お姉さん露店の時の人ですよね!?」
「そうよ〜。ってちょっと落ち付きなさい」
 少しの距離だが全力疾走したために俺の息は上がって肩で息をしていた。
「はぁ・・・はぁ。お、落ち付けって言われてもお姉さん俺の事がわかったっ
て事はやっぱり何か知ってるんですよね!?」
「まあね。それの事で少〜し話があったからこうやって現れたってわけ」
「辰実!なんや知合いか?」
「この人だよ!このブレスレット売ってた露店のお姉さん!」
「なんやってぇ!?ホンマか?」
「慌ただしい子達ねえ」
「それで、俺が女になっちゃったのはやっぱりブレスレットのせいなんですか!?」
「そうね〜。立ち話も何だからとりあえず貴方の家に行かない?近いんでしょ?」

 お姉さんを俺の家に案内し部屋に上げる。お姉さんは広瀬愛夏(ひろせまなか)
と名乗った。
「それで愛夏さん。俺が女になったのはこのブレスレットが原因なんですか?」
「単刀直入に言うとそうよ」
「やっぱり・・・」
「ほなら愛夏さんはそれをしっててこんな危ないもん売ってたんか?」
「それもイエス。そうよ」
「じゃあ、元に戻る方法は?」
「その前にそのブレスレットの事についてちょっとした昔話に付合ってくれない?」
「昔話?」
「そんなヒマない!はよ辰実を元に戻したってくれ!」
「まあまあ落ち付いて。すぐに終るわ」
「・・・わかりました」
「辰実」
「とりあえず聞こうよ和久」
「わかった。ほなら早いとこ話してくれ」
「ありがとう」
 愛夏さんがニッコリと微笑む。この笑顔を見る限りでは悪い人には思えない
んだけど・・・。
「昔々、ある所に仲の良い年の離れた姉妹が居たの。お姉さんはお洒落が好き
で色々なアクセサリーを集めていたわ」
「あるとき、お姉さんが妹に自分のブレスレットをプレゼントしたの。女の子
はとても喜んだ。だけど大き過ぎて自分の腕ではすり落ちてしまう」
「だから女の子は自分がお姉さんと同じ位大きくなってブレスレットが付けれ
るようになるのをとても楽しみにしていたの」
「それがこのブレスレット・・・?」
 ブレスレットがチャラっと音を立てる。
「そう。ところが女の子はその後すぐに病気で死んでしまったの」
「とても未練があったんでしょうね・・・。女の子の想いはブレスレットに残
ってしまった」
「それから長い時間が経ってお姉さんも他の家族も亡くなってしまうくらい時
間が経った頃に一人の魔法使いがそのブレスレットを見つけたの」
「ま、魔法使い!?」
「なんや、いきなり胡散臭くなってきたで」
「まあまあ。それでね。その魔法使いはその女の子を不憫に思ってそのブレス
レットにある簡単な『呪い』をかけたの」
「呪い・・・」
「それはとても簡単な・・・そのブレスレットを他の女の子が身に着ければブ
レスレットに残った女の子の想いが成仏できるって言うとても簡単で優しい呪い」
「でも、その呪いは発動しなかった。他の子が見つける前に悪い魔法使いの手
に渡ってしまった」
「その魔法使いはブレスレットにさらに呪いをかけたの。女の子が着けても何
も反応しない。それどころか男の子が着けると身体を強制的に異性に変えてし
まう強力な呪い」
 ・・・とてもじゃないけど信じられない。信じられないけど実際に俺は女に
なってしまっている。
 頭が痛くなってきた。和久も難しい顔をして黙り込んでしまっている。俄か
には信じられないんだろうな。やっぱり。
「このお話にはまだ続きがあるのよ」
「ブレスレットはその後にタチの悪いやつらが手に入れてしまったの」
「タチの悪いやつら?」
「そう。そいつらはそのブレスレットを金儲けの為に使ったの」
「金儲けって・・・これを?」
 愛夏さんが無言で頷く。
「男の子を拉致して無理やり女の子に変えて調教、教育して好き者の富豪に売
り付けたり自分たちの管理するいかがわしい店で働かせたり・・・」
「・・・なんでそんな面倒臭いことをしたんや?」
「考えてみて?普通に女の子を使うより遥かに安全なのよ」
「だって女の子に変えられた子はこの世界には存在しないはずなんですもの。
元の戸籍だって使えないわ」
「警察にバレても誘拐でも拉致でもない。ただの身元不明者」
「しかも女の子に変えられてしまった男の子達は様々な男に辱められて、弄ば
れて。心なんて簡単に折れてしまうわ。言い訳なんて簡単にできるものよ」
「そんな話・・・簡単には信じられない」
「そうね。でも事実よ」
「一番辛かったのはブレスレットに残された女の子の想いよ。自分のせいでと
ても数多くの人が苦しんで未来を壊されて、でも自分のせいなのに自分の力で
はどうする事もできない」
「今、女の子の心は壊れかけているの」
「・・・うっ」
「どないした?辰実」
 頭が痛い。何かが頭の中で跳ねている。何なんだ・・・。
「だ、大丈夫」
 俺は思い出した。以前に見た夢の内容を。あの泣きながら謝る女の子を。
そうか・・・あれはこの話の女の子だったのか。
「でもなんでそのブレスレットを愛夏さんが持っとるんや?」
「それは私が盗み出したからよ」
「ぬ、盗んだ!?」
「そ、あんまりにも許せなくってね・・・」
 一瞬、愛夏さんの顔に深い憎しみが浮かんだ気がした。

「そのブレスレットの話はわかった。それよりも辰実を元に戻す方法や」
「そうね。ブレスレット自体を外す方法は3っつ。その内元の体に戻れる方法
は一つだけ」
「一つは女の子として生きて行く事を拒否して女の子の想いも拒否する。これ
ならブレスレットは外れて元に戻れるわ」
「想いを拒否する?」
「そうね・・・想いと言うより存在かしら?自分を女の子にしてしまった存在
を許せるか・・・。口で言うのは難しいけどそんな所ね」
「なんや、それなら早いとこ・・・」
「待ちなさいって。まだ話は終ってないわよ」 「もう一つは女の子として生きて行く事を受けいれて、女の子の想いは拒否する」
「最後は女の子として生きて行く事を受けいれて、女の子の想いも受けいれる」
「これは本当に心の底で思っていなければダメ。自分の心に嘘はつけないわよ」
「なっ・・・!」
 そ、そんな・・・そんな・・・。
「なんで・・・なんで外す方法だけを・・・教えてくれなかったんですか・・・!」
「ごめんなさい。でも先に言っておかなければフェアじゃないわ」
「た、辰実?」
「なんで・・・なんで俺なんですかっ!?」
「辰実君に資質があったからよ。このブレスレットの女の子の想いを救う資質が」
「あそこで開いてた露店ね。女の子の想いに応えられる心を持っていない人間
にはただの風景の一部として映って気にも止まらないようになってたの」
「そんな・・・勝手な・・・」
「ごめんなさい・・・」
 愛夏さんの顔が暗く沈む。だがそんなのは何の慰めにもならない。
「そうだ・・・男でいる事を選択してその女の子を受け入れる事はできないんですか!?」
「・・・それは無理なのよ」
「なんでっ・・・!」
「その選択肢は呪いを上書きされるさいに塗り潰されて選べないようにされてし
まっているの」
「どないしたんや辰実!?そんな話俺らには関係あらへん!早く外してまうんや!」
「・・・ごめん和久。俺には無理だ」
「な、なんでや!?」
 無理だよ・・・あの夢の中での事を、あの女の子の見ていて辛くなるような
泣き顔も、心を押し潰すような謝りの声も全て思い出してしまった。
 あんな誰も居ない、何もない空間に一人放り出されて辛い事を見続けてきた
あの子の心を、想いを・・・俺は否定なんてできない。
「大丈夫、まだ時間はあるわ」
「勝手な言い分でこちらの事情を押しつけて。本当にごめんなさい。でも、選
択権は辰実君。貴方にあるわ」
「じゃあね。私はまだやる事があるからもう行くわ」
 そう言うと愛夏さんは立ち上がり部屋を出て行ってしまう。
「ちょ待てや!」
 和久も追いかけて出て行く。部屋には俺独りだけが残された。
「・・・・・・俺はどうすればいい?」

「まいったで。あの女めちゃくちゃ早くてあっという間に見えなく・・・辰実?」
「お前・・・泣いとるんか?」
「・・・和久ぁ」
 涙が止まらなかった。ブレスレットの少女の事、自分の事、これからの事。
色々な事が頭の中で混ざり、独り部屋に残されて無性に悲しくなってしまった。
 おかしいな・・・俺ってこんなに弱かったっけ。
「辰実・・・」
「ごめん・・・俺、なんで泣いてんだろ・・・おかしいよな」
「全然おかしいことあらへん」
 和久がそっと俺の頭を胸に抱いてくる。
「泣きたい時は思いっきり泣いたらええんや。お前は今泣いていいんやで」
「和久ぁ・・・うぅ・・・うわああああああぁぁぁ!」
 すがりついて泣いた。分けもわからず思いっきり泣いた。
「よしよし」
 和久が優しく俺の背中を撫でる。その時顔を上げていれば少し困ったような
優しい顔の和久が見えたはずだと思う。
「んく・・・ひっく。ごめんな、ごめんな和久」
「謝らんでもエエて。最近、お前謝ってばっかりやで」
 ハハっと和久が笑う。
 俺は少し・・・おかしくなっているのかもしれない。
 弱くなったな、俺。

「ごめん。もう大丈夫」
「そうか」
 散々泣いて腫れぼったくなった目を拭う。
「情けなかったな。俺」
「そないな事ない。誰だって辰実と同じ状況になったら不安でしかたなくなるて」
「少し、時間がかかるかもしれないけど。俺答え出すよ」
「せやな。こっからはお前の問題や。しっかり考えろ」
 和久は笑うとわしわしと俺の頭を撫でる。前にもされたけど何となく、心地良い。
「辰実・・・お前変わったな」
「そうか?」
「どこがっちゅーわけやないけど。雰囲気がな」
「そっか・・・」
 自分の意識してない所で変わっていっちまってるのかな。女の自分に馴染ん
でしまい始めているのかもしれない。
「明後日から夏休みなんや。ひとまず小難しい事は置いといて楽しくいこうや」
「そうだった。もう夏休みなんだよな」
 女のまま夏休みに突入するのか・・・。考えもしなかったな。
「明日学校終ったらパーっと遊びに行こうや。夏休みの前祝や」
「ああ。楽しそうだな」
 心からそう思った。
「じゃあ、今日は帰るわ。頑張れよ、辰実」
「ありがとう、和久」
 和久が出て行き俺一人になる。さっきのような悲しさはなかったけど胸の奥
が熱かった。

(またあの夢か・・・)
 真っ白い空間。あの少女の居場所だ。
『ごめんなさい。ごめんなさい』
 あの少女が泣いている。もう、その理由はわかっている。
「・・・辛かったね」
『・・・えっ?』
 少女はキョトンとしたように俺の顔を見入る。
「気付いてあげれなくて、ごめんね」
「ごめん、まだ俺君を受けいれるか。許せるか答えがだせない」
「正直今の気持ちは男に戻りたい・・・」
「でも、少しだけ俺に時間をくれないかな」
『・・・!』
 少女の双眸に新しい涙の粒が産まれる。ぶんぶんと首を振っている。
「それがどんな答えであれ俺は必ず選択する」
『・・・ありがとう・・・』
 搾り出すようにそれだけ言うとまたしゃくりあげながら泣き出す。
 そしてまた、世界の輪郭は崩れていった。

「あっはっはっはっはっは〜。勝ったー」
 翌日、終業式が終り4人で俺の家に集まって酒盛りをしていた。
「桜子・・・お前底無しだな」
「あら、そんな事ないわよ?」
 と、いいつつ桜子はすでに缶ビールやチュウハイを山ほど空けている。
「あ、あかん。もうあかん・・・」
「ぐー」
 桜子と飲み比べをしていた和久はフラフラ。ノリにいたってはまた俺のベット
を占領して眠りこけていた。
 俺はそんなに強くないのを自覚しているので飲む量をセーブしていた。今はほ
んのり酔ってる程度だと思う。未成年が酒を飲んでいいのかとかそう言うツッ
コミはこの際置いておこう。
「やれやれ」
 夏休み初日だってのにこのペースは考えると恐ろしいな。
「なによ。辰実ちゃん盛りあがってないわよ〜?」
 桜子が絡み付いてくる。・・・酔ってる?
「さ、桜子!お前酒臭いって!」
「何よ、私の酒が飲めないってーの?」
 そう言うと強引に手に持つビールを飲ませようとしてくる。
「そうや!一人だけシラフなんはずっこいで!」
 和久が俺の腕と頭を押さえる。こいつも酔ってる〜!
「わー!バカ!やめろってお前等!ぐっ・・・」
 ビールが流し込まれてくる。吐き出すわけにもいかず飲み干してしまった・・・。
「ぐっ・・・んぐ・・・ごほっごほっ!」
「きゃー!辰実ちゃん良い飲みっぷり!」
「まだまだ許さんで〜」
「も、もう勘弁して〜!」

「和久ぁ〜・・・」
「しもた・・・こいつこんなに酒癖悪かったんか・・・」
「いやん、辰実ちゃん可愛い・・・」
 あれからどれくらい飲まされたかな・・・全然覚えてないや。気が付けば上
半身下着一枚になって和久に抱き付いてるけど別に・・・いいか・・・な。
「和久ぁ・・・俺が女になった責任・・・とってよねぇ〜」
「なんで俺のせいやねん」
「そーよそーよ。往生際が悪いわよ!」
 あぁ・・・頭がぼ〜っとして気持ちいい・・・。
「だって・・・ちゃんと元に戻れるか・・・ぐす」
「絡み酒の次は泣き上戸かいな。忙しいやっちゃなぁ」
 困ったような諦めたような顔の和久がぽんぽんと頭を撫でる。もっとしてほ
しいな・・・。
「可哀想な辰実ちゃん・・・私が慰めてあ・げ・る」
 これまた半裸の桜子が俺に抱き付いてきて身体を優しく撫でる。
「ん・・・あん」
「こ、こらこら!?お前等なにしとんねん!?」
 ぎょっとして離れようとする和久を捕まえて顔を近づける。
「待て辰実!それはあか・・・むぐっ!」
「ん・・・んむ・・・ふぁ」
 気が付けば和久の口にむしゃぶりついていた。さらに頭がぼ〜っとする。
「あん、ズルい」
 桜子の舌が身体を這う。舐められた場所から電気が走る。
「んあ!あぁん・・・いい」
「辰実ちゃん美味しい・・・ん」
「あかーん!こんなんあかんでーーーー!!うぐっ」

「んん・・・ふぅ・・・んぁ」
 自然と舌が動く。和久の口の中を動き回る。気持ちいい・・・。
「んぐ・・・こら、離れんかい!」
 和久に強引に引き剥がされてしまった。残念。気持ち良かったのに。
「和久ぁ〜」
 顔を和久の胸に摺り寄せる。なんだか安心する。
「桜子!お前も悪乗りし過ぎや!」
「あ〜ら和久。そんな事言ってまんざらでもないくせに」
 桜子の手が身体を這う。痺れるような感覚が心地良い。
「アホか!エエ加減にせんと・・・」
「あん・・・桜子・・・そこ、気持ちいい・・・・・・」
「うぅん、辰実ちゃん可愛い。いっつもこれくらい素直だと良いのにぃ」
「辰実!お前も正気に戻らんかい!」
 和久のシャツを素早く脱がしそのまま深く抱き付く。も、どうでも・・・いいや。
「和久温かい・・・」
「こらアカン。ノリ!起きろ!俺一人じゃどうにもならん!!」
「ぐー」
「後生や〜!起きてくれ〜!!」
「ぐーぐー」
「気持ち良く寝てる人を起しちゃダァ〜メ。辰実ちゃん、よろしく〜」
「ん・・・和久・・・」
「アカン!辰実・・・んん!!」
 和久の口を自分の口で塞ぐ。桜子の言いたい事が何となくわかった。
「よくできました〜。ご褒美」
「んふっ!うぅん・・・」
 桜子の手がブラジャーを上にずらして先端の突起を摘む。全身に電気が走った。
「敏感なんだ・・・ん」
 桜子の舌が胸を這い、ゆっくりと先端を口に含み甘い噛む。
「ふあぁ!・・・桜子ぉ・・・気持ちいいよぉ」
 脳みそが蕩ける。胸の奥が切ない・・・。ショーツの奥がじん・・・と疼く。
もじもじと太股を擦り合わせ、自然に手が秘唇ヘと伸びる。
「あん、まだダメよ辰実ちゃん。我慢我慢♪」
 桜子がその腕を掴む。
「さくらこぉ・・・」
 潤んだ目で桜子を見つめる。太股を液体が伝う感覚がする。じれったい・・・。
「もぉ、辰実ちゃんったら」
 その液体を桜子の指がすくう。それだけでぞくぞくと背筋が震える。
「ほら、辰実ちゃんのエッチな汁よ」
 指の間がキラキラと糸を引いている。
「私・・・の?」
 自然と『私』と言う言葉がでた。
「そう。はい、あ〜ん」
「んん・・・んく・・・ふあ」
 桜子の指が口に押し込まれる。抵抗なくその指に付いた愛液を舐め取ると、
ショーツの奥からさらにトロトロと液体が出てくるのがわった。お腹が熱い・・・。
「うふふ。今の辰実ちゃんホント可愛い」
「はぁはぁ。こ、これ以上はホンマにアカン。こうなったら・・・」
「辰実ぃ!こっち向け!」
「ほえ?・・・んん!」
 チュウハイの缶が口に押しつけられる。甘苦いような弱い刺激のある液体が
喉を滑り落ちて行く。
「ん・・・ん・・・ぷはっ」
 視界が明滅する。急速に意識がまどろんで・・・・・・い・・・く。
「ちょ、ちょっと辰実ちゃん!?これから良い所なんだから寝ちゃダメぇ!」
「お前もエエ加減にせぇ!」
「もう!和久のバカちん!せっかく良い所だったの・・・に・・・うっ」
「な、なんや!?桜子大丈夫か?」
「・・・きもちわるい」
「どわーーー!アカン!ここで出すなーーーー!!」
「ダメ、吐く吐く」
「アカンて!辰実!抱き付いたまま寝るなー!!動けん!!!」
 なんか騒いでるけどもうわかんないや。すごく・・・眠い・・・・・・。

「・・・あ、頭痛てぇ・・・」
 時計を見る。時間はすでに昼近く。頭がずきずきと痛む。うっ・・・酒臭い。
「・・・え〜っと」
 部屋を見回す。半裸の桜子が倒れている。ベットでは幸せそうにノリが寝て
いた。二人共酔いつぶれたんだっけ?
「へっくちっ!」
 クシャミをして自分が和久に抱き付いていたのに気が付く。
「な、何で!?」
 昨日の事はあまり覚えていない。確か和久と桜子に強引に酒を飲まされて・・・
それから・・・。
「あたたたた」
 酷い二日酔いだ。頭が割れそう。なんかとんでもない事があったような気が
するんだけど思い出せない。
 とりあえず和久から離れよう。今俺、顔真っ赤だよな。酒のせいとかじゃなくて。
「ん・・・ふわぁ〜。おう、おはよう辰実」
「ああ、ノリおはよ」
「・・・なんで皆死んでんの?」
「・・・さぁ?」
 こっちが聞きたい。
「辰実、ちょっといい?」
「なに?」
「・・・胸」
「胸?」
 ・・・・・・服着てない。って言うかブラジャーまでしてない。
「何で!!??」
「何でと言われても俺は知らん。起きたらお前パンツ一枚だった・・・うげっ!」
「先に言え先に!」
 胸を隠しながらノリに向って近くにあった缶詰の缶を投げ付ける。思いっきり
顔に当たってしまった。すまん。
「う・・・」
 ショーツがごわごわになってる気がする・・・。あぁ、なんか嫌な予感。
俺達が騒いでいたせいか和久と桜子がもぞもぞと動く。
「んん・・・辰実ちゃんおはよう。昨日は可愛かったわよぉ。・・・だめ、気持ち悪い」
「あ、悪夢や・・・あれは悪い夢や」
 それだけ言うと二人共倒れてしまった。
「・・・???」
 本当に何があったんだろう・・・。聞くのが恐い。

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