〜和久と桜子の辰実争奪戦〜その2
「辰実も案外朴念仁ね〜」
辰実の部屋、机に設置された小型モニターの前で命がお茶をすすっている。
「それにしてもアングル低いわね」
モニターに移っている映像は人間の足元から見上げたような風景―黒猫に変身したノリ
の目線が映っていた。どうやら首尾良く辰実を見つけて追跡を開始していたらしい。
「さ〜て、三人の位置はと」
命がモニターの前に置かれた機械のボタンを操作する。しばらくして画面が切り替わり
地図が表示される。地図には3色の光りが点滅していた。
「桜子ちゃんの方が辰実に近いわね・・・」
命は少し考えるそぶりを見せると携帯を取り出しポチポチと何やら操作し始める。どう
やらメールを作っているようだ。
「送信っと。桜子ちゃんには悪いけどもー少し楽しませてもらわないとねぇ」
「えぇい、辰実は何所行ったんや」
駅の表通り。和久がキョロキョロと当たりを見まわしながら走っている。辰実が居る駅
の裏手の住宅街からそんなに離れていない場所をウロウロとしていた。
「はぁはぁ・・・桜子のやつまさか見つけてないやろな」
立ち止まり走りっぱなしで上がった息を整える。すると和久の携帯がブルブルと震え出
した。
「何やこのくそ忙しい時に・・・辰実のねーちゃんから?なになに・・・『ヒント1、辰実
は商店街にいるわよ by命』・・・商店街やって!?通り過ぎてしもうたがな」
和久は携帯を閉じると今来た方向へと走り出した。
一方桜子は―。
「商店街?変ねぇ・・・表通りの方じゃない。ノリが居たからこっちだと思ったのに・・・」
そう、桜子はノリが猫に変身できる事を知っているので辰実を探し出してすぐにノリを見
付けた瞬間、命が追跡させているのだろうと推理してノリを追いかけてきていたのであった。
「う〜ん・・・、行ってみるしかないわね」
桜子も踵を返すと商店街へ向けて走り出した。そのすぐ先の民家の塀の影では。
「も・・・ダメ・・・」
ローターが振動し続ける中走り続けていた辰実がヘロヘロになっていた。二人は民家を挟
んで別の路地を御互いの姿を確認しないまま同じ方向へ走っていた為辰実のローターが反応
しっぱなしだったのだ。
「は・・・ぁ・・・と、止まった・・・」
桜子が商店街の方へ行った為ローターの振動が収まる。所が自分の意思とは無関係に刺激
を受け続けた辰実の胸は感度びんびんのフィーバータイムに突入しかけていた。
「ひ〜ん、何でこんな事になるんだよぅ」
自分の身体を抱きしめるように胸を押さえて波が引くのを待つ。この時辰実の頭の中では
『ここの家の人に見つかったら何て言い訳しよう』とか『知合いにこんな所見られたらもう
学校に行けない』とか何とか色々な事が渦巻いていた。
「はっ・・・はっ・・・はぁ・・・」
疲れと身体の火照りで上がっていた息が段々と落ち付いてくる。
「どっか落ち付いて隠れられる場所に行かなきゃ・・・」
辰実はヨロヨロと立ちあがると学校へ向けて歩き出した。
(辰実は〜・・・いたいた)
民家の塀の上、黒猫がテトテトと歩いている。
(急に走り出すもんだから少し見失っちまったぜ)
命から辰実追跡を言い渡されたノリはその任務を忠実にこなしていた。
(それにしてもこのカメラ重いぞ。少し走っただけでバテた)
ノリが付けているカメラは小型と言ってもバッテリーに何やら細々した機械が詰まった
バックパックがある為今ノリには結構な重量になるようだ。
(あ、やべ。辰実が行っちまう)
ヨロヨロと歩き出した辰実を追ってノリもヒラリと塀から飛び降りる。
「あ、猫だー」
「ホントだ、かわいー」
「ニャッ!?」
後から聞こえた声にノリが振り向くと4人の小さな子どもがノリ目掛けて走ってくるの
が見えた。ノリがヤバイッと思って走り出した時には既に遅くノリは子ども達に捕まって
しまった。
「かわいー、ふかふか〜」
「こいつ変な機械つけてるぞ」
「あたしにも触らせて〜」
「ウ"ニ"ャー!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ揉みくちゃにされるノリ。バタバタと暴れるが4対1の上
に相手は加減知らずの子どもである。
(ぬおー!離さんかいー!!)
それでも何とか子ども達の腕の中から逃げ出すと脱兎の如く走り出す。
「あ、逃げたー!」
「まてまてーーー!」
「ニャーーーー!!」
(勘弁してくれーーー!!)
「はぁ〜、何やってんだか・・・」
激しく上下に揺れる景色を映し出したモニターを見ながら命が一つため息をついた。
「え〜っと、二人の位置はっと・・・」
ボタンを操作してモニターに地図を表示させる。
「よし、二人共商店街についたみたいね。辰実との距離も一緒くらいか・・・」
またも携帯を取り出してメールを作り始める。
「あとは運任せだけどまいっか」
何を企んでいるんだか・・・・・・・・・。
「登校日前に学校に来る事になろうとは」
学校。夏休みだけあって校舎の中に活気はまったくない。グラウンドの方では陸上系
の部活に所属している生徒達の掛け声が聞こえて来る。
「暑い中ご苦労様だなぁ」
おでこに流れてくる汗を手で拭いながら学校の敷地の中をなるべく一目につかない所
を選んで歩く。今の女の子らしい姿を見られるのは流石に恥ずかしいらしい。
「あづい・・・、体育館裏に行くか」
青陵学園の体育館裏は木が密集していて日陰が多く暑くなると避暑地として学生が良
く利用している。辰実も良く涼むのに使っていた。途中の自販機でジュースを買うと体
体館裏へと歩いていく。
「すずちぃ〜、生き返る・・・・・・あり?」
ジュースの缶を片手にぷらぷらと歩いていると体育館の壁に背中を預けて誰かが座っ
ているのが見えた。
「やばっ・・・先客がいたか」
辰実は見つかる前にその場を離れようとそろそろと来た道を戻ろうとする。が―
『パキッ』
「誰だ?」
「げっ」
木の枝をふんずけてしまった。後から声がかけられる。
「お前は・・・佐伯か?」
「よ、よお」
声をかけてきた男子生徒、七瀬一輝(ななせかずき)。学校一の美男子だが近寄りが
たい雰囲気と常に不機嫌そうな表情をしていて学校でも友達もあまり作らず―古い言い
方をすれば一匹狼な男だった。そんな一輝だが辰実とは馬が合ったのかそこそこ話をし
た事があった。
「お前すげー格好してんな」
「あははははははは」
見られてしまってはもう笑うしかない。辰実の乾いた笑いが体育館裏に木霊した。
「はぁ、隣邪魔するよ」
「ああ」
辰実が一輝の横にペタンと座り込む。辰実が手に持っていたジュースのプルトップを
開けると一輝は胸ポケットからタバコを取り出し火をつける。
「で、七瀬はなんでまた学校にいるんだ?」
「補修。面倒臭いからフケてた」
「補修サボって体育館裏でタバコかよ、お前いつか退学になるぞ」
「そんときゃそんときだ」
ふ〜っと一輝がタバコの煙を吐き出す。一輝は頭が悪いわけではないのだが授業に殆
ど顔を出さない。授業に出ても何をするでもなく呆っと窓から外を眺めていた。
「お前の方こそこんな所で何してんだよ」
「あー、俺はあれだ。人生のかかった鬼ごっこを少々・・・」
「意味がさっぱりわからん」
「だよなぁ、俺にも何でこうなっちゃったのか・・・」
はぁっと深いため息をつく。
「それにしても佐伯・・・お前女になって一ヶ月とちょっとくらいか?さまになってんな」
「う・・・あ・・・ま、まあな」
自分ではもう割り切っているつもりだったか他人から言われると少し複雑な気分になる。
「みつあみしか見た事なかったから最初わかんなかったぜ。私服も初めてみ・・・おい、
お前その首のって・・・」
「ん?」
一輝に言われて辰実は自分の首をさする。その時にふとある事を思いだす。
「げっ」
「まさかキスマー・・・」
「ばばばばバカヤロウ!虫刺されだ虫刺され!」
「でもいっぱいあるぞ・・・」
「か、蚊に食われやすい体質なんだよ」
気まずい沈黙が流れる。辰実は顔を真っ赤にして俯き一輝はそんな辰実を訝しそうに
見ている。
(和久のばかやろ〜!あれほど痕付けんなって言ったのに〜!!)
半泣きになる辰実。じーっと辰実を見ていた一輝は立ち上がると辰実の前に跪く。
「う・・・?」
すっと一輝の手が辰実の顎を掴むと顔を上に向けさせる。
「お、おい。何の真似・・・」
突然の事に動揺する辰実をよそに一輝は切れ長の目で辰実を見つめると顔を辰実の顔
に近づけて行く。
「んっ・・・!」
思わず目をつぶってしまう辰実。だがいつまで経っても予想していた事態は起こらか
った。不思議に思った辰実が薄っすらと目を開けると一輝は辰実の首の当たりをじっと
見ていた。
「あ、あり?」
「お前何か勘違いしただろ」
一輝はちらっと辰実の顔を見るとまた首に目線を移す。
「あ・・・あ、当たり前だアホ!」
「耳元で叫ぶな。それよりこれやっぱりキスマークじゃねーか」
「うっ・・・」
辰実の顎から手が離れる。
「ま、別にどうでもいいけどほどほどにしとけよ」
ぽりぽりと頭を掻きながら一輝が立ち上がる。
「う、うるさ―うひやぁっ!?」
「お、おいどうした?」
辰実も立ち上がると文句を言おうとしたようだが―文句ではなく悲鳴が上がった。ま
たしてもローターが振動し始めたのだ。2度目の不意打ちで足から力が抜け一輝に寄り
かかる形になる。
「う・・・くぅ・・・」
「おい、大丈夫か?」
ずるずると崩れ落ちて行く辰実を支えて一輝もしゃがみ込み辰実の背中をさする。
(うひ〜、振動がばれる〜)
ローターの事がばれれば何と言われるかわからない。そう思ったとたん辰実の心臓
は早鐘を打ち始めた。
「ついたでー!」
全身汗だくになりながら和久が学校の校門でえずいている。
「こ、今度こそ辰実を見付けたる」
「あー!なんで和久がここにいるのよー!」
「なんや!?」
声に振り返った和久が見たものはバスから降りてくる桜子だった。
「お、お前なんでバスなんか乗っとんねん!!?」
「あら、公共機間使っちゃいけないなんてルールはないわよ?」
「そんなんありかい・・・」
商店街から全力で走ってきて肩で息をしている和久にさらなる脱力感が襲う。がっ
くりと項垂れた和久を無視して桜子はさっさと学校に入って行く。
「あ、こらまたんかい!」
「ちょっと!なんで着いて来るのよ!」
「お前こそ別の場所探さんかい!」
二人共一目散に体育館へと走って行く。どうやら辰実が良く体育館裏を利用してい
るのを知っていたらしい。互いに腕で、ときに身体全体で相手を妨害しながら体育館
裏を目差す。殆どもつれ合いながらなのでスピードは遅い。そして体育館の壁を曲が
った時、二人はついに辰実を見つける事になる。それは ― 後向きで誰かはわからな
いが男子生徒に抱きすくめられ顔を赤く染め辛そうに目を閉じている辰実の姿だった。
「辰実に何しとんねん!!」
「辰実ちゃんに何してんのよーー!!」
「おわっ!??」
辰実を抱きすくめている男・・・正確にはローターの振動で腰が抜けてしまった辰
実を介抱していた一輝なのだが。その一輝に向って二人の飛び蹴りが炸裂する。
「いっ・・・・・・てぇ・・・」
「和久・・・桜子・・・誤解・・・・・・あうぅ」
辰実は二人の姿を確認するもローターの振動を押さえるように縮こまってしまう。
「橘に十和田か。なにしやがる」
「なにしやがるやあらへん!辰実襲おうと・・・七瀬?」
「辰実ちゃん大丈夫〜?」
どうやら和久は一輝の事を知っていたようだ。桜子は相変わらず辰実に抱き付いて
いる。
「ちっ、何なんだよ」
一輝はそう言うとさっとその場から居なくなってしまった。
「・・・あー、もしかして何か勘違いしたか?」
「だから誤解って言って・・・はうぅ」
「どうしたの辰実ちゃん。苦しいの?」
辰実は抱き付く桜子を強引に引き剥がすと自分の胸の間に腕を突っ込む。引き抜か
れた手にはローターが握られていた。
「はぁ、はぁ。やっと地獄から解放された・・・」
「なんやこれ」
「お前達二人が近づくと震えるようになってんだよ」
「あ、もしかしてこれ発信機じゃない?」
桜子が取り出したのは出かけに命に渡された黒いボックス。
「こんな所でハイテクの無駄使いしやがって・・・」
「ホンマにあのねーちゃん何者なんや?」
「それよりも勝負の結果よ。もちろん私の勝ちよね」
「なにを言うとんねん。俺が先や」
「私よ」
「俺や」
「やっぱりこうなるのか・・・」
大きくため息をつく辰実だった。
一方その頃ノリは――
「ニャ〜」
(ここはどこだ)
迷子になっていた。
「ノリ君。お仕置決定」
命も辰実の部屋でため息をついていた。
「とにかく。計画通り引き分けに終ったみたいね。辰実、考える時間はあげたわよ。
後は自分で答えを出すのね」
そう言いながら荷物を片付けはじめる命。実は命は煮え切らない辰実にきっかけ
を与えに来たのだ。まぁ、自分も存分に楽しんだようだが。
「お土産も置いてってあげるから。頑張りなさいね〜」
命は誰も居ない辰実の部屋に向けてヒラヒラと手を振るとその場を後にした。
「はぁ、疲れた・・・」
「結局引き分けなんかなぁ・・・納得いかんな」
「納得いかないわね」
辰実のマンション。学校からの帰り道、和久と桜子は散々言い合っていたが結局の所
二人共同時に辰実を見付けたと言う事と辰実の泣きが入り引き分けで落ち付いていた。
「ただいま〜・・・あれ?姉さんは?」
家に上がって部屋を見るが一人残っていたはずの命の姿が無い。
「お姉様帰っちゃったのかしら」
「何しに来たんやあの人は」
「とにかく俺は疲れたよ」
はぁ、とため息をつきながら辰実が冷蔵庫を開ける。
「おろ?こんなジュース買ってあったっけ?」
冷蔵庫の中には辰実の記憶にないジュースの缶が数本冷やされていた。
「まいいや、姉さんが置いてったんだろ。和久と桜子も飲むか?」
そう言いながらちらりと部屋を見ると再び和久と桜子が火花を散らしていた。辰実は
諦めたのか缶を3本取り出すと部屋のベットに腰掛けジュースを飲み始めた。
「だいたいやな、俺は辰実にもう告白してOKもろとんねん。桜子の入り込む隙間なん
てこれーっぽっちもないで!」
「あーら、そんな事。私の方が和久よりぜーったい辰実ちゃんの事好きだもの。和久の
方こそ割り込んでこないでよね」
「なんやとー!」
「なによ」
うーっと二人がいがみ合う。そんな中、辰実は黙々とジュースを口に運んでいる。
「とにかく、引き分けなんて納得いかないわ。辰実ちゃんは私のなんだからね」
桜子ががばっと辰実に抱き付く。それでも辰実はひたすらジュースを飲み続けている。
明らかに様子がおかしいのだが盛り上がってる和久と桜子はそれに気付かない。
「あかーん!桜子にはやらへんぞ!」
和久も負けじと辰実に抱き付く。左右から辰実に抱き付いたまま二人はにらみ合い
バチバチと火花を散らしている。辰実は・・・。
「・・・・・・」
ぼーっと自分の手に持つ缶を眺めている。焦点が合っていない。
「辰実?」
「辰実ちゃん?」
やっと二人が辰実の異変に気付く。顔がピンク色に染まり目はトロンと潤んでいる。
「辰実ちゃん・・・何飲んでるの?」
「ちょっと貸してみ」
ぼーっとしている辰実の手から和久が缶を奪い一口飲む。
「・・・ジュースの味しとるがこりゃ酒やな。しかも変に薬っぽいで」
もちろんこれは命が置いて行ったジュースである。妙な薬が入っているのはご愛嬌。
「二人とも・・・」
「お?」
「辰実ちゃん・・・?」
和久と桜子は言葉を発した辰実を見てぎょっとする。ぽろぽろと涙を流している。
「けんかしちゃ・・・だめ」
大粒の涙を流しながら辰実は二人を見る。いきなりの事態に和久と桜子は言葉を失っ
ているようだった。
「私だって・・・ひくっ。どっちか選ばなきゃいけないって思ってるんだけど・・・」
しゃくりあげながら辰実は喋り続ける。どうやら辰実は酔っ払うと一人称が『私』に
なるらしい。和久と桜子も黙って辰実の言葉に耳を傾けている。
「二人とも好きなんだもん・・・」
酒に酔い、涙で潤んだ瞳で見つめられ、さらにこの一言で二人の胸が同時にドキンと
跳ねる。
「あかんな・・・こんなん反則や」
「ほんと・・・犯罪的よね・・・」
和久と桜子は何かに打ちのめされたように呟き頭を振る。そんな二人を辰実はぼーっ
と見続けている。
「しゃーないな、ここは一時休戦やな」
「そうね、でもいつかこの決着はつけるわよ」
「えへへ、仲良し〜」
どうやら和解(?)した二人を見て辰実が抱き付く。
「おわっ」
「あん、辰実ちゃんったら現金ねえ」
嬉しそうに微笑んで抱き付いてきた辰実をみて二人は苦笑する。
『ピ〜ピロリ〜ピロリ〜ロリ〜ロリレリ〜』
「おっと、電話や」
「あんたなんて着信音してんのよ」
「ほっとけ。もしもし?おとんか?・・・なんやて?・・・しゃーない、わかった」
『ピッ』
携帯を切ると和久は渋い顔になる。
「家の手伝いで一回帰らなあかん。桜子、抜け駆けはあかんぞ」
「はいはい、いってらっしゃ〜い」
桜子が嬉しそうに手を振る。辰実は相変わらず呆っと二人を見ていた。
「また後で来るからな」
和久は悔しそうな顔をすると立ちあがり部屋を出て行く。
「かずひさ〜」
「どした辰実?・・・んむ!?」
「ん・・・」
辰実が出て行こうとした和久に抱き付くとその唇に吸い付く。呆気にとられる桜子を
よそに二人の舌が絡み合う水音が響く。
「ん・・・んん・・・ぶはっ」
しばらくそうしていたかと思うと二人の口が離れ至近距離で見つめ合う形になる。突
然の事に顔を赤くしている和久を見て辰実がふにゃっと笑う。
「えへへ、いってらっしゃいのキス」
「おまっ・・・どこでこんなテクを・・・。じ、じゃあ辰実また後でな」
辰実を引き剥がすと和久は気恥ずかしそうに辰実の家から出ていった。
「ちょ〜っと辰実ちゃん!和久にばっかりずるいわよ!」
「ふえ?」
ぺたんと座り込んでいた辰実の後ろから桜子が抱き付いた。
「うふふ、お邪魔虫もいなくなったし辰実ちゃん、い〜い事しよっか」
「さくらこ〜」
「あら?ちょ、ちょっと・・・」
辰実を襲おうとした桜子は逆に辰実に押し倒されてしまった。
「いっつもさくらこに襲われてばっかりだから今日は私が襲うの〜」
「え?え?た、辰実ちゃ―んんっ」
「ん・・・んむ・・・んぅん」
状況を把握できていない桜子の唇を辰実が奪う。
「んん・・・ちゅっ・・・んむ」
辰実と桜子の舌が絡み合う。お互いの唾液を交換するように舌を動かすと二人の喉
がこくりこくりと動く。その間に辰実は桜子の服を手早く脱がしてしまう。
「は・・・・・・ぁ」
ゆっくりと二人の顔が離れると辰実の動きがそこで止まってしまう。
「辰実ちゃん・・・?」
「・・・さくらこきれ〜・・・・・・」
「もう・・・あんっ」
ちゅっと辰実が桜子の肌に口付けをする。いつもとはまったく逆の立場に桜子は戸
惑いながらも楽しんでいるようだ。
「んっ・・・んっ」
「辰実ちゃんくすぐったい・・・ん」
辰実の頭が動く度に桜子の肌に髪がさらさらと当たる。いつもせめると言う行為を
あまりしない辰実の動きは『元』男でありながらどこか拙い。
「このままここでするの?」
自分の身体に懸命に口付けをしている辰実の頭を優しく撫でながら桜子が囁く。言
われて辰実が顔を上げると押し倒した場所が床の上だった事に気が付く。
「あ・・・うん、ベット・・・・・・いく?」
「ふふっ・・・もう辰実ちゃんほんと可愛いんだから」
「わぷっ」
上目使いにそう言った辰実を桜子が胸の間に押し付けるように抱きしめる。
「ねえ辰実ちゃん、私の事好き?」
二人でベットの上まで移動すると桜子が辰実に尋ねる。
「うん、すき〜」
ふにゃっと辰実の顔が笑顔になる。その答えと辰実の表情をみて桜子の顔も思わず
緩む。
「それじゃ和久の事嫌いって言わないと続きしてあげないって言ったら?」
「そんなのい〜や」
辰実がぶうっと膨れと見て桜子は諦めたように微笑む。
「ま、しかたないか。ここまできたら和久とは正々堂々と勝負してやるわ。辰実ちゃ
んも私しか見えなくしてあげるんだから覚悟しておきなさいね」
「ん・・・・・・」
優しい口付け。桜子が辰実の服を脱がし二人共一糸纏わぬ姿となる。窓のカーテン
の隙間から夕日が差し込み二人の肌を淡いオレンジ色に染める。
「ふ・・・あ・・・・・・」
桜子の口が顔から首筋へと移動する。こうなるともう主導権は桜子のものだ。そっ
と辰実をベットに寝かせると全身を愛撫していく。
「んく・・・あ・・・・・・うぅん、さくらこ」
辰実も負けじと桜子の身体に手を伸ばす。桜子のふくよかな胸に手を当てるとその
柔らかさを確かめるようにゆっくりと動かす。
「ん、辰実ちゃん。もっと強くしていいわよ」
「うん・・・あっ・・・きもち・・・・・・いいよぉ」
ぐいっと桜子の太股が辰実の秘唇を擦り上げる。桜子の太股にぬるっとした愛液で妖
しくてかる。
「くす、もうぬるぬるになってる。辰実ちゃんって本当に感じやすいのね・・・あっ」
辰実の指先が桜子の乳首にかりっと引っ掛かるように動く。
「んっ・・・もっと・・・そこを・・・・・・あんっ」
「う・・・んん」
辰実の口が桜子の乳首を含みれろれろと舐め上げる。舌が先端を刺激する度に桜子の
身体がぴくぴくと反応する。快感に眉を寄せながらも辰実の身体に手をはわし、その細
い指を辰実の秘唇へと潜り込ませる。
「ふぁっ・・・んん・・・あぁっ」
辰実の口が桜子の胸から離れ喘ぎ声が漏れる。桜子は妖艶に笑うと辰実のGスポット
を容赦なく責めたてる。
「あっ・・・うぁっ、ふあぁぁっ!」
背中を仰け反らせて辰実の身体がびくびくと跳ねる。桜子の身体から離れた辰実の手
がぎゅっとシーツを強く握ってしわを作る。
「辰実ちゃん気持ち良い?」
「ひあっ、あぁんっ」
ぐっと突き出された辰実の胸を桜子がちゅっと吸う。桜子の手の動きがどんどん速く
なり粘っこい愛液がじゅぷじゅぷと泡立つ。
「あっ、うん、あぁっ!さくら・・・こ・・・あぅっ、くるよぉ・・・んんっ!」
「辰実ちゃんっ・・・!」
だらしなく開いた辰実の口を桜子が塞ぐ。二人の口の周りが唾液でてらてらと光る。
「んーっ、んんっ・・・んっ、んぅっ・・・ぷはっ!あ、あぁっ・・・あ――ー!」
辰実の身体がびくんびくんと大きく跳ねぷしっと大量の愛液が飛ぶ。
「あ・・・ぁぁ・・・・・・」
虚ろな表情で辰実はぐったりと身体の力を抜く。引き抜かれた桜子の指に大量の愛液
が糸を引く。
「くすっ、辰実ちゃんイっちゃったわね・・・あら?何これ」
辰実の激しい動きでずれた枕の下から何かが覗いている。
「ちょっとこれって・・・もう、お姉様ったら」
枕の下から出てきたもの、双頭のディルドー。もちろん辰実がこんな物持っているは
ずもなく命の『お土産』であろう。
「せっかくあるんだから使わないのは勿体無いわよねえ」
悪い笑顔が桜子の顔に広がる。
「んぁっ・・・」
辰実の秘唇に手を伸ばすと愛液を掬い取りディルドーの先端に塗り付ける。桜子は辰
実の身体の上から離れると位置を変えディルドーを自分と辰実の秘唇へとあてがう。
「んっ・・・」
「ふぇ?・・・んあぁっ!?」
ぐぐっと自分の中に潜り込んできたディルドーの感覚に呆けていた辰実が声を上げる。
桜子も異物の感覚に眉をひそめながら腰を進める。
「あぁっ!・・・やぁっ、こんなの・・・ひぅっ・・・さくらこ・・・こわい」
「んくっ・・・大丈夫よ辰実ちゃん・・・くぅ・・・・・・ちから、抜いて」
「ふああぁっ!」
「ぅんっ」
ずっとディルドーが潜り込み二人の秘唇が合わさる。しばらく馴染ませるように腰を
ゆるゆるとうねらせていた桜子は一つ大きく息を吐くと激しく身体を動かす。
「あっ、うぁっ、あああぁぁっ!」
「んっ、んんっ・・・あ、あぅ・・・んっ」
桜子だけでなく辰実の腰も自然と動き桜子の膣内を責める。二人の動きがダイレクト
に響き気持ちをどこまでも高まらせる。
「さ、さくらこ・・・も、だめ・・・だめぇ」
「あっ、んんっ、辰実・・・ちゃん・・・私もっ、くぁっ」
動きが一層激しくなり二人の身体がガクガクと揺れる。
『あああぁぁ―――っ!!』
同時に昇りつめ同時に果てる。しばらく余韻を味わっていた桜子が不意に起き上がり
ディルドーがずるっと抜ける。
「んぁっ」
「ふ・・・ぅ。気持ち良かったわ、辰実ちゃん。でもね・・・・・・」
桜子はニッコリと笑うと辰実にのしかかる。
「ひくっ・・・さくらこ・・・?」
「和久が戻ってくるまでやめてあげないんだからね」
「ふぇ、ちょっ・・・あぁん」
(あぁ・・・日が暮れる・・・・・・)
どこかの林の中。子ども達から逃げてきたノリが途方に暮れていた。
「ニャ〜・・・・・・」
太陽が西へ沈み空の色は紫がかっている。林の近くの道路の街灯がちかちかと明かり
を灯す。
(とりあえず元に戻ろう)
猫らしからぬ二本足立ちになると謎のポーズを取る。キリリっと強い光に包まれたか
と思うと光りの中から人間に戻ったノリが現れた。
「はぁ・・・帰ろう・・・」
肩を落としため息を付いた瞬間ぽんっと肩を叩かれる。
「ん?・・・うぉっ!?」
そこに居たのはニコニコと満面の笑みを浮かべた命だった。
「め、めいさんどおしてここに・・・」
「・・・・・・」
命は答えず無言のままニコニコと笑って・・・目が笑っていない。
「ノリくん、覚悟は出来てるわね?」
「・・・・・・・・・どーして俺だけこんな目に合うんだーーーー!!!」
ノリの絶叫が暗い夜空に響き渡った。
―To be Continued―