第六話 〜和久と桜子の辰実争奪戦〜

「ん・・・あ・・・」
 締められたカーテンから夏の日差しが差し込む部屋。ギッギッとベットのスプリング
の軋む音と微かな喘ぎ声が響く。
「ふっ・・・んん・・・あはっ」
 まだ若干の幼さの残る少女の嬌声の中にはっはっと荒い息遣いが混ざる。
「かずひさ・・・も・・・いきそ・・・んぁっ」
「一緒に・・・イクで」
 スプリングの軋む音の間隔が狭くなる。少女―辰実の甘い声が掠れがちになり喘ぎ
が一層激しくなる。そんな辰実と和久は事情の最中、玄関のドアの鍵が微かな音を立
てて開いた事に二人は気付かなかった。
「んっあっあっふぁっ!」
「くぅ・・・」
「こーーーーらぁーーーー!!!」
「ひやぁ!?」
「な、なんや!?」
 突然の怒声に二人はビクリと身体を大きく竦ませて声の方へ顔を向ける。
「和久あんたー!私の辰実ちゃんになんて事してくれてんのよーー!!」
『さ、桜子!?』
 いきなり乱入してきた桜子はドカドカと足音も高くベットに近づくと"行為゛を見
られ顔を真っ赤にしている辰実をガバチョっと和久の下から奪い取る。
「わっ!こら桜子!ちょっと待って・・・どうやって入って来たの!?」
「た、辰実シーツ持ってったらアカン!」
 ベットから引きずり出された辰実が慌てて二人を覆っていたシーツを引き寄せ
て身体を隠す。シーツを奪われてしまった和久も慌てて自分の股間を両手で隠す。
「あーん!辰実ちゃん和久に無理やりやられちゃったのねー!可哀相」
「引っ付くなー!だからどうやって入って来たんだよー!」
「どうやってって・・・はい合鍵」
 事も無げに合鍵を取り出す桜子。辰実の目が点になる。和久は・・・こそこそ
とパンツを引き寄せてはいている。情けない姿である。
「あ、合鍵ってお前・・・ん?そのキーホルダー見た事あるような・・・」
「気にしない気にしない。それより和久っ!辰実ちゃんは私のなんだから勝手な
事しないでよね!」
 辰実に抱き付いたままキッと和久を睨み付ける桜子。和久は隠す所を隠して少
し落ち付いたようだ。負けじとキッと睨み返す。
「アカン!辰実は俺のや!桜子にはやらんぞ!!」
「わわっ」
「あ、コラ!」
 グイっと桜子の腕の中から辰実を奪い返す。
「無理やり辰実ちゃんを犯すなんて卑怯よ!そんな男に辰実ちゃんは渡せないわ」
「誰か無理やりや!」
「ちょ、ちょっと二人共・・・ひ〜ん」
 ぎゅうぎゅうと辰実を取り合う和久と桜子。子どもの喧嘩状態だ。
「おーい、俺はもう入っていいのか?」
 ドアからひょこっとノリが顔を出す。
「ノリ?お前も来てたの?」
「よう、辰実・・・うっ」
 片腕を上げて挨拶をした所で猛烈にいがみ合っている二人に睨まれてすごすご
と顔を引っ込めるノリ。
「私のよ!」
「俺のや!」
「ここは間をとって俺の・・・ごめんなさい」
 懲りずに顔を出して口を開いたノリを二人がさらに強烈に睨み付ける。
『うーー』
 バチバチと二人の間で火花が飛び散る。一触即発とはこの事か。
「はいはい、そこまでー」
「あら、お姉様」
「ね、姉さん!!?」
 突然現れた女性、辰実の姉の命がパンパンと手を叩きながら部屋に入ってきた。
やけに大きなバッグを肩に下げている。
「姉さんまで・・・何がどうなってるんだよぅ・・・」
 次々と激変する状況に泣きそうになる辰実。
「こんな面白そうな事を私抜きでやろうなんてそうは行かないわよ」
「え〜っと、辰実の姉ちゃん?」
「うむ、そうらしい」
 ニンマリと微笑む命を見て和久が尋ねる。それに答えたのはノリだった。
「今日は桜子ちゃんのお願いで来てみたんだけど辰実ぃ・・・あんた何だかんだ言って
やることしっかりやってるんじゃない」
「うぅ・・・」
 姉の弄るような視線を受けて辰実の顔が再び真っ赤になる。
「んで、なんで桜子と辰実の姉ちゃんが知合いなんや」
「ふーんだ」
 ツンっと顔を背ける桜子にむっとした表情を作りながら和久がノリに答えを求めるよ
うに顔を向ける。ところがノリも『さっぱり』と言った表情で肩をすくめる。
「桜子ちゃんとはちょっと前に色々あったのよね〜」
「んもう、お姉様ったら」
 キャっと顔を赤らめる桜子。この二人について語るのはまた別の機会に・・・
。 「うぅ〜、姉さんは何しに来たんだよぅ!」  シーツで身体を隠してへたり込んでいる辰実が顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「何って、あんたが困ってるって言うから助けに来てあげたんじゃない。まったく、我
が弟、いえ、妹ながらたいしたもてっぷりねぇ。こんな可愛い子達に好かれるなんて」
 ニヤニヤと楽しそうに笑いながら辰実を見下ろす命。経緯を説明すると以前命と知合っ
た桜子が命に辰実の事で相談を持ちかけたところ、命が興味を持ち『それじゃ私が何とか
してあげる』と言った事が始まりだった。ノリが何故付いて来たかと言うと命曰く『ノリ
くんは役に立ちそうね』と、言う訳で桜子に無理やり連れて来られたのだ。ちなみに桜子
が取り出した合鍵は命の物である。
「さ、桜子お前ぇ〜〜〜」
 『余計な事を』と怨みを込めて桜子を見るが桜子はわざとらしくそっぽを向いて辰実を
見ないようにしていた。
「さて、さっそくだけど本題ね。今辰実の事を桜子ちゃんと和久くんが取り合ってるみた
いだけど・・・」
「なにぃ!?やっぱりそうだったのかおま・・・ぐぇっ!」
 命の言葉に敏感に反応して思わず大声を上げてしまったノリの鳩尾に命の膝が叩き込ま
れる。容赦のないお姉さんである。
「こほん。そう言う訳だから私が平和的な解決策を持ってきてあげたってわけ」
「平和的な解決策?」
 和久が鸚鵡返しに言うと首を傾げる。
「そっ。ぶっちゃけて言うと桜子ちゃん、和久くん、あなた達辰実を賭けて勝負なさいな」
「しょ、勝負!?」
 辰実が驚いた声を上げる。ところが―
「望むところやないか」
「ずぇったい負けないわよ・・・」
 二人はやる気満々だった。
「勝負の内容はとーっても簡単。辰実、あんた逃げなさい」
「へ?」
「それを桜子ちゃんと和久くんが探して捕まえる。負けた方が辰実の事をすっぱりと諦め
る。これだけよ」
「ちょ、ちょっと待って姉さん・・・」
「辰実、あんた本気で逃げないと・・・・・・わかってるわよね?」
 命の目がギランッと光る。その目に睨まれた辰実は言いかけた言葉を飲み込んでしまう。
「さてさて、始める前に辰実、ちょっとこっち来なさい」
「ちょっと姉さん・・・わわっ!引っ張んないで〜」
 命に腕を引かれて身体に巻きつけたシーツがずり落ちそうになりならが脱衣所へと連れ
て行かれる。
「姉さん、いったい何のつもり・・・ひやっ!」
 背中の肌蹴ている部分をつつっとなぞられて思わず声を上げてしまう辰実。脱衣所の鍵
はすでに命によってロックされている。
「辰実・・・しばらく見ないうちにすっかり女の子らしくなったわねぇ」
「ね、姉さん・・・?」
 辰実の脳裏に以前、姉に『いたずら』された時の記憶が蘇る。
「うふふふ・・・」
「ん・・・ね、姉さん・・・ふぁ」
 命の指が辰実の身体を撫でる。一度絶頂寸前まで高められた身体が時間が経ったとは言
え敏感に反応する。
「大きい声出したら・・・外のお友達に聞こえちゃうわよ?」
「んんっ!」
 手がシーツの中に潜り込み妖しく蠢く。辰実は目をキツク閉じ眉を寄せて必死に声が出
ないように耐える。
「・・・ぅ・・・ぁぁ・・・ダメ・・・・・・やめ・・・て」
「こんなエッチな身体して、男の子も女の子もメロメロにしちゃうなんて辰実もやるわねぇ、
 シーツの中で胸を優しくこね回し、カチカチに尖った乳首を指の腹で押し潰すように刺激
する。その度にピクリと辰実の身体が跳ね、足から力が抜ける。
「ひ・・・ぁ・・・ぁぁぅ」
「ずいぶん感度がいいわね。やっぱりお預けされちゃって辛かった?」
「そんなこと・・・な・・・ふぁっ!」
 トロトロと蜜が溢れ出している秘裂に指が潜り込む。そこはまるで命の指を待ち受けて
いたかのように蠢き飲み込んでいく。
「くす、指じゃ物足りないかしら?」
「ひっ・・・ゃ・・・ぁ・・・・・・くぅぅん」
 2本の指がぐりぐりと辰実のGスポットを擦り上げる。ガクガクと辰実の身体が震え、ペタ
ンと床に崩れ落ちる。
「そろそろ良いかしら」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・」
 焦点の合わない瞳で荒い息をつく辰実から方手をどかすと自分の持って来た大きなバッグの
中身をゴソゴソと漁る。その中から小型のバイブを取り出す。
「辰実にはこれくらいの大きさのが丁度良いかしらね」
「は・・・ぁ・・・ふぇ?」
 クチュっと水音が響きバイブが辰実の秘裂に当てがわれる。
「ぁ・・・いや・・ぁ・・・・・・姉さん、やめ・・・てぇ」
「恐がらなくても大丈夫。ほら、力を抜いて」
 グッとバイブの先端が潜り込む。男性自身とは違う異物の侵入に身を震わせてイヤイヤを
するように首を振る辰実の反応を目を細めて楽しむように命が見つめる。
「んぁ・・・や・・・・・・ぁぁぁ・・・」
 ぬるっと辰実のトロトロに溶けた秘裂にバイブを埋め込む。辰実はその感覚に必死に耐え
てそれでも声を押し殺す。
「ほら、もう全部入っちゃった」
「ひっ・・・あ・・・やぁぁぁぁ・・・・・・」
 命はくすりと笑うとバイブのスイッチを入れる。ブブブッと低い振動音。辰実の身体が折
れ曲がる。
「辰実、我慢しないでイっちゃいなさい」
「ふぁ・・・くぅ・・・ああぁっ」
 妖艶な笑みを浮かべてバイブが埋め込まれ、ヒクヒクと震えている秘裂をなぞり、つまみ
、 クリトリスを責める。
「んっ、あっ・・・んああぁぁっ!」
 ビクビクと身体が跳ね、大量の蜜が飛び散る。そのままグッタリと命に預けて放心状態に
なってしまう。
「またまたごちそうさまでした」
 命はペロっと舌を出して悪戯っぽく微笑んだ。

「ぅんっ・・・」
 辰実の意識が段々と覚醒していく。気だるげに身体を起すと命の姿が視界に入る。
「姉さ・・・ん?」
 絶頂の余韻で霞みがかった頭で命をみる。命は辰実の胸の間にテープで何かを取りつけて
いるようだ。
「姉さん、何して・・・」
「ちょっと、動いちゃだめよ」
 胸の間にひんやりとした固い物が当たる。
「これでよし」
 辰実はのろのろと起き上がると自分の胸の間に手をはわす。それは親指より少し大きい位
の大きさのカプセル、ローターだった。
「な、何だよこれ!?」
「あら、ただ逃げるだけってのも面白くないでしょ?それは桜子ちゃんと和久くんが半径10
メートルくらい近づくと震えるようになってるから。しっかり逃げるのよ」
「何でこんなもん付けなきゃいけないんだよ!」
 ローターを取りつけているテープの端を指で摘み剥そうとする。
「辰実、剥したら・・・わかってるわよね?」
「うぐっ・・・」
 命が優しく微笑む。辰実はその笑顔の奥の黒いものを感じ取ってがっくりとうな垂れる。
「監視をつけるから逃げてる間に剥しても私にはちゃ〜んとわかるんだからね」
 そう言いながらごそごそとバックを漁り洋服を取り出す。キャミソールと短めのスカート
、 それに下着を辰実に放り投げる。
「はいこれ着て」
「・・・なんでこんな服を・・・」
「文句言わないの。ほれ、ちゃっちゃと着ちゃいなさい」
「うぅ〜」
 姉に逆らった時の恐怖を思い出しイヤイヤながらに用意された服を身に付ける。
「う〜、これブラの肩紐が見えていやなんだけど・・・。それにこんなに胸開いてたら見え
ちゃうんじゃないか?」
 辰実は鏡を見るとしきりに胸の間に取りつけられたローターが見えないかどうか気にして
いる。だが、ローターは辰実の大きな胸の間に埋まり完璧に隠されていた。
「実験」
「うわわっ!?」
 突然胸の間のローターが震えだす。そのローターに似合わず大きな振動に胸全体が震える
ような感覚に襲われる。
「ちょ、ちょちょちょっと!姉さん止めてぇ・・・」
「うん、ばっちりね」
 カチッと言う音と共にローターの振動が収まる。
「っ〜〜!いきなり何すんだよっ!」
「いや、ちゃんと動くかな〜って」
 まったく悪びれた感じのない姉の反応。物凄い脱力感が辰実の身体に圧し掛かる。
「さて、次は・・・」
「あ、こらっ」
 さっと辰実の髪を止めていたゴムを取る。みつあみに纏められていた髪がさらっと辰実
の背中に流れる。
「なんで取っちゃうんだよ。みつあみにするの結構大変なのに」
「いっつもみつあみだけ何て色気の無い。せっかく可愛い格好してるんだからお洒落しな
さい」
 ぶーっとむくれる辰実を無視して命はその髪にクシを入れる。
「はい完成」
 そう言われて辰実は改めて自分の姿を鏡で確認する。長く腰まである綺麗な髪。キャミ
ソールを押し上げている大きな胸と露出した白い肩。普段の辰実ならば絶対にしないよう
な格好に自分でも少しドキっとしてしまう。
「ほら、こんなに可愛いんだからお洒落しないと損よ」
 満足そうに腕を組んでうんうんと唸る命。変な所だけ『お姉さん』してるな、と辰実は
思った。
「さて、そろそろ始めましょうかね」
「きゃっ」
 命が脱衣所の鍵を開けドアを開くと『ゴン』と鈍い音と可愛い悲鳴が上がる。
「・・・いった〜い」
 桜子が頭を押さえて尻餅を付いていた。どうやら聞き耳を立てていたようだ。
「あら、桜子ちゃんごめんなさい。大丈夫?」
「何をしてるんだお前は」
 命の後から脱衣所を出ると呆けた表情でこちらを見ている和久とノリが目に入る。ち
なみに和久はきちんと服を着ている。
「ん?どうした?」
「・・・あ、いや・・・見違えたで」
「・・・うむ」
 和久とノリの言葉に辰実の顔がカーっと熱くなる。
「辰実ちゃんかわいぃ〜〜」
「おわっ!」
 後から立ち直った桜子が飛び付いてくる。そのさいしっかりと辰実の胸を数度揉んで
いるのは言うまでもない。
「はいはいそこまで。辰実はそろそろ出発よ。あと青葉町から出ちゃダメだからね」
 命は桜子の肩に手を置いて辰実から優しく引き剥がすと辰実にミュールを押し付ける。
「靴まで用意してんのかよ!?やけに準備がいいな・・・」
「ぶつくさ言わないの。はい行ってらっしゃ〜い」
 
「さて、次はあなな達ね」
 辰実を送り出し玄関を閉めた命が再びバックを漁り出す。
「なんや?俺らもなんかするんか?」
「じゃ〜ん」
 命は二つの小さなプラスティック製の黒い箱を取り出すと和久と桜子に手渡す。
「お姉様これ何?」
「お守りみたいなものね。辰実見付けるまでちゃんと持っててね。二人にはそれだけ
ね。もう出発しちゃっていいわよ」
「絶対負けへんぞ」
「こっちこそ。あんたなんかに辰実ちゃんはあげませんからねーだ!」
 そして二人も辰実を追って家を出ていった。
「さ、最後はノリくん」
「は、はい!?」
 一人だけ状況に置いて行かれて呆っとしていたノリは不意に自分の名前を呼ばれて
大きな声を上げる。
「あなた猫になれるんだって?」
「何故にそれを!?」
「桜子ちゃんから聞いたわよ」
 ノリが猫になり辰実の家に潜り込んでいた日。あの時辰実と桜子の前で変身が解け
てしまったノリは桜子に連れ出されきつーい『お仕置』を受けていた。その時にノリ
は桜子に洗いざらい喋ってしまっていたのである。この時ノリが別の悦びに目覚めか
けていた事にはあまり触れないでおこう。
「そこでノリくんに頼みがあるの。この・・・」
 またごそごそとバックを漁る。バックから出てきた手には小さなカメラとそのカメ
ラとケーブルで繋がれた小さな機械が握られていた。
「小型カメラで辰実を追いかけて欲しいのよ。バレないように」
「追いかけるったって辰実がどこにいるのやら・・・」
「その点は心配無用よ。このレーダーによると」
 またまたバックの中から小さなモニターを取り出す。この人はいったい何者なので
しょう?
「辰実は今二丁目の方にいるわね。さ、急いで急いで」
「う〜む、面白そうじゃないですかぃ・・・んでわ」
 そう言うと立ち上がり腕をゆっくり回し始める。
「変っ・・・」
「ちょっと待った」
「あら・・・なんですか?」
 変身ポーズ(?)を途中で止められたノリがガクっとこける。
「そのポーズって必要なのかしら?」
「いや、雰囲気と言うかなんと言うか・・・」
「早く」
「はいぃ!変身!」
 ドスの聞いた声に飛びあがるとノリの身体が強く光る。その光りが収まった場所に
居たのは黒猫ノリだった。
「ニャー」
「本当だったのね〜・・・。私も一回その愛夏って人に会ってみたいわねぇ」
 ぶつぶつと呟きながらノリにカメラを取りつけていく。
「これでよし。じゃ、ノリくん頼んだわよ」
「ニャー!」
 ビシっと猫のくせに見事に敬礼するとノリも辰実の家を出て行った。
「さーてと。どうなるかしらね〜」
 命が一人残った辰実の家に妖しい笑いが響いていた。

「も〜、何でこんな事になっちゃうかなー」
 ぽくぽくと歩きながら辰実がひとりごちる。西に傾きかけてはいるがじりじりと太
陽光線が肌を差す。
「日焼け止め塗ってくればよかったかな」
 キャミソールから露出している肩を押さえる。逃げる、と言っても何所に行ってい
いやらさっぱり検討もつかずとりあえず駅前を避けて駅の裏手、住宅街に向って歩い
ていた。
「確かに和久の事はす、好き・・・だし桜子の事も嫌いじゃないけどさ・・・」
 辰実の中の『男』の部分が自分の口から和久の事を好き、と言うのを少し邪魔する。
この気持ちは一生抱えていくんだろうな、と辰実自身もぼんやりと自覚していた。
「それにしても何で俺の預かり知らない所で俺の人生が決まってるんだよぅ・・・・・・
俺が悪いのかなぁ」
 和久と桜子。和久の事を好きだと思う気持ちは間違い無い。でも、桜子の求愛にも
ハッキリとした抵抗を示せない自分がいる。辰実の気持ちは今激しく揺れていた。
「あ”〜〜!もうどうしたらいいだぁ」
 半べそで頭を抱える。存分に悩むが良い若者よ。悩んで人は大きくなる。
「佐伯・・・・・・くん?」
「んぁ?」
 不意に声をかけられ振り向く。そこに居たのはメガネをかけたショートカットの少女、
辰実のクラスメートの藤野綾(ふじのあや)が不安そうに辰実の事見ていた。
「よお藤野」
「やっぱり佐伯君だった。髪下ろしてたから間違えちゃったかと思っちゃった」
 綾は控え目な性格の大人しい少女でクラスでもとりわけ目立つ存在ではなかった。
辰実とも挨拶を交す程度の仲でそれほど親しいわけではない。
「こんな所で会うなんて珍しいな」
「そんな事ないよ。私の家この近くなんだよ」
「そっか。全然知らなかった」
 辰実と綾は2年生から同じクラスだったが綾が辰実の家の近くに住んでいた事に辰実
はまったく気付かなかった。
「俺の家もこの近くなんだよ」
「うん、知ってるよ。佐伯君が橘君と一緒に登校してるのよく見かけてたから」
 辰実は少し驚いた。今まで登校中に綾を見かけた事は無かった。と、言うより辰実達が
学校へ着いた時には綾は既に椅子に座り静に本を読んでいた事が多かったと記憶していた。
「こんな所で何してるの?」
「ん?いやまぁ、ちょっとね」
 まさか綾に本当の事を言う訳にはいかず辰実はごにょごにょと言葉を濁す。
「藤野は買物か?」
「うん、駅前の本屋さんに行ってたんだ」  綾が両手で抱えている四角い紙袋をちらっと見る。大きめの雑誌の程の大きさだった。
「ファッション雑誌かなんかか?」
「うぅん、参考書だよ」
「うへ、勉強の本か」
「宿題でわからない所があったから」
 たったこれだけの会話だが綾は楽しそうに微笑んでいた。考えてみれば辰実は綾とこれ
ほど長く話をしたことが無かった。せいぜい挨拶を交す程度か。
「うひゃっ!?」
「ど、どうしたの?」
 そんな他愛も無い会話の最中、辰実の胸の間に取りつけられたローターが不意にブルッ
と震え思わず声が出てしまった。
「大丈夫?気分悪いの?」
 胸を抱きしめて前のめりになってしまった辰実を綾が気遣う。
(や、やばい。和久か桜子が近くにいるんだ・・・。まだ心の準備が〜!)
「佐伯君?」
「ごめん藤野、俺行かなきゃ」
 辰実はそれだけ綾に言うと一目散に綾の前から走り去った。
「あ・・・どうしたんだろう」
 一人残された綾が心配そうに辰実の後姿を見送る。
「あれ〜?綾ちゃんじゃない」
「あ、十和田さん」
 辰実の姿が見えなくなってすぐ、辰実が走り去った逆の曲がり角から桜子が現れる。
「こんにちは」
「はいこんにちは。それよりも綾ちゃん、辰実見なかった?」
「佐伯君なら今あっちに・・・」
「本当!?逃さないわよ〜!」
 綾が言い終わる前に桜子は綾が指差した方向、辰実の走って行った方向へ物凄い速さ
で駆け出していた。
「・・・いいな十和田さん。佐伯君と仲良さそうで」
 綾は桜子の後姿も見送りながら小さく呟いていた。


                                ―To be Continued―

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