第五話 〜典弘君の憂鬱〜

「・・・何か面白い事はないかね〜」
 俺の名前は木下典弘17歳。ぴっちぴちの高校2年生なわけだが。
「それにつけても暑い」
 炎天下の中、ヒマを持て余してた俺は辰実の家に向って歩いていた。汗がダラ
ダラと流れシャツが身体に張り付く。気持ちわりぃ。
「は、早くクーラーの効いた部屋の中に入らないと溶けてなくなる」
 辰実の家までもう少し。女の子の家に遊びに行くって言うと聞こえは良いが辰
実は元々男だからそんな感慨はまったくない。それにしても辰実が女になってか
ら俺の扱いが酷い気がする。桜子と和久ばっかり辰実で遊んでるんだもんなぁ。
ずるいぜ。
「ここは何とかテコ入れをしないと俺の扱いがその他大勢になってしまう・・・」
 ぶつぶつと独り言を言いながら歩いていると何やら視界の隅に黒い物が写った。
「・・・あれは」
 いつぞやの黒服男じゃないか。辰実の家の近くに居るって事はまだ諦めてなかっ
たのか。隠れるようにして辰実の家を・・・見張ってるのか?
「うむむ、えらいものを見つけてしまったな」
 さてどうするか。ここは一つ男典弘格好良く決めとくべきなんじゃないの?
「よし・・・」
 携帯を取り出して110番にコールする。・・・だってしょうがないじゃん?
俺ってば悲しいかな普通の高校生なんだし。あ、やめろ!そんな目で俺を見ないで
くれ!
「警察に連絡したってダメよ〜」
「むお?」
 頭の上にポンっと誰かの手が置かれる。振り返ると見た事のあるメガネをかけ
た女の人のニコニコ顔があった。・・・え〜っと、確かこの人は・・・・・・。
「おぉ!確かまほーつかいのおねーさん!!」
「あったり〜」
 パチパチと手を叩くおねーさん。名前が出てこないけどとりあえずいいか。
「君は辰実君のお友達のノリ君よね」 「そっす、木下典弘です。で、何で警察だめなんすか?あいつら悪者でしょ」
「ん〜、まあそうなんだけどね〜。警察でど〜こ〜できる相手でもないのよ」
「でもほっとくと辰実連れてかれちゃうんじゃないんすか?」
 海の旅行の時も間一髪助けれたわけだし。何とかしないとマズイよな、実際。
「だーかーら、私がいるのよ〜」
 そう言うが早いがおねーさんは黒服の男達に向って歩いって行ってしまった。
・・・・・・面白そうじゃない。
「ついてっちゃえ」
 おねーさんの後について歩き出す。男達もこっちに気付いて何やら言い合って
いる。あ、路地裏に入っていった。おねーさんもそれを追ってとことこと路地裏
に入って行く。
 見失わないように早足で路地裏を進むと何やら叫び声が聞こえてきた。ヤバイ
予感がぎゅんぎゅんするぜ。
「うぉ・・・、すげぇ」
 既に数人の二人の男が倒れていた。よーく見ると服が所々焦げてるような・・・。
「く、くそっ!いつも邪魔してる女ってのは手前だな!」
「あなた達が悪い事ばっかりしてるから悪いのよ〜」
 おねーさんが腕を前に突き出すと人差し指で空中に何やら文字を書き始める。
おねーさんの前でメラメラと光ってるのはありゃ炎だねぇ・・・・・・。うわぁ、
マジもんだよこりゃ。その炎をおねーさんが指でつんっと押すと男に向って火の
玉が走る。
「うわっ!」
「の、典弘君!?危ない!!」
「へ?」
 男が横っ飛びに火の玉を避ける。その後に居るのは俺だねぇ・・・・・・。
って冷静になってる場合じゃない!目の前に火の玉がぶわーっと!!
「うわあぁぁ!」
 とっさに顔を庇う。あぁ・・・俺はこんな所でこんな若さで死ぬのか・・・。
童貞くらい捨てたかったなぁ・・・・・・。
「・・・・・・・・あれ」
 いくら待ってもなんも起きない。もしかして熱さを感じる間もなく逝っちゃ
ったのか?
「何ともないじゃん・・・」
 炎どころか服に焦げ目一つない。不発だったとか?
「うぎゃぁ!」
 不意の叫び声に顔を上げるとさっき火の玉を避けた男が倒れているのが見えた。
おねーさんが俺に駆け寄ってくる。
「典弘君大丈夫?」
「ええ、何ともないっすよ?」
 不思議そうな顔で俺を見られても困る。俺だってサッパリ訳がわからんのだから。
「まさか・・・そんな素質があったなんてね・・・」
「あの〜、説明とかしてもらえないっすかね?」
 一人で考え事をし始めてしまったおねーさんに聞いてみる。
「あのね典弘君。君さっき無意識に魔法使ったのよ」
「はい?」
 俺が魔法?
「そ。詳しい話は長くなるからしないけど典弘君には魔法使いの資質があるって 事。手加減してたとは言え無意識でも私の魔法消しちゃうんだからスゴイものよ」  俺が魔法使い・・・それも結構スゴイ・・・・・・。
「ねえ典弘君。あなた本格的に魔法使いやってみる気ない?」
「うへへ・・・はい?」
「実はね、辰実君にちょっかいかけてくるやつらを根絶やしにしちゃいたいんだ
けど私一人じゃ手が回らないのよ。そこで典弘君に魔法を覚えてもらって私が色
々してる間に辰実君を守って欲しいのよ」
「お、俺がっすか!?」
 イキナリ言われても困るものがあるが・・・。しかし考えようによってはこれは
長かった俺の冬に終りがくるかもしれない。チャンスってやつ?
「その話乗った!」
「さっすが〜男前〜」
 ググっとガッツポーズを取るとおねーさんがパチパチと手を叩く。
「それで、具体的にはどうするんすか?」
「ちょっと待ってね〜」
 おねーさんがゴソゴソとポケットを漁ると一つの指輪を取り出した。
「イキナリ魔法を教えるのはちょっと無理があるからこの指輪をつけてしばらく
生活してもらえるかしら?」
「なんすかこの指輪」
「典弘君の中の力を引き出してくれるアイテムね。つけてるだけで簡単な魔法く
らいは使えるようになるんじゃないかしら?素質があれば、だけどね」
「ふ〜ん」
 さしだされた指輪を指にはめてみる。辰実の腕輪と同じ銀細工っぽいな。
「それじゃ私は用事があるから行くわね。また顔出すからそれまで頑張ってね〜」
「へ?それだけ?使い方とかは?」
 ってもういないよ。すげぇ投げっぱなしだなおい。
「ぐふふふふ」
 笑いが漏れる。俺が魔法使いか。言われてみれば心なしか身体が熱くて力が漲
って来るようだ。今なら魔法が使えそうじゃないか。
「俺の時代がきた!魔法使い典弘様の誕生だ!!」
 ブンっと腕を振り上げて叫ぶ。おぉぉ!身体が実際に光ってる!これは何か出
そうだ!
「何でもいいから起こってみやがれ!」
 身体にググっと力を入れると光りがさらに強くなる。目の前が見えないほどに・・・。
ちょっとヤバイ?
「・・・ちょっと光り過ぎじゃないか・・・・・・」
 なんも見えん。お、光りが薄くなって景色が見えるようになってきたぞ。
「・・・・・・??」
 何か周りの物が異常にデカくなってる気がする。地面がやたら近いぞ。指輪が
はめられた手を見てみる。・・・・・・・・・肉球?
「・・・・・ニャ」
 『ニャ』って何だ。もう一度落ち付いて喋ってみよう。そんなまさかね。
「ニャー」
 ・・・・・・・・・。 「ニャーー!!?」
 猫になってるーーーーー!!!

「ニャー・・・」
 ひ、ひとまず落ち付け俺。現状の確認だ。場所は裏路地。OK。周りにはさっき
おねーさんがやっつけた黒服達が転がってる。OK。で、俺は猫になってる。OK
・・・・・・じゃない!
「ニャーーー!」
 何で猫になってんだ!?どうやったら戻れんだ!?戻った時服とか大丈夫なのか!?
「ウニャー」
 右腕におねーさんから貰った指輪がはめられたままになってる・・・。やっぱ魔法で
猫になっちまったのかな。うーむ、どうしよう。そうだ、こう言う異常事態が最近起こ
ったやつが知合いに居るじゃないか。辰実に相談してみるべ。
「ニャッ」
 思い立ったら即行動。幸い辰実の家も近いし急いで行こう。

 てとてとと道の隅を歩く。色々と確認してみた結果どうやら俺は今黒猫になって
るらしい。すれ違う車が超恐えぇ。運動能力も猫並になってるのか俺の背の何倍
もある塀に楽々ジャンプできるときたもんだ。結構楽しいじゃないか。
「ニャー」
 辰実の家の前に着いたけど・・・どうすりゃいいんだ。呼び鈴が高い位置にあり過
ぎて押せねぇ。ぴょんぴょんとジャンプしてみるけど上手い事狙いが定まらない。
「ニャー・・・」
 つ、疲れた。それに腹も減った。まいったなこりゃ。
「あれ?猫だ」
「ニャ?」
 声がして振り向いてみれば辰実じゃないか。なんだ、出かけてたのか。一生懸命
ジャンプして損した。って違う、辰実!助けてくれ〜〜!
「ニャーニャー!」
「何だ何だ?」
 しまったー、猫は喋れん!ジェスチャーで伝えるしかない!
「ニャニャニャ!ニャー!」
「・・・・・・面白い猫だな」
 さっぱり伝わらん。虚しくなってきた。
「ニャー・・・」
「お腹空いてるのかな?」
「ニャ?」
 ひょいっと抱き上げられてしまった。うおぉ!オッパイが当たる!
「何かあげる物あったっけ〜」
「ニャ〜」
 どうやら家の中に入れるみたいだ。戻り方なんてさっぱりわからないからとりあ
えずおねーさんが戻ってくるのを待とう。
「はい、ここで待っててね〜」
 床に下ろされしまった。オッパイが・・・。
 辰実はクーラーのスイッチを入れると冷蔵庫の中身を眺めている。腹減ってるか
ら食物くれるなら何でも食うぞ。
「これで我慢してね」
 ハムと牛乳が差し出される。まぁ、今は猫だからこんなもんか。手が使えないか
ら口だけで何とか食べるしかないか。
「美味しい?」
「ニャー」
「・・・可愛い」
 ハムをかじってると辰実が背中を撫でてくる。そっか、辰実は動物好きだったか。
「ん?お前ちょっと汚れてるな」
「ニャ」
 汚れてるとは失礼な。ただ毛皮が暑くて汗をかいただけだい。
「俺も汗かいちゃったし食べ終わったらお風呂入ろっか」
「ニャッ!?」
 お、お風呂!?辰実とお風呂・・・辰実と・・・・・・。
「変な顔するなぁ。本当に面白い猫」
「ニャ〜・・・」
 神様、ありがとう。


「美味しかった?」
「ニャー」
 食い物なんて何処に入ったかわかんないくらい舞い上がってる自分がいる。辰実
とお風呂・・・うはうは。
「さて、それじゃお風呂入ろっか」
「ニャッ」
 待ってましたー!今すぐ入ろうさぁ入ろう。心の中でガッツポーズを取っている
と辰実にまたひょいっと抱き上げられる。やわらかいオッパイが身体に当たる。俺
もうずっと猫のまんまでいいかもしんない。
 脱衣所に入ると床に下ろされる。辰実は俺の頭を一撫ですると服を脱ぎ始めた。
シャツを脱ぎブラジャーを外すと形のいいオッパイが姿をあらわす。でっかいくせ
に重力に逆らってツンっと上を向いたそれは・・・おのれ、なんと生意気なオッパ
イか。けしからん。
 何度か見た事はあるけどこうしてじっくりと見る日が来る事になろうとは・・・。
「・・・猫ってお風呂に入れようとすると逃げるもんだと思ったんだけどな」
 その場でジーっと辰実の事を見ていた俺を見ると不思議そうにつぶやく。逃げま
せんとも、ええ。
「何かものすごい視線を感じるな」
「ニャー」
 大丈夫だ辰実、猫しか見てないから。そうこうしてるうちに辰実はパンツも脱ぎ
捨てて全裸になる。薄いヘアに覆われた御神体・・・生で見られる日がこようとは。
猫万歳。
 最後に髪を括っていたゴムを取る。普段のみつあみも良いけど髪を下ろした辰実
も可愛いじゃないか。 
「さてと・・・そう言えばお前腕に指輪が付いてるんだな。飼い猫なのかな?」
 指輪がはめられた右腕を持たれる。おねーさんは魔法が使えるようになる指輪だ
って言ってたけどなぁ・・・猫になっちまうとは思わなかった。
「ま、いっか。ほら、お風呂入るよ」
「ニャー」
 カラカラと音を立てて風呂のドアを開けて辰実と一緒に中に入る。辰実がシャワー
の温度を手で調整する。
「じっとしててね」
「ニャッ」
 温かいお湯が身体にかかる。は〜、気持ちええ。

「よし、終わり〜」
 シャンプーの泡が洗い流される。水を吸った毛皮で身体が若干重いなあ。
「さて、ちょっと待っててね」
「ニャー」
 辰実が手早く自分の身体も洗い始める。こうやって見てると1ヶ月の間で辰実も
すっかり女の子らしくなったな。身体とか髪の洗い方とかも男と違って繊細な気が
する。言葉使いもどことなく女らしくなったかな?
「ふぅ、さっぱり」
 髪の毛を洗い終わると長い髪にタオルを巻きつけて頭の上でまとめる。手馴れて
るな。そんな辰実を観察しているとまたしても抱きかかえられそのまま辰実と一緒
に湯船に浸かる。
「ふぇ〜、気持ちいい〜」
「ニャ〜」
 柔らかいおっぱいに両サイドから挟まれるって言う感覚・・・こ、これは新しい。
俺は今・・・幸せだぁ。



「ふぅ〜、気持ちよかった」
「ニャ〜」
 ほこほこと湯気の上がる辰実の横をついて歩く。俺の濡れた身体もすでにタオル
で拭われている。だけど今はそんな事どーでもいいくらい幸せだ。猫になってよかった。
「さ、こっちきてー」
「ニャッ」
 ドライヤーの熱風が身体に当たる。辰実はわしわしと俺の身体を掻き回す。
『ピンポーン』
「はーい」
 身体も乾いてきた頃辰実の家のチャイムが鳴った。
「は〜ぁい、辰実ちゃん」
「う、桜子」
 桜子?何だ、桜子が遊びに来たのか。 「今日はどうしたんだ?」
「辰実ちゃんに借りてたCD返しにきたのよ」
 部屋に辰実と桜子が入ってくる。桜子のやつ妙に嬉しそうだな。
「あら?どうしたのこの猫」
「ん?、お腹空かせてたみたいだからご飯上げてついでにお風呂に入れてたんだよ」
「ふーん・・・」
 桜子に持ち上げられじーっと見つめられる。な、何か緊張するな。
「桜子どうした?」
「ん、何でもないわ」
 床に降ろされる。あー、ドキドキした。
「それより辰実ちゃん、身体の調子はどう?」
「あ、ああ。おかげさまで・・・」
 辰実のやつなんか引きつってんな。桜子がじりじりと辰実に近づいているよう
な気がする。いや、はっきり近づいてってるな。ありゃ。
「ちょ、ちょっと、おいこら。桜子って・・・」
「うふふ」
 ・・・これは、その・・・何だ。やっぱりそう言う状況なのか?
「辰実ちゃんかーわいい」
「ちょっ・・・ん・・・んん・・・ふっ・・・・・・ん」
 うわ・・・舌入ってるな。え、エロイ。
「んっ・・・んふ・・・」
 桜子が辰実のオッパイを弄る。非常にこの場に居辛いのは気のせいか?まぁ、
目は二人に釘付けな訳だが。
「はぁ・・・辰実ちゃん良い匂い」
「桜子・・・ダメ・・・・・・だって」
「ふふっ、いいからいいから」
「んあっ・・・あ・・・うぅん」
 桜子の手が辰実の身体を動き回る。興奮するがこの身体じゃどーしょーもない。
しかし猫じゃなかったらこの美味しいシチュエーションには出会えなかったわけ
で・・・。ぬあぁ!このジレンマどうしてくれよう。
「辰実ちゃん気持ちいい?」
「あ・・・う・・・くぅ」
 辰実の切ない顔が色っぽいし桜子の手の動きもエロイ。濃厚なレズシーンだ。
ん?でも辰実は元男な訳でそうなると・・・・・・混乱してきたな。
「和久の事なんか考えられなくしてあげるんだから」
「な、何考えて・・・ふぁっ!」
 辰実のパンツの中に桜子の手が!・・・・・・な、何だ?変な光りが視界に入
ってきて二人が良く見えないぞ!?せっかく良い所なのに!
「へ?」
「な、何?」
 お、やっとちゃんと見えるようになったぞ。気のせいか二人がじーっと俺の
事を見てる気がするんだが・・・。
「な、何で?」
「・・・ノリ・・・・・・あんたなんでここにいるのよ」
「むお?」
 自分の手の平を見てみる。おぉ!人間に戻ってるぞ!やった!!いや、やって
ない!!これってとてつもなくヤバイんじゃないのか?
「ノリ・・・あんた覚悟は出来てんでしょうね・・・・・・」
「さ、桜子、これはその、あれだ。ご、ごかい・・・」
 バキボキと拳を鳴らしながら桜子がゆっくりと近づいてくる。どす黒いオーラ
が見えるよママン。
「ぎゃわーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

                           ―To be Continued―

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