西暦20XX年。ある紙一重の青年の手により世紀の発明が完成しようとして
いた。
「物質融合炉・・・スタンバイOK。プログラム最終チェック・・・OK」
 様々な機器が乱雑に散らばる薄暗い部屋の中央、そこに二つの巨大なカプセル
に挟まれた異形の機械が鎮座していた。その機械の前でせわしなく動き回り計器
をチェックしコンソールを叩いている白衣を着た青年の姿があった。青年のメガ
ネには光りが映り込んで怪しく光っている。
「よし」
 コンソールを叩いていた指の動きがとまり、青年は二つのカプセルに何かを入
れその扉を閉める。するとカプセルの扉の上についていたランプが赤から緑に変
化する。
「いくぞ。成功してくれよ〜・・・」
 青年は再びコンソールの前に立つと大きなボタンにゆっくりと指を伸ばす。機
械から漏れる低い振動音に混じって唾を飲み込む音が一つ響く。『ピッ』という
機械音、そして機械とカプセルが小刻みに振動し始め白い煙が勢い良くカプセル
から吹き出す。
「うぉっ・・・!」
 部屋の中に白い煙が充満し青年もろとも全てを飲み込んで行く。しばらくして
機械から出る音が止み静寂が部屋を満たす。
「・・・・・・し、失敗か?」
 ブンブンと腕を振り回しながら青年が煙の中から現れる。煙を押しのけながら
カプセルに近づくと中身を順に確認していく。二つ目のカプセルを開けたとき青
年の動きが止まりその顔に満面の笑みが広がっていく。
「や、やった!でけた!成功だ!!」
 青年は白衣を振り乱しながら何度もガッツポーズをとる。
「やっぱり俺って天才!わははははははっ!!」
 カプセルの中に納められていた何かを掲げ上げくるくると回る。はたから見る
と少し危ない光景だ。
「ぬふふふふ・・・、こうなると人間で実験したくなるのが科学者の性というや
つか」
 青年は手に持っていた何かを机の上に置くと白衣を脱ぎ椅子の背もたれに乱暴
に掛ける。
「しかし人間で実験と言っても色々と問題ありそうだな・・・・・・そうだ、あ
いつにお願いしよう。うん」
 それだけ言うと青年は上着を羽織り部屋を出て行ってしまった。煙の晴れた部
屋の机の上にメロンがブドウのように房になった奇妙な果物が置かれていた。



―日本科学大学
 日本中の将来有望な学生達が科学を学び、競い合う日本有数の私立大学。その
研究室の一室―。
「ぶえっくしょんっ!」
 研究室に大きなくしゃみが響く。ロボット工学科の研究生、稀之恩(きのめぐみ)。
恩は鼻をズルルっとすするとティッシュを一枚掴み盛大に鼻をかむ。
「うぅ、悪寒が・・・風邪引いたかな」
 そうひとりごちるとパソコンの前から離れコンビニで買っておいた昼食をビニー
ル袋から取り出す。パンをもそもそと噛みながら打ち込んでいたプログラムにエラ
ーチェックをかける。恩は研究室の課題であるロボットの動作プログラムを制作し
ていた。研究室での成績は中の中。これといった特徴のない平凡な生徒であったが
人付き合いが良く友達は多かった。
『コンコン』
 好物の豆乳でパンを流し込んでいると研究室のドアが鳴った。
「はいは〜い。今教授はいねーよ」
「よう、元気してっか」
「・・・学か」
 ドアを開けて現れたのは恩の友人の一人崎山学(さきやままなぶ)。大学稀代の
天才と言われている彼だが1年の頃から付合いのある恩は学が本当はどう言う人間
であるかよく知っていた。学は一部の学生達から『変人』と呼ばれていた。
「なんだよ、露骨に嫌な顔するな。失敬な」
「俺は今忙しいんだ。帰れ帰れ」
「そう邪険にするなって。ジュース持ってきてやったんだから。丁度食事中でタイ
ムリーじゃないか」
 そう言うと学は琥珀色の液体が注がれた紙コップを差し出した。
「・・・・・・それを俺が飲むと思ってるのか?一年の頃からお前が思い付きで作
った怪しげな薬の実験台に無理やりされてきた俺が」
 学はやれ毛の生える薬だとかやれ身長がぐんぐん伸びる薬だと怪しげな薬を作る
と恩に『ジュースだ』と言って散々飲ませてきていた。恩はジュルルーっと豆乳を
ストローで啜ると学の差し出したジュース(?)には目もくれずパンに齧りつく。
「うぅ、人の好意を無下にするなんて。お母様、都会は恐い所でした・・・」
 学はメガネを取ると両手で顔を多い大げさにしゃくりあげる。恩はそんな学を冷
やかな目で見ると再び豆乳を啜る。
「もうその手はくわん。お前のそれで何度痛い目に合ってきたことか・・・む、豆
乳無くなっちまったか」
 ペコっと音をさせて豆乳の紙パックがへこむ。その音に反応し学がバッと顔を上
げる。
「飲み物がなくなったんじゃ喉が乾くだろう!?そんな時はほれ、ジュース」
「うぉっ」
 学のジュースがずいっと恩の鼻っ面に付き付けられる。パンはまだ半分残ってい
る。飲み物無しでこれを食べ切るのは確かに辛そうだ。このジュース良い匂いする
なぁ。等など、恩の頭の中に様々な考えが浮かぶ。これまで、恩は何度となく学に
騙されてきていたがその原因は結局の所『お人好し』なのである。数瞬の熟考の後、
恩は学から紙コップを受け取った。
「今度こそ大丈夫なんだろうな」
「大丈夫だって、俺を信じろ親友」
「誰が親友か・・・ん、酸っぱ甘い。美味い」
 紙コップの中身を一口口に含む。すると程よい酸味と爽やかな甘さが口に広がり
喉を通り過ぎていく。
「これ何所のジュースだ?」
「ん?あ、ああ、なんか新発売のやつだ。コンビニで見付けたんだよ」
「ふ〜ん、後で名前教えてくれや。今度買うから」
「お、おお。じゃ、俺自分の研究室に戻るわ」
 そう言うと学はそそっくさと部屋から出て行ってしまった。一人残された恩は残
りのパンをパクパクと口に運ぶと最後にジュースを一気に飲み干した。
「うい、ごっそさん。さーて、後半戦と行くか」
 紙コップとパンの袋をゴミ箱に捨てると恩は肩をグリグリと回すと再びパソコン
の前に座った。

 一時間後。恩の研究室のドアがそろそろと開き隙間から学が顔を覗かせる。ドア
の隙間から恩の背中が見える。どうやらパソコンの前に突っ伏して眠っているよう
だ。
「めーぐみ〜」
「ぐー」
「おーい、恩ってばよ〜」
「ぐーぐー」
 研究室に入り込んだ学はゆさゆさと恩を揺さぶり声を掛けるが全く起きる気配が
ない。
「睡眠薬大成功。すまん恩。これも研究の為だ」
 学は恩をおぶると足早に研究室を後にした。






 寝苦しい。それよりも寒くて身体が痛い。恩は浮き沈みする意識の中異様な寝苦
しさを感じていた。何か狭い所に入れられているような・・・。
「う・・・・・・んん?」
 眠気に抗い目を開けてみると最初に飛び込んできたのは銀色の扉。どうやら狭い
円柱状の筒に入れられているようだ。
「ど、どこだ?ここ・・・」
「お、目ぇ覚めたか」
「学?」
 扉の向こうから学の声が聞こえてきた。ダルい身体と気を抜けばすぐにも沈んで
行ってしまいそうな意識に鞭打ち扉に手を掛ける。開かない。
「おい、こりゃ何のまねだ?」
「よろこべ恩。俺の世紀の発明の実験台の人間第1号に選ばれたぞ」
「ふ、ふざけんな!早く出せ!」
 ドンっと力いっぱい扉を叩くがビクともしない。相当頑丈な作りのカプセルのよ
うだ。
「大丈夫だ。痛くしないから」
「そう言う問題じゃねーーーー!!」
「スイッチオン」
「こらーーー!人の話しを聞けーーー!!」
 ヴンッと言う低い音と共にカプセルが細かく振動する。恩は扉から離れると何所
かに出れる場所はないか視線を巡らせる。が、カプセルは完全に密封されているの
か目の前の扉意外に出れそうな所はない。
「う・・・わっ」
 恩の身体にまで振動が伝わってくる。全身が小刻みに震えるような感覚。気分が
悪くなり恩は自分の身体を抱きしめた。
(身体がバラバラになる・・・っ)
 ついに立っていられなくなりその場に崩れる。身体が少しずつちぎられて行く錯
覚に陥り目を閉じてしまう。
(俺が・・・なくなるっ!)
 全身の感覚が無くなり自分が何所に居るのかさえわからなくなる。どこか、しい
て言えば無重力の中をグルグルと回りながら高速で飛び回っているような奇妙な感
覚。頭の芯が痺れて何も考えられなくなる。そんな時間が1秒だったのか、何時間
もあったのかわからなくなった頃、不意に全身の感覚が元に戻りプシュッと言う空
気が抜ける音がした。
「・・・・・・や、やった!大成功だ!!」
 何時の間にか扉が開き目をキラキラと光らせた学がガッツポーズをとっていた。
「このっ・・・!」
 一発殴ってやろうと拳を振り上げた時奇妙な違和感に襲われた。声がいつもより
高いような、そして金属の冷たさが肌にダイレクトに伝わってきているような・・・。
「まあ待て恩、今鏡を持って来てやろう」
 学はいそいそと机の上を漁ると鏡を恩に付き付けた。そこには見慣れたいつもの
自分の顔ではなく可愛らしい、しかしどこか違和感のある少女が映っていた。

「な、な・・・」
 頭に手を伸ばすと短い毛に覆われピンッと立っている何かに触れた。お尻に手を
伸ばすとこれまた柔らかい毛に覆われた紐のような物があった。
「なんにゃこれはぁぁぁーー!」
 そう、そこに映っていたのは動物の、猫の耳と尻尾が生え、少女の姿になった恩
の姿だった。しかも何故か全裸で。
「にゃ!?ご、語尾が変にゃ!?」
「ふっ、天才の仕事は完璧をもってよしとする。猫耳娘の語尾と言えば『にゃ』だ
ろ・・・ぐえぇ」
「ふざけんにゃーー!元に戻すにゃーー!!」
 恩は学に飛び付くと首を絞めてガクガクと揺する。
「お、落ち付け。実はまだ分離機能は開発中で・・・ぐえぇ」
「にゃんだとーーー!?」

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