アリスの娘たち〜 シルヴィ(2)
「……はぁ、んん……」
不器用だけど濃厚なキス。ぎこちないけど心地よい愛撫。
(ただ抱かれてキスするだけで、こんなに気持ちいいなんて……)シルヴィは、
自分の何かが変わっていくような予感を覚えた。
タケルはシルヴィの腰に手をまわし、ゆっくりと芝生の上に横たえる。
「やだ、恥ずかしい……」
こんなにも近くで、はっきりと自分の裸体をタケルに晒すことに、恥ずかしさが
増していく。真白な肌を、瞳のように紅色に染め、女性の特徴を両手で隠す。
「キレイだよ、シルヴィ。もっと良く見せて」
タケルは折れそうなほど細いシルヴィの両手首を掴んで、頭の上へと押しやった。
(乱暴なタケル。でも無理も無いわ。まだまだ女の体に興味津々の年頃なんだから。
私だって最初は……)
「いいよ、タケル。好きなようにして……」
シルビィは体の力を抜いた。
「え?う、うん、その……、さわってもいいかな?」
顔を赤くしながら問うタケルに、シルヴィは答える代わりに、にっこりと微笑み、
彼の手を自分の胸に当てた。
ぎこちない愛撫ではあったが、タケルに触れられる喜びをシルヴィは全身で感じていた。
「ねぇ、タケルも服を脱いでよ。」
「う、うん」
タケルはあっという間に、服をすべて脱ぎ捨ると、シルヴィに覆いかぶさるように手をついて、
向き合った。
「やさしくしてね」
「……、う、うん」
しかしタケルは、まだリードがないと、その次ができない様子だった。
問うようにシルヴィを見つめる。
「愛してるわ、タケル」
自然にでた言葉だったが、口に出して始めてその言葉の意味を悟った。
(そうだ、これが愛するってことなんだわ。プリンが好きだったり、ウサギが好き
だったり、ホントはやさしいお姉さまが好きだったり、そういうのとは違う、この感情。
だから、タケルの瞳を見ることが、タケルとキスをすることが、タケルに触れられる
ことが、こんなにも気持ちいいんだわ)
「ボ、ボクも……だよ、シルヴィ」
と、戸惑い気味にタケルが応える。
「ふふ、いいの、タケルにはまだわからないかもしれない。でもいいの。
……ほら、興味あるでしょ?」
セリフの最後は伽の時、戸惑う相手への常套句。シルヴィは大胆に足を開いて
タケルを誘った。
くちゅくちゅ……、という恥ずかしい音がシルヴィにも聞こえてくる。
タケルはシルヴィの股間に顔を埋め、秘唇を指で広げて舌を遣っていた。
「きゅんっ!うんんん」
女裂の頂部、紅色の豆粒に歯を立てられ、シルヴィの体が弓なりになる。
「はぁ、はぁ……。あまり強く噛まないで、おかしくなっちゃう」
「ごめん、ボク、その、あまり慣れていなくて……」
「…………」
「どうしたの?」
「ううん、ごめんね。タケルだけのワタシじゃなくて……」
「うん、でも今はボクだけものだよね?銀髪の妖精」
「……。ワタシはタケルに独占されていたいだけの女の子よ…。来て」
(タケルと"シテ"いる写真が娯楽誌に載るのは、本当は嫌。だけど、きっとタケル
もその雑誌を手に入れる。そして何度も今この時のことを思い出してくれるに違
いない。そしたら、今度もう一度タケルと会えたとき、もっと私がして欲しいように、
私を愛してくれるかも……)
不安と期待が入り混じった、複雑な思いに感情が波立つのを抑えようとシルヴィ
は目を閉じたが、なかなかそのときは訪れなかった。
「どうしたの、タケル?」
「その、ボク、どうしていいのか良くわからなくて……」
「タケルは、その…男になったんじゃないの?"経験"してないの?」
「その……、一回だけ、その……ハルカさんと、お話して。ハダカは見せてもらった
けど、あとは……手で、その、気持ちよくしてくれただけだから…」
「…………」
「え、ええと、その……」
「ふう、なんかワタシ、気負いすぎていたのかな……」
「ゴメン。その……。なんていうか、その……」
「他の女の名前を出すのはルール違反だけど、正直に言ってくれてありがと、
だから……」
シルヴィは、タケルの股間に顔を埋め、彼を口に含んだ。
「……、ひゃっ、シ、シルヴィ!」
「んふ、ん……、はぁ。濡れていないと痛いのよ。私のほうは、もう準備できて
るから……。ほら、ここに指を入れてみて。」
シルヴィはタケルの手をとり、自分の入り口に導く。
妖精は淫魔に変貌を遂げていた。
「ほら、奥まで入っていくでしょう?」
「あたたかくて、ぬるぬるしてる。」
「……はぁ、あんまり指を動かさないで、ココにあなたのを入れるのよ」
「……え、でもこんな狭いところに?」
「それは、ワタシのセリフよ。私の腰に手を当てて、そう。じゃあ手を添えてあげ
るから、ゆっくりと引き寄せて……」
「こう?」
「そう、そのまま……。んん……はぁ、ゆっくりね」
少しずつシルビィの中に、タケルが挿入されていく。
未経験の刺激に、タケルは思わず声が出る。
「ああ、あったかくて、気持ちいい……」
「もっと気持ちよくなるわ。もっと、……んぁっ!」
シルヴィは子宮を突かれて、思わず声を上げてしまった」
「大丈夫?」
表情が辛そうに見えるのだろうか、気遣うようにシルヴィの額に手を添える。
「はぁ……、平気よ。ねぇ、そのまま抱き締めてキスして」
タケルは言われるままに、シルヴィの背に手を回し抱き寄せてキスした。
お互いに舌を絡ませる濃厚なキス。シルヴィが下腹部に力を入れて、腰をゆっ
くりと動かすと、タケルがくぐもった声を上げる。シルヴィは自分の喘ぎ声が漏
れないように、タケルの頭の後ろに手を回し、もっと深く舌を差し込んだ。
だんだんと律動が激しくなり、くちゅ、くちゅ……と音がしはじめる。
タケルは、少しずつ要領を得てきたせいか、積極的にシルヴィに自分を打ち付
けてくる。単純な動きだが、深いところまで突きあげ続けられるうちに、シルヴィ
は脱力状態となって、タケルのされるがままになっていた。既に主導権はタケル
に移っていた。時々じらすように、タケルの胸板がシルヴィの胸の尖りに触れ、
それがさらにシルヴィを高みに押し上げていく。
「はぁ、シルヴィ、ボク、もう……」
「わ……たし、も、もうダメ。いきそう……」
その刹那、タケルに一段と強く腰を打ちつけられたかと思うと、シルヴィは体の
奥に熱いものが広がっていく感覚を覚えた。
「はぁ!……ううっ、あぁ……」
「くっ、うぅんん……!」
2人は同時に果てた。
(あれ、そういえば、私……)
タケルはシルヴィに覆いかぶさり、まだ息を荒げている。
シルヴィは深い充足感に、タケルが愛おしくなってそっと頭を撫ぜる。
「……シルヴィ、ボク……」
「何も言わなくていいわ、タケル」
そう言ってシルヴィは軽くタケルにキスをする。
「そういえば、撮影だったんだっけ、つい夢中に……」
シルヴィは急に恥ずかしさがこみ上げてきて、髪以外の体中を真っ赤に染め
ていた。下を向かずにはいれず、とても周りを窺うどころではない。
「あれ?みんなは……。シルヴィ、ぼくたちしかいないよ」
「え、……?」
「ボクらが、あんまり……。その、自分たちの世界に入っちゃってたから、あき
れて撮影やめちゃったのかな……」
そんなことあるわけが……とシルヴィは訝しんだが、おそるおそる周囲を窺うと、
確かに他に誰かがいる気配は無かった。
「シルヴィ……」
タケルが手を伸ばして、シルヴィを抱き寄せようとする。その意図をシルヴィは
見抜いたが、それを阻むようにじっとタケルを見つめていった。
「タケル、聞いてくれる。」
「……う、うん。」
「1年半、毎日タケルのことが気になって、頭の片隅から離れなかった。
だからね、絶対に会って言いたいことが、たくさんあったの。でも……」
「でも?」
「あんまり多くて、忘れちゃった……」
「何それ?」
「いいじゃない。ねぇ、私たち普段は離れて生活しているけど、お互いが望めば、
またきっとこうして会うこともできる」
「うん」
「本当はね、このままタケルに、ワタシを連れて宇宙のどこかへ、2人だけの世界
に連れて行ってもらおうと思っていたの」
「ええっ!!そ、そんな、ボクにはそんなことは……、先輩に怒られちゃうし……」
タケルはあわてて言う。しかし、シルヴィは意地悪く質問する。
「あら、タケルはワタシには独占したい、って思えるほどの価値が無いって言うの?」
「そ、そんなことは…。だいいち、宇宙(そと)は君が思っているほど、のんきな場所じゃ
ないよ。強力な恒星風だとか、ものすごいスピードでぶつかってくる宇宙塵とか……」
(やっぱりね……)必死になって弁解するタケルに、シルヴィは心の中で舌を出して、
こんどは目いっぱいしおらしくいう。
「ごめんなさい、無理を言って。タケルに毎日会えないのはつらいけど、でもまたタケル
に会えると思えば、つらい仕事もがんばれるわ。だからタケルも仕事がんばってよね」
シルヴィはにっこりとタケルに微笑み、そっと頬にキスをすると、何か言いたげなタケル
をよそに、着るものを探し始めた。
一ヶ月後、シルヴィは購買部の併設された食堂の片隅で、問題の娯楽雑誌を
手に、中を見るかどうか考えあぐねていた。とりあえず目次だけでも確かめよう
と表示させてみると、"銀髪の妖精"とタイトルが付けられた記事に目がとまった。
おそるおそる再生してみると、例の公園で撮影されたサマードレス姿で戯れる
シーンと、静止画のヌード映像がいくつか収録されていた。いずれも若々しい
シルヴィの肢体を自然に捉えた、好ましい印象を与えるものばかりだった。
(あれ?カラミのシーンなんて無いじゃない……)
唯一、カラミといえなくも無い映像は、記事の最後にあった。泣き出しそうになった
シルヴィに、やさしく白布を掛けてくれた時の、二人がお互いに見詰め合うシーン
だった。
(ま、いい思い出ができたよね……)
そこへ、いかにもたまたまといった風に、編集長が通りかかった。
「あ、編集長!これ、カラミって……」
「やぁ、シルヴィちゃん。見てくれた?。"清純派"のシルヴィちゃんにふさわしい
記事だろう?おかげで評判も上々。じゃ、取材があるから、またね……と、忘れてた。
これは出演者へだけのボーナス映像」
と、一枚のプリントを置いて、そそくさと去っていった。
("清純派"はもう、卒業しちゃったんだけどな……)
シルヴィは頬杖をついて、裏返しに置かれたプリントをめくった。
それはあの映像の続き、"彼とのキスシーン"だった。一瞬また血圧があがったが、
それは怒りからではなく、恥ずかしさからだった。
(でもありがとう、編集長)シルヴィは素直にそう感謝した。
しかし、雑誌の発売後、"公園でシルヴィを撮らせて"というリクエストが殺到し、
またまた編集長を恨むことになるのだが……。