アリスの娘たち〜 ひろみ(2)
「はぁ、はぁ……、んくっ……」
「かわいいわね、ヒロミ。」
ボクの心を強く捉えて離さない、深い藍色の瞳が妖しい光を放っている。
「我慢しなくても良いのよ、怖くないから」
「でも……、はぁ……、きゃふんっ!」
それまで、頼んでも触ってくれなかった秘裂を、突然なぞりあげられた。
すでに恥ずかしい粘液で濡れていたボクのぷっくりとした恥丘が、ぬるりとハ
ルカさんの指を押し返す。ハルカさんはボクの目を瞬きもせずに見据え、愛液
で濡れた指をワザと見せつけるように舐めとって見せた。
……ボクはハルカさんに食べられてる…… そんな錯覚を覚えた。
「そうよ、もっともっと、そのかわいい声で鳴きなさい、ヒロミ」
"経験"しないまま、女になったボクは胸や性器以外に、こんなにも感じる場所
があるなんて、想像もしていなかった。男でいたときと比べると、まさに全身が
性感帯という体になっていた。服を着て食事をしたり、リモート端末でアーカイ
ブにアクセスしている時は、特にどうということはないのに、ハルカさんに抱き
すくめられただけで、性感帯のスイッチを入れられたように、どうしようもなく感
じ始めてしまう。
「…ハ…ハルカさん。はぁ……ん、も、もう許して……」
「お姉さま、と呼びなさい。て、何度も言っているでしょ?ダメよ。
あなたがイクまでやめてあげない」
「そ……んな、やぁ……!」
イジワルなセリフとは裏腹に、そろそろ限界と見切ったハルカさんは、
まだ発育途上のボクの乳房の頂点を甘噛みした。
「うぁん!あぅ……」
その一撃で、ボクは今日何度目かわからない絶頂に押し上げられ、気絶して
しまった。
「んふん。ホントにかわいいわね」
ハルカは、腕の中で寝息を立て始めたヒロミの髪を撫でながら言った。
装置に入ってから約3ヶ月後、ボクの体は性転換を終えて装置から取り出され、
隣にある薄暗い部屋のベッドに寝かされていた。
目が覚めたとき、周りには誰もいなくて、身動きすらできなかった。
体全体がまだ焼けるように熱く、暗く落とされた照明が、ボクをどうしようもない
恐怖に突き落とし、いつの間にか声を上げて泣いていた。
「どうしたの!ヒロミ、怖い夢でも見た?」
ハルカさんは血相を変えて部屋へ飛び込んできた。わんわん泣き始めたボク
をぎゅっと抱きしめながら、背中をさすってなだめてくれた。思い出すと今でも
恥ずかしいけど、性転換したばかりの体は、脳と体の神経とがバランスをうまく
取れない状態になっていて、精神的にもとっても不安定になるのだそうだ。
だから、転換直後のパートナーはとても重要で大変な重労働だ。
最初の一日のほとんどを、ボクは泣きじゃくりながら過ごした。ハルカさんに抱
かれてうつらうつらし始めたボクは、寝かしつけるために照明を落とされただけ
で目を覚まし、泣き叫んでハルカさんを困らせた。
2日目は、口の中がざわざわして水を飲むことすら嫌がって、いくらなだめす
かしても食事をとろうとしなかった。痺れを切らしたハルカさんに、頭から流動
食をぶちまけられた。
3日目は、ほんの些細なことでも無性に苛立って、あたりかまわず手近な物を
投げつけたり、暴れたりした。ハルカさんは体中にアザや引っかき傷を作りな
がらも、ボクをなだめようと必死になってなだめてくれた。
4日目は何とか落ち着いたけど、今度はハルカさんに甘えていないと物足りな
くて、朝からまとわりついて離れず、結局あきらめたハルカさんと一日中、べた
べたしながら過ごした。
そうしてようやく9日目に、ハルカさんが部屋を留守にしても、ひとりで過ごせる
ようになった。精神的にも落ち着いたなと思ったハルカさんは、10日目の今日、
ボクに"調教"を始めたのだった。
「気が付いた?ヒロミ。じゃ、第……何ラウンド目だったっけ?」
「ハル……、じゃなくて、お姉さま。もう勘弁して。これ以上続けられたら発狂し
ちゃいそう」
「そう、残念ね。んじゃ、いいもの見せたげる」
「ブックカード?ずいぶんアナクロだけど、妙に新しい……」
パスワードさえあれば、どこにでもある端末から、あらゆる情報が引き出せる
船内では、本来こうしたメディアを、わざわざ使う必要が無い。
「"お子様"だったヒロミは知らないかもしれないけど、"オトナ"の私たちには
こういう娯楽情報誌があるのよ。使い方わかる?」
そういって差し出された、カードのフレキシブルディスプレィに表示されたヴィ
デオを見て、思わず声を上げてしまった。
「お、お姉さま、これはいったい……?」
それは6日前、性転換後に始めてシャワールームに入った時のものだ。
すべすべした肌にシャボンを塗りつける行為が気持ちよくて、小鳥が水浴びし
ているみたいに、はしゃいでいる自分のあられもない姿が、リピート再生され
ている。
「"デビュー前のヒトコマ"、ってところかしらね。新しい"アリスの娘"には、
船内のみんなが注目しているのよ」
「姉さま!!いつの間に!!」
「あら、こわい。いいじゃない、かわいいわよ。初々しくて」
ボクは真っ赤になってうつむいてしまった。自分でもまだ見慣れていない上に、
明らかに子供っぽい姿を船中の人間に見られているかと思うと、恥ずかしさが
こみ上げてきて、どうにもいたたまれなくなってしまう。
「私も出ているのよ。静止画だけど。ほら」
そこには見慣れない服を着たハルカが、細長い武器を携え、獲物を見据える
ように、こちらを見つめる全身像が映し出されていた。長い黒髪をなびかせ、
切れ長の深い藍色の瞳に光を湛える凛とした姿に、ヒロミも目を奪われたが、
どう見ても戦いにふさわしくないような服装に思えた。
「お姉さま、この服は何?」
「セーラー服。……変かな?」