第二話

――まだ……奥に、残ってる……
『こと』の後、あれだけティッシュで拭き取ったのに、こうしてお腹に力を込めると、
嘘のように章介の精液は溢れ出してくる。
未だに余韻を引き摺りながら、透は洋式トイレに座っていた。、
まだお尻の穴は敏感なままで、ティッシュにくるんだ指で触ると、小さな痛みが走った。
……痛いのだけれど、何故かその痛みが変に心地よい。
蚊に食われた場所を、余計に痒くなるとわかっているのに掻かずにはいられない、
あの心理と似たようなものかも知れない。右手の中指を使って、揉むように刺激する。
「あっ…」声が出た。
――やめろ。癖になったら困るだろ?
自分に言い聞かせて、透は指を動かすのをやめた。
あの日、初めてお尻でエッチしたというのに、透はイッてしまった。
ハンドクリームを塗る章介の指が、一度たりとも爪を立てたり、乱暴に扱ったりせずに、
丁寧にクリームを塗ってくれたからかも知れない。
その後、念を入れ、自分で『よし』と思うまで章介のちんこにクリームを塗ったからか
も知れないし、途中で暴発してしまった章介に初めての『顔射』をくらって、不思議なこと
にちょっと嬉しかったせいかも知れない。
犬みたいに突き出した透の小振りなお尻を、章介の手が、がしっっ、と固定して、
章介のちんこがそっとお尻の穴に触れて……そこまでの流れを思い出すだけで、あそこが
『きゅっ』となる。
その後、ぷにぷにした亀頭が、お尻をめりめり音が出そうな感じに押し分けて入ってきて……
「はぁぅ……」 ……そこまで入ったら後はもう思いっきり体重を掛けた章介がずずっ、と全部入れちゃって
こっちが悲鳴を上げているのにごめんねごめんね言いながらがっつんがっつん腰を打ち付け
てあれよと言う間に精液を――
「ひっ、ひゃぁぁぁぁぁっ!」
あそこの中から、射精するみたいにおしっことも愛液ともわからないものが噴き出してくる。
折角ティッシュで拭いたのに、また汚れてしまった。
「はーっ、はーっはーっ……」
殆ど無意識に、右手があそこをいじくっていた。奥から出てくる、白くて濃い愛液のせいで、
中出しされたみたいにぐちゃぐちゃだ。
性転換したばかりの頃、触るだけで痛く、ぴったり閉じて何者も受け付けなかった透のあそこは、
もう指二本ぐらいなら入るくらいに柔らかくほぐれてきている。
そっとやれば、ほの暗い空洞が見えるくらい拡げても、痛くないほどだ。嗅ぎ慣れた男の体臭 とは違った甘酸っぱい匂いが、むぅっ、と立ち昇ってくる。
もっといじりたい。その欲求に、あえて透は逆らわないことにした。
くちゅ……。
「んっ、ひゅふぅ……」
もっといじって、もっと柔らかくしなければならない。章介のを受け止めても平気なぐらいに。
初めてのアナルセックスを経てから、もう何度も透は章介と身体を重ねていた。
章介が、なけなしの勇気を振り絞り、顔を真っ赤にしてエッチをさせて欲しいと言ってくると、
ついつい許してしまうし、それにお尻を使ったセックスは、いまだかつてない快感を透にもた
らしてくれた。
最初の数回は特に何の考えもなく、ただ、気持ちいいし、章介なら別に嫌でもない。それだけの
理由でエッチしていた。
だが、少しずつこれではまずいと考えるようになってきた。
このままお尻でエッチしていたら、そのうちお尻でしかイケなくなってしまうのではないか?
そうふと思ったのだった。馬鹿げているようだが、本人は結構本気だった。本当に気持ちいいし、
やればやるほど自分でも反応がよくなっているのがわかる。
それにAVやエロ本で『お尻でしかイケないのぉ』のような台詞は結構見かける気がする。
そう思い始めると、連鎖反応と言うべきか、色んなことを思うようになる。
そもそも女として生きていくと決めたのに、最初の最初が間違っているし、普通の女の子は
それにはまってずるずると関係を続けたりはしない。
そう言えば最近は章介と学校以外で会う時はエッチなことしかしていなくて、これじゃあ
まるで単なるセフレだ――
このままで駄目だ。透は悩んだ末、そもそも何が悪かったのか結論を出した。

最初に普通のセックスをしなかったのがまずい。

結論が正しいかどうかは置いておいて、とりあえず透は、その最初の間違いを正すべき行動しだした。
即ち、オナニーしてあそこを鍛えよう! である。
そんなわけで、
「あんぅ、ああっ、あああっ、ああっ、あぅあぅうぅぅーっ」
今日も透は『普通』のエッチを完遂するべく、オナニーに励むのであった。

「はぁーー……」
 最近、透に避けられている気がする。校舎の屋上の隅で、章介は溜息を吐いた
 思い当たる要因は、あり過ぎるほどあった。
 お尻を許してもらってからというもの、今までの男同士としての友情を考慮してもなお、
透のことを女としてしか見れなくなってしまっている。
 そう言う想いは態度に出るものだろうし、昔から勘の鋭い透は、それに気付いて気味悪がって
いるかも知れない。
 それに、一度だけ、あくまで『遊び』で身体を任せてくれたのを、調子に乗って頼み込んで
何度もエッチさせてもらったのも悪い。
 透はああ見えて昔から優しいから、きっと嫌なのを我慢して、させてくれてるんだろうなあ――
そう思う。
 「うう……ああ……どうしよう……」
 自分の馬鹿さ加減が嫌になる。これほど後悔するのなら、最初の一回で我慢するとか、
そうでなければせめて、もっと間を空けて、少しずつさせてもらうとかすればよかったのだ。
本当に大馬鹿――
 「おー。いたー。おーい章介―」
 「!?」
にこにこ手を振りながら、透が近寄ってくる。半分パニックになり、章介は動けなかった。
「んん、どうした? 顔色悪いぞ?」
「なっ、っ、なっんでも……」
どもる章介を気にした風もなく、透はにっ、と笑った。
「まあいいや。なあところでよ……あー、っと……」
そこで言葉を切り、透は俯いた。少し待って、章介が先を促そうと口を開く直前、何かが章介の
前に突き出された。
「あのな章介っ。俺と、デートしてみねーか?」
それは、水族館のチケットだった。

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