鈴木有紀 1


学校の帰り道、家に帰ってもすることが無いので鈴木有紀(スズキユウキ)は渋谷を徘徊していた。
ゲーセンに寄ってなんとなく1ゲームだけプレイしすぐにゲームオーバー。
ゲーセンを出てブラブラとCDショップ、本屋、ゲームショップに寄る。
何か買おうというわけではない。
ただなんとなく寄り道をしているだけだ。

有紀はこうやって歩くのが好きだ。
いや、正確に言うと歩くのが好きなわけではない。
道路を歩いている時にすれ違う女子中学生や女子高生、OLを見ていると非常に楽しい。
すれ違うロングヘアの女性を見ては「あのサラサラの髪に触れてみたい」と思い、
あるいは健気な女子高生を見ると「あの柔らかそうな身体に触れてみたい」と思い、
顔には出さないものの唾をゴクリと飲み込み、何か昂奮したものを得るのであった。

有紀は高校生だが小柄で顔も童顔であることを気にしていて女性と付き合うのはどうも腰が引けてしまうところがあった。
内気で恥ずかしがりだということもあるだろう。
最近学校で多い女性経験の話題にはまったくついていけなかった。

そして今日もなんとなくという名目でギラギラとした目で都会を徘徊しているのだ。
ハチ公の前で一人の女の子が目に入った。
赤地のチェックのミニスカートを穿き、肩にかかるストレートの髪を手で
耳にかけ携帯電話をいじっている女子中学生らしき初々しい女の子だった。
(僕にもあんな女の子が欲しい、あんな女の子のすべてを所有してみたい…)
有紀の中で妄想が膨らみ、年下の女の子にイカされる自分を想像していた。


「そこの彼、もしも〜し」
「えっ!?」
突然の背後からの声に現実世界に引き戻された。
振り返ると有紀の高校と同じ女子のセーラー服を着た女の子が立っていた。
1歳上の先輩だろうか。彼女から放たれる女性めかしいオーラには惹かれるものがあった。
「キミ、今ヒマしてる?援交しない?」
「ハッ?」
何を言い出すかと思うと彼女は突然とんでもないことを口にした。
「だってさぁ、キミ暇そうじゃない?私お金ないからさ…。どうしても今必要なんだ。ねっ、頼むよ!」
有紀はすぐに断ろうとしたが学校での友人との会話を思い出した。
(そういえばまだ女性経験がないのは僕だけだ…)
だからと言ってこうも簡単に初体験を済ませてしまっていいものだろうか。
有紀がシブっていると女の子は呆れたように
「はっはーん、もしかして童貞?大丈夫よ、今どきそんなの気にしてる人なんていないって」
彼女はグイグイと有紀の手を強引に引っ張りどこかに連れていこうとする。
「お、おい…ちょ…ちょっと待ってよ。君、強引だよ…」
口ではそうは言ったがこの先一体どうなるのか内心楽しみでもあった。
「あ、そうそう、まだ名前言ってなかったね。私1年生の藤堂愛(トウドウアイ)、よろしくねっ」
「え、あぁ…どうも…。僕は…」
「鈴木有紀先輩でしょ、知ってるよ。ユウ君って呼んでもいい?」
(彼女…僕より年下だったのか…)
彼女が言ってることはあまり耳に入らず、有紀はボーっとそんなことを考えていた。


愛は同性しか愛せなかった。
それを自覚したのは小学5年生のころだった。
一番仲の良い友人の女の子に恋をしてしまったのだ。
愛はその友人に過剰にスキンシップを取り、そしてある日友人を家に招き、
冗談めかしくキスをしてみたら友人もおもしろがり愛のことを拒否しなかったため、中学を卒業するまで友人との関係は続いた。
愛は積極的に友人を攻め、友人は愛のされるがままになるのが専らであった。
しかし友人が親の都合で関西に引っ越してしまってからはつまらない日々だった。
高校で新しく出来た友人に自分の性癖を明かすことなんて出来ない。
何人かの男性とお付き合いもしたが、どの男性もあまり好きになれずすぐに破局した。
「はぁ…私に合う男性なんかいないのよね…やっぱ女の子と激しく愛しあいたい…」

ある日愛は教師に頼まれた視聴覚機材をビデオ室に運んでいた。
そのとき前方の廊下でドーンと大袈裟な音を立て転んでいる生徒がいた。
「イテテテテ…」
童顔で背が低く少女にも見える男の子。
愛の心臓はドクンと高鳴った。
「おい、有紀!大丈夫かよ」
有紀と呼ばれた生徒はゆっくりと立ち上がり泣きそうな顔をして
「大丈夫じゃないよ…。そんなことより人前で思いっきりコケて恥ずかしい…」
彼はそこから逃げるように走り友人たちも笑いながらそれを追いかけすぐにそこには誰もいなくなってしまった。
(有紀って呼ばれてた人…可愛い。先輩かな…。まるで女の子みたい…しかも転んだ時の恥ずかしそうな顔…。
 マゾの素質もありね…フフフあの人ならもしかしたら…)
愛は無意識に口元をつりあげサディスティックな笑みを浮かべていた。


「着いたよ」
「えっ…?ここ…?」
有紀と愛がやってきたのは大豪邸の入り口だった。
「私のウチなんだから別にいいじゃない」
有紀は絶句した。
愛が冗談を言っているのかと思ったくらいだ。
「それともホテルが良かった?私お金がかかる場所は嫌なの」
「いや、そんなことより…ここ…ホントに君の家なの…?」
そう思うのも無理はない。
有紀の家の20倍ほどの広さがある大豪邸だ。
そもそもこんな大豪邸に住む女の子が援交などを望むだろうか。
有紀は先行きが不安になった。
「うん、ウチのパパ、藤堂病院の院長なの。知ってるかもしれないけど学校の先に見える病院よ」
藤堂病院…。
近所でも有名な大病院で有紀も何度かお世話になったことがあった。
それに学校の健康診断の受け持ちも藤堂病院がすべて行っている。
「藤堂病院の院長の娘!?なんでそんな娘が援交なんかを…?」
「あら失礼ね。院長の娘だからって甘やかされてるわけじゃないわよ」
愛はムッとしたような顔になって反論を始めた。
その顔がまたいじらしくて可愛かったので有紀は思わず笑ってしまった。
愛は身体の発育こそ早く色めかしいオーラを発してはいるが、
やはり高校1年生らしく喜怒哀楽がハッキリとして案外わかりやすい性格かもしれない。
「人の顔見て笑わないでよね。小遣いだって月に15000円よ。
 男の子だったら十分な額かもしれないけど、洋服買ったりオシャレをするには少なすぎ!
 パパももう少しくらい私に小遣いをよこしてもいいと思わない!?
 もしかしたら私への嫌がらせかもしれない。いや、きっとそうよ!
 食費を削ったり節約したりいろいろなやりくりをして大変。
 肌の手入れが出来なくて慢性的にカサカサ肌になっちゃったりしたらどうしてくれるのかしら。
 あー、そう考えただけでも悲しくなってくるわ。
 それにいつも院長の娘だからお金を沢山持ってるってみんなに勘違いされて恥ずかしい目にあったり…」
マシンガンのように繰り出される愛の話を受け流しつつ聞いてとりあえず大変なんだなと有紀は納得した。

愛の部屋に接待されるとそこは綺麗に整頓された少女らしい部屋であった。
「あ、私ちょっとシャワー浴びてくるからユウ君はそこで待っててね」
愛はそう言うとその場でセーラー服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!!!」
有紀は生の女性の裸体など見たことがなく、愛の行動に戸惑ったが
軽く呼吸をし、バクバクと鳴る心臓の鼓動を抑えた。
(こんなところで脱ぎ始めるヤツがいるか…フツウ?)
すると彼女は一瞬先ほどと同じような呆れたような顔をしたがすぐに微笑んで話しだした。
「もー、何言ってるの。これから私達エッチするんだよ。
 今さら裸見るくらいで何恥ずかしがってるの?今のうちに見て慣らしておいたら?
 まあユウ君のそういうトコって女の子っぽくて可愛いけどね」
「か、可愛い!?バカ言え。それに女っぽいっていうのはやめてくれよ」
「ハイハイ、とにかく私シャワー浴びてくるね」
愛は有紀の顔を見て笑みを浮かべながらセーラー服をベッドの上に放り投げた。
そして下着姿になりそのまま部屋を出て行こうとしたが思い出したかのように振り返り
「あ、そうそう、退屈させたら悪いしな〜んでも好きなことしてていいわよ」
含みのある言葉を残し部屋を出て行った。
「何してもいいって言われてもなぁ…。することないじゃん…」
有紀はとりあえずベッドにもたれて愛が帰ってくるまで待つことにした。




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