ボクたちの選択 9


担任のはるかには、母、涼子が連絡したようだった。
翌日の午後、圭介の家を訪問した“はるかちゃん”は、リビングで何をするでもなくテレビをぼんやりと見ていた圭介を見て、
「か…かわいい…」
と呟いた。
けれど、剣呑な目で見やる圭介に気付いて慌てて居住まいを正すと、母と圭介と3人でテーブルを囲み、
定石通りの定例文を告げ、40分ほどで帰っていった。
つまり、「君の苦しみもわかるけど」とか「みんな待ってるの」とか「外に出る努力をしなくちゃ」とか「先生信じてる」とか、
そういう、いわゆる「ひきこもり不登校生徒」に対するものと同じような対応の、新任教師にありがちな“マニュアル対応”をしたわけだ。
初めての担任で一所懸命なのはわかるけれど、あまりにも配慮が足りないとしか、言わざるを得ない。
いつもの圭介であったら、そんな事を言われようものなら「勝手な事言ってんじゃねーよ」とか
「自分に都合が悪いからだろ?」とか「本当は心配なんかしてないくせに」とか「だったら変わってやろうか?」とか、
ちょっとひねくれた言い方をしてしまったところだった。
けれど、圭介を襲ったショックは本人が思ったよりもずっと根が深かったようで、その時の彼は何も言えないまま、
はるかが諦めて帰るまで「ああ」とか「はい」とか「うん」とか、彼女の方を見ずに顔はテレビの画面に向いたまま、
ただ繰り返し返事するのが精一杯だった。

結局、はるかの事は、今まで頼りないとは思っても決して嫌いでは無かったけれど、
今回の事でますます「頼りにならない」と痛感し、そして、ほんのちょっぴり嫌いになった。
一所懸命だし、圭介の心を完全にはわからないまでも、せめて親身になろうというのはわかるから、
全然嫌いになった…というわけではない。
けれど圭介は、本当に大事な事は決して相談出来ない人なんだ、という、そういう認識をしたのである。


そして、由香は次の日、結局夜になっても、来なかった。

ちょっと、ショックだった。
けど、仕方ないな、と思った。
逆に、あの後、大丈夫だったのだろうか?と思った。
由香は、「ぽややん」としているようで、実はいろいろ考え過ぎて、突然ポキンと折れてしまうようなところのある、
そんな女の子だったから。
健司はと言えば、翌日の夜になってやってきて、前日からまた急激に髪が伸び、骨格が完全に女性化して、
ますます女の子っぽくなった圭介を見て、それでも
「けーちゃんは、けーちゃんだから」
と言ってくれた。

嬉しかった。

他の誰に言われるよりも、心に染みた。
男が人前で泣くなんてのは、とても恥ずかしい事だ。
とてもとても恥ずかしい事だ。
けれど、涙がこぼれた。
ぽろぽろと頬を伝い落ちて止まらなかった。
外見とか、性別とか、そういうもので区別しない幼馴染が、かけがえの無い宝物に思えた。
コイツには、何でも話せる。
コイツなら、頼れる。
コイツなら、何があっても、オレを裏切らない。
そういう、確信めいたものが胸の中に芽生えたのである。
それはまた一方で、健司に見捨てられるような事があれば、彼に嫌われるような事があれば、自分はきっとひとりぼっちになってしまう。
そんな、強迫観念じみた想いもまた、芽吹かせる事となったのだった…。





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