作品名 作者名 カップリング
マサヒコの女難週間(プロローグ) 郭泰源氏 -

「ねえねえ、マサヒコ君て、女の子に興味ないの?」
「な…、なんなんですか、いきなり」
自分に集まる5人の視線にうろたえるマサヒコ。
マサヒコの部屋で授業を終えた後の、いつものお茶会での風景─。
今日は、アイが誘ったミサキと中村が誘ったアヤナも含めた全員集合である。
「だって…部屋にエロ本もないし、こんな美人教師や美少女に囲まれてるのにいつも
平気な顔してるし…。前はEDかと思ったけど、もしかして興味そのものが無いのかと思って」
「…自分で美人教師とかいいますか、フツー」
「年上でもなければ、同じ年頃の子でもない…。てことはマサ、まさかアンタその年でロリコ…」
「違います」
中村の投じた内角高めの危険球を冷静にカットするマサヒコ。
「ふ〜ん…ねえ、マサってさ、クラスの女子とかに人気ないの?モテない?」
「え…」
ミサキ、アヤナ、リンコの3人は、顔を見合わせた。
「そんなことも…」
「ないと思いますけど…」
「あたし、他のクラスの子が小久保君のこと可愛いって言ってるの聞いたことあるよー」
(的山、お前こんなときになんちゅうことを!!!)
マサヒコは焦るが、そんな彼の気も知らず、にこやかにしているリンコ。天然爆弾炸裂である。
「ほおお、可愛い?…確かに、こうしてよく見てみればマサ、アンタって結構…じゅるっ」
ねっとりとした視線でマサヒコを見つめ、舌なめずりの仕草をする中村。
「じ、冗談はよせ」
危険を察知して思わず後ずさるマサヒコ。
「ねえねえ、リンちゃん、それ本当?」
そんなふたりのやりとりをよそに、ミサキは思いっきり険のある表情でリンコと話していた。

「ウン。なんかね〜、ジャニーズ系だとか言ってたよ〜。背も高くなくて男くさくないって…」
リンコはなにげに結構キツイことを言い、マサヒコは複雑な表情を浮かべている。
「ねね、じゃあさ、マサヒコ君。こん中なら、誰が一番タイプ?」
「え…」
アイと中村、それにリンコはニコニコと笑っているが…。
(…ってか、若田部と天野…なんなんだ、その目は)
マサヒコは、残りふたりの射るような視線に気づいて言葉を失った。
(…ねえ、マサちゃん。ちっちゃい頃の約束、覚えてるよね…あたし、だよね?)
(天野さんには絶対、負けられないんだから…それにあたしだって…)
何も言わずとも、このふたりの考えていることなど他の人間にはモロバレである。
「あの…こんな不毛な議論するよりも、その…時間があるなら、授業を…」
「もう終わったでしょ」
なんとか危機を回避しようとするも、ミサキとアヤナにばっさりと一刀両断されるマサヒコ。
「いいじゃん、言っちゃいなよマサ〜。根性無しー。チーキーン」
(ってメガネ、お前は無責任に煽るな、ヴォケェ!!!)
心の中で中村に罵声を浴びせるマサヒコだが、現状は確実に悪化へと向かっている。
(…こ、ここは、メガネは論外として、安全策としてアイ先生って言っとくべきか?)
周囲の状況を判断してマサヒコは視線をアイの方へと移すが…。
(…?え、もしかして…あたし?わわわ、どうしよう…でも、嬉しいかも?)
マサヒコと視線があって可愛らしく頬を染めているアイの様子を見て、
(ってイカン。アイ先生はオトコ経験ゼロだった…これでマジになられたりしたら…)
慌ててその考えを打ち消した。
(こうなったら…ゴメン、的山。ここはお前が一番安全だ。犠牲になってくれ…)
こんな状況でも冷静さを失わず、瞬時に方向修正するマサヒコであった。
「えと、みんな可愛いとは思うんですが、一番話しやすくて一緒にいて楽なのは的山かなと…」

「わーい、やった〜、一番だ〜!あたしも小久保君好き〜!」
リンコだけは大はしゃぎだが、
「なんで!」
と、他のメンバーは異口同音に叫び、全く納得がいっていない様子である。
「小久保、どういうことよ!」
「マサヒコ君、さっきあたしのことじっと見てたじゃない!」
「小久保君、あたしと何年の付き合いなのよ!」
「えええと…その…」
女性陣の集中砲火を浴び、しどろもどろになるマサヒコ。が、いつもなら率先して
マサヒコを吊し上げるはずの中村はなぜかその喧噪の中に加わらず、
遠巻きからじっとその様子をうかがっていた。
「いいんじゃない?マサはリンがタイプだって言ってんだから」
「はへ?」
予想外の相手から救いの手を差し伸べられて妙な声を上げてしまうマサヒコ。
リンコ以外は皆、露骨に不満そうな表情を浮かべているが、
相手が理不尽大王の中村では議論の挑みようもない。
「さて、そろそろ帰るか…さ、行こ、みんな」
率先して、皆に帰宅を促す中村。なんとか火種が消えたことに安心したマサヒコは、
(あ、ありがとう、メガ…いや、中村先生)
先程までの悪態も忘れて心の中で中村に感謝の意を述べた。
しばらくして全員を家から送り出し、部屋に一人残ったマサヒコが、
(はああ…今日はマジで危なかった…)
と、一息ついたとき…。
“ガチャ”
マサヒコにとって最も心臓に悪い人間が突然ドアを開けて現れたのだった…。

「わわ?な、なな中村先生?」
「マサ、今日は上手く逃げたね」
にやり、と笑う中村。
「に、逃げてなんて、いいいいませ…」
「ま、アンタのこったから誰も傷つけないように気ぃ使ったつもりなんだろうけど…」
「…」
図星なだけに、マサヒコは何も言えずに固まっていた。
「でもね、いつまでも逃げられると…お・も・う・な・よ?」
マサヒコが今までに見たこともないくらい、凶悪な笑顔を浮かべてトドメを刺す中村。
マサヒコは恐怖のあまりあんぐりと口を開けてその姿を見つめていたが…。
(この女に、感謝なんてするもんじゃねーな…貞子以上だぜ、今の顔)
と、先程中村に感謝したことをいまさらのように後悔していた。
「ふふふ…それだけ言っておこうと思ってね。じゃーね、モテ男君」
中村は、凶悪な笑顔を浮かべたまま、再びマサヒコの部屋を出て行った。
マサヒコは、その場でヘナヘナと腰が抜けたように座り込むのだった…。

場面変わってとあるファミリーレストラン。
「お姉様、荷物忘れたわりには遅いですね」
「そうねえ。今日は先輩、なんか様子が変だったし。ぱくぱく」
「このパフェ超美味しいですぅ〜♪」
(小声でボソボソと)「絶対…おかしい…なんで…リンちゃんなの…」
四者四様の表情で中村を待つ4人。
「おー、遅くなってゴメンねー、みんなあー」
「あ、先生!」
ぶんぶんと中村に向かって手を振り回すリンコ。

「さてと。じゃあ、始めますか」
席について、コーヒーとケーキをオーダーすると、中村はそう言って切り出した。
「?先輩、始めるって何を…」
「コホン。題して、マサヒコの純潔を奪え、チキチキ大レース〜!!!」
(…ダサイ…)
リンコ以外全員そう思っていたのだが、相手が相手だけに口には出せない。
「?せんせぇー、それってなにをするんですかぁ?」
「ふふふ、リン以外のみんなは、今日のマサの回答に、満足なんてしてない、そうよね?」
「それは」
「もちろん」
「ですけど」
「リンには悪いけど…今日のアイツの回答、魂のこもってない模範解答よ。
あいつ、誰も傷つかない、一番被害の少ない答えを選んだだけで、全然本音じゃないはず」
「…そうなんですか…」
少し寂しげな表情を浮かべるリンコ。
「でもね、リン。あそこでリンの名前を出すってことは、マサはリンのことを信用している…。
つまり、それなりに好意がないと、あんなこと言えないってことでもあるから」
それを聞いてぱっと顔を明るくするリンコ。
「で、お姉様。具体的にはどういう…」
「んふふ。ここらでさ、いつもクールな小久保少年の、本音を聞いてみたいって思わない?
それに、アイの言葉じゃないけど、これだけ魅力的な女の子が集まってんのに、
あんな小僧一人落とせないってのも情けない話じゃない」
(…確かに)
理屈はムチャクチャなのだが、妙に説得力だけはあるのが中村の中村たるゆえんである。
その場にいた全員が、なぜかその言葉に納得してしまったのだった。

「ここにいる全員が、順番にマサに告白してくわけよ。もちろん、シチュエーションは
各自自由だけど、その日についてはふたりっきりにして、誰も邪魔しない。それで、
最終日にマサの反応を見て、一番激しかった人が優勝〜♪ってことで」
「全員ってことは…まさか、先輩も?」
「もちろん。言い出しっぺが参加しなくてど〜するの〜?
ま、こんなキレイなお姉様が迫ればイチコロだろうけどね〜♪」
「あの…お姉様。で、優勝者には、何が…」
「ん?みんなに誉められて終わり」
「ってそれだけですか!」
「運が良ければ処女喪失のオマケつき〜♪」
(ってそういうアンタは処女じゃないだろう)
中村以外の全員が同じツッコミを心の中でいれていた。
「でも…そんな風にマサヒコ君のことを…おもちゃみたいに…」
と、アイが珍しく常識的な意見を言ったその直後…。
「私、やります」
沈黙を守っていたミサキが、突然口を開いた。
「おほ?ヤル気だねえ、ミサキちゃん」
「はい。…皆さん気づいてると思いますけど…もう、あたし、決着つけたいんです。
マサちゃんとの初恋に。こんなままグズグズしていたくないんです。前に、進まないと…」
キッと顔をあげ、そう断言するミサキ。他のメンバーは、その様子を見て、
(こ、これは、負けられないわ…勝負よ!)
(でも…マサヒコ君は、あたしの大切な…)
(だって…あたしのことが、一番好きだって…小久保君、さっきそう言ったんだもん)
(ふふふ…面白い展開になってきたじゃない?)
と、それぞれの思いを抱きつつ、参加の意向を固めるのだった。

「よし、みんな参加ってことでいいのね?」
こくり、とうなずく4人。
「それじゃ順番決めましょうか。あ〜みだく〜じ〜♭あ〜みだく〜じ♪ひいて楽しい…」
「先輩、みんなそんな歌知りませんよ…ホントはいくつなんですか?」
「黙れ」
と、ひとつボケとツッコミが終わったところで順番が決まった。
「トップバッターは…アヤナ。次がリン。次がアイ。その次がミサキちゃん。
最後が…あたしか。勝負は…アヤナ、いつスタートにする?」
「そうですね…じゃあ、クラスのことで相談があるとか言って…土曜日からにします」
「よし。みんな、恨みっこなしってことで…いいわね?」
全員が、その順番を確認し、再び大きくうなずく。こうして、賽は振られたのである─。

“ピンポ〜ン”
「あ、母さんいないんだっけ………あれ、若田部?」
「こ…こんにちは、小久保」
マサヒコが階段を下り、玄関ドアを開けると、そこには固い表情のアヤナが立っていた。
「?どったの?」
「あのさ。クラスのことで…い、委員長としてよ?聞きいことがあるんだけど…、今、大丈夫?」
緊張すると怒り口調になるのがアヤナである。
「え?ああ、別に今ゲームしてただけだから…良いけど」
マサヒコは特段気にすることもなく、アヤナを家の中へと迎え入れた。
「…そんで?」
「…うん。あの…今日のあたしさ、どう?」
「へ?」
いきなり直球勝負のアヤナである。

彼女なりに、気合いを入れた格好のつもりなのだろう。よく見ると、
唇にはうっすらとリップが塗られたうえ、目元にはラインが引かれている。
ブラウスは胸元を強調したものであり、スカートの丈も普段のアヤナにしてみれば
(あくまでさりげなくではあるが)短めである。
しかし、相手は小久保マサヒコ。そんなことに気づくわけもないのであった。
「…?いや、いつもどおりの、若田部だけど?」
「!」
(こんのぉー、あたしが恥ずかしい思いをしてこんな格好をしてるのに…何よその言いぐさは!)
完全に逆ギレであるが、今の彼女にその事実に気づく余裕などない。
「…小久保。あんた、天野さんとどこまでいってるのよ」
「ほえ?」
いきなりの話題の転換に、マヌケな声をあげるマサヒコ。
「な。いきなりなんだよ、若田部」
「いいから。…答えなさいッ!」
「…いや、俺らはタダの幼なじみで、別にどこまでとかは…てゆーかさ、
なんでお前にこんなこと言わなきゃならんわけ?」
「うるさいわね!目の前でイチャイチャされてると…ふ、風紀が乱れるのよッ!」
ムチャクチャである。さすがに彼女の様子のおかしさに気づいたマサヒコは、言った。
「なあ、若田部。お前、中村になんか吹きこまれたんだろ?」
「え?そ、そんなことない…」
「ああ、やっぱりそうなんだな…あんのメガネ…」
コトの次第を自分の頭の中で整理したマサヒコは、うんざりだ、という表情を浮かべた。
「あのなあ、若田部…俺、マジで天野とは、良い友達だと思ってるんだけど…」
「?そうなの」
「そ・う・で・す。…だから、さっきからそう言ってるじゃん」

(あれ?なんで、あたし、こんなに…嬉しいの?)
自分の心の中に浮かんだ感情に、少し戸惑い、少しときめくアヤナ。
「もちろん、若田部や、的山のこともそう思ってるぜ?」
「え…ありがとう」
やけに素直に感謝の言葉を述べるアヤナだったが…。
(でも…あたしだけ、特別ってわけじゃないんだね…)
独占欲のような─そんな思いが、ちくり、とトゲになって彼女の心を刺していた。
「ならさ、小久保。あんた…気になる子とか、いないの?
この前の話じゃないけど…。意外に、モテないわけでもなさそうじゃん」
「それも結構微妙な言い方だな」
マサヒコは苦笑を浮かべた。
「ん…いやさ、俺、正直、女の子と付き合うとかって…まだ、わかんねーんだ。
初詣のときも言ったけどさ、いつまでもみんなと仲良くいられればいいな、
ってぐらいしか思えねーっつーか。…ははは、ガキなのかな、俺」
そう言ってはにかんだような笑顔を浮かべるマサヒコ。
「小久保…」
アヤナは、胸が少し締め付けられるような…そんな、切ない思いでマサヒコの言葉を聞いていた。
(小久保って優しいんだね…)
そう、優しいのだ。そうでなければ、思春期真っ盛りのお年頃でいつも
女の子に囲まれていて、こんな風に自然体でふるまえるはずがない。
「ねえ、小久保…今日、あんたのとこきたのはさ、ホントは…個人的な相談があったんだ」
「ん?そうなの?」
「ウン…あのさ、あたし、最近気になる男の子ができたんだけど…こいつが激鈍ってゆーか、
全然気づいてもくれなくてさ…。あの…あたしって、小久保から見ても、魅力ない?」
「え…」

その手の話題は苦手だと宣言したばかりなのに、またもふられてマサヒコは困惑していた。
「魅力、ないわけじゃ…ないと思うよ」
「その言い方こそ、微妙だよ」
アヤナはそう言って少しふくれっつらを作った。
「いや…若田部はさ、活発だし、頭も良いし、家事も得意だし…。あと…えーっと、
美人だし。だから…若田部のことを、好きになる男なら、この先もたくさんいると…思うけど」
さすがに本人を目の前にしてはいいづらいのだが、マサヒコは言葉を選んでゆっくりと話した。
「…ホント?ねえ、ホント?」
顔を赤くして、歓喜の表情を浮かべるアヤナ。その様子は、
普段の強気な彼女にも似合わず、非常に─可愛らしいのである。
「うん…。だ、だから若田部はさ、もっと自信持っていいと思うよ。
多分、その人も…若田部の魅力に、そのうち気づくんじゃないかな」
「気づいて…くれるかな、ホントに…」
そう言ってじっとマサヒコの目を見つめるアヤナ。
(な…なんだ、この雰囲気は)
先程のケンカ口調からいきなり女の子らしく態度の急変したアヤナに、戸惑うマサヒコ。
「ねえ…小久保…あたしね」
「あ、若田部。そう言えば、お茶とか飲みたくない?俺、淹れてくるわ」
一気に勝負をかけようとしたアヤナだが、危険を察知したマサヒコは、
絶妙のタイミングでその攻撃をかわした。このあたりは経験がものをいう。
(あぶねえ〜、何か起きてしまいそうな…匂いがプンプンしてたもんな)
マサヒコは急いで階段を下り、キッチンでお湯を沸かしてお茶の準備をした。
(メガネの差し金とは言え…困ったモンだな、若田部も。普段は冷静なのに)
まさか女性陣全員の標的になっているとはさすがにこの時点では気づいていないマサヒコ。
彼の人生で、最も過酷で多難な一週間は、まだ幕を開けたばかりなのだ…。

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