眼、見ざるを浄と為す




 「きゅっ、きゅ‥っ、ぴぴきゅううう〜っっ ・°°・(>_<)・°°・」
地面に座ったまま‥というより尻餅をついた体勢のままの八戒は、両手をバタつかせて泣きじゃくり。

 「?!?!???!!???!?!???」
体に巻きつくんじゃないかというくらい長い首を上下左右に振り乱したジープは、自分の身体を見回していて。

 「なんなんだよ、なんなんだよっ、なんなんだよーー(>0<)っっ」
と、騒いでるだけの、悟空。


そして・・・

 「だー!!面倒臭えっっ!!」

真っ先にキレた悟浄は、八戒を肩に担ぎ上げ、ジープを頭に乗せ、悟空の襟首・掴んで走り出した。







           <2>







 「おや?」
 「あら、まあv」
 「おー!元気じゃなのう」




どたどたどたどたたんっどてんどてっずべべっっっ


さんざん村人に冷やかされながら元来た道を走り抜け、仮宿のドアを破壊しそうな勢いで閉めてホッとした瞬間つんのめって、悟浄は年期の入った床板に顔からコケた。
だからして。
頭からジープが、肩から八戒が転げ落ち、ついでに悟空も床へダイブした。


 「「きゅっ!きゅっっぴ〜〜〜!!??」」
 「いってーな!なんなんだよバ河童ッッ」


そんなこんな不協和音の大合唱に黙っているはずのないのが‥‥


 「喧しい!!」


容赦ない三蔵のハリセンは、マッハ58の速度で振り落とされた。

 「ぃっ痛って、何んで俺なんだよっっ」

もちろん、悟浄に向かって、だ。




     ◇◆◇◆◇



 「で」
 「ああ?」

家主である老人は、気を利かせてくれたのか「畑へ行く」と言って出て行った。
「お手伝い」と誤魔化して抜け出そうとした悟空は三蔵の一睨みにあって、現在、隅の壁にへばり付いたまま動けないでいる。

幸せを囲むはずの丸い食卓も今は、ピリピリした空気に包まれていた。
グレたガキを詰るオヤジ。
いや。
傲慢な教師を無視し続ける不良学生。
と、その横で所在無く立ち尽くすのは、幼馴染みの優等生と、卓上の未知なる生物。
いや、そんなコトはどーだっていい。


 「どういうことだ」
 「知らねー」

チャキッ

間髪いれず銃口を向けられても、悟浄は微動だにしなかった。
食卓で向かい合ったまま、三蔵は腕を下げようとせず、悟浄も平然と紫煙を吐き出している。
逆に
 「「ぴぴぴぴぴっきゅきゅきゅっぴーーっっ」」
と、二重唱による抗議にあって、三蔵の額の青筋は瞬時に倍増された。
 「喧しいっつってんだろーが!!」

 「止せよ」

常に三蔵の短気を諌めるのは八戒だった。
その八戒に対して激昂する三蔵と、それを制する悟浄なんて、今まだかつて見たことがない‥‥と、悟空はさらに四肢を壁に張り付かせた。
 「俺が行った時には、もう、こーだったの」
なんともやる気のない‥腑抜けた声とともに吐き出された紫煙はドーナツ型。
 「どういうことだ」
銃を直し、同じ問いを繰り返す声は幾分落ち着きを取りもどしているかのように思えたが、眉間に刻まれた皺は深まるばかりで、三蔵はイライラと指で机を叩き出す。

  タンタンタンタン‥‥

落ち着きない――行儀の悪い――三蔵へ、八戒とジープは ずいっ と顔を寄せた。
 「「ぴーっぴ。」」
くるん とした、緑と赤の円らな瞳が三蔵を嗜める。

 「‥‥ジープに叱られてやんの」

小さく呟いたはずが静まり返った室内に大きく響き、殺気に満ちた眼光を向けられた悟空は、壁に張り付いたまま ぶんぶんっ と首を左右に振って許しを請うた。
けれど‥‥三蔵は不意に眼光を曇らせ、ゆっくり、ゆっくり‥八戒へ向き直って呟いた。

 「ジープだと‥?」


 「そ。ジープ」
 「ぴっ」

悟浄の肯定に、名を呼ばれたと思って答えたのは、「八戒」だった。

 「んで八戒。」

次いで、悟浄が自分を指差してそう告げた時、「ジープ」は‥目を回してひっくり返った。




    ◇◆◇◆◇




 「んでさ、八戒が、なんだかこ〜、むずかしそーな顔しててさ!!」

記憶力は確かだが表現力に乏しい悟空は、それでも身振り手振りの熱演で状況説明を試みていた。
何せ、いつもなら言葉足らずな自分をフォローしてくれる八戒は、ひっくり返ったまま発熱して、今は悟浄の上着に包まれ食卓に寝かされていた。
「俺がガンバルしかない」と気張れば気張るほど、どんどん言葉は不明瞭になり、擬音のオンパレードになっていく。


 「俺とジープがこーやって葉っぱをビーッて引っ張って遊んでたら、ポキッて折れてさ!な、ジープ!」
 「きゅーいっ」
 「いちいち確認するなっ、お前も答えるなっっ」


何んとも奇妙である。

姿形は―――身長181cmの「妖怪系ホモサピエンス」=猪八戒(♂)22歳――なのだけれど。
穏かな笑顔は、きょとん として
涼し気な瞳は、精彩を欠き
しなやかな物腰は、おどおど と落ち着きなく
薄い唇から発せられる言葉は―――

 「八戒もジープも『ぴっぴ』言うようになったんだ☆」


自分に判ることを全て話し終えて、悟空は どん と胸を張った。
が。
魔の縦皺海溝は、深く深く深く、本数を増やして刻まれて――キレた。


 「要はっ、コイツとコレがっっ、ぶつかった拍子に中身が入れ替わったってことだろうが!!」


「コイツ」とジープを指差せば、発熱して意識を失っている小さな体が ピクンッ と震えた。
「コレ」と八戒を指差せば、「コレ」呼ばわりに機嫌を損ねた成人男子がその指に噛み付いた。

 「痛っ、何しやがる!」
 「ぴーーーっ」
三蔵が噛み付かれた指を ぶんぶん 振り回せば、八戒‥いや、ジープもムキになって歯を食いしばってくるから、三蔵も ブンブンブンッ とさらに指を振り回す。

くどいようだが。 
ジープのしていることとはいえ――「八戒」が「三蔵」の指に噛み付いて揺さぶられている図――というのは、実に奇怪‥‥シュールである。
「きーきー」鳴きながら三蔵に噛み付いているのは八戒なんだけれど、でも「ジープ」なんだということはわかった。

けれど、まともな思考で理解するのはとても難しいことで‥‥悟空は、とうに飲み干したカラのカップに噛り付いたまま、空腹を訴えることもできずにいた。

 「そのくらいで許してやれよ」

ハリセンを振り翳す三蔵をやんわり宥め、悟浄は悟空と三蔵のマグカップにコーヒーを注ぎ足し、八戒‥いやジープを三蔵から引き離した。
 「ぴ〜」
納得いかないジープは(八戒の顔で)悟浄に向かって甘えた声をだした。
 「お前もさ、せっかく人間になってんだから、喋ろうとか、努力してみ?」
「ん?」と、優しく微笑む紅の瞳は変わらないままなのに、いつも通りに肩へ飛び乗ろうにも、自分の体は大きくて重たい。
思うように動かない体を傷つけたりなんてできないから‥‥おとなしく‥おとなしく‥しようとして、ジープはだんだん小さくなっていった。
そんなジープに、悟浄は、
 「お前が悪いんじゃねーだろ?なに落ち込んでんだよ」
と、にこやかに笑って頬を撫でてやった。


今は「八戒」の体なのだけれど。
いつものように、少しゴツゴツとかさついた親指が頬を撫でていく。
励まそうとするその笑顔は、自分だけに向けられたもの‥‥‥

 「ぴぴぴきゅ〜〜!(><)!」



 「あ。」

悟浄に飛びつこうとして、ジープ(でも今は八戒)は両手を羽ばたかせて‥‥当然、飛べずに‥‥ずっこけた。

―――目の前にいた三蔵を巻き込んで。




 「でっ、出て行けーーーっっっっ!!」




まだ つづくの?





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