眼、見ざるを浄と為す




昨夜の宿で立てたルートは、今日は一日山越えで、夜は野宿の予定だった。
けれど、昼時前に行き当った小さな集落で、見るからに怪しげな風体の野郎4人連れにも関わらず、年老いた村人達に勧められてしまって‥‥。
朝が早かったこともあって、休憩をとることにした。
そして賑やかな昼食をすませた小一時間後、さあ出立しようとした時、待っていたかのような俄か雨に見舞われてしまった。

 「こんくらいの雨はこの辺りじゃあ、しょっちゅうでな。すぐに止むんじゃが、麓までの道がぬかるんで危ないから、まあ、ゆっくりしていけば良いさ」

 「古いが、部屋数はあるぞ」
と、仮宿として自宅へ招き入れてくれた老人のそんな言葉に促され、三蔵は黙って頷き、八戒は台所を借りてコーヒーを淹れ始めたのだった。




老人の言ったように激しかった雨は数刻で止んで、みるみる内に晴れ上がっていく空を窓から眺めていた悟空とジープは、大きな虹を見つけて外へ飛び出していった。
しかし、老人と将棋をしていたところを鼻で笑われた悟浄が三蔵に勝負を挑み、いまや熱戦の佳境に突入している二人には見えていないようで‥‥

  「いーい風になりましたね〜〜」

大きなお子様のお守りは無用。
のんびりとした口調で「うーん」とノビをして、八戒は悟空たちの後を追うことにした。





 「やあ」
 「災難だったねえ」
 「あとで、寄りなよ。これから畑に行ってくるからさ」
 「今夜は宴会じゃからな!」


すれ違う村人は、皆口々に笑顔で声をかけてくれるから、自然と八戒の歩調も頬も緩んでしまう。
 「いい人ばかりですね。でも‥‥」
過疎が進んでいるのか見掛けるのは老人ばかりで、子供はもちろん、若者の姿もない。
 「妖怪の気は感じられないし、お年寄りばかりで‥‥よく無事で」
進めば進むほど、西域は荒んでいくばかりなのに――この村に、そんな危機感は微塵も感じられない。
こんな雰囲気の村が前にもあったような‥‥そんなことを考えながら歩いていると、

 「はーっかーい!!」

元気な悟空の声に、八戒は視線を巡らせた。
村人に貰ったのであろう菓子を両手に持った悟空は、八戒の随分先を歩いていて、村外れを指差した。
 「アレ!何んて木だっけ〜?!」
 「ぴぴーーv」
ジープは楽しそうな声を上げると、緑濃い葉の茂る木に向かって飛んでいき、悟空もあっという間に菓子を平らげて追いかけて行った。

 「え‥と?」

見覚えがある木だった。
喉元まで出てきてるけれど、名前が出てこない。
――ド忘れだ。

 「でけー木ぃ〜、変な葉っぱ〜〜っ」

絶対に知っている木だった。
高く高くまっすぐ生える高木。
見たことのある葉だ。
濃い、とても深くて濃い緑の葉。
頭上には大きく白い花弁が見える。
首を傾げ、思い出そうとしている八戒に構わず、悟空は、その妙な――形自体は普通の広葉樹と変わりないのだけれど、なんだかヘンテコリンな気がする――葉を引っ張って、勢い良く手を放した。
すると、雨上がりの滴が飛沫となってジープに浴びせられ‥ ぱらぱら という音を立てながら、飛沫はキラキラ輝いてジープを打つ。
その感触が心地好いのか、「きゅうきゅうv」と楽しそうだった。
 「おもしれーな、ジープ!」
 「きゅい♪」
楽し気な声をよそに、八戒は本格的に悩み始めていた。
「考える人」宜しくこめかみに指をあてがい、
 「沈丁花‥じゃなくって、椿でもなくって‥‥確か、あの花は‥‥」
ぶつぶつと「木」の名前を思い出そうとしながら ずんずん 歩いていく。
 「悟浄ン家の近くにもあったよな!この葉っぱ!!」
 「ぴ!」
悟空は次々と葉を引っ張っては放し、ジープはその葉をかわしながら飛沫を翼で受け止めていた。

 (―――家の近くにあった‥‥?)



 「あ。」
ポンッ と、合いの手を打つ八戒。


 「いけね!!」
バシッ と、勢いよく引っ張ったら枝が折れて、手を放してしまった悟空。


 「ぴー?!」
ビシッ と、飛沫と一緒に枝付き葉っぱで弾かれたジープ。



弾かれたジープは くるんくるん と弧を描きつつ、やっと木の名前を思い出した八戒が顔を上げたところへ‥‥‥



ぴゅ〜〜〜・・・☆☆☆ ごっつんこ ☆☆☆



 「八戒!!ジープッッ!!」















かすかに聞こえた悟空の声に悟浄は将棋盤をひっくり返し、驚く老人への侘びもソコソコに飛び出していた。
驚いた様子の村人が口々に「向こうだ」と教えてくれる、その先に向かって、悟浄は走った。



 「八戒!!」



仰向けに倒れている八戒と
白目をむいてノビてるジープと
オタオタと慌てまくってる悟空。

滑り込むようにして駆けつけ、悟浄は八戒を抱き起こした。

 「何があった!?」
 「葉っぱが折れて、ジープが飛んでっっ、八戒がごっつん!!」
 「はあ?」

意味不明な悟空の説明に悟浄は眉根を寄せるが、八戒とジープの額が赤くなっていることから何んとなく事情を察して、そっと頬に触れてみた。
 「はーっかい〜〜っ」
様子を窺っていた悟空が八戒に抱き付こうとするのを、悟浄はきつく制し、
 「お前はジープを見てやれ」
と一喝した。
そんな悟浄の冷静さに落ち着きを取り戻したのか、悟空は ごくり と息を飲み込み、大きく頷いてジープへ向き直り、

 「ジープ、ジープ‥っ」
喉元や腹、そして小さな頬を摩って呼びかけた。
それを見て、悟浄も一息吐き、再び八戒に注意を戻す。
「八戒っ」

ピク

と、閉ざされた瞼が反応して‥‥そしてゆっくり‥‥‥

「八戒!!気がついたか?どっか痛くないか?!」
「ジープぅ、良かった〜〜っっ」


覚醒したばかりの八戒は、パチクリパチクリ と瞬きを繰り返した。
気付いたジープも、状況が分からないとでもいうように首を振っている。
そしてゆっくり互いを見合わせ‥‥



「「ぴい?」」





「「へ?」」



次、いってみる?





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