おんがく会のお弁当

「あの…これ、もってきました」

そういって、一枚のはがきをポケットから取り出すと、小さな子供は一生懸命八戒を見て笑顔を作ろうとした。

「ありがとうございます」

八戒は、やはりにっこり笑ってその子供の手から、はがきを受け取った。
そのはがきには、一生懸命書いたであろう黒々とした文字がそれだけで意思をもっているかのように書き付けてあった。

「しょうたい状 おんがく会にきてください。
 日時:11月9日
 場所:たいいくかん」

「八戒さんと、悟浄さんには、いつもいつも、おせわになっていますから、ぜひ、いらしてください」

 …おそらく50回くらいは暗記したであろう台詞をほぼ棒読みで明後日の方向を見ながら一生懸命言うその子がとてもかわいらしくて、八戒は、思わず、その頭に手を乗せて、ぽんぽん、とたたいてしまった。

「……あっ」

 か細い悲鳴が聞こえたかと思うと、みるみる目の前の小さな子供は、小さな毛むくじゃらのまあるい耳をぽん、と飛び出させた。
 あわてて、両手で耳を押さえると、こんどはぴょこんとまあるいしっぽが飛び出してくる。

 目に見えて狼狽して、おろおろして、ぐるぐるその辺を3回まわると、その子供は八戒に向かって深々と頭をさげてから、風のように去っていった。

「…悪いことしちゃいましたねえ…」

 八戒はしばらくその子供の背中を見送っていたが、我に帰って、手の中のはがきを見ると、それはいつの間にか大きなタイサンボクの葉へと変化を遂げていた。





 

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