おんがく会のお弁当
…普通、とびきり大きい、と言ったらどれくらいの大きさを想像するだろうか。
八戒が、出してきたホールケーキは、確かに、とびきり大きかった。本当に大きかった。どれくらい大きかったかというとそりゃもうLサイズのピザなんて目じゃないくらい大きかった。
「……八戒、これ……」
そう言ったきり、悟浄は絶句した。白くデコレーションされた広大なケーキの原野は嬉しそうに悟浄に侵食されるのを待っているようだった。
「大きいでしょう」
にっこり笑って、八戒は、右手に持っていたチョコレートソースいりの袋の先をちょん、とはさみで切って、その真っ白な処女雪のような原野にチョコレート色の文字を書いていった。
「なんて書いてあるの?」
悟浄が背後から覗き込む。チョコレートソースはそれほど粘度が高くないから、書きつけられる文字は自然と筆記体になる。八戒は、一生懸命丁寧に一文字一文字を書き付けていった。
「……かけました」
ふう、と一息ついて、額の汗をぬぐって、八戒は悟浄を振り返った。
八戒は、その時点でもうすっかり開き直っていた。
自分が汚くて醜いことなどとっくの昔に承知している。
自分勝手なことぐらい誰に言われなくてもわかっている。
だったら。
自分が悟浄の誕生日を祝いたいのであれば。
どんなに浅ましくて自己中心的であろうとも。
力の限り、お祝いしよう、と思ったのだ。
お弁当もさっきのティーカップもジャスミンティーも、このホールケーキもそして誕生日のプレゼントも。
笑ってしまうくらい悟浄の誕生日というこの日のために準備した全てのものを。
自分が、嬉しがって準備したもの全部を。
「あの女の子達は、三蔵があなたの誕生パーティーを開くと思っていたみたいでしたけどね」
そこで一旦言葉を区切り、八戒は、きれいなその碧色の瞳でまっすぐ悟浄を見ていった。
「そんなの、主宰するの、僕だけに決まってるじゃないですかね」
そう言って、芙蓉がほころぶように、やわらかな笑顔を悟浄に向けた。
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