おんがく会のお弁当

「…うちに、こんなカップあったっけ?」

 悟浄が不思議そうにそのカップを持ち上げて、ぐるぐる眺め回した。

「あったんですよ。びっくりでしょう」

 八戒は自分は両手でその薄いカップを抱え、きちんとそろえられた膝の上にちょこんと置いて少し首をかしげて答えた。
 悟浄はあまり納得のいかない顔で、そのカップを指でぴん、とはじいてみた。透き通ったガラスのような澄んだ音がする。

「俺、見たことないんだけど」
「僕は見たことあったんです」
「…家主は俺よ?」
「そうですよねえ。ごみ出す曜日も覚えてないような家主さんですが」

 くすくす笑いながらいう八戒に、ますますふてくされて悟浄はそのカップを弄繰り回し、危うく中のきれいな薄緑色をしたジャスミンティーをこぼしそうになってから、あわててそれを口に含んだ。

「…いい匂いがする」
「ジャスミンティーですから、よい匂いでしょう?」

 ふわ、と立ち上る独特の香気が悟浄の末端にまで染み渡っていくかのようだった。いつもの八戒が淹れてくれるジャスミンティーよりも香りが強いが、気分を害すような香りではない。

「ねえ悟浄。デザートいりませんか?」

 一口含んだきり沈黙を続ける悟浄に、八戒が声をかけた。悟浄はきょとんとして、そしてすぐにや、と笑い、八戒の腰を引き寄せようとする。

「…………どしたの。八戒さんてばなんて積極的」
「そう物事を全て都合よく解釈しないでください。本物のデザートです」

 近寄る悟浄をするりとうまく交わし、八戒は悟浄の答えも聞かずにキッチンへ向かうために立ち上がった。

「ニセモノのデザートってじゃあなによ」
「……いらないんですね。わかりました」
「そんなこと言ってねーじゃん!」

 くすくす笑って八戒は、そしてその笑いを閉じ込めると、悟浄のほうをきちんと向き直って言った。

「ホールケーキですよ。とびきり大きいやつ――――――死ぬ思いで食べてもらいますから」





 

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