おんがく会のお弁当
重箱も洗ってしまった。
お風呂もわいてしまった。
洗濯物も今日に限って干してはいない。(そりゃ悟浄の誕生日に洗濯物がつるされてるのがいやだったからだけれど)
アイロンがけは昨日全部やってしまった。
夜に掃除はするもんじゃないし。
……とにかく、あとは、悟浄の座るソファにジャスミンティーを持っていくだけになってしまった。
なんと言って切り出せばよいのだろう。
今更誕生日おめでとうございます、はいかがなものか。
しかしそれを全く無視して何にも言わないのだけは絶対にいやだ。
じゃあどういう風に悟浄に伝えればよいのだろう。
……ごく短い周期でぐるぐると回転する思考回路はとっくの昔にメビウスの輪を描いていて、八戒は、そんな自分がとにかく本当にもう情けなくなってしまった。
自分は悟浄の誕生日をお祝いしたい。
悟浄は、多分、誕生日を祝われたくないだろう。
「―――八戒?」
ソファから半分身を起こして悟浄が呼びかける。
「どしたの?さっきから、固まってるケド」
「…何でもないですよ。今、お茶もっていきますね」
白磁の透き通るようなティーカップに香り高いお茶を入れると、八戒は悟浄の座るリビングへと足を向けた。
自分は、悟浄の誕生日を、力いっぱいお祝いしたいのだ。
そう言い聞かせて、八戒は、悟浄の前にその、今日おろしたばかりの白磁のティーカップを置いた。
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