おんがく会のお弁当

 ちょうどお昼の時間が終わった。

 その後も手を変え品を変え、三蔵のご機嫌伺いはつきることなく行われたが、どれもこれも鼻で冷淡にあしらって、三蔵は6年生の渾身の合奏が終わると、つ、と席を立ってそのままあっという間に寺へと帰っていった。
 悟空もあわてて三蔵の後を追う。

 残る悟浄と八戒は、すっかりしょぼくれた校長がおざなりに挨拶をよこすのを適当に受けて流し、小さな子供たちが一生懸命手を振りながら見送ってくれるのには、ちゃんと挨拶をして、二人の家へと帰ってきた。

 悟浄は、ソファにねっころがってごろごろしている。今日は賭場へは出かけないようだ。

「今日のお弁当、すっげー、うまかった。ありがとな」
「そう言ってもらえるんなら、作った甲斐もありますね」

 そこで、続けてもよかったのだ。「あなたの誕生日ですから、腕によりをかけたんですよ」と。

 しかし、八戒はどうしてもその言葉を続けることはできなかった。

 きっと悟浄は理解してくれるだろう。八戒がどんな気持ちでそれを言うのか。
 どれだけ、八戒が悟浄の誕生日を力いっぱいお祝いしたいと思っているのか。

 音楽会ではよく歌われる、子供の間ではおそらく知らないものはいないだろうという歌を悟浄は知らない、と言った。
 2年生の合唱も、6年生の合奏も、悟浄は、知らない歌だ、と言った。
 HAPPY BIRTHDAY TO YOU を、知らない、と悟浄は言った。

 あれだけ愛されたいと願っていた子供のまま、悟浄の心はちっとも成長することを許されなかった。
 愛されたい人に愛されなかった悟浄。

 自分が、悟浄の「愛されたい人」であるなどとはとても思えない。そこまで自惚れてはいない。
 だけどせめて。せめて、大切な人であるということを伝えたい。
 自分にとって、悟浄は、とてもとても大切な人であるということを。

 ……持って行った重箱を流しで洗いながら、なんだかお祝いをとても切り出しにくい自分を八戒はとても情けなく思った。




 

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