太陽に憧れた月の話 中編


ミツヤとルーザー。二人で殺した敵の数はかぞえきれない。
だがそれ以上に、二人はお互いの中で相手のことを殺していた。
――殺してやる。
そんな殺気を幾度感じたことか。
――殺してやる。
そんな思いを幾度抱いたことか。
かぞえきれないほどの感情。かぞえきれないほどの死体。だがそれ以上に。

――殺してやる。
その思いは鮮烈だった。

ルーザーも少しずつ学んでいった。殺人とはどういうものなのかを。
警察の話をすれば、それ関係の知識を。法医学の話をすれば、それ関係の知識を。
一般常識、これが一番教えるのに苦労した点で、
おそらくルーザーは最後までそれを理解しなかっただろうが、
ミツヤの方がルーザーを理解することで、それに合わせた。
彼が理解できるように、世の中のことを話してやることで、ルーザーというものを操ることを学んだ。

――ようするに彼は、兵器だ。
それがミツヤの結論だった。
どこまでも冷静な、言われたことはやるが、言われなかったことは出来ないマシーン。
それがルーザーという人間なのだ。そうミツヤは理解した。
出来損ないの人間。それが正直な感想だった。人になれなかった機械。それがルーザー。
いかに頭脳が優秀だろうが、欠陥品は欠陥品だ。

まあいい、出来損ないには出来損ないの利用価値がある。
二人で車を走らせながら、現場に行くまでの時間、あるいは帰る道のり、よく会話をした。
黙っていると、感情だけが膨れあがりそうだったので。――つまりは殺意が。

ルーザーはミツヤと話すことを、意外にも楽しんでいるようだった。
自分の考えを言葉にすることで、相手の反応をはかり、それによって考えを修正する。
いや考えを修正するなどという殊勝さがルーザーにあるはずもないが、
とにかく自分がずれていることは確認しているらしい。そのことも分かった。
ミツヤもルーザーと話をすることは……正直、嫌いではなかった。
そもそも話すことで、相手が何であるか、また何を考えているのかを計り、
どうすればそれを利用できるか、その価値を計算するというのは、ミツヤの得意分野だ。

話題はやはり……マジックのことが多かった。
というよりも、二人が多少なりとも共有できる話題とは、それしかなかったと言ってもいい。

「兄さんは、太陽だ」
ある時、ルーザーはそう言った。
「ああ、そうだね」
ミツヤはうなずいた。珍しく、共感を持って。

「マジックは覇王だよ」
「そうだね……兄さんは、覇王にだってなれる」
ルーザーはうなずいた。珍しく、素直にミツヤに対して共感を示した。
「確かに、兄さんには才能がある。知恵もある。カリスマも。僕たちにはないものを持っている」
「そうだね」
共感を持ってミツヤはうなずく。
よく分かっていた。そんなことはよく分かっていた。二人とも、自分が太陽ではないことを。

それは夜道を車で走っている時のことで、空には月が輝いていた。
「人は太陽と対比するものとして、月をよく持ち出してくる」
ルーザーは話し続ける。
「たしかに月は太陽の光を反射して、夜に輝く。
 しかし太陽は恒星だ。その巨大さは計り知れない。
 地球は太陽なくしては存在すら出来ないが、地球がなくても太陽は輝き続ける。
 その点、月はただの衛星に過ぎない、地球のね。地球がなくては月は存在できず、
 ましてや太陽にとって月の存在なんて……」
ハッと笑う声がする。
分かっている。ルーザーは己の立場をよくわきまえている。そしてミツヤも……。

「この場合、地球っていうのは、人間のことかな。いや、僕たちが殺すべき敵のことなのかな」
ルーザーはふとそんな一言を付け加えた。
「どうだろうね」
ミツヤは微笑んだ。

――それでも月は一つだ。一つしかない。一つだけでいい。
二人はそのことも、分かっていた。

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