ミツヤとルーザー。二人で殺した敵の数はかぞえきれない。
だがそれ以上に、二人はお互いの中で相手のことを殺していた。
――殺してやる。
そんな殺気を幾度感じたことか。
――殺してやる。
そんな思いを幾度抱いたことか。
かぞえきれないほどの感情。かぞえきれないほどの死体。だがそれ以上に。
――殺してやる。
その思いは鮮烈だった。
◆
ルーザーも少しずつ学んでいった。殺人とはどういうものなのかを。
警察の話をすれば、それ関係の知識を。法医学の話をすれば、それ関係の知識を。
一般常識、これが一番教えるのに苦労した点で、
おそらくルーザーは最後までそれを理解しなかっただろうが、
ミツヤの方がルーザーを理解することで、それに合わせた。
彼が理解できるように、世の中のことを話してやることで、ルーザーというものを操ることを学んだ。
――ようするに彼は、兵器だ。
それがミツヤの結論だった。
どこまでも冷静な、言われたことはやるが、言われなかったことは出来ないマシーン。
それがルーザーという人間なのだ。そうミツヤは理解した。
出来損ないの人間。それが正直な感想だった。人になれなかった機械。それがルーザー。
いかに頭脳が優秀だろうが、欠陥品は欠陥品だ。
まあいい、出来損ないには出来損ないの利用価値がある。
二人で車を走らせながら、現場に行くまでの時間、あるいは帰る道のり、よく会話をした。
黙っていると、感情だけが膨れあがりそうだったので。――つまりは殺意が。
ルーザーはミツヤと話すことを、意外にも楽しんでいるようだった。
自分の考えを言葉にすることで、相手の反応をはかり、それによって考えを修正する。
いや考えを修正するなどという殊勝さがルーザーにあるはずもないが、
とにかく自分がずれていることは確認しているらしい。そのことも分かった。
ミツヤもルーザーと話をすることは……正直、嫌いではなかった。
そもそも話すことで、相手が何であるか、また何を考えているのかを計り、
どうすればそれを利用できるか、その価値を計算するというのは、ミツヤの得意分野だ。
話題はやはり……マジックのことが多かった。
というよりも、二人が多少なりとも共有できる話題とは、それしかなかったと言ってもいい。
◆
「兄さんは、太陽だ」
ある時、ルーザーはそう言った。
「ああ、そうだね」
ミツヤはうなずいた。珍しく、共感を持って。
「マジックは覇王だよ」
「そうだね……兄さんは、覇王にだってなれる」
ルーザーはうなずいた。珍しく、素直にミツヤに対して共感を示した。
「確かに、兄さんには才能がある。知恵もある。カリスマも。僕たちにはないものを持っている」
「そうだね」
共感を持ってミツヤはうなずく。
よく分かっていた。そんなことはよく分かっていた。二人とも、自分が太陽ではないことを。
それは夜道を車で走っている時のことで、空には月が輝いていた。
「人は太陽と対比するものとして、月をよく持ち出してくる」
ルーザーは話し続ける。
「たしかに月は太陽の光を反射して、夜に輝く。
しかし太陽は恒星だ。その巨大さは計り知れない。
地球は太陽なくしては存在すら出来ないが、地球がなくても太陽は輝き続ける。
その点、月はただの衛星に過ぎない、地球のね。地球がなくては月は存在できず、
ましてや太陽にとって月の存在なんて……」
ハッと笑う声がする。
分かっている。ルーザーは己の立場をよくわきまえている。そしてミツヤも……。
「この場合、地球っていうのは、人間のことかな。いや、僕たちが殺すべき敵のことなのかな」
ルーザーはふとそんな一言を付け加えた。
「どうだろうね」
ミツヤは微笑んだ。
――それでも月は一つだ。一つしかない。一つだけでいい。
二人はそのことも、分かっていた。
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