太陽に憧れた月の話 後編


半年以上の時間が過ぎた。
たくさんの敵を殺した。……マジックには知られずに。
マジックはすべてをミツヤがしたものだと思っている。ルーザーのことは知らずにいる。
ルーザーもまた、それを受け入れていた。すべてがミツヤの手柄になることに、何の反応も示さなかった。
どうでもいいのだろう。
彼らは兄弟だから。ただそれだけで、つながっている絆があるから。手柄など立てずとも。
――まったく、殺してやりたいよ。

その機会は、訪れた。それも唐突に。
逃げた敵を追って、入り込んだ廃墟のビル。
ミツヤは裏口から、ルーザーは表口から。
中には銃で武装した数人の用心棒と、その雇い主。

どちらがそれを殺すか……。いわば競争だった。
もちろんそんなゲームを仕組んだわけではない。しかし結果的にそうなった。
彼ら二人が手分けして、二つの入り口から進入したのは、敵を一人も逃がさないためだった。
必要性と必然性。しかしそれが計らずしも競争を生んだ。生まずにはいられなかった。
ミツヤとルーザー。その二人だったからこそ。

ゴウッと眼魔砲が放たれる音がする。それはかすかなものだったが、
全身の細胞が反応することで、音以上に確かに分かった。
ルーザーの眼魔砲。彼はそれを自ら言ったとおりに、ほとんど完璧に使いこなすまでに成長していた。
「……」
無言のうちに不愉快をにじませて、ミツヤは敵を追う。
気配を殺し、先手を打ち、相手の手を体をそして頭を撃ち抜く。
拳銃の扱いについてならば、誰にも負けない自信があった。もちろん、ルーザーにも。

階段を駆け上がる。音もなく。あるいは、わざと靴音を響かせて。
獲物を追い詰める。恐怖に震える相手を、撃ち抜く。――弱すぎる。
口元に笑みを浮かべながら、そう考える。ああ、まったく手応えがない。こんなのは敵じゃない。
本当の敵は……もう片側にいる。

最上階まで上がってきた。扉の向こうに気配がする。
捉えたと思った。ばっと足で扉を蹴り開け、銃を構える。
その照準の向こう側に――ルーザーがいた。
こちらに手を向けて。そこには青の光を……眼魔砲の光を宿しながら。
――機会は唐突に訪れた。

殺してやる。殺したい。いつか必ず、殺してやる。
まるで神様がその願いを聞いてくれたかのように。照準の向こうにはルーザーがいた。
それは静かな夜のことで。崩れた屋根の隙間から、月が輝いていた。……いつかのように。
「やあ、ミツヤ」
ルーザーは微笑む。
「やあ、ルーザー」
ミツヤも笑った。とても愉快だった。
――殺したい。
二人とも、同時にそれを感じていた。互いに相手がそう思っていることも知っていた。
それは強烈なシンパシーだった。

簡単なことだ。とても簡単なことだ。人を殺すなんて。命を奪うなんて。
――ルーザーを、殺すのなんて。
引き金がきりきりと絞られていく。ルーザーの手の光は強さを増す。
一瞬だ。ほんの一瞬のこと。

……マジック。
ミツヤは思った。自分の覇王のことを。年若き太陽のことを。
月は一つでいい。たとえ、太陽にとって月など、眼中にも入らない小さな欠片でも。
己に従う、小さな小さな惑星の、そのまた小さな衛星でも。
それでも月は、一つでいい。
――僕は、永遠に君を愛するだろう。

そうしてミツヤは微笑んでいた。命を奪おうとするさなか、命をまさに奪われようとするさなかに。

ふっと視線の影で何かが動く。
二人は同時に振り返った。ほとんど対称的な動きで、まったく同時に。
そして眼魔砲と拳銃は、同時に火を噴いた。……敵に向かって。マジックの、敵に向かって。

ばたんと、心臓を撃ち抜かれ頭を失った体が倒れる。
今回のターゲット。二人が狙っていた相手……あいにく、本当に狙っていた標的ではなかったが。
ふふっと、どちらともなく笑った。そうして二人は、手を下ろした。
「弱いね」
「まったく、話にならない」
「こんなのがマジック兄さんの敵だなんて」
「本当に。だけど、だからこそ、僕たちは彼らを殺さなくてはならない」
「ああ。そうだね。まったく、そうだ」
共感を持って語り合う。その手が血塗られていることを知りながら。汚れていることを知りながら。
決して、太陽には届かないことを知りながら。

これは太陽に憧れた月の話。
マジックという太陽に憧れた、ミツヤという小さな月の、物語。


2007.1.22

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