演技と体罰 -2-


「おまえはよく鳴く」
まだ倒れた時と同じ体勢のまま、手探りで引き寄せた枕に顔をうずめ
余韻に浸っているサービスに向かって、その脇に体を横たえたマジックは話しかけた。
「兄さんはそういうのが好きなんでしょう」
顔はそむけたままで弟はぶっきらぼうに答える。
「まさか私のためではないだろう?」
「ええ、もちろん。だけど嫌いじゃないなら放っておいてくれませんか」
「……ふん」
マジックは上機嫌に笑った。彼はいつも事後には機嫌がいい。
逆にサービスはようやく頭を起こすと、乱れて額に張り付いている髪を
彼らしからぬ乱雑さで書き上げた。さらに細い髪が指先に絡まったのに気付いて舌打ちする。
「行儀が悪いな、サービス」
「もうすぐオークションがあるんですよ」
「だから?」
「……別に。その日は何があっても応じられませんから、先に言っておこうと思って」
「ふぅん」
それで話は終わりだった。
この行為の代償として、サービスは欲しい絵を一枚手に入れるという意味だ。

別に本来、サービスは自分が欲しいものを買うのに兄の許可を求めたりはしない。
実際、彼個人の口座には、その絵を買うのに充分なだけの資金はある。
しかしあえてサービスは、毎回行為の代償を得ることにこだわった。それが彼のプライドらしい。
逆にマジックはそのようなものを要求することこそ、プライドがないと思う。
けれどもそれを追求はしない。互いに互いが理解できないことなど、
これだけ長い付き合いがあれば、嫌でも分かることなのだった。

その代わり、マジックは再び弟の体に手を伸ばした。
理解できなくても利用することはできる。金も力も、その肉体も。
真理はいつだって便利なもので、それ以上のことなど求めない。

サービスは伸びてくる手を感じながら、特に自分から動くことはなく、ただ待っていた。
マジックはいつもなかなか満足しない。単純に性欲が強いというのもあるのだろうが、
手に入れても手に入れても満たされることのない、彼の性格に寄る所も大きいのかもしれない。
そうやって次から次へと多数に手を出しては、時として壊してしまうのだ。
まったくもって彼らしい。

大きな手がすっぽりと肩の関節をつかみ、ぐいと引き寄せられて体が返される。
力の強さに、サービスは兄の新たな欲望を体感した。

サービスにとって性とは一時の激情ではなく、ゆるやかに持続するものだった。
彼はいつまでも果てしなく快楽の泉に溺れていられるかわりに、
決して一定以上の深みへと達することはない。
本人は別にそれを苦とは思わないのだが、むしろ相手がそのことを気にする場合が多かった。
そして一方的に、自分では駄目なのだと諦めては去っていく。
サービスもそんな相手を追おうなどとは考えない。彼にとって全てはどうでもいいことだった。
なければないで生きていけるし、あればあったで……勝手にすればいい。

だから二人にとって互いはとても都合がいい相手なのだった。皮肉なことに。

先ほどまでとは逆に、互いの顔が見える状態でマジックはサービスの上にまたがった。
「この姿勢は嫌いだ……」
うめくように呟く弟の声には耳を貸さず、膝を割る。
サービスはサービスで、言葉以上の抵抗はすることなく身を任せたまま、
ただ目だけを閉じて顔を横にそむけた。
それも嫌がっているというよりは単に眠いんだとでもいいたげな様子で、
傷ついた半面の側を下に、微かに口を開いた無防備な横顔をこれ見よがしに晒してみせる。
もっともそれは作られた表情であることを、マジックは知っていた。
無駄と分かっていても演技せずにはいられない弟への嗜虐的な快感を得ながら、
わざと必要以上に足を大きく開かせ、中に割入る。もう三度目になるというのに
相変わらず彼の入り口は開ききるということがなく、侵入してくるものにほどよい抵抗を与え、
それでいながらゆるゆると確実に獲物を飲み込んでいく。

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