腰の所で結わえられていた紐がほどかれる。たっぷりとゆとりを持って仕立てられた、
絹のズボンはするりと肌を滑って引き抜かれ、足から落とされた。
兄の体が一旦離れ、むき出しになった両足が持ち上げられてベッドの上に動かされる。
やっと楽な姿勢を取ることができて、サービスは大きく息をついた。
ずっと堅く閉じていたまぶたが痛く、思わず顔に手をやる。それでも瞳は開かない。
もう片方の手は横に投げ出したままだった。
寝る時に下着を付ける習慣はなかったので、もう身にまとうものは何一つない。
そのことは不安をかき立てると同時に、奇妙な愉悦もあった。
醜悪な自分の体。痩せすぎて細すぎ、懸命に鍛えているのだけどなかなか目に見えるようには
筋肉が付かない、出来損ないの身体。士官学校の同級生と混じると、いつも一人だけ浮いて見える。
背だけは他の兄たちのように高いのが、なお一層疎ましかった。
そんなコンプレックスだらけの自分の体を無防備に兄の前に晒していることは、
不思議な開放感があった。
「兄さん。僕は醜いでしょう?」
暗闇の中で問いかけた。
「変なことを言うんだね、サービス」
頬に優しい手が触れる。
「おまえは綺麗だよ。他の誰よりも綺麗だ」
真実しか許さない人の率直な言葉は、胸に響いた。まだ完全に信じたわけではなかったけれども、
信じなければという気持ちになる言葉だった。それがサービスにとっては救いだった。
ルーザーが脇に身を横たえる気配がする。
足が絡まり合い、伸びてきた腕がサービスの肩を掴んだ。
抱きしめられて、兄の体に縋り付く。自分のことを綺麗だと言ってくれた相手に、身を任せる。
またキスをする。今度は穏やかに唇を絡めて、そっと舌の先で繋がりを探る。
先ほどまでとは違う穏やかな距離感に、少しだけ安心している自分がいた。
あまりに急ぎすぎると、どちらかが壊れてしまう予感がしていた。
裸の身体が絡まり合う。
サービスの心が落ち着くのとは逆に、ルーザーの手は狂おしさを増していた。
また兄の体が上になり、下に組み敷いたサービスの体を指が丹念に解きほぐしていく。
素直な体は率直な反応を返す。応えようとする思いが肉体を開く。
冷静であろうとする思考が、かえって感覚を研ぎ澄ませる。
サービスは兄の激情を敏感に感じ取り、いつしかその渦の中に飲まれていった。
――どうして?
言葉だけが頭の中を回る。兄がこんなにも激しく求めてくる、サービスには理由が分からない。
自分の身体も意志とは乖離した場所で猛っている、そのことも不思議だった。
ただ抱き合うだけでもよかったのに、寄り添っているだけでもよかったのに、
キスをしているだけでもよかったのに、どうして先に進まずにはいられないのか。
自分も兄も。身体は心を裏切っていく。なんて罪深いんだろうと息を吐く。
いや、きっと罪深いのはサービスで、ルーザーには別の理由があるのだろうと考え直した。
その理由を、知りたかった。
サービスはゆっくりと膝を開く。すでに一度同じ事をしていたからか、不思議なくらい抵抗はなかった。
――そう、今日は不思議なことばかりだった。夕食後、兄と二人で話をした。
ルーザーの手が膝を押して、太股の裏側を撫でながら下に滑り、尻を掴まえる。
――いつもと同じように寄り添って座って、たわいもない話をした。
両手の指が肉を割り開いていって、尾骨に触れ、さらに奥へと移動してその口を探り当てる。
――楽しいことばかりを話すようにしていた記憶がある。将来への期待を。
「んっ」
つぷりと兄の指が第一関節まで潜り込んだ。圧迫感にサービスはうめく。
自分は侵入されている側なのに、体がそっくり裏返しにされてしまったように
全体でその存在を感じていた。
押し広げられる苦しさと、まだこれは始まりに過ぎないという恐怖。
それらに耐えるために、意識を飛ばして記憶の再生を続ける。
――少し無理をしながら、兄さん達の手元を離れてもやっていけますよと宣言した。
指がゆっくりと動きながら、穿った穴を広げていく。今は第二関節まで入っているのだろうか。
兄が中で少し指を曲げていることも、鮮明すぎる程に感じ取れた。
――普段の自分らしからぬ虚勢をはって。
「…………っ」
唇を噛みしめる。閉じた目の端から涙がこぼれそうだった。
気になったのは、その涙がちゃんと透明かどうかということ。
屈辱を感じないわけではなかったが、それ以上に応えたいという思いが強かった。
――青の一族に相応しい者になってみせますよと。……少し浮かれていたのかもしれない。
ゆっくりと往復運動が開始される。兄の指に絡みつくようにして動く自分の皮膚の感覚が、
体の内側からはっきりと伝わってきて、その度にドクンドクンと下半身が脈打った。
――兄はそんなサービスのことを、少し寂しそうな顔で見つめていた。
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