最後にひときわ丁寧に中をほぐした後、指が引き抜かれていく。
その時間の長さに、いつの間にかそんなに奥深くまで侵入されていたのかと、恥ずかしさでむせた。
――意外でもあったけれど、やっぱり兄さんは優しい人なんだと思って……。
また足が広げられる、下の唇に今度は指ではないものがあたる。
――だからルーザーが目を閉じていなさいと言った時
「あッ……」
もう抵抗などできない程に、充分に侵されたつもりだったのに、
今度侵入してきたものの大きさは、サービスの予想をはるかに超えていた。
必死になって下半身から力を抜こうとする。かわりに両手で無我夢中に兄の体にしがみついた。
いつの間にか汗びっしょりになってしまった身体を、狂おしくルーザーになすりつける。
「……ぁ、ん………っ………」
じわじわと入ってくるそれは、身体がきしみをあげながら、崩壊していくような感覚だった。
振り乱した髪が、汗で額に絡みつく。
「…………ん……、……ぁんっ……」
少しでも体から力を抜くために、大きく呼吸を繰り返すと、ルーザーの髪の匂いがした。
自分はちょうど兄の耳元で声をあげているのだと知って、喘ぎを抑えようとするが、止められない。
「………ぁ、……ん………ぃ、ゃ……」
子供に返ったかのようにぽろぽろ涙をこぼしながら、これが一刻も早く終わりますようにと
祈ることしかできなかった。そうやってルーザーを受け入れていった。
「………………ぁ」
サービスは息をつき、いつの間にか兄の動きが止まっていることを知る。
まだ圧迫は痛いほどにあったが、とにかく動きが止まったということに、大きく息を吐いた。
「よく頑張ったね」
兄の手がびしょぬれの髪をかき分けていく。
汗と涙で今自分の顔はひどいことになっているだろうと想像し、
目を開かなくていいことに、わずかに感謝をした。
「兄さん……」
いつの間にか兄の背に指をくい込ませていたことに気付き、慌てて力を抜く。
その拍子に身体が動き、挿入されているものがこすれる感覚に、サービスはまた小さく悲鳴を上げた。
落ち着かせようとするかのように、兄が頭を撫でてくる。
「かわいいサービス。僕はずっとこうしていたいよ」
耳元でささやかれる言葉が、痛みで空っぽになってしまった頭に響く。
言っている内容の残酷さとは裏腹に、ルーザーの口調は哀願の響きを帯びていた。
あまりに弱々しいその声に、サービスはこれは夢ではないかとすら思う。
もしくは気が動転するあまり、聞くはずのない声を聞いているのかと。
それはいかにもありそうなことだった。
「おまえを手放したくなんかないのに」
込められた真摯な響きに心臓が跳ねる。罪深い程に、嬉しかった。
「おまえは鳥籠や水槽に入れてはおけないからね」
いかにもルーザーらしい突飛な言葉が、むしろサービスの耳には優しい告白に聞こえた。
残酷な優しさ。でも残酷でない優しさなどあるのだろうかとすら思う。
今していることのように。いつだって愛は痛みを伴う。犠牲を欲する。
サービスにとって、誤魔化すということを知らないルーザーは、それゆえに真実の人だった。
「だから……」
ルーザーはサービスの肩に顔をうずめる。
次に起こる事をサービスは正確に予期して、しかし抵抗するすべがないことも知っていた。
また、自分は抵抗するつもりがないということも。
「ん……、ぁあッ」
兄の腰が急速に動きを開始して、サービスの口から悲鳴が漏れる。
引き抜かれ、次の瞬間にはまた突き上げられ、体中が切り裂かれていくような痛みが走る。
――急ぎすぎると壊れてしまう。
さっき考えた事を思い出す。
「……あッ」
大きく口を開け息を吐いて、壊れないように懸命になって痛みをやりすごした。
――もう一つ大切な事は、ルーザーにならば傷つけられても構わないということ。
今でもその思いは変わらなかった。
「………んんっ、…ぁ……あ……あ、んッ……」
ルーザーの身体は動きを止めない。
汗で滑る手を懸命に兄の背中に這わせながら、二度と爪は立てないようにと考えて虚しくあがく。
掴まえようとしても、掴まろうとしても、動き続けるルーザーの身体はサービスの手をすり抜けていく。
「はあっ、……ああっ」
もう声を抑えておく余裕もなかった。行為はサービスに純粋な苦痛しかもたらさなかったが、
それは多分、兄も自分も願っていたことなのだと、おぼろげな意識で考えた。
「ぃ……んっ、……ゃ、………あ、あぁッ」
悲鳴を上げていても、止めて欲しいとは思わない。
サービスはルーザーに応えたかった。愛していたから。兄の苦痛を和らげるために、
生きているだけで苦しい人のために、なにかをしてあげたかった。
「……んあっ、………は、あ…んッ」
挿入され、引き抜かれ、また挿入されて。その度に痛みにのたうつ。
ルーザーはきっと、サービスに消える事のない証を刻みたかった。――私を忘れないで
そのための証を。
欲望に侵され苦痛にまみれた意識は、飛躍した思考を脳髄に焼き付ける。
サービスは、もうほとんどそれを言葉として認識する力を失っていたけれど、
心の奥深くでたしかにそれを受けとめながら、激しく動いていた兄の体がふっと停止し、
体の中の異物がドクドクと脈打って、とても熱いものを流し込んでくる感覚を受けとめながら、
ゆっくりと意識を手放した。
◆
「サービス……」
暗闇の中で兄の声がする。
大好きなルーザー兄さん。離れていってしまう人。掴もうとして伸ばした手は、虚しく空をきった。
もうそこに痛みはない。……そして兄もいない。
2004.9.7
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