「サービス」
「はい、兄さん」
一方の手が腰に、もう一方の手は頭の後ろに回されて、兄はサービスの体を抱きしめた。
素肌がルーザーが身につけているシャツの存在を感じて、胸が狂おしく求める。
この障害の先へ進みたいと願う。
「僕はおまえのことが好きだよ」
それはとても幸福な言葉だった。嬉しかったのに、不思議なのは、
体はもっと先を望んでいることだった。
どうして嬉しいだけで終わらせられないんだろうと、不思議だった。
自分の身体に戸惑いながらも、サービスは素直な気持ちを口にする。
「僕も兄さんのことが好きです」
「そう」
ルーザーがうなずく気配がした。サービスはまだ目を閉じたままだった。
兄が開けていいと言わなかったから、言わない限りは、閉じたままで。
体が後ろへと押される。
腰掛けているベッドの柔らかなスプリングは、簡単に体の重心を泳がせる。
抵抗するすべもなく、抵抗するはずもなく、ゆっくりと上半身が仰向けに倒されていく。
もちろんルーザーの腕はサービスの体をしっかりと支えていた。
支えながら、後ろへと倒し込んでいった。
「怖いかい?」
「いいえ」
怖いなんてはずはない。兄が自分を傷つけるはずはないと知っている。
傷つけないだけの知恵と力を持っていることも知っている。そして一番大切なことは、
もし傷つけられたとしても、ルーザーにならば構わないということだった。
なによりもそのことを伝えたくて、サービスは全ての体重を見えない相手に委ねていた。
まず頭がシーツに触れ、次に肩が降ろされた。そして最後に腰を支えていた手が引き抜かれた。
急に兄の感覚が遠ざかっていって、不安になる。ベッドに投げ出されたまま、上半身は裸で
むき出しになった胸と下半身だけを尖らせて、膝から下はベッドの外に垂らしたままの姿で、
無防備にだらしなく欲望をあらわにしている自分のことを考えると、羞恥で目の前が染まりそうだった。
「ルーザー兄さん」
思わず兄の名を呼ぶ。
「なんだい?」
いつもと変わりない声の響きが、なおのことサービスの羞恥をあおった。
――早くこっちに来て。
声を出そうとしたが言葉にならない。
この時になってもまだ、越えてはいけない一線があるような気がする。
肝心なことはいつだって言葉にならないが、今はむしろ言葉にしてはいけないという思いがあった。
ルーザーの手が胸に触れて、サービスは身を震わせる。
「怖いのかい?」
兄の体の感触がした。肌と肌が触れ合う感覚。
恐ろしい程の歓喜が湧き上がってくる。
「いいえ」
サービスは嘘を付いた。
欺瞞に身を委ねなければ、留めようもなく押し流されていく予感がした。
「それは嘘だ」
けれどルーザーはあっさりと見破る。
「悪い子だね、サービス」
暗闇の中で兄の体がのし掛かってきて、押しつぶされそうな恐怖とは裏腹に
密着した肌の感覚は堪えようもなく気持ちいい。
「……ごめんなさい」
サービスはうめきながら、必死で自らの唇で兄を探した。
見つけたそこに吸い付く。言葉にはできない代わりに口で伝えようとするかのように、
かつて一度もしたことのない激しいキスを兄の口元に繰り返し、やがては唇に触れて、
その中へと自分の舌を差し出した。
――ごめんなさい。
言葉にする代わりに、開かれた歯の隙間から舌を挿し入れて、兄の口内を舐めまわす。
自然と唾液が流れ込んできて、そのままさえぎるもののない喉へと流れていく。
ルーザーの手がサービスの腰を探り、浮いた隙間から侵入して性器をなぶった。
「ん……」
わずかに首を左右に振るけれど唇を離すことは決してせず、
逆に追い詰められることで舌は動きを早める。
ふと、兄は今どんな顔をしているのだろうと思った。
必死になっている自分とは逆に、きっと穏やかに目を閉じて
微笑すら浮かべているのではないかという気がする。
――ルーザー兄さんは残酷な人だ。
サービスもそのことは知っていた。でもその酷さも含めてルーザーという人間なのだと、
だから全てを受け入れるべきだと信じていた。――そう、受け入れるべきだと。
強ばっていた下半身から力が抜けていく。自然と堅くとじ合わせていた膝が開いていた。
ルーザーの手が性器の裏側までまさぐってくる。
「……ぅん…」
もう耐えきれなくなって、サービスは兄の体の下で悶えた。
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