「いいだろう」
ルーザーは言った。誇り高く。青の一族の直系にふさわしく、胸を張って。
「やってみればいい。ミツヤ」
◆
――「シャワーを浴びるかい?」
という問いに対しては、もう浴びたからいいと答えた。
――「じゃあ、服を脱いで」
そう言われたから、黙って服を脱いだ。
シャツのボタンを外す手が、少し震えていることを屈辱だと思いながら。
上半身裸になったところで、後ろから抱きすくめられた。
「ねえ、信じないかもしれないけど、僕は君のことも好きなんだよ、ルーザー」
「嘘だ」
「うん、嘘だね」
そう言いながら、ミツヤはルーザーの手を取ってそれを後ろにまわす。
何をする気か分からないままだったが、ルーザーは抵抗しなかった。
諦めたわけではない。抵抗しないことが、彼の誇りだったのだ。
だがミツヤはその誇りをあっさりと踏みにじる。
ポケットから取り出したハンカチーフで、ルーザーの両腕を後ろ手に縛り上げる。
「な?」
――何をするんだ?!
と叫ぼうとしたところで、そのままベッドに突き飛ばされた。
もちろん受け身も取れないままに、柔らかな布団の上に頭から倒れ込む。
「やっぱり、ちょっと、怖いからね」
ぎりりと奥歯をかみしめながら、手に眼魔砲の光を集めようとしたところで、頭を押さえつけられた。
「別にこれくらい、いいだろう?」
――僕が許せないのは、おまえの臆病さだ。
ルーザーは頭の中でわめいていた。意地でも口には出さなかったが。
「それにこうした方が、気持ちいいんだよ」
耳元で優しくささやいてから、ミツヤは一旦体を離す。
ミツヤが自分の服を脱ぐ衣擦れの音を聞きながら、ルーザーは懸命に心を落ち着けようとしていた。
しかし実のところ、そのやり方がよく分からない。そんな必要性、今まで大して考えたこともなかった。
それもまた、天才であり、生まれながらの強者である、彼の弱点だった。
「……!」
まだ履いたままだった、ズボンに手がかけられる。
パニックを表に出さないようにするので、精一杯だった。
自分がパニックなど起こす人間だったとはと、少し感心していたのも事実だったが。
そうでも思わなければ、やりきれない。こんな無様な姿。
下着もろとも、引き下げられる。
「僕はね、脱がすのも好きなんだよ」
ミツヤはそんなことを言った。
――楽しそうだな。
ルーザーはそう思った。そして、絶対にこいつはいつか殺すと心に決めていた。
何も身につけていない姿になったところで、あらためてベッドの上に引き上げられる。
「ねえ、怖いかい?」
「死ね」
「君がそれを言うのって、今夜何回目かな」
そう言いながら、ミツヤはゆっくりとルーザーの尻をなでまわす。そうしながら、尻穴に指を這わせた。
「僕だって、鬼や悪魔じゃないんだから」
まだ小さく、固くすぼまったそれをもみほぐす。そうしてもほとんど痛みは変わらないのだろうが、
別にミツヤに相手への優しさなど欠片もなく、ただ彼は自分が進入するときに、少しでも楽にしたいから、
そうしているだけだった。
「おまえはそんな上等なものじゃないだろう」
ルーザーは吐き捨てる。それを言うことすら、両手が使えないこの姿勢では苦しかった。
首と頭で上半身の体重を支えているようなものだから。
「じゃあなんだろうね?」
つっと指が進入してくる。その異物感、不快感に背筋が粟立つ。
「おまえはただの人間だ。弱くて臆病で屑で下衆な」
「そこまで言うのかい?」
中で指が曲げられる。爪が柔らかな内壁をこする。だが痛みよりは恐怖が先に立つ程度の強さで。
それをまた、この男も知ってやっているのだろうと思うと、あまりの屈辱に目眩がした。
「もっと言ってやろうか。ウジ虫」
「そんな言葉遣い、君の兄さんが聞いたら悲しむよ」
そう言いながら、ミツヤはふっと強く指を進入させた。
せいぜい第二関節までの進入だったが、ルーザーには充分な刺激だった。
そしてそれ以上に、彼には兄のことをミツヤが口にしたことがこたえた。
「……兄さんのことは言うな」
そこは最低限度の約束のはずだった。マジックのところに行くかわりに、ルーザーを犯す。
それはある点では本当だろうと、ルーザーは思っていた。
別にミツヤだって、ルーザーを痛めつけるよりは、愛する兄と一夜を過ごしたいだろう。
彼のどこまでも冷えた内面は、そんな事実を見つめていた。だからこそ傷つき、
だからこそ誇りは守られる。たとえ、両腕を縛られて好き勝手に弄ばれていても。
「屈辱だから?」
「おまえのことが哀れになるからだ。ミツヤ」
「……ああ、そう」
声に明らかに不快さがにじむ。指がもう一本進入してきて、思わずルーザーはうめいた。
「本番はこんなものじゃないけど」
ミツヤはつまらなさそうに言う。それがこの男の本性だと、ルーザーは思った。
どうでもいいのだ、こいつは。本当は全てがどうでもいい。大切なものなど、何一つない。
だからこそ、平気で人を踏みにじれる。平気でこのような……危険がおかせる。
「面倒だから、さっさと終わらせようかな」
そんなことを言いながら、ミツヤは二本の指を無造作に抜き差しする。
それをされる側の苦痛など、意に介さずに。ルーザーもまた、歯を食いしばって耐えた。
彼はそうしながら、懸命に兄のことを考えた。兄もこの苦痛に耐えて……そして幸せを得たのだろうかと。
彼は、ルーザーは、知りたかった。
もちろん自分はこの行為によって、なんら幸福にはならないことを知っていたが、
ただ、兄が幸福であったのかどうかだけは、知りたかった。
◆
「そろそろいいかな」
指が抜かれる。
またその衝撃に思わずうめくと同時に、自分がいかに圧迫されていたかをルーザーは知った。
「ねえ、怖い?」
相手は尋ねてくる。
「おまえも怖かったのか?」
ルーザーは笑った。
「なにが?」
「兄さんと初めて……こういうことをした時、おまえも怖かったのか、ミツヤ?」
「そんなことを聞いて……、どうするんだい?」
「知りたいんだ」
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