指は少年の体をまさぐり、その下履きに手をかける。
……それは最初から決めていたことであった。
純粋さゆえに殺せないなら、危険であるなら、汚してしまえばいい。黒く塗りつぶしてしまえばいい。
そうして、口を封じればいい。
サービスはもがく。逃げようとする。彼にもようやく、この状況の、相手の異常さが分かったのだろう。
遅い。まったくもって遅い。自分から誘うようなことをしておいて、それでいて慌てるなんて。
ああなんて幸せな子供。愛と保護しか知らない子供。誰も彼を傷つけない。
だから彼は知らない。……この世がどんなに理不尽で、汚らしいものなのかを。
「僕は痛いんだ……ねえ、傷が」
ミツヤがささやくと、サービスの体がびくっと震えた。
まったくこの少年は心優しい。そして……それだけじゃないだろう。
ミツヤはひっそりと考えた。これはまた、彼の最愛の兄と同じ言葉でもあるのだろう。
ルーザーも、サービスにだけは、本音を漏らしていた。傷が痛いのだと言っていた。
だからこそサービスは拒めない。決して、拒めない。
――ああ、まったく。なんて素敵なんだろう。
素晴らしい兄弟愛。素晴らしい愛情。素晴らしい素材。
愛だ。愛こそ、最高の利用価値がある。そうだ、愛なんて、愛なんてただの材料じゃないか。
道具じゃないか。……自分が、マジックに向ける愛情だけは別だけど。
「ねえ……」
ささやきながら、露出した少年の性器をこする。彼はその快楽を知っているのだろうかと考えた。
まだ知らない可能性の方が高いだろう。……彼の兄が教えていない限り。
どうなのだろう、ミツヤはそこに黒い興味を感じた。
でも一方で、知りたくもない気持ちも芽生えていた。ルーザーなんてどうでもいいじゃないか。
あんなのはただの駒だ、道具だ。
頭は混乱しつつも、体はただまっすぐに欲望のはけ口を探す。
「ぅん……」
サービスはもだえた。彼は、自分に与えられる訳の分からない刺激に対して、無防備だった。
そうして素直でもあった。一方で、これは何かいけないことだと、分かってもいるようだった。
「何するの……ミツヤ……」
ミツヤは答えない。ただ少年の肌に舌を這わせ、脇腹や太ももなどの敏感な部分をこすり、
そして性器を刺激する。片手の中に収まってしまうような、小さな少年の性器。それをもてあそぶ。
「はぁ、ん……」
サービスは吐息を漏らした。ただ彼は素直に息を吐いただけなのに、それなのに、
どうしようもなく相手の欲望を煽る声だった。
彼はそういう少年だった。生まれながらの美しさ、その上に与えられた無菌室の愛情。
温室の花。鳥かごの中の小鳥。ガラスケースの中の人形。
ミツヤはそれに手をかける。温室を開き、鳥かごを開き、ガラスケースを壊す。
「ダメだよ……ミツヤ……」
「どうしてダメなんだい?」
意地悪く彼は聞いた。
「気持ちいいだろう、サービス。これは悪いことなんかじゃないよ。僕からのお礼だよ」
「ダメだよ……」
「じゃあ、サービスは僕のことが嫌いなのかな?」
口づける。少年の乳首に。そこに舌を這わせる。ほとんど触れるか触れないかの柔らかさで。
「き……、嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……」
「じゃあ好きなんだ?」
「……ん……」
サービスは口ごもった。
――「嫌いじゃないよ……」
この少年はよく、そんな言い方をした。
――嫌いじゃない。
――好きじゃない。
好きとか嫌いとか、はっきり言うことを避ける傾向があった。
彼がはっきり「好き」だと言うのは……ルーザー。
「嫌い」という言葉は、誰に対しても滅多に使わなかったが、
双子の兄ハーレムに対してだけは、実に豊富な語彙を披露した。
「イヤ」「バカ」「キライ」「らんぼーもの」「あっちいけ」「ナマハゲ」
……最後の一つは、東洋の風習だ。
ともあれそれも、ミツヤから見れば甘えた親愛表現でしかない。
彼なりに双子の兄は特別なのだという。唯一、そんなことを言っても許される相手だと思っているという。
ともあれ。
――嫌いじゃない。
それが何故なのかミツヤは知らないし、知りたいとも思わなかったが、
今晩に限ってはひどくその言葉が気に障った。
好きだと、言わせてみたかった。
◆
「ねえ、サービス」
少年の尻に手を這わせる。指は後ろの穴を探り当て、その周辺をなでる。シワの一つ一つまで。
「……ぃ、ゃ」
「嫌いじゃないんだろう。僕のことが」
「……ミツヤ」
潤んだ瞳がこちらを見上げている。それは悲しみというよりも、むしろ……他の何かで、
そして確実なことに、快楽の証でもあるのだった。その証拠に、彼の性器は確実に反応を示している。
「僕はサービスのことが好きだよ」
優しくささやく、嘘の言葉を。けれども、彼の兄と同じように、顔に笑みを浮かべて。
彼はきっと応えずにはいられない、愛には愛を。それがこの少年にとって唯一の規範。
「……ぅん」
確かにサービスは反応した。困ったような表情を浮かべた。
その隙にミツヤの指は進入する、彼の中へと、少年の中へと。
「あ……ぃや……」
「嫌じゃないんだろう?」
「嫌いじゃない……ミツヤのことは嫌いじゃないけど……これは……あ……んッ」
指は前立腺を探し当てた。そこを刺激する。逃れられない快感。
射精することはまだ知らずとも、オーガズムの快感は1歳の幼児でも知るという。人の業。
「僕はサービスのことが好きだよ。好きだから、気持ちよくなって欲しいんだ」
「でも……だって……」
抵抗は弱々しく、声は細い。
「サービスは僕のことが嫌いなのかい?」
前立腺を刺激する、ひときわ強く。そして性器をつかむ。逃げられないように。
「あぅんッ」
もだえる体がいとおしく、その上に自らの肉体を這わせる。
それはそのまま少年をシーツの上に押しける行為でもあった。もう逃げ場所はどこにもない。
「嫌いなのかな?」
「……嫌いじゃない、よ」
「それは好きってこと?」
「……」
瞳が見上げている。彼は何かをミツヤに訴えようとしている。
――ひどい。
なのかもしれなかったし、
――言えない。
なのかもしれなかった。
どちらでもいい。それは否定ではない。ミツヤの指はさらに激しさを増した。
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