生け垣の隅の楽園 -2-


「サービス……」
兄は呟きながら、弟の素肌に舌を這わせる。
彼がどこを感じ、どこに敏感なのか、ルーザーは熟知していた。
学術書を読み解くような熱心さで、兄は弟の体を読み解いた。自分の頭脳の前に裸にした。
まだ少年の壊れやすい肉体を、この上ない慎重さでまさぐっていく。
触れるか触れないかの距離で指を這わせていく。
「兄さん……」
サービスの指がルーザーの耳をくすぐる。その髪をすく。

弟もまた、兄が感じることとは何かを知っていた。彼ならではの敏感さで。
「欲しい」と言うことも、そっと遠慮がちに触れることも、静かに自分の快感を押し殺すことも。
何よりも、愛するものがすることならば、何でも快感に変わるのだという原則を掴んでいたから。
サービスは愛され方を知っていた。……肉体的に愛される方法を。

草の上に広げられた白いブラウス。その上に横たわる裸の肉体。芝生の匂いと、弟の匂いと。
頭上には太陽が輝いているが、ここは生け垣の影だから直接は差さない。
それでもなお、日の光の下で見る身体は美しかった。彫像よりも生々しく、絵画よりも肉感的で。
「ねえ、兄さんも脱いで……」
サービスは言いながら、懸命にボタンを外そうとする。
ルーザーはあえてさせておきながら、自分はいっそう強く早く、愛撫の手を進める。
まだ上半身だけ。それでも、首筋に、耳の後ろに、脇腹に、へその下に。敏感な部分を柔らかく、
円を描くようになでつけながら、なお顔に残る涙の跡を舐めながら。

弟の指はもつれながらも、懸命に兄のボタンを外していく。開いた胸元から、忍び込んでそっと触れる。
触れる――ただそれだけで、電気が走ったように二人は感じる。触れる、ただそれだけで。
冷たい指、暖かい胸。触れあってお互いの熱を交換する。
互いが違う存在であることを知りながら、なお、互いに与えられるものがあることを知る。
それ以上の幸福があるだろうか。

「ああ……」
彼は喘ぎながら、兄に向かって舌を伸ばした。
頬に口付けし、ついで耳に触れ、なお足りないかというように上半身を起こして、その下へと舌を伸ばす。
ルーザーも微笑みながらそれを受け入れた。はだけられたシャツで弟の顔を隠すようにしながら、
彼の頭の上に自分の肉体を横たえた。
サービスは懸命にそれを舐める。自分の前に差し出されたものに舌を伸ばす。
いつもそうして来たように。ただ与えられるものを懸命に受け取るかのように。
それでも彼は足りないかというように、腕を回して兄の身体を抱きしめた。
もちろんシャツの下から。手の指を忍び込ませて、直に肌に触れながら。
「好き……」
そう呟く。こういしていることが、なによりも好きだと、訴える。

ルーザーも微笑みながら、サービスの頭をそっと抱き寄せ、
自ら身体を動かして、その愛撫を受け入れた。頼りなく自分の胸を舐める、その舌の感触を味わった。
熱に浮かされたその吐息から、彼がこの先を期待していることを知りながら、あえてじっくりと。
「う、ん……」
疲れて息をついたサービスの口に、また口付けをした。ご褒美を与えるかのように、舌に舌を絡ませた。
そうしながら指では弟を愛撫し続け、それを徐々に下へと動かしていく。
「いや……恥ずかしい……」
布の上から膨らみを触られて、恥じる弟の顔を何よりも可愛らしいと思いながら、指でそっとさする。
その手から逃れようとして、やわやわと腰を振る仕草を横目で愛でる。
「欲しいんだろう?」
ルーザーはそう尋ねた。
「……うん」
サービスは答える。正直に。兄には嘘を付くことなく。
この場合、嘘をついても同じなのだが、そこであえて嘘をつかない、その勇気をルーザーは評価した。

「いい子だね」
言って額に口付けする。こんな子供は他にはいない、彼はそう信じていた。
この子だけは特別なのだと。……何が特別なのか。それを知りたいから、繰り返すのだ。この行為を。

下腹に舌を這わせながら、ズボンのボタンを外してそれをずり下げる。下履きごと。
出てきた固くとがった性器に口付けして、「あ、ん…」と声を上げる弟の反応を楽しみながら、
そっと片方ずつ足を引き抜かせる。靴も脱がせて、ズボンを引き抜いた後で、靴下も脱がせて。
その足先にも口付けをして。……サービスの身体ならば、どこもかしこも愛おしかったから。
そして……全てを自分のものにしたかったから。

軽く自分の唇を舐めながら、そっと全てを検分する。草の上に横たわった無防備な身体。
けれども全身で強く何かを訴えかけてくる、鮮やかな肉体。
「……恥ずかしい」
まるで自分が目を閉じれば、兄の視界からも隠せるかのように、目をほとんど閉じた状態で、
サービスは呟く。頬をわずかに赤く染めながら、しかし下半身には抑えきれない欲望をたぎらせて。
「どうして欲しい?」
ルーザーは優しく尋ねた。吸って欲しいでも、触って欲しいでも、挿れて欲しいでも。
何でも言えばいいのだと。選択権を相手に与えながら、主導権は握ったままで。
そうしながら、自分もシャツを脱ぐ。
サービスによって全てのボタンが外されたそれを、自分の腕から引き抜く。

「来て……」
サービスは薄目を開けて、兄に向かって手を伸ばす。ルーザーの腕を掴まえ、そっと自分の方に引く。
裸の肌と肌が触れあって、こすれ合った。もちろん全ての体重をかけることはせずに、
慎重にかすかに触れるくらいの距離を維持しながら。ルーザーは優しく弟を抱きしめる。
「サービス」
「はい、ルーザー兄さん……」
「まだ……寂しいかい?」
「ううん……」
それでも足りないかのように、弟は兄にすがって肌をこすりつけてくる。
固くとがった乳首が双方に刺激を与える。

――ずっとこうしていても構わない。
そうルーザーは思った。サービスが望まないのならば、最後までいかなくても。
でもきっと自分はそうしないことも知っていた。それは弟が望むからではなく……愛しているから。
つまり、自分が望むから。せめてこれだけはと。欲望はせめぎ合う。どちらが勝つのか。
その行方に彼はしばし、思いを巡らせた。

「兄さん……好き……」
サービスは耐えきれなくなったかのように、兄の背中を指で押す。
爪は立てないように、けれども強く刺激する。そのまま手を下に伸ばして、ベルトを外そうとする。
「いいんだよ」
――おまえがそんなことをしなくても。
ルーザーは軽くその手をたしなめて、そっと身体を起こし、自らベルトを外し、ズボンを下ろした。
「ううん……」
瞳がまぶしそうに兄を見つめる。涙は乾いた、しかしなお底知れぬ憂いをたたえた瞳は。

「欲しいの……」
弟は呟く。ルーザーが教えたことだ。その快楽はルーザーが教えた。
だからこれは兄の罪。誰かに罪があるとすれば、それは自分。だがそれすら――快感。
これが罪だとすれば、その罪によって打ちのめされるとすれば、……構わない。
誰にも渡したくなかったから。誰にも、この弟を委せたくはなかったから。
指はそっと下の穴を押し広げる。緩やかに広がるそれ。何度も何度も身体を重ねたから……、
弟はもう、ほとんど痛みは感じない。それでもなお、背徳は身をさいなむが。

それが自分だけであればいいと、ルーザーは願った。
心の愛はいつだって一方通行で、だけど肉体の愛は……違うから。
「愛しているよ」
耳元でささやく。精一杯の優しさを込めて。
血も通わぬ機械のようだと言われる自分の、精一杯の優しさで。
「はい……」
サービスは頬を赤らめた。嬉しそうに微笑んだ。その微笑みを見ているだけで、幸せだった。

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