幸福感に満たされながら、兄は弟の中へと進入する。そっと、ゆっくり時間をかけてほぐしながら。
「う、……ん…」
弟も出来る限り身体の力を抜いて、それに応えようとする。全身で兄を受け入れようとする。
全てにおいて無防備な自分を、相手にさらけ出す。それだけの信頼、それだけの愛情。
「……あ、……は、ん…」
わずかに眉を寄せ、痛みかあるいは快楽によってか、目を閉じながら、
それでも手はしっかりと兄の背を掴んで。足を開き、自ら尻を持ち上げながら。
弟は兄の進入を受け入れる。
「す、き……」
言葉は意味を持たない。けれども雄弁に感情を伝える。
――もっと、もっと。と。
背中に回された手が、すがりつくように首筋に絡まってきた。
ルーザーはゆっくりと腰を進めていく。決してとどまることなく、しかし細心の注意を払って。
絶対に、この壊れやすいモノを壊さないように、心を砕きながら。
自分の快楽ではなく相手の快楽を考え、全身でそれを察知しながら、
それを知ることでまた、自分も快楽を感じながら。幸せは循環する。
「ん……ああ……」
サービスは喘いだ。つつましやかに。声を押し殺しながら、それでも兄に使えようとするかのように。
――ほら、こんなに気持ちいい。と。
「大好き……兄さん……」
「うん……」
ルーザーもうなずきながら、サービスの髪をかき上げる。ゆっくりと指ですく。
そうして自分を落ち着かせながら、静かに腰を動かしていく。
じっくりと、優しく、少しでもこの幸せを長続きさせようとするかのように。
「……は…あ……んっ」
美しい音楽のような声だった。柔らかく耳をくすぐっていく。
遠くに聞こえる鳥の鳴き声も、サービスの声には及ばない。
「…ん、ん……あ……」
快感は背筋をはいのぼり、身体の中を熱くたぎらせる。そこに風が吹き抜けて、熱を奪っていく。
それでもなお、熱い。サービスの中も、そして自分の心も。
「……ん」
ひときわ大きく背をのけぞらせたのを察して、腰の動きを早めた。
「ああ……う……ん……」
――いいんだよ。
耳元で優しくささやいた。先に達してもいいんだよと。
けれども弟は首を振る。
――兄さんと一緒がいい。と、伝えてくる。
だからルーザーは、また腰の動きを弱めた。それでもなお、サービスはすがるかのように、
耐えようとするかのように、兄の首筋に回した腕を強めて、唇と唇を絡ませる。
唾液は上から下へと、つまりルーザーの口からサービスの中へと流れ込むが、
彼はこくこくとそれを飲み干す。そしてさらに、もっと欲しいと舌を伸ばしてくる。
ルーザーは弟のするがままに任せながら、自分は懸命に腰を動かすことに集中した。
本当はすぐにでもはじけさせることは出来る。もっと激しく突き動かすこともできる。
けれどもそうしないのは――何故だろう。その不思議に身をゆだねながら、弟を……愛する。
「……ん」
苦しそうに身もだえさせながら、サービスはルーザーを締め付けてくる。
しかしそれは決して痛みではなく、ただどこまでも快感で。
苦労してそっと動きながらも、だがどこまでも果てしなく思えて。
「ああ……」
兄は弟から口を離して、大きく息をついた。そろそろ自分の限界も近いことを分かっていた。
彼はそれでも最後まで、弟の――サービスの動きに集中した。目ではなく全身でそれを感じながら、
その快感の突き上げにあわせて、自分を動かした。
忍びやかに、神経を張り詰めて、それでもなお全身で歓びを感じながら。
「……ふ、…ん……ぅ……あ」
わずかにではあるが、声が大きくなる。
――耐えきれない。
そう訴えかけてくる。そんなサービスの頭を撫でながら、ルーザーはよりいっそう腰の動きを早めた。
「あ……んんっ……あ、んっ」
ひくついている、その粘膜の動きを感じながら、彼はすべての配慮を込めて、弟を内側から揺さぶる。
どこまでもどこまでも、この気持ちには果てがないように感じながら、いつかくる終わりに向かって。
「……ああっ、ん……っ」
終わりを手にする瞬間にこそ、永久にも似たものを感じながら、彼は自分の精を解き放った。
それと共に、弟もまた、兄の腕の中で背筋をのけぞらせながら果てた。
◆
そうっと引き抜く。持ち上げていた足を下ろさせながら、腰を撫でた。
――痛めつけてはいないだろうか。
それが気にかかる。
精液にまみれた弟の下半身を痛々しく感じながら、そこに言いしれぬ悦びもまた感じる。
「サービス」
ルーザーは穏やかにささやいた。
「大丈夫かい?」
「うん……兄さん」
弟は薄目を開けて兄の顔を見つめ、恥ずかしそうに微笑んだ。
「気持ちよかった……」
嬉しそうに、幸福そうに伝えてくる。その様子を見ていると、自分の心にも温かさが広がっていく。
ルーザーにとっては不思議な感覚だった。
草の上で身体を汚してしまったことを気にかけながら、自分のシャツをそっと弟にかける。
「しばらく待っていて」
何か着るものを取ってこようと、身を起こそうとしたところで、サービスに腕を掴まれた。
「兄さん」
「なに?」
「誰か、見ている」
ルーザーは静かに屋敷に目をやる。
「誰もいないよ」
彼は言った。
「そう?」
サービスは不安げに瞳を揺らす。
「うん、誰もいない」
ルーザーは微笑む。確信を込めて。そんなことを気にする弟を、可愛らしいと思いながら。
本当は知らない。誰が見ていたかなど。
だが別に、見られたって構わないのだ。それによって叱られようが、憎まれようが。
すべてはルーザーが背負えばいい。サービスは何も知らない。それだけが大切なのだった。
ルーザーは再度弟の額に口づける。
「じゃあ、また影に身を隠していればいい」
「はい……」
「さっきみたいにね」
サービスはその言葉を受けて、自分も身を起こし、恥ずかしそうに身体を隠しながら
生け垣の影へとすべりこんだ。自分のシャツを拾い上げて羽織り、兄のシャツを差し出しながら。
それを微笑んで受け取りながら、ルーザーはズボンに足を通す。
自分がずいぶん草にまみれてしまっていることを確認しながら。
けれども、それが何も気にならないというのも、不思議なことだった。
幸せに溺れるとは、こういうことなのだろうかと考える。
彼の頭脳の端では、その危険性も認識していたが、だからといって止める気にはならなかった。
シャツを羽織り、そのボタンを留める。それでもたぶん、この姿は人に見られてはまずいだろう。
まったく、うかつなことだった。でも……。
「早く帰ってきてね」
生け垣の隅にそっとたたずむ、生まれたままのように無垢な弟の姿を見ていると、
自然と顔はほころぶのだった。
これが背徳であるのなら、楽園を追い出されても、雷の槍で打たれても、決して後悔はしないだろう。
ルーザーのエデンの園は、この世のどこにでもなく、ただここにだけ存在する。
背徳の実をかじる禁断の園。
その味を知ってしまった人間はもう、無実に戻ることなどできはしない。
2007.3.24
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