雨の夜にふたり/2



「ふぅ…んっ…ゃぁ…あっ…」
 濡れた秘唇に幹を挟むようにしながら、あるいは先端で入り口をなぞりながら、
涼子が私の肉柱に自らの蜜を塗りたくっていく。見慣れた自分のものなのに
粘液を絡めてぬらぬらと光り、正視し難いほど卑猥で禍々しい。
 こんなものを涼子に挿れる事がためらわれてしまう心情と裏腹にそれは益々
いきり立ち、涼子を貫く時を今か今かと待ちわびている。
「なに、ソッポ…向いてるの…ちゃんと、みな、さい…」
 指先が頬に触れて、背けた顔を正面に向けさせられた。これまで見た事がないような、
どこか危うげな表情に目を奪われ、普段以上に甘い声が途切れがちに耳を震わせる。

「いくよ…」
 眉根を寄せて目をきゅっと細め、身体を震わせながら腰を沈め、
ゆっくりと私を呑み込んでゆく。
「…っく…あ…ぁん…ぅぁ…くぁ…ぅん…」
 熱く濡れた柔らかなものがねっとりと私に絡みつき、痛いほど締め上げてくる。
喘ぎをこらえる声が時折耐えかねたように高く響き、その度に涼子の身体が小さく震える。
「無理…しなくて、いいですよ…まだ、痛いんじゃないですか?」
「そ、そんなの、とっくに、なおって…うぁ…」
 そういうとぐっと腰を落として咥えたものを一気に呑み込んで、完全に私と繋がった。

 私で一杯に満たされて、涼子の中がまるで違う生き物であるかのように
侵入者を捕らえて蠢いている。奥深くまで涼子のからだを貫き、震える襞に
絡めとられて脈動を高める自分自身の感触もはっきりと伝わってくる。
 涼子の顔を見上げると、どこか困惑したような表情で私を見つめ、紅唇から
言葉にならない短い声をこぼす。
 手を何気なく動かし、指が涼子の肌をすっと滑った瞬間、まるで雷に
打たれたかのように痙攣した。



「っ、ひゃぁんっ!」
 うわずった嬌声をあげ、一瞬ばつの悪そうな表情を浮かべたさまについ
口元を緩ませると、それを見咎めて真っ赤な顔で睨んできた。
「な、なにが、おかしい…ぅあぁっ…じっと、して…なさ…あっ…」
 身じろぎすると眉をひそめて喘ぎ声を噛み殺し、私の上で切なげに身悶えた。
「おかしくはないですよ…感じやすいんですね」
おかしいどころか、快楽に流されまいと必死に抗っている様子を可愛いとさえ思ってしまう。
「動いた方がいいですか?」
「だめ…っ…」
 ひと息つき、唇をきゅっと引き結んでかぶりを振る。
「あ、あたし…っ…から…、押し、た…おす…って…い、いった…」
 絞り出すような声でそう言い、ぐっと腰を引いた。

「っく…ん…ぅあ…あっ、っくぅ、あ、あ、んっ、あ、ひゃぁん、やぁあっ、はぁあん!」
 感じるところを恐る恐る探るようなぎこちない動きが少しずつ滑らかになり、ほどなく
男の身体を知り尽くしているかのような艶かしい腰使いで私を攻めたてはじめる。
 抑えた呻きは少しずつ艶を含み、やがて声だけで男を絶頂に導く事さえ出来そうなほど
煽情的な喘ぎへと変貌してゆく。
 私にはソッポを向くなと言った癖に、視線が交差するとはっとしたように俯いて
顔を背け、表情を隠してしまった。それが何故か残念で、抑えがたい衝動に
突き動かされて涼子に手を伸ばす。
「顔、見せて、下さい…」
「さわらないで、だめ!やだあぁぁ!」
 私の手を振り払おうとして暴れ、それが昂ぶった身体を余計に刺激して拒絶の声が
甘い悲鳴になる。快楽や羞恥、戸惑いがない交ぜになった、実際より幼げな表情が
一瞬垣間見えたが、顔を更に赤らめて恥じ入ったように下を向いてしまった。
 涼子には本来そぐわない表情でありながら、それさえも魅力的に思えてしまう。


「おかしく、ないですよ…顔、上げてください…」 
「ん…」
 ゆっくり顔を上げて恥じらいの表情を浮かべたまま私を見つめ返して、
何かをふっ切ったように動きをますます激しくしていった。
 腰を浮かせては落とし、自分から私に串刺しにされる。悦びの声が更に高く
響き渡り、自らの声に煽られるように繰り返し私を貪る。
 ぐちゃぐちゃに掻き回された蜜が泡立っては弾ける音が嬌声に重なって聴覚を乱打し、
まるで媚薬のように身体を熱く疼かせる。 
 肌に浮いた汗が光り、振り乱す髪が宙を舞う。触れ合う肌は熱く燃え、腰を艶かしく
振る動きにあわせて形の良い乳房が揺れる。ひどく淫らな眺めである筈なのに美貌を
紅潮させて熱に浮かされたように潤んだ瞳で私を見つめ、咲きかけの花のような唇で
切なげに喘ぐ様子がただひたむきで愛らしく、淫靡という表現がまるで似合わない。
 「ここも…」
 覆いかぶさるように上半身を前傾させると、白い乳房が目の前に降りてきて
先端がそっと私の唇に触れた。手の中に収まりきらない豊かな双丘を揉みしだくと
掌に感じる柔らかさと対照的に、淡紅色の乳首が痛々しいほど尖る。
「んっ…ゃぁあん」
 指先にわずかに力を込めて摘むと、くっと身をよじって
鼻にかかった声でひと声鳴き、欲望を煽り立てる。

 桜色に上気し、しっとりと汗ばむ肌に顔を埋めると
むせかえるような甘い香りが鼻腔を満たした。掌で包み、
周囲から舌を這わせて、薔薇の蕾のような先端を丁寧に舐め上げ、
軽く歯を立て、唇で吸い、思うまま愛撫して唇を離すと
唾液に濡れた乳房がさらに誘うかのようにふるっと揺れた。



「っく…はぁ、やだっ…おかしく…なっ…だめ…っ…」
 軽くいってしまったのか、ぎゅっと目を閉じてシーツを握りしめて
私の上に倒れこんだ。荒い息遣いがすぐ傍で聞こえ、声をかけようとした瞬間
涼子が私の手をきゅっと掴み、弱々しく引っ張った。
「起きて…」
 求めに応じて上半身を起こし、繋がったまま涼子と向かい合った。
私の首に腕を廻したきり、無言のままじっと俯いて肩で息をしている。
「気分、悪くなりましたか?」
 またやりすぎてしまったのだろうか。一瞬ひやりとしたが涼子は髪をさらさらと
揺らして頭を振り、切なげな表情を浮かべて切れ切れに私の名を呼んだ。
「いず、みだ…くん……きみで、きみで…」
 今にも涙が溢れそうなほど濡れた瞳に見つめられて胸がぐっと
締め付けられそうになり、目が離せなくなる。
 ためらいがちな語調を珍しく思いつつ目配せで先を促すと、艶やかな唇が
最後の言葉をそっと紡いだ。
「…いかせて」
 さっと視線を外して再び目を伏せた様子が、雨に打たれた花を思わせる。
美しいけれど鋭利な刺と猛毒を持つ、危険極まりない花だと百も承知の筈なのに、
それでも可憐でいたいけに思えて、何でもしてやりたくなってしまう。
 震える身体を抱きしめ、耳元に唇を寄せて囁きかけた。
「ええ、一緒に…」
「あ…」
 耳に息を吹きかけられて、上気した身体が腕の中でぴくりと波打ち
繋がったところがきゅっと締めつけられる。その反応が可愛くて堪らなくなり、
普段なら決して口にしない名前が声に出た。
「…りょうこ」
「え、あっ、ひゃぅんっ!」
 間髪入れずに腰に腕を廻して押えつけ、勢い良く突き上げると
ひときわ高く、そしてこの上なく甘い声が耳を打った。



「やぁんっ、はぁっ、あぁん、うぁ、はっ、あぅっ、んっ、あん、はあぁぅん、あぁんっ…」
 優美な身体が私の上で跳ね、狂おしい喘ぎ声が耳を嬲る。腰に絡めた脚と背中に廻した
腕に力を入れ、更に奥へ私を迎え入れた。
「…きて…ぜんぶ…あっ、あたし…に…」
 言葉通り、全て搾り取ると言わんばかりに熱く締めつける襞を擦りあげて絶え間なく突く。
体を抉る度に、肉の交わりに慣れない体をいたわるかのように蜜が涼子の中を潤し、
溢れ出した幾筋もの透明な流れが互いの太腿を熱く濡らす。
 背中に爪が食い込むほど抱き締められて、癒えかけた爪傷が再び疼き、しっとりと
汗ばむ柔肌に指痕が残るほどきつく抱きかえしてそれに応える。
 喘ぎ声を封じるように何度も唇を重ね、舌を絡め、獣のように互いを貪る。重ねた唇、
肌にかかる吐息、廻した腕、濡れた秘所…涼子と触れあった場所すべてから
灼けるように熱く、それでいてひどく甘い感覚が全身を駆け巡る。
 涼子、涼子、りょうこ、りょうこ……
 快楽で頭の芯まで痺れて朦朧とし、何かに憑かれたかのように呼び続ける名前が
果たして声になっているのかそうでないのかすらもう判然としない。、
 雨が激しく窓ガラスを叩いているはずなのに、ふたり分の息づかいと
甘い喘ぎしか耳に入らず、五感も思考も全て涼子で埋め尽くされる。
「…じゅん…い…ち…ろぉ…」
 凄絶なほど甘く、愛しげな響きの声が私の名を呼んでいると気づいた瞬間、
熱く滾っていたものが収束し、堰を切ったように涼子の中に迸った。
「ああぁぁぁぁっ」
 私の精を受けとめた涼子が腕の中で弓なりに身を反らせ、耳元で高い声が響く。
次の瞬間私にぐったりともたれかかり、柔らかな茶色い髪の毛が肌をくすぐって
吐息が熱く染みる。私を咥え込んだまま、濡れた花弁が余韻を楽しむかの
ようにひくひくと震えた。
 意識を手放して私に身体を預けた涼子はくたっとしてひどく頼りなく
抱きしめていないとこのまま何処かに消えてしまいそうな気さえしてしまう。
 打ち込んだ楔を抜いて涼子をそっと横たえると、白く濁った流れが太腿を伝って
とろりとシーツに染みた。急速に襲いかかるけだるさに耐え切れなくなり、
倒れ込んで身体をベッドに預けたと同時に意識がすっと闇に溶けた




 ぼんやりと聞こえていた雨の音が徐々に鮮明になり始め、
ゆるやかに意識を現実に引き戻された。傍らの涼子に視線を向けると、
先ほどの乱れぶりが嘘のような、少女めいたあどけない表情でまだ夢の中にいた。
 普段の姿を思い知っているからこんな寝顔に私は騙されない。騙されないはずなのに、
安心しきった顔で無防備に眠り続ける様子にほだされて、つい腕の中に抱き寄せてしまう。
 ふわりと甘い香りが空気を揺らし、腕に感じる柔らかさとぬくもりが快い。
長い睫毛が白い頬のうえに細かな影を落とし、うっすらと開いた紅い唇からは
安らかな寝息がかすかに漏れる。
 心と身体の隅々があたたかなもので満たされるような感覚が久しぶりで懐かしく、
思わず抱きしめた腕に力が入ったが、恋人でもない相手にそのような気持ちを
覚えてしまった事に少し戸惑った。

「んー…」
 感傷的な気分になる私をよそに、涼子が眩しげに顔をしかめながら瞼を開いた。
焦点がやや定まらないぼうっとした瞳が二、三度まばたきするといつもの
活力に溢れた輝きを取り戻した。
 拗ねたような表情でこちらを睨みながら手を伸ばし、私の鼻を軽くつまむ。
「…なんか、悔しいわ」
「どうしてですか?」
「押し倒したつもりだったのに、結局君に主導権握られっぱなし」
「でも…あ、いえ」
 言ったところで怒らせるだけだと思い、出かかった言葉を引っ込めると
不服そうな眼差しを向けてきた。
「いいからちゃんと言いなさい。でも?」
「じゃあ言いますけど…可愛かったですよ」
「な、…何ネボけた事言ってるのよっ!」
 毒づいて私の胸に顔を埋めるが、髪の間からちらりと覗く耳が真っ赤になって、
ひどく熱を持っている。
苦笑してそっと髪を撫でると、羽毛みたいに柔らかな感触が手に残る。
「…ウソ言ったつもりは無いんですけどね」


すっかり機嫌を損ねてしまったらしく、胸に顔を埋めたままじっと
黙り込んでいたが、不意に弾かれたように顔をあげ、髪に手をやった。
「泉田クン、いま触ってた…?」
「あ」
 ずっと前から触っていた筈なのに、二人ともさっき初めてそれに気が付いた。
「リハビリ成功ね」
 微笑しながら涼子が猫科の動物を思わせる仕草で頬をすり寄せてきたが、
何だか猫というよりは、ライオンや豹の仔に甘えられているような気がする。
 …どうして、こんなに嬉しげな表情をするのだろうか。ずっと抱いていた疑問が
つい声に出てしまう。
「…何故私なんですか?」
「何が?」
「手近で間に合わせるような真似なさらなくても、初めてにもっと相応しい
相手がいた筈なのになぜ……あなたならベッドの相手の一人や二人…」
「手近で間に合わせてなんかない!」
 強い語調で反論するなり肩越しに顔を埋めてしまい、表情が伺えなくなった。
「あの時、あたしが…」
 声は囁きに変わり、僅かに震えている。
「…あたしが、朝になってから言ったこと忘れたわけ?」
「痛くなくなるまで責任持って。って仰ってたと思いますが」
「違う。その後」
「ええと…」
 あの朝の光景が鮮やかに脳裏に蘇る。
大輪の紅薔薇が花開くような笑顔、重ねられる柔らかな唇。
耳元で明るい声が弾けて…


『それでこそあたしが惚れた男!』



「…本気だったんですか?」
「冗談であんな事言わない」
 小さいながら、はっきりとした声が耳に吸い込まれる。 
 劇的な告白というやつなのだろうけれど、いまひとつ実感が湧かない。
完全無欠を誇る涼子が、何で自分なんかに惚れたのか皆目見当がつかないし、
その危険さをよく知っている身としては、喜びより戸惑いの方が先に立つ。
 私の方は涼子にそういう感情は持っていないし、そんな危険な真似はしない。
そのはずなのに、それを告げる事がひどくためらわれる。何となく髪に指を
絡めてみたのはせめてもの罪滅ぼしのつもりだろうか。

「…ですが、私の方はあなたにそういう気持ちがないんですよ。好きな相手と
身体でしか通じてないって状況、辛いんじゃないですか?」
 我ながら残酷な事を言っているとは思う。「身体目当てで寝ただけ」と
言っているも同然で、普通の女性相手なら泣かせてしまうところだろう。
…涼子の事だから、ベッドから私を蹴り出すあたりが相場だろうか。

 顔を上げて私と向かい合った涼子が、無言で手をそっと伸ばしてきた。
ビンタの一つも食らうかと覚悟したが、予想に反して
温かく滑らかな手がそっと頬に触れ、白魚のような指が髪をすっと梳った。
「君が女心に鈍感だって事はよーく知ってるけどさ」
 口元には悪戯っぽい微笑みが浮かび、真っ直ぐに見つめてくる瞳には
怒りや悲しみの色は微塵も感じられない。
「あっきれた。自分の気持ちにまで疎いのね」
「…わ、私があなたの事好きだとでも?」
「そうよ」
「あのですね…」
 呆然とする私に向かってけろりと言い放ち、余裕たっぷりの笑みを見せつける。


「大体ね、あたしの身体にしか興味がない男が、辛くないかだなんて
お説教するわけがないじゃない」
 私の髪をくしゃくしゃと撫でながら、笑いを含んだ声で続けた。
「あたしなら、身体目当ての相手に説教かます暇があったら第二ラウンドおっ始めるわよ。」
「だ、第二ラウンドって…」
 しなやかな手に両側から頬を包み込まれ、互いの唇が軽く触れあった。
「こないだの事もね、そんなに気に病まなくていいの。自制出来ないくらい
あたしが良かったからああなっちゃったんでしょ?」
「良かったのはそうですけど…」
「君ね、あの時ずっと叱られた犬みたいな顔してたのよ」
すごく可愛かったんだから、と付け足してニヤリと笑った。
「あたしの事単なる身体目当てだったらあんな顔しないし、
触るのさえ怖くなるほど後悔したりしないわ」
「…そうでしょうか?」
 確かに虫酸が走るとか顔も見たくないとか、そういう嫌悪感を
涼子に対して抱いた事はないし、さっきも可愛いとは思ったけれど
好きだとかそういう気持ちとはきっと別のものである筈だ。
「まだ納得しないの?じゃあ聞くけどさ、あたしが君以外の男とこんなことしたら嫌?」
 涼子に対する気持ちは自分でも測りかねている癖に、
この問いにはすぐに答えが出た。我ながら浅ましいと思いつつ返事を返す。
「…他の男に渡したくありません。でも、あなたの事が好きだからなのか、
単に身体目当てのどっちなのかは、その…自分でも…」
「そこまで分かってたら充分」
 鈴を転がすような笑い声が耳をくすぐり、柔らかな身体が抱きついてきた。
「覚悟しておくのね。そこらへんはじっくり認識させていってあげるから」
 余裕と自信に満ち溢れた、女王然とした態度であでやかに笑う。
やっぱり敵わないな、と知らず知らずのうちに苦笑が漏れた。





 …雨はいつの間にか穏やかな霧雨へと変わっていた。
すべてを包み込むように静かに降り続ける真夜中の雨のむこうで
紗のヴェールをかけたように街の灯りが滲んで光る。せがまれるまま、
涼子を背中から抱きしめた体勢で上半身を起こし、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
 ベッドの中で身を寄せて、ぬくもりを分け合いながら雨音に耳を傾ける。
恋人同士だったら言葉が無くても甘い時間になる筈だが、私達の間には
気まずくはないものの、いまいち奇妙な沈黙が深海魚のようにゆっくりと回遊している。
 涼子は一向に気に留めない様子で私にもたれかかり、顔だけこちらに向けて微笑した。
身体にかかる適度な重みが快く、腕の中のぬくもりと離れがたい気分になる。

 じかに触れる肌のあたたかさや柔らかさに、あるいは鼻先をそっとかすめる甘い香りに
刺激されたのか、身体が再び涼子を欲しがり始めた。
 まずいな、と思いつつさりげなく離れようとしたとき、訝しげな声とともに
おもむろにその場所に手が伸びてきた。
「…ん?」
逃れる間もなく、すぐに探り当てられて柔らかな手でそっと包み込まれた。
「え、あの…ちょっと…」 
 くつくつと忍び笑いを漏らす涼子にやわやわと握られて益々硬くなったそれが、
蛇が鎌首をもたげるように再び勃ちあがった。愛撫を鋭敏に感じ取って先端が濡れ、
絡みついたしなやかな指を湿らせる。手を放して指を舐めながら、
涼子がチェシャ猫のようにニッと笑った。


「まだ足りなさそうね」
 不意打ちを食らって赤面した私を可笑しげに見やり、膝立ちになってぎゅっと
抱きついてきた。ちいさな笑い声と共に耳朶に柔らかなものが触れて言葉を紡ぐ。
「……あたしも」
 しなやかな指が背中をすっと撫で下ろし、指が滑った跡が燃えるように熱くなる。
それが抗いがたいほど心地よく、私の口から誘いの台詞を引きずり出しかけた。
「……じゃあ、その…」
 歯切れの悪い物言いに、涼子が訝しげな目を向けて私を問い詰めた。
「…言いたいことがあるならハッキリおっしゃい」
「…まだ足りないのでしたら、その…第二ラウンド、行っときますか?」
「え?う、うん…」
 意を決した私の言葉に、意表を突かれたような表情で頷いたが
次の瞬間柔らかく微笑んで私の首に軽く腕を廻し、そのままベッドに倒れ込んだ。
「ギブアンドテイクよ。今度は君の番」
 引きずられて半ば覆いかぶさる格好になった私を見上げ、あでやかに笑う。
「今度はいくら暴走したって大丈夫。だから思う存分やりなさい」
「そんな事言われたら、この間以上に目茶苦茶にしてしまうかもしれませんよ?」
 一応釘を刺してもまったく意に介さず、廻した腕に力を入れて言葉を続けた。
「上等じゃないのさ。どこからでもかかっておいで」
「では、さしあたってこの間の埋め合わせを」 
 挑戦的な笑みを浮かべる唇をそっと塞いで、そっと舌を挿し入れた。


「んっ…」
 吐息も舐め取るように、ひとしきり口内に舌を巡らせてから唇を離し、白い喉に
キスを落として華奢な鎖骨をそっとなぞる。触れていない部分が無いほどに、
白絹の肌を指先と唇で丹念に辿るとあちこちに薄紅の花片が撒かれ、
喘ぎになりきれない切なげな吐息が耳元で響く。

 胸の頂きを舌先でそっとつつくと、腕の中の身体がぴくっと震え、
高くかすれた声が空気を軽く引っ掻いた。唇を離して顔を覗き込むと紅潮した顔で
甘いため息をつき、とろりとした光がたゆたう瞳はわずかに戸惑いの色を浮かべている。
「こないだ、こうしたかったんだ…」
「…物足りないですか?」
 そう聞くと、小さくかぶりを振った。
「…つづけて」

 そう言って伸びやかな肢体をくつろがせた。指が私の髪を撫で、温かな掌が背中を抱く。
互いに触れた掌や唇、そして指先から伝わるぬくもりが全身を甘く浸していく。
 まだ気持ちはついて行っていないけど、身体は涼子の体温を喜んで受け入れていく。
背中に廻された手が私をぎゅっと抱きしめ、肩越しに熱い息まじりの声が届いた。
「泉田クン…」
「何でしょう?」
「もういちど…」 
たっぷり30秒以上の沈黙の後、消え入りそうな囁きが耳元で震えた。
「……もういちど、なまえ………よびなさい…」
 言葉に従って耳元でその名をそっと呼ぶと、紅潮した顔でそっぽを向かれてしまう。
苦笑しつつ耳朶を甘噛みすると、唇から零れる溜息にも似た喘ぎが甘く耳を蕩かし、
静かな雨音に溶けていった。


【終】

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