二人でお茶を(ミュラー×フレデリカ)9/3-338さん
「マイネ・フレデリカ…愛してます」
口付けは1度で済まなかった。
口角に、中央に、唇を食むようにと何度もキスされ、
そのうち、柔らかい舌がフレデリカの口腔に滑り込んでくる。
「…う…ん、……っ…」
互いの両手が背中へ、後頭部へと回る。
整えられたミュラーの髪型が崩れる頃には、
唇に残っていた口紅がミュラーの口元を汚していた。
つぅ、と2人を透明な糸が繋いでいる。
「…分かってはいるのですが、うれしくて。
抑えが利かなくなりそうだ」
と再び唇を合わせ、苺の味が微かに残る舌を吸い上げた。
「……っ、ふ、…っか、構いませんよ…」
息を弾ませながらフレデリカが答えると、その顔が頬に滑った。
髪に触れていた指先が耳を撫でる。
「っひあっ…!」
一瞬背中が弓なりに反り返った。
首筋に唇を押し付けながら、
ミュラーは背中から肩、鎖骨を通り、胸元を撫でる。
陽の光が差し込んでくる居間での狼藉に対し、フレデリカからの苦情は無かった。
それでもずっと目を閉じたままなのを考えれば、
それなりに恥ずかしいのかもしれない。
ブラウスの上から形良い膨らみに手を添えると、
「…あっ!……ぅ…ん」
思わず出してしまった甘声をそれ以上響かせないように
肩口に顔を押し当てている。
しかし。
「ここでは動きに制約が出てしまうな…」
このときフレデリカは、1人がけのソファーに座って
両足を擦り合わせて身じろぎしていた。
「今日はこのぐらいにしておきましょうか、マイネ・フレデリカ?」
そう言ってミュラーは立ち上がり、自分が座っていたソファに戻ろうとした。
刹那、後ろから抱きつかれる。
「…いえ…、続き…を……、どうか続けて…ください…お願い…」
自分から乞うのは本当に恥ずかしかったのだろう、
聞こえてきた声の最後の方は音楽にまぎれて消え入りそうなほど小さかった。
煽られるようにミュラーは自分が座っていたソファにフレデリカを押し倒す。
ブラウスのボタンに手を掛けながら耳たぶを甘噛みすると、
「ふあ…っ、…! …や…ぁ…」
それだけでフレデリカの喉から悲鳴とも喘ぎ声ともとれる声が漏れる。
下着をずらし、胸元の双球に顔を埋めたときには
既に頂上の突起が硬くなっていた。
片方を指先で、もう片方を舌先で転がしながら腰椎を撫でれば
身じろぎでずり上がったスカートがタックを寄せた状態で指に触れる。
かなり追い込まれた状態なのだろう、
手を滑らせてストッキングの上からそっと両脚の付け根に手を添えると、
「……ゃ……あああっ!」
じわりと濡れそぼった感触がミュラーの手に伝わった。
ストッキングと下穿きを脱がせ、
そのまま敏感な秘所へ手を掛けようとしたときだった。
「あっ、……あのっ……!」
急にフレデリカがミュラーの身体を押し、動きを止めさせた。
「いかがされましたか?」
声を掛けるとフレデリカは荒い息をつきながら、
ミュラーの身体の下から抜き出て、ソファの下に膝をつく。
「いつも私ばかりが…先に…その…。
それでは申し訳ありませんから……」
とミュラーを座り直させ、膝を割ってその間に身体をこじ入れる。
ベルトに手を掛け、ファスナーの隙間に籠る熱源を探り当てると、
「いったい何をなさろうと……うわぁっ!」
それを下着の割れ目から引っ張り出した。
勃ち上がりつつあるそれに手を沿え、顔を近づける。
「い、いけません! あなたにそんなことをさせるわけには…ぁ、くぅ!」
慌ててフレデリカの動作を制するが一足遅かった。
その美しい唇がミュラーのそれの先端を包み込んでいた。
とてもぎこちないが情感の込められた舌遣い。
時折こぼれるくぐもった声。
細い指が絡んだままポイントを探るように動かされ、
その全てが自分のために行われているものだと考えると、
ミュラーの心は言い知れぬ興奮に満ちてくる。
止めさせなければいけないと自制心が働くものの、
それをはるかに上回る愉悦がそれを押さえつけている。
「あ……ぅ…、ふ……くっ、う…」
結果ミュラーは金褐色の髪を握りこむことしかできず、
快感に揺れる声を押し殺そうと口元を手で覆った。
やがて先端から薄蜜が滴り始め、それを惜しげもなく舐め取るフレデリカ。
「も、……もう、結構です…。
それ以上されては…あなたの顔か口を汚してしまう」
喘ぎながらミュラーは止めさせようとするが、フレデリカは軽く首を振る。
そのままミュラーのものを口腔にすっぽりと納め、上下に扱き始めた。
「ああっ! いけませ…んっ、そ……そんなに…
激しくされ…たら……っ!」
腰を大きく引いてフレデリカから逃れようとするミュラーだったが、
如何せんそこはソファの上。
思い切り腰をソファの背もたれに押し付けたところでそれ以上の行き場がない。
じりじりと身体を傾けて迫りながら
より深いところで受け入れるフレデリカの行為は、
やがてミュラーに限界をもたらした。
「…駄目です! もう、離して…くだ……あっ、ううううッ!!」
一瞬膨れ上がったかと思うと、どくん、とフレデリカの口腔で
ミュラーのものが爆ぜる。
眉根が少し寄ったが、フレデリカは何も言わず放出された液体を飲み下した。
「ん……けほっ…、こほんっ……んくっ」
喉奥に絡みつくのか軽く咳をして、
それから周囲にわずかに付着している液体をも舌先で舐め取って。
いくらか力を失ったミュラーのものを再び口に含んだ。
「…ぅあ…、も、もう…本当に、止めてください…。お願いですから」
そう言ってミュラーは両手で掬い上げるようにフレデリカの顔を持ち上げた。
「…お気に召しませんでしたか?」
と訊ねてくる口元はミュラー自らが放ったものでべったりと濡れている。
「いえ、そうではなくてですね…」
彼女自身がもともと持っていたであろう高貴で清廉な何かを、
自分の手でひどく穢れたものに染め替えてしまった思いがして、
「あなたを辱めるような、こんなことは…私自身が耐えられない……」
ミュラーはせめてもの償いとしてフレデリカの唇を何度も吸い上げた。
フレデリカの口内から強い苦味を感じなくなるまで口付けた後、
その場に立たせて手を伸ばし
再び彼女の内部器官を愛でようとしたミュラーだったが、
「いえ…もう……」
そう言って口ごもったままフレデリカはミュラーの手を握った。
彼女が何を求めているのか、自分が何をするべきかミュラーは悟る。
「分かりました。では、私の腰にまたがってください…
そうです、そのままゆっくり腰を下ろして…」
「…あ…ぅ!」
近づけられたフレデリカのものがミュラーのものに触れたとき、
その部分はすっかり準備が整っていたことを知る。
少しずつミュラーのものが肉鞘に押し込まれると、
それに合わせてフレデリカの眉根が寄り、顔が美しく歪んだ。
握っていた手を離し、顔を押し付けられるように両腕が絡まる。
「ぁん! ……は…う…、ん……ぅっ!」
待ちきれない、とでも言いたそうにそのままフレデリカは
身体をミュラーに押し付け、腰を揺らした。
それまでの逢瀬ではほぼ受動的であったフレデリカが、
これほど積極的に自分を求めてくるとは思わなかったミュラーは、
「…なんだか…あなたのようであなたでない…ような…、
何かありましたか、マイネ…フレデリカ?」
と訊ねずにはいられない。
「…だ…って……うれ……しく…て……。
夢にうなされ…ても、今度は…あなたが……っあ!
ナイ…トハル……様が傍にいてく…ださるから…、
独りで朝を…迎えなくてい……ひぅ、ぅ!
いいんだって…思ったら…ぁあっ!」
フレデリカは少しだけ目元を滲ませていた。
その言葉は、自分を通じて誰かを見ているのではなく、
ミュラー自身を見ている証拠の表れだろう。
ヘイゼル色の瞳は濡れた輝きを放ちながら、目の前の人物を見つめている。
「やっと……呼んでくれましたね…私の名前を。
ずっと『閣下』の…ままかと思って…いましたよ…」
「え……? あ………」
指摘されてフレデリカの動きが止まった。
そのまま恥ずかしそうに顔を背け、頬をさらに赤く染める。
「いつまでも閣下とお呼び…していてはいけないかな、と…」
「…可愛い人だ。時々そうして…意外に可愛らしい部分を見せてくれる
あなたが…私は…大好きですよ…っ」
ミュラーはしっかりとフレデリカの腰に手を回し、
下から身体を揺すり上げた。
「っあああっ! わた…し…も…好き…っ…、
大…好き…です…、ナ…ト……ぁ…ルト…様……ぁ!」
互いの想いが、感覚が。
繋がった箇所から全身に伝わり身体を痺れさせる。
「愛……して…い、ぁ…あ…っ!」
フレデリカがその言葉を言い切る前に身体が大きくしなった。
4つの瞳の奥底で、花火のように白い火花が派手に散る。
「ああああああッ!!」
「ぁ、うっ……ぅぅッ…!」
『私も愛しています』と言葉でそれを伝える代わりに、
ミュラーはその想いの全てを彼女の体内に注ぎ込んだ。
「あの…ナイトハルト様…」
ソファに腰掛け、心地よい倦怠感に身を任せたまま
その美しい髪を撫でていたときに、ミュラーはフレデリカに声を掛けられた。
「はい?」
「背中…痛くありませんか?」
「え?」
「以前その…私を…私と…あの…一緒に……あの時…」
フレデリカは思い出すこと自体が恥辱に晒されているかのように
言いよどみながらミュラーに尋ねた。
「背中にずいぶん大きな怪我をされた跡がある感じがしたんです。
先ほどからずいぶん強くソファに背中を押し付けていらっしゃるし、
それだけの大きな傷ですから、
ご無理をされればきっと痛むのではないかと思って」
ミュラーは苦笑を浮かべ、
「…あなたに対しては何も隠し事ができませんね。
隠したとしてもいつか見てしまうものでしょうから、
それなら今ご覧になりますか?」
と確認する。すぐにフレデリカの首が縦に振られたので、
前開きのボタンを外してドレスシャツを肩から滑り落とした。
「ご気分が悪くなったらすぐに言ってください」
そう言ってフレデリカの目前に背中を晒す。
「………!」
予想以上の裂傷痕と手術痕とが背中一面を覆っている。
それだけでなく少し覗かせた右腕には他の傷と比べるとまだ新しい銃創痕。
傷の数だけ彼は死の直面に出くわしたが、
辛うじてヴァルハラへの切符を手にしなかったのだろう。
それは彼が「鉄壁ミュラー」と呼ばれているのを体現している証拠でもある。
フレデリカは言葉に詰まった。
「今はもう痛みを感じたり傷が疼いたりすることはありませんからご安心を。
しかしこれも先代のラインハルト帝をお護りした
名誉の負傷と思えば大したことはありませんよ」
安心させるためにミュラーはそう言って、
滑り落としたドレスシャツを再び着直そうとする。
と、フレデリカが傷痕近くに手を置く気配を感じる。
ちゅっ。
小さな音が聞こえたかと思うと、ほんのり温かい感触が背中から伝わってきた。
フレデリカは自分の唇をその傷に触れさせているのだろう、
まるでそれは負ったばかりの傷を舐めて癒そうとする小動物のような仕草に思える。
音は何度も聞こえ、その感触も自分では見えにくい傷の形に沿って伝わってきた。
彼女なりの傷痕の癒し方なのだろうか、それとも──。
ミュラーは背中へ口付けられながら少し考えたが、
これが正答だろうと思えるものはいろいろありすぎてうまく考えをまとめられない。
ただ一つだけ分かったのは、先ほどの言葉といいこの行動といい、
今のフレデリカは本当に自分のことを心配してくれているということ。
温かくて、柔らかくて、慈愛に満ちたフレデリカの唇が背中に触れるたび、
その傷痕さえも彼女が消してくれるのではないかと思った。
そのフレデリカの行動に対しミュラーは言葉にこそ出さなかったが、
「今後はできるだけ仕事中の怪我をしないように気をつけよう」と心に誓った。
自分自身の健康のために、フレデリカにいらぬ心配を掛けさせないために。
そして自分が夫となることで、
「彼女の前夫」と呼び名を変える人と同じ運命を辿ることの無いように。
──後に帝都フェザーンで行われた銀河帝国軍ナイトハルト・ミュラー元帥と
元イゼルローン共和政府主席フレデリカ・グリーンヒル・ヤンの結婚式は、
彼らの友人、知人、僚友だけでなく皇太后、幼帝アレク大公までもが出席し、
先帝ラインハルト・フォン・ローエングラムと
皇太后ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの結婚式に次ぐ大規模な式典となって催された。
その席上、通常白のウエディングドレスに軍支給の正礼服で臨むべきところを、
フレデリカはモスグリーンのドレスで出席、
ミュラーが着ていた軍礼服にはあろうことか所々に古い泥汚れがついていた。
フレデリカのドレスがカラードレスだったことについてはそれほど問題は無かったが、
汚れたままの正礼服でミュラーが式に出席したことについては、
他の出席者の間でさまざまな憶測を呼ぶことになった。
後にさまざまな歴史家がその理由について仮説を立てたが
現在においてもいずれも確証を得るまでには至っていない。
しかし、その理由に繋がるであろう出席者のコメントが1つだけ当時の記録として残っている。
「自分が彼らの服装について訊ねると、彼は新婦と顔を見合せ微笑んだ後、
『これは私たち2人にとって、とても大事なものだから』と答え、
それ以上何も言わなかった。(フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト)」──
<Ende>