ケスラーの憂鬱 /1-872さん)



マリーカ・フォン・フォイエルバッハがケスラー元帥夫人となって数年が経過した。
結婚前は全面に溢れていた少女めいた無邪気さは多少その姿を潜めていた。
入れ替わり人妻らしい艶やかさを時折見せもする。少女と女と同時に感じさせる。そのことがケスラーに背けがたい魅力となって感じられる。
だが、私はどうだ。
一般的な青年という年にはとうに過ぎ、マリーカぐらいの娘がいてもおかしくない年齢にまで達している。
承知で結婚したのだから考えるのもばかげている。
もちろん、体力等諸々のことでそこら辺をうろついている男と比べても負けるようだとは考えもしない。
マリーカも自分との年齢差はまったく意に介さないと断言する。私だって普段ならそのようなことを気にはかけない。
だが、ふとした拍子に心の奥底に封じ込めた漠然な不安というものがにじみ出てくる。
小さなものだがじわりと心の堤防を決壊へと導きかねないのは明らかだ。
不安材料は取り除く。早ければ早いほどいい。だが私には妙案が浮かばない。
そのことがより大きな不安の呼び水となっていくのを自覚してた。
このような不安など他人に知られてはならない。
だが、無自覚に表に表していたようだった。
「あなた。どうなさったんです」
ある日帰宅するなりマリーカに問い詰められたのだから




最初は何のことだと、とぼけようとしたのだが、マリーカには通用しなかった。
「仰るまで、あなたの嫌いなものを毎日食卓で対面させますわよ」
不甲斐ない事に私は易々と自白させられる。
憲兵総監たる人間がたかが食事にいやな物が添えられるだけでしゃべってしまうのか。
他人が見たらがっくりと肩を落とすであろうことは容易に想像できた。
まあ、これは夫婦間の問題だということで寛大な配慮をいただきたい。
「実は」
かいつまんで話すうちにも気持ちの高度計が下向きになる。
マリーカは聞き終えると
「あなた。私は前にも申しましたけど年の差を気にはしませんし、第一あなたは十分若いじゃありませんか。」
「ありがとう、マリーカ。俺だってそう思っている。だがこの不安はなかなか頑固でな。退去命令を聞かないんだ」
ほとほと困り果てた風に言ってしまったのが悪かったのか、みるみるマリーカの表情にも翳りが生まれる。
「私と結婚したのが嫌になったのですか?」
「そんなはずなどないさ。私の言い方が悪かったようだ。もう忘れてくれ」
私は自分の不安をひとまず置いてマリーカの肩を抱きすくめマリーカの誤解を解くのに必至になった。
マリーカの顔に不安が消えると代わりに瞳には決意の光が宿る。
「あなたはもっとご自分に自信をお持ちになるべきですわ。そうすればこんな不安なんて吹き飛びますもの」
「私としては十分すぎるほど持っていると思うのだが」
「いいえ、持ってらっしゃらないからこそ変な不安をお呼びになったのですもの。これからその自信を一緒に作りましょう」
どうやってという私の月並みな返事に対してマリーカの返答はいささか予想外のものだった。
「ふふ。二人で作るものって一つしかないでしょ」
まだ飲み込めない私の頬にマリーカは唇を寄せる。
咄嗟の事で顔の赤くなった私に無邪気な笑顔を見せ、支度があるから寝室で待っていてと言い置くとマリーカは隣の部屋へと姿を消した。



寝室のベッドに腰掛けて待機していく時も経たぬうちにマリーカが寝室に姿を現した。
見た瞬間、妙な懐かしさを覚える。
「マリーカ。どうしたんだ、その服装は」
紺色の侍女服に白いエプロン。忘れようもない柊館で出会った時の格好だ。髪型も先ほどまでおろしていたのに、わざわざ後ろで結んでいる。
「覚えてらっしゃいます?」
スカートの端を持ち上げ私の前で一回りしてみせる。
「もちろん。だがそれよりも何故」
「演出ですよ。ケスラー大佐さん」
そういって私の首に抱きついてきた。マリーカに押し倒された格好の私に唇を落とす。
すぐに唇を離したマリーカは続けざまに言った。
「不安に思うのはいろいろと疲れてらっしゃるんですわ。今日は全てを吹き飛ばすぐらい私が癒して差し上げます。
そうすれば不安なんて吹き飛んでしまいますわ」
マリーカの言うことは一理あるかもしれない。だが演出というのはなんだ。と尋ねたら
「聞いたんです。殿方は衣装によって興奮する度合いが変わってくるものだって。特に制服に拘る方が多いと伺ったもので
この侍女服にさせてもらいました。私にとっての制服ってこれしか浮かばなかったんです。嫌いですか?」
こちらを伺うように答えるマリーカは真剣そのものだ。



服装フェチだったか。たしかにそういう趣味の人間もいる。だが私は今までの人生で女が制服だからと興奮を覚えたことはない。
はずだ。確かに今まではそうだった。しかし予想もしていなかったことだが私の下半身が熱くなっている。しかも
普段一戦交える時よりも主砲に対しての補給部隊の動きが活発なようにも思える。
今まで知りえなかった己の一面に戸惑いながらもマリーカに悪くないと告げる。
ぱっと明るくなった表情を見せたマリーカは
「よかった。じゃ、今日は私が癒して差し上げます。まかせてください」
嬉々として帝国軍元帥である私の軍服を脱がし始めた。


華奢な手が私のズボンにのびる。チャックをおろすと、慣れた手つきで充電しつつある主砲を取り出した。
「くす。もう元気になってきていらっしゃいますね」
悪戯っ子がおもちゃを見つけたような微笑を向ける。マリーカの戦略にはまっている私は敗北感が湧いてくる。
余談だが名将というものは相手の様子を見抜き、攻めや引き際の時期も心得ているという。そういう点で言えば
マリーカは名将というに相応しい。近頃マリーカ好みの戦術は相手を焦らしながら攻めあげるというものらしい。今日も私相手に展開してきた。
弾丸を格納する薬室に顔を近づける。格納場所から攻め、攻撃効果をより持続させるつもりか。
マリーカは薬室を手に収めると軽く握ったあとに桜色の唇で優しく吸い付いた。
「お、おい」
言い知れぬ感覚に静止の声を上げるが、マリーカはくすりと妖しく笑っただけで薬室への攻撃は止めようとはしなかった。
舌を使って各部分の接合部を丹念に舐めあげる。私は堪えきれずに小さく声を漏らしてしまう。



まったく情けない。私の肉体は普通の拷問にならいくらでも耐えられると自負している。だがマリーカの愛情溢れる攻めにこんなにも弱いとは。喜びを出し惜しみせずに硬度を高めていく砲身の単純さにあきれ返る。
もっとも、それを指揮する大将が最初からマリーカには白旗をあげているせいだともいうが。
どんどん砲身に力がはいっていく。異常なほどだ。このままでは戦うどころではない。
小さな焦りを見抜いていたのかマリーカは私の早期敗退を防ぐべく絶妙のタイミングで薬室から口を離し、主砲砲身へと目標を移した。
移動する間も筋に沿って舌を動かす。なんとも無駄のない動きだろう。
マリーカの顔が先端であるの砲口に近づいていった。砲口に柔らかな唇を触れさせると、小さく舌を出し射出口に沿わせる。
舌の先端だけを使い舐めあげるという戦術を教えたのは私だが、ずいぶんと上達したものだ。舌先の動きがひどく艶かしく映る。
舌を使っている間、柔らかな唇が別働隊となり攻め立てる。
小さな口で砲口を咥えると括れまで包囲網を築いた。その中で舌は大胆に動き始める。サポートする様にじわりじわりと包囲網を狭めていく。
包囲網を上下に揺り動かしながら舌を使う波状攻撃は主砲の充電速度を上げるに過分のものだった。
透明な体液がにじみ出ているのがわかる。このままではあっさり発射して前哨戦が終わってしまう。
いや、発射こそ目的なのだからそれもいいだろう。
だが余り早すぎても男としての精神的なダメージが後々まで後を引くのも想像がつくので、今しばらくの間は持ちこたえたほうがいいのではないだろうか。


状況に流されるべきか否かの判断がつきかねているとふと、マリーカとの視線があった。
「大佐さんのお好きなようになさってください。しっかり受け止めます」
艶やかに煌く大きな瞳はそういっている気がした。今ここで我を張っても益なしか。
そう考えた私は射出の体制に映る。マリーカの頭を抑え、砲身をマリーカの口内にうずめると一斉放射を行う。
白い体液が射出される。マリーカはそれをこぼさないように喉をならしながら飲み下していった。全てを飲み込んだマリーカは砲身からすべて搾り取るように砲口を吸い上げていった。
吸い上げ終わったマリーカがようやく砲身より顔を離す。
「いかがでした? 今までの教わったことを全て出してみたんですけど」
「ああ、かなりのものだったよ」
「嬉しい」
行為をしている間の艶かしさと今表している無垢な笑顔。くるくると移ろいながら一つのかんばせより映し出される。マリーカに惹かれる大きな理由の一つだ。
これは他の誰にも……そう、たとえ皇帝でも見せるわけにはいかない。
前時代的な考えだとは思うが、なにを無くそうともこれだけは私だけのものだ。全世界に布告したってかまわない。まあ、そんな事態はないに越したことはないのだが。
不意に強烈な独占欲が全身を支配して、マリーカを両腕で抱き寄せた。
「大佐さん?」
きょとんとした表情と声をあげたマリーカだがその後は何も言わず私の体に腕を沿わせた。



しばしの間、現状維持を保っていたが不意にマリーカの首筋に軽いキスを落とす。
伝わる感触なのか私の行為なのか定かではなかったが、マリーカは驚き交じりの嬌声をあげた。
「もう大佐さんたら」
私を諫める言葉を発したマリーカだが本意ではないだろう。かまわずに唇で瑞々しい柔肌を味わい続けた。
やや強引に今度は私がマリーカを押し倒し、主導権を握る。
「今日はどういう風にされたいんだい。さっきのご褒美だ。できる限り希望にかなうようにしよう」
かわいらしい耳元で優しく囁くと、マリーカの頬に朱が走る。
「そ、それは」
とたんに声を小さくして口どもってしまう。
大胆な行動に出ることは厭わないが口に出すのは躊躇いがあるらしい。
「言葉にするのが嫌なら、わかるように表してごらん」
頬を染めたマリーカは小さくうなずく。
マリーカが動きやすいように離れてベッドの上に座った私の前でマリーカの体を張った主張が始まった。
同じように座ったマリーカは手を自らの胸元に添える。そして目線を伏せつつ小さく呟いた。
「ここに……触ってほしいんです」
「ここ。じゃ、わからないだろう」
我ながら意地の悪い応答だ。性格の悪さに苦笑する。だが、今は敢えて察しの悪い男を演じよう。はっきり言うように促すと
途切れがちに言葉をつむぎ始めた。
「その……あの。む、胸に」
「よし、わかった。ではどのように触ってほしいのかい」
「い、言わないといけません?」
かなり動揺しているマリーカは私に再度聞き返してきたが、短く「Ja!(諾)」と答えた。
そのときの私の顔はさぞかし嫌な笑みを湛えていたのではないだろうか。
考え抜いたマリーカの答えはやや抽象的なものだった。



「そ、そうですわ。いつものように触ってくださいまし」
いつも、か。なかなか上手い切り返しだと感心したが、察しの悪いうえに覚えの悪い私は意地悪くマリーカに答えた。
「ああ、すまない。いつもの、というのはどのようにだったか思い出せないな」
そういって、からかう様にエプロンの上から親指と人差し指でマリーカの柔らかな丘にある小さな突起を優しく抓んだ。
軽く捻ると呼応するように硬くなり、服を押し上げていった。
戸惑いを含んだ悲鳴と共にマリーカは顔をしかめる。負の感情を表しているはずなのに可愛らしさが滲んでいる。
「ではこうだったかな」
服の上から乳房全体を包み込むように手を添えるとゆっくりと揉み始める。服が邪魔をして激しい動きはできない。
揉みあげるたびに服の下より伝わる弾力が心地よい。
艶かしいマリーカの唇からわずかな吐息が漏れる。どうやらこの触れ方でいいらしい。
「もっと……触って欲しいのですけど」
服の上からの刺激だけでは足りなくなったらしい。私としても同意見だ。
「わかったよ。次はどこがいい。口で言うのが嫌なら私にわかるように見せてくれないか」
恥じらいを見せるマリーカを眺めるのもいいが、あまり時間をかけても興ざめとなる。マリーカも口より行動のほうが起こし易いのなら、
そのほうが良いだろう。
小さくうなずいたマリーカはスカートの裾を少しずつたくし上げる。細かい飾りのついた下着を私の視線に晒した。
純白がやけに眩しく映る。四つんばいになって腰を私の眼前に向けると、消え入りそうな声を出した。
「先ほどのように優しく……して下さいません?」
マリーカの言葉を聞いたとき、幸福感と滾りが体の奥底から自然と湧き上がってきた。
ヴァルハラに住むという神々よ、いや誰でもいい。Danke!!(ありがとう)
そう私は、今この瞬間を感謝せずにはいられなかった。祈りの時間としては数秒の事だっただろう。
だが、その間に人生でもっとも真摯かつ多量に感謝の言葉を捧げたにちがいない。
感謝の祈りはそこそこにマリーカの言葉どおり私は事を進めようと手を伸ばそうとした。
だが、ここである考えが手の動きを静止させた。
『こんな機会などそうありはすまい。もっと焦らしてはどうだろうか』
私の中で強硬論と保守論が鬩ぎあう。結果マリーカの痴態が更に見られる可能性がある保守論が採用された。
すまないマリーカ。だがお前への愛がためらいを無くさせるんだ。
「まだだ。もっとよく見えるようにしてくれ」
そう言ってマリーカの反応を待った。


私はもう人間として駄目なのかもしれない。この小一時間の間に嗜虐趣味まで現れたようだ。
マリーカの潤み始めた瞳に喜びを感じるようになっている。
マリーカは途方にくれた顔で熟考し始めた。いく程もたたぬ内に小さく息を吸い込み、
「よく……ご覧になってください」
そう言って指で下着の股の部分をずらした。そして今まで下着て隠されていた花弁を少しずつ人差し指と薬指を使い器用に拡げ始める。
鮮やかな花弁の中心部にマリーカの中指が伸びる。指はゆっくりと花弁の最奥に飲み込まれ、蠢き出した。程なく淫猥な音を耳にするようになった。
「私、こんな風に……大佐さんに触られたいんです」
まさに花に誘われた虫の心境と言うべきか。マリーカの指を押しのけ吸い寄せられるように顔を近づけ舌で蜜溢れる花を味わった。
触れた瞬間、マリーカは体を震わせる。
「やぁ……そんなっ……」
わざと音をたて、触れるたびにとろとろと零れる蜜を吸い上げる。マリーカにもその音が届いたのか、
「い、いや……音をたてないでください……」
と、懇願されたが、無視を決め込んだ。
舌を奥に差し入れると花は奥へ誘うように動く。誘われるまま指で奥を目指すと、歓喜のためか指を締め上げられた。
ざらついた感触が指先から伝わる。時折指の関節を曲げつつゆっくりと出し入れを繰り返し、存在感をアピールする。
そのつど切なげな吐息がマリーカより漏れた。
「はぁ……ぅん……いいですわ……」
「それはよかった。では次はこちらも頂こう」
花の傍には、花芯が刺激を待ちわびるように充血していた。宥めるように、舌の先端で舐めあげる。
「んっ」
素晴らしいほど敏感に反応した。指と舌の動きを早めると比例するかのように声をあげるようになった。それも長いことは続かなかった。



「大佐さんっ」
という一言を最後にマリーカの全身から力が抜け、その場に崩れ落ちてしまった。指を引き抜くと蜜が堰を切ったように流出し、
侍女服やエプロンに染み渡りつつある。マリーカの達する時はいつもこうだが、今日は何時にも増して量があった。
私がマリーカの名を呼ぶと、かろうじて答えがあった。マリーカの顔を覗き込むと微笑みが返ってきた。
マリーカは私の首に腕を通しキスをねだった。望まれるままに唇を重ねる。
「ねえ、今度は一緒にいきましょう」
というマリーカの提案を受け入れることにした。
次は私がベッドに仰向けになり、その上にマリーカが腰掛ける格好になった。
マリーカの存在が軍服の上から伝わる。本当は早く服など脱いでしまったほうがいいのだが、
「今日は折角ですから、このままで……ね」
と押し切られる形になった。
早々と臨戦態勢となった肉棒の上にマリーカが腰を沈めていく。溢れた蜜が潤滑油となり随分楽に根元まで進入を果たせた。
「凄くきつい……なんだか何時もより凄いですよ?」
「そうかもしれないな。マリーカのお陰だろう」
「まあ」
屈託なく笑うと両手を私の胸の辺りに置いた。マリーカはゆっくりと上下運動を始める。
マリーカは私をきつく締め上げる。
「ああっっ、いいのっ……いぃ」
徐々に速度を上げたマリーカは声を張り上げた。結合部分からも盛大に音をかき鳴らしている。貪るように腰を振るようになるのは
マリーカが達する直前だというのは何時もの行為からわかっている。普段よりかなり感じているようだ。
女性上位の体勢ではマリーカのほうが先に登りつめてしまうな。そう考えた私は体勢を変えるべく
結合したままマリーカをベッドに組み敷き、正常位となった。
腰をマリーカのそれに打ち付ける。
「あぁっ……っすごいぃ」
最初は遠慮するのが定石だが、今日は初手から容赦なく攻めあげる。とはいっても猪突猛進だけでは芸がないので
突き上げる位置を変えながらではあるが。
マリーカのほうも痛いくらいに締め上げてくる。奥へと誘う蠢きも合わさっているのだからたいしたものだ。


二人とも今日は妙に盛り上がっている。やはりこの服装のためなのか。確かに興奮はしてしまった。それにしても存外の効果だ。
唇に指をあてて快楽を享受しているマリーカを肉棒で犯しながら考える。余計なことを考えでもしないと、すぐに果ててしまいそうだからだ。限界が近い。マリーカも同様らしい。
「あなた、私……もう」
「ああ。一緒に……な。私もそろそろだ」
腰のストロークを限界まで早める。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああぁ」
腰の動きにあわせてマリーカがさえずる。最後の一刺しというふうに大きく腰を振ると、それに合わせ、絞り上げるように激しく締め上げてきた。なすがままに精液をマリーカの膣内に放出した。
全身の力が抜け落ちる。そのままマリーカに倒れこみ力が戻るのをまった。
この間も射精は続いていた。随分と長い。先ほど一度出したのに。これも制服の効果なのか。服越しに伝わるマリーカの体温と鼓動が心地いい。
射精が終わり、少しずつではあるが全身に力が戻ったので、肉棒をゆっくりと引き抜いた。
精液と蜜液が混ざりながら溢れてくる。マリーカの服はもちろん、私の服にもベタベタと付着している。
「汚れてしまいましたね」
「ああ」
だが、それだけの収穫はあった。帰宅前までの鬱陶しい感情が霧散している。何を気弱になっていたのだろう。
それに、善悪は置いておいても新しい性癖にも開眼してしまったらしい。
喜びを見出す事自体は決して悪いことでもあるまい。
「そうだわ。二人とも着替えないといけませんし、たまには一緒にお風呂に入りません?」
マリーカの提案はいつも驚きと喜びを提供する。私は頷いた。
「じゃあ、さっそく準備をしてきますわ。あなたのお好きな入浴剤もご用意しましょう」
軽く身支度を整えたマリーカは足早に寝室から後にした。
この後数時間の出来事に関しては黙秘権というものを行使させてもらう。
有意義な時間だったとだけ言っておく。




翌朝、私の好物ばかり並んだ朝食を口にしながら、ある疑問を投げかける。
「そういえば、昨日のことなんだが」
「なんですか? あなた」
「服装云々の事だが……聞いたと言っていたな。誰からだ」
「ああ、それはですね……」
ここで言いにくそうに一度言葉を詰まらせる。
「お名前は申し上げる事はできないのですが、とある未亡人方からです。お一人はお相手の方とは職場でお会いになったそうなんですが、夫人が働いているときの姿が気に入られていたそうです」
「未亡人方というと、まだいるんだな」
「ええ、もうお一人はご主人様が元々ああいったことに淡白な方だったそうで、その改善案の一つに。ということでした」
「へえ、世の中いろいろな方がいるんだなぁ」
素直に感心していると
「あら、そのお陰で元気になったのだから良いではありませんか」
「まったくだ」
二人して笑いながらその時は終わった。




だが、後々になって振り返ってみると、マリーカの言っていた人物というのに心当たりがあるような気がしてならない。
「……まさかな」
憶測は口に出すものでもない。他に思慮すべき事はたくさんある。
憶測に鍵をかけ、記憶の彼方に封印した私は、日々の職務に戻っていった。







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