色目×伯爵令嬢 2◆ALOVG.j6AI(3-111) さん





 覆い被さり、唇を彼女の首筋に這わせたまま、そのまま舌を走らせる。銀の装飾に彩られた軍服の襟周りの辺りをゆっくりと舐めてやる。
 首周りにはかなり余裕がある。彼女に合わせて調節はしているのだろうが、それでも彼女に合うようなサイズの軍服はなかったのだろう。
何せ、軍人としては規格外に小柄である俺の親友よりも、彼女は小柄なのだから。
 余裕があるのは胸周りも同じだ。軽く添えて撫で回していた片胸の辺りを、俺は掴んだ。撫でるのではなく、掌で包み込むようにして揉んでやる。
厚手の布地とその下にある布地の感触、そして柔らかい肉の感触が伝わってきた。
「…止めて下さい」
 俺が嘗め回している喉が震えて、小さな声がした。それには返答せず、声を発した喉の辺りを俺は舐めてやる。すると、彼女はまた同じ事を言う。
しかし言葉だけの拒絶に過ぎない。俺を止めさせる行動に出るつもりはないらしい。
「先程、このような事――と仰いましたが、このような事をされるのは初めてですかな?」
 首筋に唇を這わせる合間にそんな事を言いながら、俺は自由な片手で彼女の襟を掴む。軍服を着ている相手のここを掴むような事は、
他には殴り合う時位しかやった覚えがない。無論、今回はその時のように乱暴には掴まない。
 優しく、ゆっくりと、襟元を開いてやる。…他の奴が着ている軍服を脱がせると言う行為も初めてではないが、それは…誰とは言わんが酔い潰れた
際の介抱程度の事で――
 襟を掴む事と言い、つくづく色気がない前例しか記憶にないものだ。今回はそれとは全く違うケースである事を念頭に置いておく。
 ともかく俺は彼女の襟元を開くと、彼女の首筋がどんどん露になっていく。軍服には不釣合いに細い首筋にゆっくりと根元まで唇を這わせていく。
 軍服と言う奴は機能的に造られているもので、ボタンなどの外し方が判っているなら片手でも容易に脱がせていく事が出来る。そうして俺は、
彼女の上着のボタンを中程まで外してやった。俺はふと顔を上げて確認する。
 普通の軍人がその下に着ているのは白の開襟シャツである。しかし彼女が着ていたのは、白には違いないが女物のブラウスだった。
おそらく自分に合うサイズを探し出せなかったのだろう。しかし軍服の下に着ているものとしては、不釣合いなものだった。
 胸を揉み、撫で回す片手を俺は外してやる。すると彼女は大きく溜息めいた呼吸をついた。解放されて安堵したのか、その呼吸によって、
胸も揺れて見て取れた事に彼女は気付いているのだろうか。その胸の動きはブラウスの上からはかなり露に見えている事に。
 俺はそのブラウスの襟にも手をかけた。今回は両手でボタンを外していく事にする。女のブラウスを男の無骨な指がボタンを外していく状況を見たのか、彼女は流石に身をよじらせた。今回は言葉は発しないが、体で抵抗の意思表示をする。
 しかしそれはあまり必死めいたものには感じられない。俺が圧し掛かり、体自体で彼女を押さえ込む事で、彼女の動きを制限する事は容易だった。
 女の細身の体が男の下で足掻く姿は、却って男の劣情を煽る事を彼女は知っているのだろうか。少し忠告してやりたくもなるが、そんな義理は
俺にはない。
 俺は口を開く事無く、徐々に露になっていく彼女の生身にそのまま唇を進めていく。首筋から、鎖骨に至るまで。強く吸い付く事はしないが、
舌を走らせて一時的に跡は残していく。
 服に覆われている部分だからか、首筋よりも汗をかいていた。段々と内部に入っていくと、彼女の呼吸も穏やかではなくなってゆく。



 ブラウスのボタンを中程まで外した所で、俺は手を止めた。丁度軍服と同じ辺りで外すのをやめた事になる。丁度――胸の辺りは通り過ぎて腹の辺りでボタンを数個残している事になる。
 まだ服を開いていないのでその下は明らかにはなっていないが、胸が上下する様は良く判る。こうして見ると普段からスーツで覆うだけあってそこまで大きくはない胸だが、形は悪くないようだ。
 …まあ、余程素晴らしい矯正下着を着けているなら、別問題だが。俺は顔を上げ、彼女の顔を見た。俺が片手を胸元に進めると、流石に彼女の顔に怯えが走る。そっと、ボタンが外されたブラウスの隙間に手を置く。彼女の反応――怯えを楽しんで、俺は手を中に進めた。
「もう、私を制止しないのですか?」
 汗を帯びている肌を感じつつ、俺は胸元に突っ込んだ手を進める。そこには胸を覆うブラジャーの感触があった。どうやら普通の代物のようだ。
「…私が言っても止めるつもりはないのでしょう」
「成程、人間諦めが肝心と言う事ですか」
 俺は目を細めて笑い、ブラジャーごと彼女の乳房を鷲掴みにした。すると、彼女は瞬間的に息が止まる。体が一瞬にして硬直する。
「諦めの選択が正しいのか誤りかは、これから判る事でしょう」
 微笑んで俺は、鷲掴みにした手を緩める。が、そのまま掌で包み込み、感覚を確かめるようにして揉みしだき始めた。ブラジャーのカップや布の感触はするが、その下にあるものの感触を追うのは容易だ。揉む事で乳房に刺激を与えつつ、俺は指で乳首の辺りを優しく撫でた。
 瞬間、彼女の呼吸音がここまで聞こえた。息を飲む音と、それによって膨らむ胸部。反射的にだろう、彼女の両手が瞬時に動いた。自分の胸を揉む不埒な俺の片手を押し留めようとしていた。
 こういう無意識的な行動に対しては、こちらも強く出る事で彼女の本能にダメージを与える方がいい。俺は自由である片手を、再び彼女の手首を拘束する任務に就かせる事にした。
 あちらの動きが瞬間的なら、こちらも瞬時に片手を動かし、彼女の片手首を掴んだ。そのまま勢い良く俺の体から引き離し、腕を伸ばした状態でテーブルに叩きつけるようにして拘束する。
 痛いまでに強く握られた手首と、テーブルに叩き付けられた痛みで彼女は怯む。胸を弄ぶ手を掴む力が弱まった。俺はそれを機にして、手でブラジャーを捲り上げた。そのまま生の乳房そのものを掴んで揉む。
「な、何をするのですか!」
 明らかに機を逸した悲鳴が上がる。――今更言われた所でどうしろと。諦めたのではなかったのか?俺の口元に冷笑が浮かぶ。
 俺は当然彼女の悲鳴を無視して、汗ばんだ乳房を直に、巧みに刺激する事にする。今までのブラジャー越しの刺激により、乳首は既に敏感な反応を示していた。指で触れると、充血し硬くなりつつあるのが判る。その乳首を俺は指で挟みこんだ。
「嫌です、止めて下さい!」
 どうした事か、彼女の動揺は激しさを増していた。それこそ今までの、ある種の余裕にも似た諦めをかなぐり捨てて、俺に対して叫びを発する。
 どうやら本意ではない性的快感を与えられ、それにまんまと反応してしまう自分の体に嫌悪感を抱きつつあるらしい。だからその快感を与える元凶である俺をどうにかして排除したいのだろう。
 理屈はわかるが、俺は彼女に同調してやる必要性を感じない。むしろこれを待っていたのだ。俺は乳房を揉み続け全体的に微妙な圧迫を加えてやる。その間にも指で乳首を挟みこみ、強く力を加えたり或いは擦り上げたりと刺激を与え続ける。
 彼女の呼吸が浅くなる。俺はその口に自分の唇を重ねた。再び舌を彼女の口中に進め、舌を絡めて口付けを交わしてやる。彼女はそれからも逃れようとするが、噛み付こうとはしない。どうやらそういう抵抗の手段は思いつかない様子だ。
 俺が彼女の唇を奪っている間も、胸に対する様々な刺激を緩める事はしない。むしろこの刺激によって、塞がれた口元から漏れる吐息や舌の動き、声にならない声を楽しんでいた。



 抵抗される恐れはあったが、俺は彼女の手首を押さえ込んでいた手を離した。口付け、胸を弄んでいる最中、その手で彼女の腰を撫で回す。ボタンを緩められてたわんでいる軍服やブラウスの感触の更に向こうに、細身の体が感じられた。
 徐々にその手を下ろしていく。やんわりと脇腹や腰を撫で回し、そしてベルトの更に下へ。厚手の軍服のズボン越しにだが、彼女の下腹部に手を触れた。
 瞬間、キスを続けてきた彼女の口が強張ったのが判った。体全体に力がこもる。口内や乳房から、彼女の体温が急上昇した事が俺に伝わってきた。そして。
 俺の頬に、鈍い痛みと鋭い痛みが走った。
 解放していた彼女の手が跳ね上がり、俺の頬を打っていた。
 密着した状態だったから避けようがなかったし、そもそも避けるつもりは俺にはなかった。彼女がこの体勢で、そこまで強く力が込められる訳もないと判っていたから――そして、彼女に頬を打たれた所でどうとも思わないからだ。
 俺にとって女に頬を打たれる事は、女を捨てる際にそれこそ掃いて捨てるほどあるのだ。
 微妙な熱さを含む鈍い痛みと、引き攣れたような鋭い痛みの両方を感じる。どうやら頬を打たれただけではなく、彼女の爪でも当たって擦過傷でも作ったか。まあ心境の上でも傷の上でも、気にする程の事ではない。
 俺は何事もなかったかのように、彼女に対する愛撫を続けてやった。彼女の下腹部を、布越しに強く擦り上げる。途端、彼女は大きく息を飲んだ。体が一瞬跳ね上がるように反応する。
 俺は彼女の反応に満足し、一旦口を離した。顔を近付けたままの体勢だが、俺は下腹部に触れた手を挙げて自らの頬を撫でた。
「――…引っ掻き傷を作ってくれるとは…大した雌猫だとは思いませんか?」
 口元に侮蔑の笑みを浮かべて、頬の傷を見せ付けるように撫で付けて、俺は彼女にそう告げた。指先には、じんわりと滲む、半ば凝固していた血の感触が伝わる。
 彼女は俺に対して睨みつけるだけだった。何か罵倒の言葉を口走るとか、そう言う事は出来ないようだ。…おそらく、その手の語彙は極端に貧しいのだろう。本当に育ちの良い――謀略云々はともかくとして、性格においては裏表がない娘だ。
「嫌だとか仰る割に、先程布越しに触れた感触からして…そう、何と申しましょうか。明らかに濡れてらっしゃったようだが」
 厭らしいまでに回りくどい口振りとその結論に対して、彼女の目に炎めいたものが宿る。それは怒りか、敵意か――今まで明らかに臆していた彼女だったが、俺を排除すべきものと認識したらしく、敵意を隠さないようになったのか。
「そんな事――」
 彼女は大きく口を開けて否定しようとしたが、その台詞は中断された。俺が強く乳房を握り締めたからだ。代わりに口からは、喘ぎとも悲鳴とも取れる不明瞭な言葉の叫びが漏れていた。
 一旦そんなものを発せさせたら、後は楽だ。俺は乳房を的確に弄び、時には指先で既にある程度は硬く充血していた乳首をいじってやる。そうすれば口から声が漏れ続ける。
 自分の意思に反して、性的快感を与えられ、それにまんまと反応してしまう。それはこの娘に対して相当の屈辱である事は先に知れていた。そして今の状況は、正にそれだ。
 先程とは違い、今はキスで口を塞いでいない。だから、彼女自身にも彼女のあられもない声や吐息が聞こえてしまう。それは――彼女にとってどれ程嫌な事なのだろう。
 彼女は相変わらず片手では俺の手首を掴んで胸を弄ぶ行為を止めさせようとする。が、それも無駄な努力だ。
 彼女はもう片方の手で、自分の口を塞いだ。自分の声を物理的に止めようとした。
 が、それは俺の思う壺と言う奴だった。俺は彼女に片手を伸ばす。彼女が先程言いかけた言葉を、俺が継いでやる。
「――そんな事ないと仰るなら――」
 軍服と言う衣服は、重ね重ね言うように機能的なものだ。着脱の方法が判っているならば、それはかなり容易に行う事が出来る。そして俺は軍人を長年続けている。俺にとって軍服とは、どんな服よりも一番着慣れた着衣だった。
「――私が確かめて差し上げますよ」
 俺は自由な片手で彼女の腰のベルトを解き、腰周りを緩めた。そしてその手を一気に内部に進めていた。




 彼女の口からは悲鳴が上がった。それは口を塞いでいても押し留める事が出来なかった。
 自分とは違う体温を帯びた、男の無骨な指が自分の下着の中に入ってきている。それは彼女にとって耐え難い事実であるようだった。
 身をよじり、恥も忘れたように両足をばたつかせる。俺から逃れようとしているらしいが、俺はしっかりと体を彼女の足の間に割り込ませてしまっていた。だから彼女が暴れた所で、テーブルががたつくだけだった。
「はしたない真似はお止めなさい、フロイライン」
 俺は苦笑を浮かべ、指を走らせた。彼女の陰りの内側をなぞってやる。すると彼女の体が跳ね上がり、足の動きが止また。
 確かにそこはじんわりと粘液が滲み始めている状態だった。多分、布越しにでも判る状態だ。俺はその事実を彼女の耳元で、丁寧に解説してやった。その耳が真っ赤になると、そこに舌を走らせてやる。すると、俺が指で触れている辺りがまた僅かに濡れてきたように思えた。
「どうやら刺激が欲しいらしい」
 そう告げて俺は親指で探り当てた小さな部分を擦り上げ、刺激を与えた。濡れているために滑りは良い。
「そんな事は……止めて下さい…」
「…艶の声以外では、それしか言えないのか?フロイライン」
 俺は最早彼女への侮蔑を隠そうとはしない。敬語も使う気がなくなった。もっとも、彼女を押し倒してから今まで、厭味としての敬語しか使っていなかった訳だが。
 耳や首筋、胸や陰部に対する愛撫を続けてやっていれば、彼女は弱々しい声で拒絶の言葉を続けるのみだった。その合間に声が漏れる。俺は舌での責めを中断し、彼女の顔を見た。
 彼女は美しい顔を紅潮させていた。その理由は性的快感か、屈辱か。或いはその両方か。しかしその目元には涙が浮かんでいる。
 彼女が、泣いている。深謀遠慮と行動力によって旧門閥貴族を見限りローエングラム公の側に付き、その策謀において高級将校らから絶大な信頼を得ている彼女が、唯一性的快感による陵辱には涙を流して屈していた。
 それは、今の俺に屈したも同然だ。俺は任務をこなした時にも似た達成感を覚えた。
 俺は満足して笑い、指を進める。陰部に触れる手の人差し指がするりと彼女の中に入った。硬くなる体を感じたが、俺はその指をそっと動かした。彼女の内部をゆっくりと探り、刺激する。
「ひ――嫌、止めて…そんな…!」
 彼女は激しくかぶりを振った。目元からは大粒の涙をこぼしている。が、陳腐な表現だが体は正直と言う奴で、内部に入り込んだ俺の指を伝って彼女の愛液が溢れ出してきていた。
 ――俺の袖が汚れるのは嫌だな。不意にそんな事を思う。そんな、冷たい事を考える俺は、どうあっても彼女に対して愛など抱きようがないのだろう。
 しかし衣服を汚す嫌悪感は、彼女を屈服させ征服する達成感と満足感には勝てなかった。俺は愛液に塗れた指を彼女の中で動かしてやる。もう片方の手では相変わらず胸を執拗に責める。乳首を潰すように親指で撫で回し、勃起したそれを解放してまた摘み上げる。
「やめ…もう…嫌…」
「今のうちに、一回は絶頂と言う奴を味わっておいた方がいい。後々処女を失う際、楽になる」
 苦痛を与えるよりも、快楽のみで終わらせておく方が、彼女にとって陵辱になるだろう。俺は敢えて指の数を増やす事無く、人差し指のみで彼女の中を傷つけない程度に掻き回した。
 呼吸が荒くなり、口元からは嬌声が漏れる彼女の唇を、俺は再び奪う。俺の指の動きに合わせて戦慄く口と舌の動きに乗じ、俺はそこに舌を絡めた。時折彼女の口が大きく動き、吐息が漏れる。互いの口元が唾液で汚れるのも厭わなかった。
 そして彼女が大きく息を吸い込んだ。細い体が大きく仰け反り、白い喉が反り上がる。瞬間、彼女の内部にある俺の指が、彼女の内壁によって強く締め付けられた。
 次いで、彼女の体からがっくりと力が抜けた。弛緩してしまい、口からは荒い息が伝わってくる。――絶頂を迎えたらしい。俺はそっと彼女の唇を解放してると、名残惜しげに唾液が糸を引いた。
 薄く開かれた瞳は潤み、涙を溢れさせている。顔や肌にはしっとりとした汗が流れていた。そして俺の指を締め付けていた内壁もゆっくりと弛緩していくが、まだ余韻に満ち溢れている。その指から伝わる愛液はすっかり俺の手全体を濡らしてしまっていた。




 びくつく内壁が俺の人差し指を、絡み付くように締め付ける。これは良くある感触であり、男の方はその肉感自体からは快感を覚える事はない。只、女を絶頂に導いた満足感から来る、精神的な快感なら感じる事が出来た。
 内部に入り込んだ指だけではなく、触れている手の全体がじっとりと濡らされてしまっている。外側の小さな部分に触れている親指を軽く擦り付けてやると、容易く滑る。他の指で内腿を探ると、その辺りまでに粘液質な感触がした。
 すっかり濡れてしまっている。――この小娘も、女として恥ずかしくない状態になったようだ。俺が人差し指と親指でそれぞれの部分に刺激を与えると、絶頂を迎えたばかりの彼女の肉体は容易く反応した。もう止める事が適わないらしい艶の声が口から漏れる。
 しばし内部を探った後、俺はゆっくりと指を抜く。抜く途中も内壁を探るように撫で付け、親指を擦り付ける。その度に彼女の体がびくんと震え、声を発した。
 指先が彼女の中からようやく抜かれると、その先から粘液が何本も糸を引く。最初は透明だったはずの液体も今目視すると幾分白く濁っている。それは、彼女が性的快感を得ていた紛れもない証拠だった。
 俺はすっかり彼女の愛液にまみれた片手を徐々に挙げた。自分の顔の前に持ってくる。――恐れを抱いていたが、袖口までは濡れてはいなかった。しかし、手を動かせば、そのうちに垂れてくるかもしれない。今の所は気にしないでおく。
 軽く粘つく指や手からは鼻を突く匂いがする。俺はその指を軽く舐めた。粘液が舌に絡まり糸を引く。
 やはり、どうも旨いものでもない。愛液を「蜜」だとか表現する輩もいるが、それはあくまでも好きな女と言う精神的な補完が働いているからだろう。俺にとってこの女はそうではないし、そう言った女を今まで持った事もない。
 下に視線を落とすと、彼女は息を整えようとしていた。しかしその紅潮した顔や潤んだ瞳を見る限りでは、未だに快楽に苛まれているようだ。



「――折角優しくしてやったのだ。泣く事ではなかろう」
 俺は汗を掻いている胸から手を外し、ブラウスの中からも抜いた。汗の匂い――女の体臭を微かに帯びた手を感じつつ、その手で彼女の頭を優しく撫でてやった。
 髪はほんの僅か湿り気を帯びており、空調が行き届いている旗艦内である事を考えれば、彼女は全身で汗を掻いているのだろう。
 表面上は優しく、いとおしむように彼女の髪を撫でる。前髪をそっと掻き上げ、薄く化粧された額に口付けた。
 すぐに唇を離し、顔を上げる。彼女の顔を見ると、再び瞳に炎らしきものが浮かび上がりつつあった。しかし、そこには以前のように激しい炎はなかった。潤んでいる瞳をフィルターのように介してしまっている。俺に対する憤りすら、体の快楽を破る事が出来ないようだった。
 完全に屈服した訳ではないようだが、体は自由にならないか。それはそれで面白い事だ。俺は愛液に濡れた手をそっと彼女の唇に当てた。外気に触れ、ある程度熱を失っている指にはまだまだ粘つく液体がまとわりついていた。
 顔に近付けられるとまず匂いが鼻についたのか、彼女は軽く呻いてテーブルをずり上がろうとした。俺に圧し掛かられているのだから、元々彼女の体の動きは自由にはならない。だから俺は特に彼女の動きを停めようとはしなかった。気にせずに、彼女の口に指を2本突っ込んだ。
 指を突っ込まれた事、そして愛液の匂いや味による嘔吐感が来たのだろう。彼女は大きく呻き、喉が動く。指から舌が逃れようとして、口が大きく開かれる。口の合間から呻きや唾液が漏れる。
「どうした。自分の味だろう」
 俺は全く気にせずに、彼女の舌や口内に指を絡め、擦り付けた。嘔吐感とは、体が毒物を受け容れまいとする本能的な感覚だ。彼女は反射的に両手を挙げ、俺の片手首を掴んだ。口を犯す指を引き抜こうとする。
 俺はそれをあっさりと受け容れた。どうせ指に帯びていた愛液の殆どは与えたのだ。そこまで執拗に責める事でもない。俺は彼女の手の動きに合わせ、指を引き抜いた。今度は唾液が――おそらく愛液とも混ざり、糸を引いた。
「自分の味にも慣れておく事だ。後が楽になる」
 濡れた彼女の唇を指でなぞり、俺は満足げに笑った。彼女は指から解放され、口を押さえて咳き込んだ。



 ――さて。いよいよだろうか。
 いくら好きな女ではないとは言え、こうまで眼前で女に痴態を晒されては普通の男は反応するだろう。そして俺は漁色家と呼ばれるくせに女を侮蔑してならない男だが、不能者ではないのだ。自らが熱くなっている事を、俺は自覚した。
 俺は女を侮蔑しているが、酒のように楽しむ事は好きだ。そしてその楽しみ方には色々な手法がある。今回のように、気に入らない女を暴力的にではなく屈服させる――その最終的な手段として、この熱さがある。
 好きでも何でもない相手には違いないが、彼女とは違って俺の性的快感は不本意な物ではない。彼女を貶める、この上なく有効な手段なのだから。
 …暴力的な手段にしないためには、もう少し柔らかくしてやるべきだろうな。俺はそう結論付けた。
 彼女はおそらく処女なのだ、指1本で精一杯だった。とても俺自身を受け容れる余裕などない。そして、無理矢理に犯して痛みのみを感じさせるなど、それは俺にとって最高の陵辱とは言えない。
「……全く、処女とは手間の掛かる事だ」
 俺は自分の気持ちを口に出した。彼女が俺の台詞に反応したのか、それとも未だ残る快感のせいか、その時震えた。俺は自分の顔をゆっくりと下げてゆく。両手は腰に触れ、彼女の軍服のズボンと下着にまとめて手をかけた。
 顔が下腹部に近づくに従い、鼻をつく嫌な匂いが迫ってくる。
 彼女は俺が何をしようとしているのか判っているのか知らないが、とにかく俺の顔が彼女にとって見られたくない部分に迫っている事は判っているのだろう。掠れた悲鳴を上げて俺の頭を掴もうとする。手が俺の髪に当たり、乱される…。
 ――唐突に、室内に電子音が鳴り響いた。
 それは俺にとって全く想定外の事だった。少し驚いて俺は顔を上げた。音のする方に視線をやる。驚いたのは彼女も同様のようで、俺の髪を掻き回す手が止まっていた。
 機械的な電子音――どうやら壁際に備え付けられたインターフォンが発しているようだった。
 …誰だこんな時に。俺はそう思うが、普通、旗艦の会議室でセックスするなどと言う不埒な輩を想定する訳がない。誰かは知らんが、俺や彼女に用があるから、会議室で待機しているはずの俺達を呼び出しているのだろう。
 俺は顔を上げた。呼び出し音を背後に、彼女の細い体を片腕で抱き上げる。彼女としては予想外の事だったのだろう、引っ張られて体重をそのまま俺に預ける事になる。乱れた服が衣擦れの音を立てた。
 そのまま俺は彼女を腕に抱きながら、引きずるように壁際に歩いていく。彼女は戸惑うように抵抗するが、俺は彼女の動きなど気にせず歩く。歩いていくと、彼女に掻き回されたせいなのか、自分の前髪が視界に落ちてくる。鬱陶しい。
 俺は壁際に立ち、律儀に呼び出し音を鳴らし続けるインターフォンの受話器を手に取った。各部屋に備え付けられている程度の電話機なので、旧式のものだ。TV電話機能などはついておらず、受話器で音声のやり取りをする、AD時代から存在する形式の電話機である。
 俺が受話器を取り耳に当てると、相手側が礼儀正しく名乗りを上げた。どうやらベイオウルフの通信士官であるらしい。
「――私はオスカー・フォン・ロイエンタール上級大将であるが、卿らの上官は現在外出しているのではないのか?」
 至近距離に乱れた女の顔がある事などおくびにも出さず、俺は普段通りに艦隊司令官としての威厳を持って士官に応対した。
「…はい、ミッターマイヤー上級大将閣下がおふたりにお話があると言う事で…シャトルから通信がなされているのですが、お繋ぎして宜しいでしょうか?」
 成程、そう言う事か。俺は納得した。余程の用件がない限り、自分達の上官と同じ階級の客人を呼び出すなどあり得ないと思っていたが…――俺はにやりと笑った。腕の中の彼女を強く抱く。
 彼女は声を出しそうになったらしいが、至近距離に受話器があるのは判っている事だ。その声を押し殺し、自らも動かない。
「判った。繋いでくれ」
 女を片腕に強く抱いた俺はあくまでも普通に、士官にそう告げた。受話器が電子音を発し、一旦通信が途切れた。
 その瞬間、俺は彼女の方を向いた。抱いた腕に力を込め、彼女の顔をこちらに向かせる。受話器を片耳に当てたまま、俺は彼女の唇を奪った。



 彼女の目が見開かれる。予想外の俺の行動に、口が戦慄く。そこに俺は舌を進め、貪る。耳元で鳴り響くトーン音を無視し、俺は彼女の唇を奪い続けた。微かにまだ愛液の味が残っていた。
 口に吸い付くと水音がする。顔が密着しているからその音がやけに大きく聞こえるが、おそらくこのような至近距離にある受話器にも音は拾われる事だろう。
 軽い断続音がして、不意に電話が通じた。
「――よう、ロイエンタール。遅くなってすまんな」
 耳元で、いつもの親友の快活な声がした。上級大将に対する上級大将の発言とは思えない程にくだけている。その声を訊き、俺は口を女から離した。彼女を抱く腕を伸ばし、手で口元を拭う。
「…どうかしたか?取り込み中か?」
 ごそごそとか言う音を受話器が拾ったらしい。怪訝そうな親友の声がする。
「いや、何でもない。――卿こそわざわざ何用だ」
 ――取り込み中と言えば、この上もなく取り込み中だがな。俺は内心苦笑した。
 俺の内心とは関わりなく、奴も受話器の向こうで苦笑する。
「ようやく茶飲み話が終わったのでな。いよいよ正式に国家元首と会談する事になりそうなので、一旦引き上げてきた」
「疾風ウォルフが逃げ帰った――と言う事か」
「自らの安寧のために国家を売る男とは、個人的には会いたくもないからその表現もあながち間違いではないが、国家元首との正式な会談となると俺独りの独断で行う訳にも行くまい」
「つまりは戦略的転進、か」
「妙に拘る奴だな…まあ、俺は卿とは違って政治は苦手だ。喜んで転進させて頂こう」
 酒飲み話、或いは艦橋にてFTLで交わす会話――普段の奴と俺の会話の調子と全く変わらない。違うのは俺の腕の中に女が居る事で、その事実を奴は全く知らない事だ。
「それで、今、旗艦へ戻るためのシャトルの中なのか?」
 俺は奴に話しながら、視線を彼女に落とした。彼女は固く瞼を伏せ、懸命に体を硬くしている。妙に動くと受話器の向こうのミッターマイヤーに不審がられると危惧しているのだろう。
 逃げようとすれば音が立つ。だから彼女は動かない。俺は彼女を抱く手を緩め、その手であちこちに触れる。抱いているので掴むような風になるが、軍服越しに首筋に鎖骨、胸の辺りに触れていく。
「ああそうだ。今戻っている所だ…――」
 ミッターマイヤーの声がする中、彼女の体が震える。口に手を当てて声を殺す。俺はそんな彼女を嘲笑うように、たわんだ服越しに胸を強く掴んだ。途端、くっと鼻から微かな声が通った。
 彼女は慌てて俺と受話器を見比べたが、どうやらミッターマイヤーにはその声は届いていなかったようだ。奴はこの異変には何も触れなかった。――残念な事なのか、それとも安堵すべきなのか――。
「…で、俺達の元に戻るのは何時だ?」
「そうだな…今から10数分ではないだろうか。卿らを待たせ過ぎたし、なるべく急ぐ」
「俺達は勝者なのだ。同盟側を待たせるのは構わぬし、所詮俺達はローエングラム公から全権を委託された使者と言う訳でもない。いずれ正式な講和交渉は公主導の元に行われるだろう。せいぜい公が到着するまでに時間を潰させて貰おうではないか」
 言いながら俺の片手は彼女の胸を強く揉みしだいていた。たわんだ軍服とブラウスがかさばり、胸の感触は鮮明ではない。
 乳首が何処にあるのか探るのは困難であったし、あまりいたぶると本当に誤魔化しようがない声を漏らすだろう。現に今の段階でも、彼女の手で覆われた口からは荒い息が漏れ聞こえているのだ。
「いくら卿の艦隊とは言え、シャトルにまで疾風ウォルフの艦隊運用を適用せずとも構わぬぞ」
「そんなに急いでいる訳ではないから安心しろ」
 親友との会話の傍、俺の腕の中で小娘が体をよじらせる。強く、乳房が変形し、また戻る程に強く揉んでやると、小さな胸なのに良い感触であるような気がするから不思議だ。彼女は紅潮した顔を軽く振り、足を摺り合わせる。
 …感じているのか。電話中のため、言葉責めが出来ないのが非常に残念だ。俺はそう思った。



 20分弱でミッターマイヤーは旗艦に到着する。やり取りはそういう結論に至り、シャトルからの通話は切れた。
 艦外通話だったはずなのに艦内通話と同じく鮮明な通話だったのは、妨害電波の類が全く発せられていない証左だ。
 つまりはこの星域は戦闘状態にはないと言う事で、ひいては我々銀河帝国軍が同盟の首都星を制圧している事に他ならないのだ。
 ――そんな感慨を受けながら、俺は受話器を壁に戻した。そしてそのまま腕の中の彼女を壁に押し付けた。壁と俺の体で挟み込み、彼女の唇をまた奪う。強引に舌を絡め、口を吸う。荒い息が合間に漏れた。
「――あなたの処女を奪うつもりだったのだがな」
 俺は彼女から口を離し、彼女の顎を掴んで俺の方に向かせてそう言った。濡れた唇の奥に赤い舌がちらついて見える。
「どうも疾風ウォルフに掛かると…そう言った余裕もなくなって困る」
 彼女は俺の手から逃れようと顔を振った。俺は好きにさせる事にし、手を離した。彼女は顔を下に向けて荒い息をつく。顔を横に振ると髪が揺れる。伏せた瞼の睫の端が涙に滲んでいる。
「20分しか猶予がないとはな…あなたに準備を整えて貰い、痛いだけでなく私を受け容れさせて互いに悦楽を共有し、その上で後始末までしなければならない…」
 俺は言いながら、彼女の頬を撫でた。軽く濡れているが、それは汗なのか涙なのか。ともかく、俺は彼女に結論を告げた。
「――20分で、それは無理と言うものだ」
 室内に、沈黙が降りた。彼女の息遣いが響く。
 俺の言葉をゆっくりと脳内で反芻したのか。彼女が顔をゆるゆると上げた。瞼が上がり、熱に浮かされた瞳が露わになる。
「……無理と仰いますと…?」
 久々に悲鳴や喘ぎや――その他嬌態以外のまともな言葉を発したせいか、彼女の声は掠れていた。口の中に唾液が溜まっているらしく、妙に舌足らずの発言でもあった。
「言葉の通りだ、フロイライン」
 俺は薄く笑い、冷ややかに言う。彼女の顎に手を触れ、上向かせる。
「おめでとう、あなたは好きでもない私に処女を奪われる事にはならない――どうやらミッターマイヤーはローエングラム公の生命ばかりか、意図せずにあなたの処女をも救う事になるようだ」



 俺の宣告に彼女は何も言えなかったし、何も出来なかった。
 徐々に見開かれる瞳に表れるのは、処女を失わずに済む安堵か。それとも、ここまでされておいては処女も何もあったものではないという自失か。そもそもこういう状況に追いやった俺に対する怒りと、自分の無力と無様さに対する諦めか――。
 俺には彼女の気持ちは判らない。判らないが、ここで彼女が俺に処女を奪われないからといって、この屈辱が消え去る訳ではない、今までの陵辱に意味がなくなる訳ではない――それは判る。だから俺は、今の彼女を見て、低く笑うのだ。
「嬉しくはないのか?女にとって純潔とは最後の砦ではないのか?」
 俺の厭らしい冷笑を視界に入れた彼女の瞳に、一気に炎が燃え上がった。美しいブルーグリーンの瞳が輝く。
 どうやら俺が彼女を犯す事を完全に諦めたと判断したらしく、性的快感から懸命に体を取り戻そうとしているようだ。そして自分の体を制御下に置きつつある。だから瞳からもやのようなものが消え去ったのだろう。
「残念ながら、私は処女だの純潔だのと言う物に意味は見出さない人間なのでね。そんなものを有難がるのは、女に慣れていない男か、女自身だ」
 俺はそんな彼女の額を撫でた。薄笑いを浮かべたまま、続ける。
「全く…処女を捧げると言う行為が余程特別で高潔だと思っている女が絶えないからこそ、私のような人間も絶滅しないのだ」
 ――全く呆れたものだ。そう言いたげに俺は片手を振った。判り易く溜息をついてみせる。
 それに対して彼女は壁から身を起こそうとした。が、俺は片手で彼女の肩を掴み、壁に軽く押さえつけた。彼女の体はあっさりと動かなくなるし、彼女もむきになって動こうとはしない。その代わりに、口が動く。
「提督…――私はあなたがこのような方だとは思っておりませんでした」
「陳腐な台詞だ。私は同じ台詞を数多の女に言われ続けている」
 彼女が懸命に訴えようとした言葉だろうが、俺はそれを鼻で笑う。そうすれば彼女の精神に幾分かのダメージを与えられるだろうし、実際にこの手の詰りには俺は慣れていたのだ。
 俺は彼女の前で肩を竦める。
「男の童貞は大して有難く思われないのに対し、女性の純潔にはある一定の価値を見出すのが人類社会の貞操概念という奴らしい。しかし、進歩的な考えをお持ちのあなたが、その考えに組するとは意外だな」
 もっともこのふたつを同列に並べるのはおかしいだろう。俺が以前言ったように、男は童貞を失う際に快楽しか伴わないのに対し、女は処女を失う際には個人差はあるだろうが苦痛を伴うものなのだから。
 どちらかに失うものがある限り、このふたつは同列に置く事は出来ない。だから俺は今、詭弁を述べている。
 が、彼女はその詭弁に気付くだろうか。…いや、気付きはするだろう。そこから、俺に対して反駁できるだろうか?このような性的な話題を自分から口に出す事が出来るだろうか。
 頭では論理の穴に気付いているが、口に出すには憚られる。結果的に反論出来ない。これは屈辱だろう。
 ――そしておそらく、彼女もまた俺が「彼女は羞恥心が邪魔をして反駁が出来ない」と判って、このような詭弁を展開出来る事を知っている。それは彼女にとって、二重の意味で屈辱だろう。
 詭弁を使い、相手はそれに反駁して来ないと判っている。だからこれは議論でも会話でもない。――言葉責め、と言う奴なのだ。
 結果的にミッターマイヤーの意図しない介入によって、俺は彼女の処女を奪う事は叶わなかった。しかし、それでも俺が彼女より圧倒的な優位に立っているのだ。それを互いに自覚すべきだろう。



 ミッターマイヤーが到着するまで10数分。彼女を抱くには短過ぎる時間だが、只待つのには長過ぎる時間だ。――だから、俺はある種の目的を達する事にした。
 俺は彼女の片手を掴む。強い力で手首を引き寄せると、彼女がまたびくついた。瞳が揺らぎ、そこに灯っていた炎もまた揺らぐ。一瞬恐れの感情が表れたが、それを懸命に押し殺そうとしている。
――何故だか、可愛らしいと思ってしまう。
「後学のため、教えて差し上げたい事がある」
 俺は笑ってそう告げ、彼女の手を俺の下腹部に触れさせた。
 途端、短く高い悲鳴が彼女の口から漏れた。反射的に彼女は体ごと俺から引く。が、俺は彼女の手首を掴んで離さない。
 彼女の悶える姿を見て、深い口付けを何度も何度も交わしてきた俺は、昂ぶり始めていた。それは軍服の上からでも触れたら判る程度の状態で――もっとも、彼女は普通の状態であるこの部位にも触れた事はないだろうが。
 俺はもう一方の手で、ゆっくりとベルトを緩めた。彼女の手を一旦退けさせて、その代わりにゆっくりと、見せ付けるように、前を開いていく。
 既に半ばまで起ち上がっていたために、前を空けた事ですんなりと顔を出してきた。俺はにやりと笑い、彼女の手にそれを握らせた。
「――ひっ――!」
 彼女の口から明確に悲鳴が出た。息を飲み、体を縮こまらせる。手を体に引こうとするが、俺は彼女の手の上に自らの手を重ねて離させない。
「慌てる事はない。貫かれる心配がないのに、触れる事は出来るのだ。良い経験だと思って頂きたいな」
 彼女の手の震えと汗が俺自身に伝わってくる。逆に、俺の発する熱やその感触に、彼女は怯えているようだ。俺は一歩足を進め、完全に壁際に彼女を追い詰めた。体が密着するまでになる。
 彼女の顔と俺の顔も、すぐそこに接近する。若干蒼ざめた彼女の額に俺は口付けた。彼女の口元から荒い息が漏れるのは、好きでもない男の雄を握らされていると言う圧迫感から――だろうか?
 俺は彼女の手に重ねている手を、ゆっくりと動かした。強張った彼女の手を強引に、俺の上で滑らせる。彼女の白い指が、俺に絡みついている。その手がゆっくりと上下する――ように俺が扱う。
「――嫌です、嫌です!」
 彼女は激しく顔を振った。俺から顔を背け、膝を曲げてまで体を縮こまらせようとする。両腕を完全に脇につけて折り曲げている状態になっていた。子供のようだ。俺はそんな彼女の肩を掴んだ。自分の方を向かせる。
「私は女性を絶頂に達しさせたのに、自らは果てないで満足するような紳士ではないのですよ。御協力願いたい」
 眉を寄せ、まなじりを歪め、俺を見るその目に浮かぶものは怒りの炎ではない。最早恐怖だった。実際に男に貫かれる時と同等か、或いはそれより劣るのかは判らないが、似たような恐怖を味わっているらしい。
 ――自らの手の中で、雄が育ちつつある。それは、やはり彼女にとって、耐え難い事であるようだった。
 彼女の手は冷や汗で濡れている。その手を俺は上下させる。形のいい指が俺を刺激していく。爪は伸びずきちんと切り揃えられている事は、最初の段階で判っていた。だから俺はその手が雄の上に滑り込んだ時、指先で俺の先端を包み込むように絡めさせた。
 只上下に滑らせるだけとは違った感触。俺はその刺激に思わず眉が寄るのを自覚した。そして彼女の指にもまた、違った感触が伝わったのだろう。びくりと震え、目許から再び涙がこぼれ始めていた。
 俺は彼女に覆い被さった。そのまま、乱暴に彼女の唇を奪った。浅い呼吸をする半開きの口の中に、舌を進めた。強引に絡め、体を密着させ、手の動きを止めさせなかった。



 ――俺にも余裕がなくなりつつある。それは俺の脊椎を駆け巡る興奮からも判ったし、彼女の手を覆っている俺の手に伝わる感触からも判っていた。
 手の上下の動きは非常に滑らかに行われている。彼女の手は汗でしっとりと濡れてはいたせいもあるが、俺の先端から先走りが分泌され始めてもいたのだ。更には、刺激を与えられて徐々に怒張していっているし、何より屹立していた。
 …そのような興奮は、乱暴に唇を奪ってゆく事で相手に悟らせない。彼女も男の性的反応までは知識にはなく、また今の状況に恐慌しているために、俺の内情など判りようがないだろう。
 ――しかし――…俺は決断した。
 引き剥がすように彼女の唇から顔を離した。間を持たせない、素早い行動にお互いの息が漏れる。
 そして俺は彼女の顔が傾いた隙を突き、その頭を片手で押さえ込んだ。
 小さな悲鳴を上げて彼女は姿勢を崩す。握らせたままの手は俺が抑えているため、彼女の膝が崩れる。
 乱れて半ば脱げていた軍服の状態では、彼女の動きが制限されているのもあったろう。彼女は俺の足元に跪く格好を取る事になった。そしてそれが俺の狙いだった。
 膝を強く着いた痛みに耐え、立ち直った彼女は俯いた状態の顔を振り、上げた。そして彼女は状況に目を見開いた。
 彼女の眼前には、俺と彼女の手が重ね合わされて握っている俺の雄があった。
 恐慌を起こし、彼女は顔を背けようとする。が、俺の片手は彼女の後頭部に未だ存在した。彼女の頭を押さえ、逃がさない。
「何をなさい――」
「――後10分!」
 彼女の悲鳴を俺は叫んで遮った。彼女は俺の言葉に反応する。俺は彼女に畳み掛けて告げた。
「もう10分を切っている。早く終わらせないと、あなたはまずいのではないか?――私のそれを握っている様を、ミッターマイヤーに見せたいのか?」
 彼女は明らかに愕然とした。――この姿を誰かに見られる…いや、その誰かが通りすがりなどならともかく、よりにもよって彼女が全幅の信頼を置いているミッターマイヤーだったとしたら――?それは彼女にとって、悪夢だろう。
 大きく息を吸う音がした。彼女が顔を上げた。きっとした――と言う表現を使うには、その顔は歪み過ぎている。そしてその歪みは俺に対する憎しみとか怒りとかではなく、本当に、愕然とした様だったのだ。
「…そんな事になったら、あなたもミッターマイヤー提督の信頼を失いますよ!?」
 彼女の口から悲痛な訴えが放たれた。が、俺はすっと笑った。口元を持ち上げた。
「奴がこれで私を見限るなら――まあ、それはそれでいいのでは?」
 ――そう言えば、俺が焦ると思ったのか?彼女は信じられないものを見るような目で、俺を見ていた。俺はそんな彼女を笑うしかない。
「…この程度の事で友誼が失われるなら、それまでだったという事だ。――もっとも、その友誼とて俺の我儘を奴が散々利いてきただけなのかもしれないのだからな。案外、奴にとってはいい機会になるのではないか?」
 思わず「俺」と言う言葉が口からついて出る。半ば、呟きだったのだ。
 ……本当に、奴に切られたら。多分俺はどうにもならなくなる。それは、嫌だと思う。ならば、こんな真似などやらなければいい。しかし――仮にこれを見られた所で、殴られて発散させて、ちょっと冷却期間を置けばまた普通に付き合えるような気もする。
 そんな願望を持つ事自体、俺は奴に甘えているのだろうとも気付いている。
 まあ、そんな事はどうでもいいのだ。奴に見られる心配など、心の底からしていないのだから。
「で、あなたは嫌がってこのままぐずがるか?私はあなたを解放する気はないぞ?このまま10分間、ミッターマイヤーが来るまで、この姿で黙っていたいか?」
 それが、とどめだった。



 結局彼女はミッターマイヤーにはこのような姿を見られたくないのだ。そんな彼女の「協力」が得られたら、俺もこんな姿をミッターマイヤーに晒す事もないのだ。だから、俺は、奴との友誼が壊れる事など心配していないのだ。
 だから、鼻で笑うしかない。――彼女は自分自身を救うために、俺も一緒に救ってやるしかないのだ。何らかの策を練ろうにも、圧倒的に時間が足りない。彼女は、俺に、屈する他ない。
 彼女がヤン・ウェンリーの性格を見切っていたかは、確証は持てなかっただろう。彼は同盟軍の提督であり、別に俺達に近しい人間ではないのだから。しかし俺は彼女の取るであろう行動に、確証が持てる。
 沈黙の末、彼女は俯いたまま、小さな声で俺に訊いた。
「――……私は、どうすれば良いのですか?」
 ほら見ろ。落ちたではないか。俺は喉の奥で笑う。
「そうですな…時間もない事ですし…――舐めて頂きましょうか」
 びくんと震える彼女の頭を見下ろしていた。――屈服した彼女に対し、厭味ったらしい敬語での会話に戻してやる。この落差を、彼女はどう感じるだろう。
 悩んでいる暇はない。彼女はそう思ったろうか。ゆるゆると顔を持ち上げた。
 彼女の手の中にある、俺に視線をやる。すっかり怯えたような顔をしていたが、時間に追われている自分を自覚したらしい。ゆっくりと、恐る恐る顔を、唇を近付け――俺の先端に、彼女の舌先が触れた。途端、先走りが漏れる。俺は眉を寄せた。
 そして彼女も俺の味を感じたらしい。顔を歪めてしまう。が、口を離す事はせず、そのまま舌を走らせ続けた。
 俺の雄に白い指が絡んでいる。そして舌が音を立てて舐めてゆく。――全体的に舐めて下さい。そういうアドバイスをしてやりつつ、俺は彼女の拙い舌使いを見守っていた。
 所詮素人女に技術など期待はしていない。こういうのは、やはり精神的な補完が必要だ。事前に手である程度は行っていたので、既に怒張し屹立している状態だ。
 そこを彼女の舌が這い回り、その後に唾液の跡が残されていく。自覚があるのかないのか、先走りを舌で絡め取る。
 俺は上気して来る自分を感じた。眉を寄せ、彼女の頭をゆっくりと撫でる。しかし、後一押しが足りない。考えつつ、乾いたように感じられる唇を舐めた。
「……5分を切りましたな。――無理せずとも構いませんが、先端の方だけでも銜えて頂けますか?」
 暫くして俺は彼女にそう告げた。彼女の動きがぴたりと止まる。が、最早口答えをしている暇はないと思ったのだろう。彼女はすぐに、言われたままに俺の先端を口に含んだ。
「ああ…ゆっくりと口を動かして下さい…そのまま舌を使うのも良いでしょう…――」
 俺は優しく彼女に言い聞かせてやる。本当に、愛している娘に対する態度のようにも見えるかもしれない。それ程に彼女は従順であり、俺は余裕を持っていた。
 ともかく彼女は俺の指示に従った。拙いながらも、口を動かし、舌を走らせていく。淫靡な水音と、漏れる息と声。すっかり硬く、大きくなっていた俺の雄は彼女の口には余るらしい。口元から唾液が垂れ、白い喉を伝っていた。
 最早恐怖感は消え去ったのか、彼女の顔がすっかり紅潮していた。たまにつく吐息が俺の雄に当たって、それも刺激になる。
 ふと気付いたが、彼女は跪いた両脚を軽く動かしていた。まるで太腿同士を擦り付けるようにして――そう言えば、あの辺りからも水音がする。太腿を伝うのは紛れもない愛液であり、それも俺が先に指で絶頂を迎えさせた際に分泌されたものでは明らかにないだろう。
 ふん。所詮――この小娘も、雌か。本当に、鼻で笑うしかない出来事ばかりだ。
 それを悟った途端、背筋をぞくりと快感が立ち上ってゆく。――ああ、この感覚か。俺は軽く呻き、彼女の頭を押さえ、それを解放した。
 彼女が途端に呻く。顔を歪めて嫌がる。その口元から、唾液に混ざって白濁液がこぼれ始めていた。それは口元を伝い、喉に線を作ってゆく。そして開いた襟元に辿り着き――。
「…軍服を精液で汚した経験はないので推測になりますが、おそらく目立ちますよ」
 俺は彼女の髪を優しく撫でて、そう教えてやった。
 すると、彼女の喉が動いた。口の中に溜まった液体を、嚥下する音がした。その顔は苦痛と嫌悪と屈辱に歪んだままだった。



 部屋の入り口になる自動ドアが静かに動き、開かれた。小気味良い靴音が、ドアの起動音に続く。
「――遅くなって申し訳ない」
 ミッターマイヤーがそう言いつつ入ってきた。広い会議室を一瞥し、まず部屋の真ん中辺りに立っていた俺を視界に入れた。
 奴は俺に軽く手を挙げて挨拶をする。ほんの少し前、電話越しに話した時と態度は全く変わらない。爽やかな笑みを浮かべている。
 次いで彼は部屋に視線を巡らせて――テーブルについていたフロイライン・マリーンドルフに気付いた。
 奴は彼女に対し、礼儀正しくきっちりと敬礼をして俺と同じく声をかける。しかし彼女はミッターマイヤーに反応しない。テーブルに俯いたままだった。それに、ミッターマイヤーは小首を傾げた。
「…で、茶飲み話はどうなったのだ?」
 俺はそんな奴の背中に声をかけた。すると奴は俺に振り向いた。
「ああ…俺としては出来るだけ早く、俺達3人で国家元首との会談を持ちたいのだが」
「3人でか?」
「ローエングラム公が御到着するまでは、俺達3人が帝国を代表する事になるだろう。誰か独りでは、我々の立場上まずい」
「例えば、総参謀長に妙な事を勘繰られる可能性があるからか?」
「はっきり言うな…まあ、その通りだ」
 奴は苦笑した。ああ、あまりにも快活だ。――先程まで澱んでいた、この会議室の空気にも気付かないまでにだ。
 ともかく、俺は少し考えて見せた。顎に手を当て、眉を寄せる。
「俺は早くに出向くのは、構わんのだが…」
「…何か、問題でも起こったか?」
 俺の態度に、ミッターマイヤーは怪訝そうに訊いてくる。俺を見上げていた。だから、俺は片手で指し示した。その先には、椅子に腰掛けてテーブルに俯いている娘の姿があった。
「――フロイラインは体調が優れぬようだぞ」
「え――!」
 俺の発言に、奴は慌てて彼女の元に駆け寄った。俯いたままの彼女の顔を、下から覗き込んでいる。
「ああ…顔色が悪いですな…きっとお疲れになったのでしょう…フロイラインの体力を考えず、強行軍を行った私の責任です」
 本気で彼女を気遣い、そして自分を責めるような口調だった。眉を寄せ、彼女を見上げて――おろおろしている様を俺は眺めている。奴は地上でも、妻に対しても、このように本気で色々と気を使う男なのだろう。全く…良き男だ。
 彼女が動いた。青い顔をして、ミッターマイヤーを見る。額からは冷や汗が流れ、彼女は口元を押さえた。
「…いえ…今回の作戦は迅速でなければならないのですから。正式な軍人ではない私が足を引っ張ってはなりませんでしたわ」
 少しだけ目を細め、彼女は笑った。しかし顔色の悪さがそれで消える訳ではない。ミッターマイヤーは自分の髪を手で掻き回した。
「仕方ありませんな。フロイラインはお休みになっていて下さい。部屋を用意致します」
「いえ…提督が先程仰ったように、私達は3人揃っていないと、色々と不具合もございましょう」
「正式な講和会談でない以上、絶対に3人揃っていなければならない訳ではありません。特に、フロイラインは体調を崩されているのです。これは充分、欠席の理由になります」
「いえ…」
 ミッターマイヤーは座っている彼女の視線まで屈み込み、彼女に対して賢明に訴える。が、彼女は青い顔をしながらも、小さな声で奴からの休息の誘いを拒み続けた。
 埒があかんな。俺は苦笑気味に溜息をついた。微笑ましいまでに相手を気遣うミッターマイヤーの背後から、口を挟む。
「――間を取って、タンクベット睡眠で宜しかろう」
 俺の声に、奴は振り向いた。俺は奴に対して微笑んでみせる。
「タンクベット睡眠なら、2時間も寝れば1日分の睡眠は取れる。2,3時間程度ならば、同盟政府を待たせても構うまい」
「……ああ、そうか。しかし、それで大丈夫だろうか?」
 納得しかけたミッターマイヤーが疑問を呈する。が、その時隣から小さな声がする。
「…私はそれで構いませんわ。3時間、頂けますか?」
 フロイラインの台詞に、ミッターマイヤーは頷いた。彼女に対して敬礼する。それは例えば上官に行うようなしゃちほこばったものではなく、むしろ女性に対する敬意が溢れた仕草だった。
「――判りました。すぐに用意させます」



 ………何故だか、俺は笑いがこみ上げてくる。
 無論、声に出して笑う事はしないが、それにしても…。
 ――何に対しての笑いか?
 情事の後を一切残していない俺の手際の良さか?俺にいたぶられてこのような状態になっているこの小娘の無様さにか?それとも、旗艦であのような事が行われた事に、おそらくはずっと気付かないであろうミッターマイヤーの鈍感かつ快活さにか?それとも――
 俺には、判らない。判らないが、とにかく笑えて仕方がない。
「――…それでは俺も失礼させて貰っていいか?」
 壁際のインターフォンに手を掛けようとしていたミッターマイヤーに俺は声をかけた。
「どうするのだ?」
「3時間あるのだ。俺もトリスタンに戻り、身支度をさせて貰おう。いくら俺達が勝者とは言え、国家元首に会うのだ。強行軍で疲れ切った姿を見せる訳にはいかぬだろうよ」
「…そうだな。そうした方が帝国のためだな」
「だから卿もこの時間を使って寝るなりシャワーを浴びるなりしろ」
 俺の勧めに、ミッターマイヤーは軽く頷いた。それを見て俺は笑い――これは心からのものだ――片手を挙げ、自動ドアを通った。
 部屋の外に出た俺の背後でドアがゆっくりと閉まる。その向こうから、インターフォンで部下を呼び出そうとしているミッターマイヤーの声が聞こえ、そしてドアが閉まって遮られた。
 ドアが完全に閉まった状態では、どうやら完全防音らしい。流石は会議室だ。ならば、ちょっとした悲鳴などは、部屋の外に一切聞こえてはいないか。
 俺は頬に手をやった。もう傷口の感触は殆ど感じられないし、腫れた感触は全くしない。頬を打たれても、この程度か。俺は喉の奥で笑った。
 さて、あのふたりをふたりきりにしてやったが、果たしてどうなる事やら。
 小娘はひた隠しにするだろう。が、ミッターマイヤーは女性心理には疎いが、元々の人間に対する洞察力は優れている。もしかしたら、事実に気付きはしないだろうか。
 …気付いたら、その時だ。俺は口元に笑みを浮かべつつ、ベイオウルフの廊下に出る。通りすがりの士官が立ち止まり敬礼をするのを尻目に、俺は悠然と歩いていった。










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