ラインハルト×ヒルダ (452さん)/2



陛下自身の残滓を丁寧にティッシュでふき取る。私の体に残っているものも全て。
恥ずかしさで顔が赤いのがわかる。でも、後始末ぐらいはきちんとしておかないといけないだろう。

陛下は私を熱に浮かされたような目で見つめている。
言葉にはまだ出してはいないが、私を抱きたいと思っているのだろう。
見れば、陛下の自分自身は、先ほど熱い迸りがあったにもかかわらず、
すぐに回復したようだ。気のせいか、先ほどよりもたくましく感じる。
あの目でじっと見られていては私もたまらない。
次の行動に移ったほうがよさそうだ。

私の体の方は、もう陛下に愛していただいたので準備はできていた。
陛下のほうも万全なようだ。ならば、最後のしめに行かなければならない。
まだ、正直こわさもあるのだが、今までの痴態を思い浮かべると恥ずかしさで真っ赤になる。
しかし、今日のこのチャンスをいままで待っていたのではないだろうか。
今にして逡巡しても致し方ない、私を抱くのは宇宙で1番の美男子なのだから。

「陛下、そろそろようございます」
「わかった。フロイライン」
陛下が私の横に来る。そして再び私の秘所に手をやる。
私は体がきゅっとなるのを耐えた。まだまだ恥ずかしいし、
いきなりくる快感に耐えるのには慣れていない。


「どうやらよいみたいだな。・・・フロイライン、私も実は、その・・・初めてなんだ」
「だから、上手くできるかわからないし、女性にはかなりの痛みを伴う行為と聞き及んでいる」
「それでもいいか?」
陛下はここまできていてもなお御優しい。少し嬉しくなった。
「はい、陛下。私は大丈夫です」少し顔を赤らめながら答えた。
陛下は嬉しそうに私の話を聞くと、私をベッドに寝かせた。
そして自身は私の下腹部のあたりに腰を落としてくる。
陛下の息が荒くなっているのがわかる。
もうすでに大体の場所は見当がついているはずだが、若干の逡巡が感じ取れる。
それでも何とかわかったらしく、呼吸がより一層荒くなる。

ついに私は殿方に体を開くのか・・・でも後悔はしない、するはずがない。
陛下は私の秘所に陛下自身をあてがって、しばらくじっとしていたが、意を決したように、
腰を前の方に移動した。そして、陛下自身が私の秘所に挿入されていく・・・。

私は声にならない悲鳴をあげた。痛い。痛くてたまらない。
正直やめてもらいたいとも思った。が、いまさらそういうわけにもゆくまい。
涙目になって陛下の顔をみると、あきらかな動揺が見て取れた。
しかし、ここで陛下に躊躇してもらっても、私のためにも帝国のためにもならないだろう。
「・・・陛下、どうかお気になさらずそのまま続けて下さい」
意を決して、陛下の目を射抜く。陛下にはわかっていただいたようだ。



刹那、陛下自身が私の秘所の奥まで到達した。私は痛みを歯を食いしばって耐えた。
これが破瓜の痛みなのか・・・からだの奥底が燃えるように熱い。
だが、ここで悲鳴をあげれば陛下は止めてしまうかもしれない。
私は声を押し殺して泣いた。

陛下は私の苦悶の表情をなるべく見ないようにしながら、腰の律動を続ける。
痛みに耐えていた私だが、不思議な感じがしてきた。
痛いのだが、少し気持ちが良くなってきたのだ。
女体とはそういうものなのだろうか。衝撃が来るたびに痛さと快楽が一緒にやってくる。
不思議だ、と思いながら、陛下を見てみる。端正な顔立ちに何か凄みを感じる。
これが男性なのだろうか。少し怖くなった。

痛みはもうあんまり感じない。そのかわり快楽の占める割合が高まった。
ああ、私も女なんだと思う。女性でない限り、快い悲鳴はあげないだろう。
私の鳴き声を耳にすると、余計に陛下の腰の動きが早まった。
思わず、うめいてしまう。ふと、陛下と目があった。
陛下は強引に私の唇を陵辱した。私も負けないように、いや縋るように、
濃厚な口付けを交わした。私と陛下は今確かにつながっている。
そのつながりをより強固にするために、お互いがお互いの唇を奪う。
これが性交なのだろうか、私の頭の中でじんじんとした軽い痛みがはしった。
でも、それはここちよいものだった。


私は自分がだんだんと登りつめようとしているのを感じた。
先ほどの行為でイクという感覚を初めて体験したのだが、どうもそれと同じらしい。
私の声に甘いものが入り始める。
それを聞いて陛下も腰の注送を早める。陛下も頂が近いのだろうか。
私はまるで獣のような声をあげて、陛下にしがみついた。
陛下も「フロイライン、はあ、フロイライン・・・」
と、気にもとめない。そして前にも増して腰の注送を早めていく。

私の頭の中で、大きな波がまた私を襲った。波に抗しきれるわけもなく、
「ああー、ああーん」と、歓喜の声を上げてしまい、私は昇りつめてしまった。
「フロイライン・・・いくぞ・・・フロイライン・・・あああああ」
刹那、私の秘所の奥深くに陛下の迸りを感じた。それはひどく熱いもので、
私は、一瞬現実に引き戻された。が、またそれが新たな快楽を生み、
私は再度波に飲み込まれ、全身でその心地よさを味わっていた。
陛下が力を全て出し切ったかのごとく、私の胸に倒れこんできた。
汗ばんだ体だが、重さが心地よい。私たちはしばらくそのままで余韻を楽しんでいた。

陛下はまるで力を出し尽くしてしまったかのように、ぐったりしている。
かすかに寝息がする。眠ってしまったようだ。まあ無理もないかもしれない。
非常に濃厚な時間を過ごしてしまったからだ、私もそうだが。
ただ、このままと言うわけにもいかない。ゆっくりと体を動かして、陛下自身を私の体からゆっくりと抜く。
まだ、痛みが残るが、それすらも心地いい感じがする。
私はどうしてしまったんだろう。これが女になるということなのか。


とりあえず、薄いシーツを取ろうとして立ち上がった。
私の股間から先ほどの痴態の残滓がすーっと流れ出てくる。
もしかして、この一夜のことで私は皇帝の精を宿してしまうのかもしれない。
それは大変なことだ。私は皇后になるのかもしれない。
銀河帝国の皇后か、陛下なら責任を取ってくださるだろう。
しかし、それではまるで私が陛下を篭絡したことになるではないか。
それは私の本意ではない。

私はあくまでも陛下、ラインハルト様が好きなのだ。
長く一緒にいて情が移った、といわれればそれまでだが、
だからこそお慰めをしたのである。
陛下の奥様になれるかどうかはわからないが、そんなことは問題でない。
私はこの美しい宇宙の支配者なら、身を捧げてもいいと思ったのだ。
だから私も初めてだったが、一生懸命だった。
身勝手な言い分かもしれないが、私の本心である。

流石の私も今日は疲れた。シーツを取ってきて、私と陛下に掛ける。
陛下の寝顔は、まだあどけない幼さが残っているようだった。
宇宙の支配者にしては威厳がないが、その代わり少年のような寝顔は美しく感じる。
陛下の魅力はその一途さにある。それが宇宙統一という途方もない大事業を成功させた。
キルヒアイス元帥、アンネローザ様への思い、陛下を突き動かしてきたのは、
もう一度またみんなで平和に暮らしたい、ただそれだけだったと思う。
しかし、陛下は自分の半身であるキルヒアイス提督を失った。
そして、それがもとでアンネローゼ様とも別れて暮らすようになった。
陛下の悲しみはいかばかりか。




今こうして私と陛下は肉体的なつながりを得た。
しかし、あの2人に割って入る余地がはたしてあるのだろうか。
それはあまり考えたくない。強引に割ってはいることもしたくない。
今日は陛下をお慰めはできた。そのことで十分ではないか。
私は自分の心にそう言い聞かせて、陛下の寝顔を見ながら眠りについた。


翌朝、朝日が昨日の痴態を洗い流すかのように部屋に降り注ぐ。
起きなくては。まどろみながらも私は上半身を起こした。
陛下を見ると、ぐっすりとお休みになっている。
起こすのもかわいそうなので、そっと別途の端に腰掛け、衣服を着る。
夕べのことを思い出すと、思わず顔が赤らむが、それはしょうがない。

それよりも、歩くときに痛みを感じる。歩けない痛みではないが、
これでは少し歩き方がおかしくなってしまう。
読んだ本の中に、やはりそのものの記述がしてあったのを思い出す。
私は何かを得る代償として、何かを失ったのだ。
でも、後悔はしない。痛みも2,3日でおさまるだろう。
得たものの方がより重要だと思うことにして、私は着替えも終わったので部屋から出ることにした。

部屋から出るとキスリング准将が私に会釈をした。
役目柄しょうがないだろうが、少し気まずかったので、軽く会釈を返してその場を通り過ぎた。
よく見ればエミールが廊下で膝を抱えて寝ている。
よほど陛下が心配だったのだろう。可哀相に。


しかし、この少年の存在が陛下の心を休ませるのに重要な役割を果たしている。
私もそうだが、キルヒアイス提督亡き後、みんながラインハルトという青年の心を埋めるのに
一生懸命だった、その証のような気がした。陛下あっての銀河帝国だからだ。
失ったものは大きいが、陛下は幸せなような気がする。

おかしな事に気付いた。
さっきからやけに帝国軍の重鎮にお会いするのだ。
なんで、提督たちがこんな朝早くから出仕しているのだろうか。
シュトライト中将あたりと出くわしたが、彼ならわからないわけでもない。
きっと昨日のことで心配だったからだろう、私の顔を見て安心したように会釈をした。
おかしな気分だが、まあしょうがないということろか。

しかし、軍務尚書やビッテンフェルト提督までなんでまた・・・。
だんだん気恥ずかしくなってきたのでなるべく目を合わせないようにして、
タクシーを呼んで逃げるようにホテルを後にした。
まさか、みんなすでに知っているのでは。知っているだけでなくまさか・・・
考えるのはよそう。どのみちすぐに噂されるだろうし。
だいたい、男と女がホテルの1室で一晩を過ごしたのだから、何を言われても仕方がない。

門のあたりにミッターマイヤー提督が立っていたのだが、私は運転手に催促してそのまま車を走らせた。
みな陛下が心配なのだ、ということにしておこう。気のせいか頭がいたい。


家に帰ると、ハンスが待ちくたびれたように門の前でウロウロしていた。
考えてみれば私の朝帰りは初めてだから、ハンスにも心配をかけたのだろう。
ただ、あまり話す気になれなかったので、「ハンス、今朝は早いのね」とごまかして家に入った。
とにかく熱いシャワーが浴びたかった。

シャワーを浴びると、昨日のことが嘘のような感じがする。
しかし、私の体に確かに陛下は触れたのだ、そう考えると頬が赤くなる。
昨日の残滓を洗い流し、着替えて食堂に行った。
父と顔を合わせるのが気恥ずかしいのだが、これはいたしかたのないことだろう。

努めて冷静に振舞ったつもりだが、父の発言に思わずスープをすくったスプーンを落としてしまった。
「昨日は陛下と一緒だったのだね」
ずばりと痛いところを突いてくる。さすが父だ。隠してもしょうがないので、そうですと答えた。
父は落胆はしなかった。淡々としている。
いささか拍子抜けなのだが、根掘り葉掘り聞かれるよりはずっといい。

そんなとき、ハンスが食堂に飛び込んできて、とんでもない報告をした。
なんと陛下がバラの花束を持って玄関に来ていると言うのだ。
私は絶句した。バラの花束を持っていると言うことは、そういうつもりなのだろう。
しかし、いくらなんでも早すぎはしないか。
会って話をするのもなにか気が乗らない。気恥ずかしくってしょうがないからだ。
ここは父にいってもらうことにする。父は、しょうがないなあといった感じだが、この際やむをえない。


しばらくして、父が戻ってきた。案の定という顔をしている。
どうやら私の予測どおり、陛下は求婚をしにきたらしい。
責任を取りに来た、だからあなたの娘さんを后妃に迎えたい、ということらしい。
陛下らしいといえばそうなのだが、嬉しさの反面、正直ため息がでる。
まあ、あの人にスマートなことは期待してもしょうがないかもしれない。

父は大人の対応をしてくれたらしい。陛下を門前払いしたというのはまずいような気もするが、
あの方はそんなことは気になさらないので、まあ問題はないだろう。
父に、后妃につくのか、と聞かれる。私はまだそこまでは考えていない。
冷静に考えると、いくら狂態をしたとはいえ、権力者の一夜の慰み者というポジションなのだから、
そんな大それたことに、いきなり、はいそうです、后妃になりますなんて答えはできなかった。
ただ、どうやら陛下のほうも、私を単なる道具という感じで見ているわけではないように感じる。
誰かが后妃にならなくてはいけない、父はそう言うが、やっぱり私が適任なのだろうか。
正直わからないのだ。

父は、陛下のことを愛しているのか、とストレートな質問をぶつけてきた。
それは正直わからない。ただ、好きでもなければあんなことやこんなことはできない。
あいまいにはぐらかすと、父にお前は不器用だと言われた。
確かに私は器用な方ではない。こういうとき、普通の女性ならどうするのか、私はそれがわからないのだ。
損な性分だとは思うが、そういう女なんだからしょうがない。

父が1つ意外なことを言った。私はほとぼりが冷めるまで、出仕はしないほうがいいと言う話で、
まとめてくれるとばかり思っていたのだが、なんと陛下が2日間しかお休みをくれなかったのだ。
正直おどろいた。必ず出仕せよ、とのことらしい。なんでまた・・・。
父も不思議がっていたが、まあ仕事が立て込んでいたのだろうと思い、とくに異論は言わなかったらしい。
でも、さし当たってそんなに忙しくはない時期なのだが・・・。
まあ、陛下なりの御考えがあってのことだろう。



私は食堂をから退散し、自室で休むことにした。気持ちの整理もつけたかったからだ。
父はしばらく食堂から出てこなかったようだ。いろいろ考えることもあるのだろう。
父のことだ、場合によっては職を辞すことも考えているに違いない。
ふしだらな娘でごめんなさい、と言う気分にもなれなかった。
とりあえず、2日間ある。気持ちの整理をつけて大本営に行かなければ。
みんなの好奇な視線に晒されると思うと、ちょっとばかり気が向かないのだが・・・。


大本営に行くと、みんなの私を見る目が違った。
予想はしていたことだが、なぜかみんな私に優しいような気がする。
どういう意味かはいろいろ想像がつくのだが、詮索してもしょうがない気がするので、
とりあえず陛下の執務室に行ってみる。

非常に気恥ずかしいのだが、顔を合わせないわけにも行かず、陛下に声を掛ける。
「おはようございます、陛下。2日もお休みをいただいてしまし、申し訳ありません」
とりあえず無難なあいさつだと思う。まさかこんなところでプロポーズを受けます、などとは言えない。
「おはようフロイライン。その・・・元気だったか・・・」
「はい、おかげさまで」
「・・・そうか。では仕事をはじめようか」
どうやらいつもの陛下に戻ったようだ。私は少し安心した。
一歩進んでしまったが、そんなに陛下は気にしていないのかもしれない。
それはそれで残念だが、私は御そば近くで使えることが出来るだけでも満足はしている。


ただ、何となく私を見つめる陛下の目が気になる。
なんとなくだが、異性を見るような男性独特の目つきをしているのだ。
普段の陛下ならそんな目つきはしないはずなのだが・・・。
まあ、この間の濃厚な一件があったからしょうがないのかなと思うことにした。

仕事を片付けて、そろそろ帰ろうとしたときだった。
「フロイライン・・・その、今日は一緒に食事でも・・・どうだ?」
何となく縋るような目つきが気になる。これは断るべきではないな。
快諾すると、陛下はものすごく嬉しそうだ。いまにも小躍りしそうな雰囲気だ。
いったいどうしてしまったのだろう。
誰か余計なことを吹き込んだのだろうか、とかんぐってしまう。
杞憂に過ぎなければいいのだが。

ホテルの最上階で高級料理を頂いた。
陛下は嬉しそうだ。そういう陛下を見るのは私も嬉しい。
どことなく、今までの陰のある部分がなりを潜めているようで、
それならこの前のことも無駄ではなかったと思える。正直嬉しい。
しかし、その後の陛下の一言で私は絶句した。

「今夜は帰らないで欲しいのだが・・・どうだろう?」
え、陛下、どうされたのです?これはどう考えても誘っているようにしか聞こえない。
一瞬言葉に詰まる。陛下は何をしたいのだろうか・・・いや、やっぱりあれか・・・。
正直情けなくなった。宇宙の支配者がこうも軟弱になるとは・・・。
そう思っていると、アイスブルーの瞳が弱弱しくひかり、自身なさそうに、
「・・・駄目かな」とボソッとつぶやいた。
縋るような目つきで私の方を見る。
私はその視線に抗しきれなかった。
「・・・わかりました、陛下。仰せに従います・・・」
とたんに、陛下の目が輝く。そして子供のような無邪気な笑顔を浮かべて、
「ああ、そうか。ありがとう。・・・断られたらどうしようかと思って・・・いやあ良かった」
私は何も言えなかった。

ああ、この人はやっぱり天才少年なんだ。私はそれを実感した。
要するに少年の性なのだ。私もつい最近自分の女性を再認識したところだが、
この方は、それまでそういったことに興味を持たなかったらしい。
それがこの間の一件で今まで溜め込んでいたものが爆発してしまったらしい。
・・・開発したのは私なの?私はただお慰めしただけのはずなのだが・・・。

陛下の自室に行く前に、軍務尚書に呼び止められた。
「フロイライン、このたびはおめでとうございます」
どうやら事の顛末はすでに知っているらしい。いまさらしょうがないか。
「フロイライン、陛下をよろしくお願いいたします」
いや、ちょっとそこまで言われても・・・もうそういう段階というわけでもないだろうに。
私はそう考えたのだが、軍務尚書の考えはだいぶ違っていた。

「ローエングラム王朝をながきに渡り存続させるため、宮内庁はいろいろな手をうってきた」
「陛下の寝所に美しい女性を幾人も送り込んだのだが、みな丁重に送り返されてしまった」
「王朝のよってたつところは、やはり血統を後世に残すことなのだ」
「しかるに陛下は、どうもそういう方面に興味を示さないお人で、皆困っていたのだ」
「そんなとき、あの事件が起こり、結果フロイラインが陛下をお慰めになった」
私は顔を赤らめた。しかし、もっと恐ろしいことが軍務尚書の口から発せられた。
「どういう一夜を過ごされたかはこの際問題ではないのだが、フロイライン、
陛下はあれ以来、フロイラインに非常にご執心なのだ。
勤勉であらせられる陛下が、仕事も手につかない様子で、まあ、一般にいう恋の悩みのようなものなのだが、
正直、皆困っている。あれでは新王朝はなりたたない。そこで最高会議を開いて、今後を話し合ったわけだが、
フロイライン・マリーンドルフ、あなたに后妃の座についてもらうことに決定したのだよ」



私は先ほどの軍務尚書とのショッキングな会話を反芻していた。
つまり、陛下は私にご執心のあまり、仕事も手につかない状態らしい。
それは女として嬉しいことなのだが、既成事実もあることだし、私を后妃にして王朝の安泰を図りたい
ということらしい。陛下はそちらの方面は純粋極まりない方で、約束を違えることもないだろうから、
私を后妃に迎えることはもはや規定の路線らしい。頑固なところのあるかただからしょうがないのだが。

そこまではまだわかる。誰かが后妃に立たなければならないのは私にもわかる。
陛下も望まれているのだから、それは素晴らしいことなのだ。
しかし、軍務尚書の言ったセリフがもう一度頭の中によみがえる。
「陛下もまだお若い。この間の件で陛下は・・・その、性の喜びに目覚められてしまって・・・」

要するに、結婚するまで陛下の御相手を務めてくれというのである。
私は複雑な気持ちになった。私だって陛下お一人しか経験がないのだ。
それをまるで性の捌け口のように言われては、少し心外というものである。
確かに、陛下とはああなってしまった。それは私が望んでいたことでもあるのだが。
私は陛下は好きだ。でも、この間は見るに見かねて御慰みしたという側面がある。
それなのに・・・。

軍務尚書はこうも言った。
「陛下があのようになられたのは、フロイライン、あなたにも責任がおありのはず。
もはや決まったことでもあるし、ここは潔く。
ああ、御父上にはもうご報告してあります。さすがに驚いていらっしゃったが、
娘の幸せを思えばこそ、と快諾されました。入用のものは陛下の自室に全て用意いたしました。
この上はどうか陛下をよろしくお願いいたします。臣下一同に成り代わりお願いするものであります」
と頭を下げられてしまった。
私はあきれて何も言い返せなかった。



陛下の自室をノックする。正直もうどうにでもなれと言う感じだった。
「待ちかねたぞ」
嬉しそうな声を聞いてしまい、思わずげんなりする。これが銀河の覇者なのか・・・。
私は覚悟を決めて部屋に入った。
陛下はもうすでにガウン姿だ。めまいがするのは気のせいか?
とりあえず、ソファーに腰掛けようとする。すると陛下は私を抱き寄せてキスをした。
あっけにとられて為すがままにされてしまった。この積極性はいったいどうしたのだろう。
キスされること自体は嬉しいのだが、部屋に入るなりいきなりするものなのか。

しばし考えていたら、陛下は私をベッドに押し倒した。
「お待ちください陛下。陛下はいったいどうなされたのです」
「フロイラインが、ヒルダが悪いのだ。私はもう抑えきれない・・・」
目がマジだ。陛下は私を抱くつもりだ。決心の光が瞳に宿っている。
この部屋に入るときには覚悟は出来ていたのだが、こうも強引だといささか気が引ける。
私は陛下から顔を背けた。

「ヒルダ、私のことが嫌いになったのか」
あの縋るような目つきで私をアイスブルーの瞳が射抜く。
「嫌いではありません。私も陛下のことをお慕いしております。しかしいささか性急ではありませんか」
「何を言う。先日はあんなに愛し合ったではないか。私はヒルダなしではもう生きていけないのだ」
これは陛下なりのプロポーズらしい。嬉しくもあるが、TPOをわきまえないことはなはだしい。

一瞬呆然となった私に構わず、陛下は続けた。
「余の后妃となり、一緒にローエングラム王朝を繁栄させようではないか」
どうやら私を性奴隷や愛人の類にするつもりはないらしい。多少は安心するのだが、
何せ組み敷かれている状態で、そんなことを聞かされても困ってしまう。
もう少し、正式な場で正式に行うのが本当ではないだろうか。仮にも王朝なのだから。
私はやんわりとそのことを陛下に伝えた。多少は反応が違ってくることを期待しつつ。


「もちろん、正式に婚約の儀は執り行う。そして盛大に結婚式を開催しよう。
それなら文句はあるまい。ヒルダ、私はあなたを・・・愛しているのだよ」
真っ赤になりながら陛下はそう私に告げた。
多分嘘偽りはないだろう。純粋な人だからそれはないはずだ。
銀河の皇帝にこうまで言われてはしょうがない。私も覚悟を決めた。

「陛下、ありがとうございます。私のようなものを選んでいただいて。うれしゅうございます」
「そうか、わかってくれたか」
陛下は心から喜んでいるようだ。ことここに至ってはしょうがない。
陛下が喜んでいるのだから、私も喜ぶことにしよう。
銀河帝国の皇后か、それを夢想したこともあるが、よもやたかが3日の間にこうも自体が急変するとは・・・。

陛下が言った。とっても恥ずかしそうに。
「ではヒルダ、その・・・お互いの愛をより深めようではないか・・・」
視線の先には広いベッドが見えた。ピンク色のシーツはいったい誰が敷いたのだろう・・・。
「・・・仰せに従います」私は力なくうなづいた。なるようにしかならないのだからしょうがないだろう。


陛下は禁欲的だと聞いていたのだが、それは何かの間違いのような気がしてきた。
空が白みはじめる頃、ようやく陛下は眠りについた。
激しかった。私は女になってまだ3日なのに・・・。
やはり私のせいなのか、とも思う。初日に少々やりすぎたような気がする。
それにしても、こうも人間は変わるものなのか。私には信じられない。
英雄色を好むと言う。対象が私一人というのはまんざらでもない気はするが、それにしても・・・。
私はふらふらしながら着替えて、家まで車で帰った。
明日からはホテルに泊り込んだほうがよさそうだ。これでは仕事にならない・・・。




家人ももう何も言わなかった。一般に見ればふしだらな娘なのだろうが、
なにせ相手が相手である。文句は言えないだろう。
仮眠を取って、朝食を迎える。父は何も言わない。なんとなく寂しそうな目をしているのは気のせいだろうか。
追い討ちをかけるようで気が引けたが、明日より大本営に泊り込むことを父に伝えた。
「わかった、ヒルダ。お前の好きなようにしなさい。それにしても、あの陛下がなあ。
そういう方面にはとんと疎いお方だとばかり思っていたのだが・・・。
ヒルダや、陛下を本当に愛しているのかい」
「はい、お父様、愛しています」
「それなら何も言うまい。お前が選んだ道なのだから、私は喜んで祝福するよ。
・・・たまにはうちにも帰っておいで。」
父のやさしさが身にしみるが、いまさらこうなっては愛していないとは言えなくなってしまったのだ。
もうこのまま突き進むしかない、私は覚悟を決めた。


数ヵ月後、盛大な結婚式が行なわれ、陛下と私は夫婦になった。
悪い気分はしないのだが、私は正直疲れている。
毎晩は本当に勘弁して欲しい。愛されているということを認識するのは喜びなのだが、
度が過ぎるというのも考え物である。疲れた・・・。
結婚まで毎晩である。私の体で陛下の知らないところはもうない。
ゴシップ誌に、后妃は淫乱等と書かれたが、もう否定はできないのかもしれない。




あれから陛下の政策が変わった。
外交に重きをおくようになったのである。
イゼルローンに立てこもっていた共和主義者とも和解した。
ハイネセンでは再び民主国家が台頭しつつある。
多くの血を流さずに、銀河帝国は繁栄していくようになった。それは嬉しいことだ。
しかし、それが私の献身が端緒だということはあまり知られていない。

平和はいいことなのだが、私は何となく釈然としないものを感じている。
が、それは立場上人に話すことはない。
罪もない人が死ぬのは忌むべきことなのだから。

「ヒルダ、さあ早くこっちへ」ウキウキとした声が聞こえてくる。
私の主人は、あれからも私に対する態度は変わっていない。
私はきっと幸せなんだろう。愛する人に抱かれて毎日を過ごす。
そしてそれは銀河の皇帝なのだから・・・。
「ヒルダ、今日は君にお願いがある。ヒルダのアナルに・・・その入れてみたいのだが・・・」
私は、誰がなんと言おうと幸せだ・・・幸せに違いない・・・。


(完)


   





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