さよならを教えて/◆VhV67Q0yHo さん




その日、2人は久しぶりの再会ということもあって、
いささか酒の量が過ぎていた。

漆黒の短髪である方の男はもともと酒に強い体質らしくまだまだ飲める様子で、
手酌でワインを注ぎながら相手の男に話しかける。
一方の蜂蜜色のやや長い髪を揺らしている男はすっかり出来上がっていて、
注がれたワイングラスには手を延ばさず、テーブルに置かれたままになっている。
相手の言葉に頷きながらも言葉は右から左へ聞き流してしまっているようで、
瞬きの間隔が長くなり、頭がゆっくりと前に傾きがちである。
「……というわけなんだが、卿はどう思う?」
「…………」
「ミッターマイヤー?」
返事が無い。どうやら本格的に眠ってしまったらしい。
「家で奥方が待っているだろうに。仕方のない奴だ」
男は一旦席を離れ、ミッターマイヤーの自宅に電話する。
「はい。あら、ロイエンタール元帥。いつも主人がお世話になってますわ」
電話に出た彼の愛妻に、
「ああ、こんな夜分に申し訳ない。実は…」
と事情を話し、今夜一晩彼を自分の屋敷に泊まらせると伝えた。

電話を切り、続いてインターフォンで屋敷の使用人を呼び出すが、
「…しまった、さっき帰してしまったところだった」
飲み始めた際にはそれほど談義が長引くとは思っていなかったので、
食器を片付けるだけなら使用人の手を煩わせることもないと思ったからだ。
仕方なくロイエンタールは
椅子に座ったまま眠りこけているミッターマイヤーの所へ戻る。
「さて…」
ミッターマイヤーの片腕を自分の肩越しに回し、そのまま立ち上がって彼の身体を支える。
「おい。しっかり歩けよ、ミッターマイヤー」
と声を掛けつつも、
半ば引きずるようにロイエンタールはミッターマイヤーを居間から廊下へ連れ出した。




やっとのことでいくつかある居室の中のゲストルームへ入り、
ミッターマイヤーを部屋の隅のベッドへ腰掛けさせる。
そのまま後ろにひっくり返りそうになるミッターマイヤーの腰を支え、
「このままだと軍服が皺になる。今脱がせてやるからつかまってろ」
と彼の両腕を自分の首に絡めた。
前開きの合わせ目を解き、その下に着ているワイシャツのボタンを外す。
「ん? これは……!」
太幅、それも尋常ではない厚さで巻かれた白い包帯がワイシャツの中に見えた。
「どこでこんな怪我を? 何故言わずに平然と酒を飲んでいられる?!」
きつめに、かつ厚く巻かれたその形状から、
かなりひどい怪我をしていると判断し、
あわててロイエンタールは首に絡ませた両腕を解き、
部屋を飛び出して救急箱を取りに行った。



「待ってろ、今包帯を換えてやる」
と再びミッターマイヤーの両腕を自分の首に絡ませ、
血で汚すことの無いようにと上着とワイシャツを脱がせ、ベッド脇の小机にたたみ置いた。
それからロイエンタールは包帯の端の結び目を解き、
手早く、しかし傷口に障らないよう慎重に外し始めた。
しかし、包帯を全部外したそこにあったのは深い傷口ではなく。
「!」
男性であるミッターマイヤーにはないはずの代物。
しかし、それは間違いなくロイエンタールの目の前にあり、
それまで包帯に押しつぶされていた苦しさを吐き出すかの如く、
息遣いと共にゆっくりと揺れ動いている。
(どういうことだ、これは?)
冷静であるはずのロイエンタールも、
頭の中の情報と、現実にあるそのものとの不一致に混乱していた。
(整形したものか? それにしてはやけに自然な形だ。
 …いやそうではなくて、だからなぜミッターマイヤーにこんなものが…)
「相当酔っているな、俺も」
と何度も頭を振り、目の前の事実を否定しようとするが、
包帯の下に隠されていたミッターマイヤーの2つの胸の膨らみは消えることが無かった。



「起きろ、ミッターマイヤー。卿に聞きたいことがある」
ロイエンタールはミッターマイヤーの両肩を揺すぶるが、
「ん……うーん……」
当の本人はすっかり夢の中に入り込んでいるらしい。
「おいっ、起きろ」
「…寝かせてくれ、エヴァ…」
夢見心地ののままのミッターマイヤーに、不意に胸元を強く押される。
勢いで双方の上半身は扇の両端のように間隔を開けてベッドに叩きつけられた。
「……すぅ………すぅ……」
邪魔するものがいなくなったのを知り、
ミッターマイヤーは安心した表情を浮かべたまま再び寝息を立て始めた。
「ミッターマイヤー! 卿は…」
続きを言おうとして起き上がるが、ロイエンタールの視界に飛び込んできたのは、
無防備に曝け出しているミッターマイヤーの胸元。
言葉が、続かない。
どくん、と胸の奥で黒い感覚が湧き上がってくる。
恐る恐る手を延ばし、それが本物でないことを祈りつつ触れてみた。

大きいどころか、手のひらにすっぽり収まるほど小さな膨らみ。
だが、それは手の中に吸い付くような質感を持っていて、
これまで触れたどの女よりもキメが細かく、驚くほどロイエンタールの手に馴染む。
軍人という職業柄からか、日に焼けていない肌は新雪のように白い。
中央の突起もそれほど大きくなく、色もごく淡い桃色で、
まるで穢れを知らぬ少女のような美しさだった。
仮に整形しているのであれば、その感触に通常では気が付かないほどの若干の硬さを伝えてくる。
幾人もの女を相手しているロイエンタールであるからこそ判る直感であったが、
しかしミッターマイヤーのそれは、いくらゆっくりと撫で、さすり、揺すってみても、
そんな硬さを脳に伝えてこない。
何度も触っているうちに突起を指先で弾いてしまったらしい、
「………んっ……」
鼻に掛かったような吐息がこぼれ、ミッターマイヤーが軽く身じろぎをした。

その仕草にロイエンタールは我に返り、
「いかん、俺はとんでもないことを…」
とミッターマイヤーの胸元から手を離した。
(まさか…。いや幼い頃に太っていた名残で、俺が知らないだけかもしれないし…)
と否定できないはずのそれに対して勝手な解釈をつけ、
当初の目的を果たすべく、スラックスに通されたベルトに手を掛けた。
留め金を外し、ファスナーを下ろす。
ベッド脇に沿うようにだらしなく投げ出された両脚をつかみ、
開いた片手で下肢にまとわり付くスラックスを腰から脱がせ、
残りは両手で引き抜いた。
きちんとたたんで小机の上着の上に重ねる。
一仕事終えた達成感から、ふう、とため息をついて。
それから、せめてベッドの中央で彼を寝かせようと思い、
ロイエンタールは改めてミッターマイヤーの方に振り返った。


至高の宝玉。
そう形容するのがもっとも相応しいであろう。
そこに横たわっていたのは、
軍服姿なら誰もがその内側を容易く想像できる「筋骨隆々」の男の体格ではなく、
これまで見たことがないくらい美しい人間の肢体であった。
胸元で感じた白くてキメの細かい肌は全身に及び、
眩しいほどの艶と輝きを放っている。
かなり小振りではあるがツンと上向きに尖った胸と、
それが男であればいくらか細すぎる胴。
そして、その胴からゆるいカーブを描いている腰まわり。
引っかかっている被い布の上からは自分と同じ膨らみを持っているとは思えず、
あくまでもなだらかな「丘」の曲線を描いていた。
その腰まわりから伸びた両足はすらりと長く、目立つような体毛も無い。
「卿は……、卿は……おん…な…だった……のか……」
にわかには信じ難いその事実に、ロイエンタールは目を背けるように深くうなだれ、
自らの拳を何度も太腿に叩きつけた。

裏切られた、と思った。
それまで同胞だと、親友だと思っていた人物が、
自分が最も忌み嫌っていたはずの「女」で。
にも関わらず、自分に親身な態度で接してきた、
時に励ましあい、苦労を慰めあい、戦果を競い合った「女」に、
自分は自分自身の出生の秘密を打ち明けた。
(解らない。卿が…、卿という人物が解らない…)
自分のことのように「知っていた」はずのミッターマイヤーが、
その瞬間から最も知らない人物にすり代わっていた。
しかし、それを認めたくない、信じたくないと
ロイエンタールはこれまでの記憶を辿り、
(ミッターマイヤーと俺の最初の出会いは、イゼルローン要塞で…)
ミッターマイヤーは「男」であると証明するに足る事実を探し始める。


ロイエンタールの記憶の中にある過去のミッターマイヤーは、
間違いなく「男」であり、「女」である証拠の片鱗は見当たらない。
それに。
(奥方のエヴァンゼリンのこともある。
 そもそも女であるなら結婚できないはずだ。
 いや、だったら何故…?)
それまできつく瞼を閉じ、考え込んでいたロイエンタールは、
(そうだ、あれを…)
ふと思い出して目を開け、たたみ置いたミッターマイヤーの上着を
自分の膝の上に広げポケットを探りはじめた。
(あれを見ればきっと俺の見間違いと証明できるはず……あった、これだ)
軍人であるなら必ず携帯している、
赤地に金の箔押し模様のある革の手帳。
その手帳の表紙の裏側は帝国軍の身分証明になっている。
小刻みに震える手で表紙をめくり、細かい文字列の中からそれを探した。


見慣れたミッターマイヤーの顔写真。
本名、出生地、住所、軍籍などと一緒に、性別の項目がある。
そこには「性別:男」とあった。
(よかった。やはりミッターマイヤーは「男」だ)
ほっとしたのもつかの間、ロイエンタールの頭の中には
幾つかの疑問が頭をもたげてくる。
(待てよ。あの胸の膨らみは? 下半身は?
 どう理由付ければ片付くというのだ?
 それに…特別の許可が無くても
 女が入隊資格を有するようになったのは
 俺が士官学校を卒業した2年後だったはず。
 ならばどうやって性別を偽った…?)
改めて隣に横たわる「至高の宝玉」を見つめる。
何度目を擦っても、何度頭を振っても、
そこに眠っているのは外見上は間違いなく「女」であり。
(確かめる必要がある)
ロイエンタールは立ち上がり、一旦部屋を出た。




「…くしゃん」
いくらか寒気を感じ、ミッターマイヤーはくしゃみをした。
と同時に、急速に意識が覚醒する。
「……ん……? ここは…」
「お目覚めかな、『フロイライン』?」
聞きなれた低音の声とともに、足音が近づいてくる。
「…ああ、すまないロイエンタール。
 また眠ってしまったようだな、俺は」
とミッターマイヤーは近づいてくる親友と話をするために、
その場から起き上がろうとした。
身体が思うように動かない。
特に両手が自分の意志から切り離されたような感覚を覚える。
「ん?」
改めて自分の状況を把握しようとしっかりと瞼を開き、目線を手元へ下げた。
最初に目に入ったのはがっちりと太紐で縛られた、自分の両手首。
次いで、自分では包帯を外した覚えが無いのにその姿を晒している両胸。
下着以外のすべての着衣を外されている、自分の姿だった。




「これは……どういうことだ、ロイエンタール?」
「ああ、軍服が皺になるから脱がせた」
「そうではない! 何故俺は手首を縛られている?!」
「確かめたいことがあるからだ。
 だが、確かめるのに際して間違いなく抵抗されると思うから縛った」
「確かめたい…こと?」
「ああ」
ベッド縁に腰を下ろし、ロイエンタールはその顔を覗き込むように
ミッターマイヤーを見下ろした。
軍服の上着は脱いだらしく、仕立ての良いワイシャツの白が目に眩しい。
見上げたロイエンタールの、蒼と、茶の、瞳の輝きの中に、小さく写る自分の姿が見える。
ミッターマイヤーはなにやらおぞましいものをその奥に感じ取り、視線を横に逸らした。
「ちゃんと俺を見ろ」
不敵な笑いを浮かべつつ、ロイエンタールはミッターマイヤーの顎を捕らえ、
再び視線を合わせさせる。
「ミッターマイヤー」
「何だ?」
微かに震えていると自分でも判る声が室内を響かせる。
しかしそれには気づいていないのか、至極普通に返答するミッターマイヤー。

「卿は……卿は…男……か?」
「何をいまさら」
答えるのが馬鹿馬鹿しいぐらい簡単な質問に、
ミッターマイヤーの眉は釣り上がる。
が、それくらいで許してくれるロイエンタールではなかった。
「もう一度聞く。卿は男か、女か? どちらだ?」
「男だ。卿とは長い付き合いになるが、
 こんな馬鹿げた質問をされるのは初めてだぞ。
 イゼルローンで知り合ってからというもの、
 共に戦果を上げ、帝国の理想を現実とするために身を尽くし、ここまで昇進した。
 にもかかわらず、いまさら俺を女だと疑うのか、卿は?」
「ならば…」
不意にロイエンタールの手がミッターマイヤーの胸の突起を摘まみあげる。
「ひぁっ!」
ずきん。
ミッターマイヤーは胸の奥に、疼くものを感じた。
「これはどうやって説明する?」
馴れた手腕で膨らみを撫で、指の間に突起を挟み、揉みしだく。
「ぁ……んっ、や……ゃめ…ろ……、ロイ……んぅ……!」
制止するべくロイエンタールに声を掛けるが、
刺激されたことで身体の内側からひたひたと迫ってくるものに言葉が続かない。


ロイエンタールは縛った両手を上に上げ、背中とベッドの隙間に腕をねじ込む。
(この感触、この質感…。これまで抱いた女の、どれとも違う)
そのまま、顔を近づけ薄桃色の小さな豆粒に唇を寄せた。
ちゅ、と小さな音とともに、
「い、ゃあ……っ!」
頭の上からミッターマイヤーの、悲鳴とも甘息とも取れる声が聞こえた。
(……堪らないっ)
むしゃぶりつくように何度もその胸に口付けを落とし、もう片方の手で何度も撫で回す。
親友の狂った姿に抵抗しようと、
何度もミッターマイヤーは上げられた両手を下に下ろし、
肘打ちをその褐色の頭に叩きつけた。
しかし、力強くてねじ伏せられるような愛撫に力が抜け、
実際に効果があったのはほんの数回しかなかった。


しばらく胸の感触を楽しんだ後。
続いて、唯一脱がせなかったミッターマイヤーの下着の縁に、
ロイエンタールは手を掛けた。
「…その胸の膨らみは女でないというのなら、
 当然こっちは男のものであろう?」
「判り切ったことを聞くなぁ!」
とミッターマイヤーは両足をバタバタと揺らし、
ロイエンタールの動きを封じようとした。
だがミッターマイヤーは両手を塞がれている上、
2人を比べた場合体術に長けているのはロイエンタールであり、
その動きは簡単に封じ込められてしまう。
秘所を隠していた被い布はあっという間に引きずり下ろされた。
嫌がって閉じようとする太腿の内側を捉え、強引にその間に自らの身体を割り入れる。



「こ、これは……!」
ロイエンタールのその目前にあるミッターマイヤーのもの。
外見上はこれまで見てきた女達となんら変わらなかったが、一ヶ所だけ異なる部分があった。
異様なまでに膨らんだ陰核。
それはまるで自分の股間にある亀頭のように膨らみ、
いくらか「使って」いるからなのか周辺には色素沈着が見られ、
乳首よりは濃い桃色をしていた。
それでも陰核周辺以外は他の部位と同じように色が淡く、
神々しいまでの輝きを感じさせる。
(噂には聞いていたが、ミッターマイヤーが…こんな…)
熱い吐息をその部分に吹きかけられ、否応なしにミッターマイヤーの身体が熱くなる。
意識せずとも内側から溢れそうになる蜜の存在を、その部分に感じる。
その蜜に吸い寄せられる蝶の如く、ロイエンタールの唇が近づいた。
ちゅっ。
「あああああっ!」
遠くの方から、ミッターマイヤーの甘い悲鳴が聞こえた。



舐め上げたり、吸い上げたり、軽く歯を立ててみたり。
それはミッターマイヤーとエヴァンゼリンが交接の前に行っている愛撫そのものだった。
ただし、夫妻の場合は互いに互いのものを愛し合うという点で異なっていたが。
ゆえに今、手枷をつけられている自分に起こっていることは、
「いつになく怒って」いるエヴァとの間で行われているものと思いたかった。
ミッターマイヤーは掠れがちな声で何度も愛妻の名前を呼ぶ。
「え……エヴァ……んっ、……エヴ……ぁ…」
それを聞いたロイエンタールは、胸の内にどす黒い感情を募らせる。
その声が聞こえないように、自分の耳に届かないように、
目の前にある亀裂と、大きな突起を嬲り続けた。
次第に亀裂の奥からミッターマイヤー自身の蜜が溢れてくる。
普段のロイエンタールなら、塩気を相当含んだ濃厚なその体液は、
顔をしかめてすぐ口を離してしまうような味をしていた。
だがミッターマイヤーのものと思えばこそ、それは極上の甘露に思えてくる。
わずかばかり滲み出してくるその蜜を、ロイエンタールは何度も啜り上げた。
「あっ、あっ、も……もう……、い……ぅぅうッ!」
ロイエンタールの力に逆らうように、
ミッターマイヤーの腰が大きく2,3度揺れ動いたかと思うと、
くてん、と急に力が抜けた。



「………も、…もう…いいだろう?
 男であると……判ったなら……早く…この縄を…」
ゼイゼイと喘ぎながら、ミッターマイヤーは
自分の足の間にいるロイエンタールに声を掛ける。
「……駄目だ」
無常な返答にすぐさま質問をぶつける。
「なぜだ?!」
が、返ってきたロイエンタールの声は意外なものだった。
「卿は本当の男を知らんのか?」
上半身を起こし、自分のワイシャツのボタンを外し始める。
「え? 俺のものは男の、それそのものだと理解しているが」
「違うな」
言いながら、ロイエンタールは自分のスラックスの前開きを開け、
いきり立った自分のものをミッターマイヤーの前に曝した。

「………!」
ロイエンタールのそこにある禍々しい肉塊は、
自分の股間にあるものとまるっきり形状が異なり、
あまりの違いにミッターマイヤーは声を失い、思わず目を伏せた。
ロイエンタールは立ち上がりスラックスと下穿きを脱ぎながら、
ミッターマイヤーの顔の方に近づき、上体を起こしてやった。
「よく見るがいい、俺を」
と顎をつかみ、強制的にそれを見せ付けた。
「卿のものと、俺のものは明らかに違う。
 何が原因で男と偽るのかはよく解らぬが、卿は男ではない」
「違う…、俺は男だ……!」
「強情を張るのか…」
ロイエンタールはミッターマイヤーの両手首の間の太紐をつかみ、
握られた2つの拳を開かせ、その間に自らの屹立を挟んだ。
「触ってみろ。よく見てみろ。
 それが男の性器というものだ、『フロイライン』」
「違う! 俺はフロイラインではないっ」
唐突に自分には不釣合いの呼称で呼ばれ、
ミッターマイヤーは怒りで顔を真っ赤に染めた。
自分の手の中に蠢く肉塊からなんとか手を離そうとした。



その行動は見抜かれていた。
一瞬早くロイエンタールの両手が、自分の手の甲を包み込む。
「ん……ぅ、ふ……フロイラインの手は…柔らかくて…」
そしてそのまま肉塊に沿って上下に揺すった。
「な…何をしているっ、手を離せ!」
「……すぐに……達してしまい……そうだ…っ」
確かにミッターマイヤーの手はロイエンタールの大きく骨ばったものとは違い、
肉厚でやや小さく、全体に細長い形をしている。
事態に対処しきれない緊張感からかじっとりと汗が滲み、
それがいくらかでも滑りを良くさせているらしい。
「あっ……で、出るッ…!」
それまでにミッターマイヤーの肌と、胸と、陰部とで。
すっかり欲情していたロイエンタールが、
その顔に迸りを飛び散らせるのにはそれほど時間が掛からなかった。


「……すまなかった」
荒い息をつきながら、膝をつき、ミッターマイヤーの身体を抱きしめる。
「俺一人だけ……先走ってしまった」
ロイエンタールは蜂蜜色の髪に指を梳き入れながら、
自分が飛び散らせた残滓を唇で拭い始めた。
「ロイエンタール…」
声を掛けられ、また2人の視線が合わさる。
その金銀妖瞳に、先ほどまでのおぞましいものは感じられない。
それにホッとしたミッターマイヤーは安心して、
「忘れるよ、今日のことは」
目尻を下げてにこりと微笑み、ロイエンタールに告げた。
「気が済んだのなら両手を解いてくれ。家に帰りたい」
瞬間、また瞳の奥に宿るものが見えた。ような気がした。
「嫌だ」
「もういいだろう!
 俺も強引にされたとはいえ、気を遣った。
 俺と卿との違いも判った。卿も今ので満足したのだろう、ええ?
 なのにどうして……ぅんっ!」
ミッターマイヤーの言葉を遮るが如く、
ロイエンタールはミッターマイヤーの口腔に舌をねじ込んだ。
「ふ………ぅ……」
ピリピリとした苦味と青臭さが口の中いっぱいに広がり、
ミッターマイヤーは吐き気を感じて眉をしかめる。
「………ん、……く……っ」
が、ロイエンタールのざらついた舌が口内を荒らしまわっていて。
「………ぷはっ!」
やっとのことで開放されたときには自然に呼吸ができなくなっていた。
自分の荒い呼吸音が耳管の中いっぱいに響き渡る。
と同時に、同じように荒れた息遣いをしながらつぶやいた、
ロイエンタールの声が響いてきた。
「俺は…お前が…欲しいんだ、ミッター…マイヤー」
「な…何を言っている、ロイエンタール?
 俺は男で、卿も男だ。しかも俺にはエヴァという……んっ」
また口を塞がれる。
噛み付くほどの勢いで何度もキスされ、胸をまさぐられ、
ミッターマイヤーの思考と言葉は何度も途切れた。
「やめ……あぅ!……ロイエ……ん、……ゃあっ…!」
じりじりと胸から臍、太腿を通り、秘所に指を這わす。
「ミッターマイヤー、お前に本物の男というものを教えてやろう」
そう言って両足をこれ以上はできないというくらいに開き、
自らの屹立をミッターマイヤーの亀裂にあてがった。
そのまま軽く上下に擦り、
「ひ……あ…ぁんっ」
腫れた陰核を刺激して蜜を滴らせた後、その奥に隠された小さな穴に。
ロイエンタールはその怒張を突き入れた。



「!」
その瞬間、ミッターマイヤーの口が開き、大きく息を吸い込んだ。
目が見開かれ、端から雫が零れ落ちる。
ず、ず、ず、ず、ず。
実際には聞こえないはずの音が聞こえる。
ロイエンタールのそれが自分の内側を突き破り、引き裂いているのを感じた。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛…っ!!」
自分の声とは思えない醜い悲鳴が、喉元から零れていった。
「……きついな、フロイライン。締め上げられる…」
「……俺は……おと……こ…だ…」
幾粒も涙を零しながらも、ミッターマイヤーは自分が「女」であるとは認めない。
しかし、うっかりするとすぐに達してしまいそうなほど、
ミッターマイヤーの内側は熱くたぎり、肉襞が絡みつきながら自分の分身を締め付けてくる。
(こんなに『相性』が合うものは、初めてだ…)
ロイエンタールは欲望で先走ろうとする腰を、
なんとか理性で押しとどめ、ゆっくりと動かし始めた。
「あ゛あ゛あ゛っ…!」
しかし、濁りを含んだミッターマイヤーの悲鳴はなおしばらく続いた。



濁った声がだんだんと消えていく。
「ん、んんっ、ん…っ」
と控えめな吐息がロイエンタールの動きに連動してこぼれていく。
しかし、ミッターマイヤーの両目から落ちていくものは止まらなかった。
ロイエンタールは腰から腕を入れ、横たわっている「彼女」の上半身を起こした。
「俺につかまれ」
縛られた両腕の間に自分の首を通し、頬を伝う涙を指先で拭う。
それからしっかりと抱き寄せ、癖の強い髪を撫でながら、
腰を揺らし上げた。
「あああっ、あっ、ん…ぁあ!」
それまでよりも強い衝撃に耐えかねて、
半音高くなったミッターマイヤーの声が部屋を満たす。
実際のところ、ロイエンタールの屹立は半分も入らなかった。
だがロイエンタールはそれでも満足だった。

「ヴェルフィン…フロイ…ライン、…ヴェルフィン…」
ロイエンタールはミッターマイヤーのファーストネームを、女性称で何度も呼んだ。
そう呼ぶことでロイエンタールは自分の中で「彼」を「彼女」と置き換えた。
「違っ……あっ、ああっ!
 ウォル、ぅぉ…ルフ………ング…だ……!」
その度にミッターマイヤーは首を横に振り、刺し貫かれる痛みと、
微かにではあるが内側から痺れるように上ってくる快感とに
嬌声を上げながら、自分の名前を自分で確かめるように叫ぶ。
「呼べ。俺の名前を……、
 オスカー……と……ぅ、ふぅ…っ…、
 …オスカーと俺の名前を…呼んで…みろ、ヴェル…フィン!」
何度も口付け、ロイエンタールは耳元で囁いた。
「いや…だっ、俺は……あぅ! ウォルフ…ガングだ、ロイ…ぃ、ゃあ!」
ボロボロと涙を零し、鼻をすすりながらかぶりを振るミッターマイヤー。

「そろそろ……限…界…だ、ヴェルフィン…」
そう言ってロイエンタールは互いの繋ぎ目に片手を下ろし、
ミッターマイヤーの身体で最も敏感な、膨れきった陰核を撫で上げた。
「いやああああっ!!」
勝手に身体が仰け反り、後ろに倒れそうになる。
「いや、いやだっ! 許して…!
 お願いだ、もう許して………ロイエン…タールぅっ!!」
不意にミッターマイヤーの声にそれまでとは違う、艶めいたものが混じった。
(やっと「女」になったな、ミッターマイヤー)
その声に満足げな笑みを浮かべると、ロイエンタールはそのまま陰核を擦ってやった。
身体ががくがくと揺れ、ロイエンタールのものを包む肉壁がさらに締まる。
「ヴェルフィン……ッ!!」
「ああああああッ!!」
ミッターマイヤーは自分の内側で、ロイエンタールのものが爆ぜるのを感じた。
が、次の瞬間すぐに。
これまでに感じたことがないほどの刺激と強い快感が
自分を飲み込んでしまったことに気を取られ、数刻の間意識が途切れた。




結局、ロイエンタールが何度強要しても自分を「女」と認めない
ミッターマイヤーの手枷を解いたのは、朝日が昇り始めた頃のことで。
それまでに繰り返した陵辱行為で足腰が立たなくなってしまった
ミッターマイヤーを抱きかかえて浴室に行き、
ロイエンタールは「彼女」の身体を丁寧に洗い清めた。
清潔なタオルで拭き清め、散り散りに波打った髪を乾かし、
胸元の包帯を巻き直した。脱がせた軍服を丁寧に着せてやる。
しかし、その間意識があるはずのミッターマイヤーの口からは
ロイエンタールが話しかけたとき以外に何か言葉が発せられることは無く、
複雑な表情を浮かべたまま、夕べまで親友であったはずの男の姿を見つめている。
朝食の刻限の2時間前には帰宅させた使用人たちが準備のためにやってきた。
ミッターマイヤーがまだ帰宅していなかったことに少し驚きながらも、
当主であるロイエンタールの命令で使用人たちは彼ら2人分の朝食を作る。
それを「食欲が無い」とは言いながら軍人の癖で黙々と全部口に運ぶと、
ミッターマイヤーは「じゃあ、俺は帰る」と席を立った。
「待て、ミッターマイヤー」とその姿を慌てて追いかけるロイエンタール。



屋敷の長い廊下を若干ふらつきながら急ぎ足で歩くミッターマイヤー。
その後ろを走ってきて、
「ミッターマイヤー」
といいながらロイエンタールは抱きすくめるように
ミッターマイヤーを捕まえた。
咄嗟のことに、それまでなんとか気力で歩いていた
ミッターマイヤーの身体は少しよろめいた。
それを支えるように腕を絡ませるロイエンタールの身体が、小刻みに震えている。
それはまるで一度手に入れたものを、
自分の力が及ばずに仕方なく手放すときの、哀しさを体現しているようで。
「…………気にするな、忘れるから」
ロイエンタールの顔を見ずにそう言って、ミッターマイヤーは一歩踏み出そうとした。
が、ロイエンタールの腕力によってそれは遮られる。
「どうした、ロイエンタール?」
と問いかけるが、返事が無い。
しばらくの沈黙の後、やっと聞こえるくらいのちいさな呟きが聞こえ、
それに対してミッターマイヤーは何も言わず、その手を解き、歩き出した。

  

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