若き歴史作家と、その新妻の日常 (4-796さん)
―朝―
「おはようユリアン……」
寝ぼけ眼のカリンは、朝食をつくるぼくに抱きつきました。
「カリンったら。危ないから少し離れていてよ」
「だめ、朝はどうしても気が立つのよ!」
傲然と言い放ち、カリンはぼくのエプロンを取ります。
「ああ、カリン……目玉焼きが……焦げるよ」
「勝手に焦がしなさい。どうせあんたが食べるんだから」
……やっぱり?
―昼―
「ねぇ、ユリアァン」
「駄目だよ、仕事中」
「仕事って、本読んでいるだけじゃない」
「歴史家は資料集めも仕事のうちなの」
背中を指がなぞって刺激します。
「ねぇったら〜」
「駄目ったら駄目。
今月中に“ゴールデンバウム王朝の発展と終焉”を書き上げないと、収入ゼロだよ!?」
「んじゃあ……ユリアンのためにジュースつくってきてあげるね」
珍しい妻の行為に、ぼくは驚くと同時に嬉しく思いました。
どことなく浮き足立ったカリンの動作は、ぼくが夢にまで見た“新妻”そのものでしたから。
出されたジュースはいつぞやの黒いジュース。
「飲みなさいよ」
「うん」
ぼくは笑顔で飲み干しました。
黒いジュースは催淫剤でした。
―夜―
「ユリアン……」
「駄目ったら駄目、ぼく徹夜するから!」
「いいじゃないの。
わたしが食べていける分の貯えはあるのだから」
「えっ……ぼくは?」
カリンはにっこり、かわいらしい笑顔を浮かべます。
そして、紅玉でつくられたバラの花弁のような、可憐な唇から、こんな言葉を吐き出しました。
「コンビニの賞味期限切れ弁当が狙い目よッ!」
ぷぎゃ。
え、え、何。
ぼくホームレス確定なの!?
革命軍司令官までつとめあげた男が、ホームレス!?
あれ、でも。
毎日寝て起きてお日様の下でのびのびと暮らす生活。
命令してくる女王もいないし。
え? けっこう天国?
そんなことを思っているうちに、下半身裸にされるぼく。
ぼくは、嘆息してから、たずねました。
否定してくれることを祈りつつ。
「カリン。ぼくの身体だけが目当てなの?」
カリンは舌をペロッと出して、答えました。
「……えへ☆」
せめて否定してほしかったな……と世を儚みながら小一時間以下省略。