シェーンコップ×ヒルダ(4-70さん)
それは、彼には見慣れた光景であった。
数人の男の下卑た声に、床に横たわる白い二本の脚―
帝国軍と同盟軍、両艦混戦となり長距離砲が撃てない時に強力な戦力となる彼ら。
強引に艦体に擦り付いて磁力で張り付き、熱線で突破口を開くと精鋭の猛者達、
薔薇の騎士(ローゼンリッター)は馴れたことというように敵艦の各所へと
散らばっていった。艦長と操舵室と通信室を抑えたと報告を受け、掃討戦へと移る。
あっさり投降する帝国兵士に電磁錠をかけ、一室に詰め込んでいくのがだいたいであるが
中にはしぶとく抵抗するものもいる。だがそれも死神の斧を振り回す一陣に数を減らしていった。
隊長シェーンコップはその中でも最凶の死神と自他共に認める男。
ライフルビームをあっさり斧の柄で叩き落とすと無造作にそれを振り、ヴァルハラへの乗員を
たった今、一人増やしたところである。ヘルメット内部から「任務完了」との部下からの報告を受け
これから司令室に向かう途中のことであった。
照明が割れ火花を散らす通路を進み、薄暗くなった角を曲がったとき、その光景に出くわした。
帝国軍服を着た三人の男。二人は脇に立ち、一人の男がしゃがみこんで乱暴に女の服を剥いでいる。
やれやれ、と思いながらシェーンコップは装甲靴を踏み鳴らしてその集団に歩み寄っていった。
脇に居た男がその音に気付き、よほど驚いたのか気管からあり得れない奇音を発した。
とたんきびすを返して逃げ出していく。
その男はそのままにして、手始めに女の服を剥ぐ男の手元を間抜けな面で凝視している男の後頭部を
軽く手刀ではたくと、そのまま声も出さずに崩れ落ちた。
女にのしかかる男は、さらにのしかかられて、ようやく周囲の異変に気がついた。
見上げると、返り血に塗れ、滴る血をアクセサリーにした斧を持つ長身の男が壮絶な笑みを浮かべている。
これまた男は珍妙な声を上げ、だがしかし感心なことに気絶した男を肩に乗せて引きずり逃げていった。
どうせあの三人は、うちの優秀な部下が絞めてくれるだろうと鷹揚に見送ったシェーンコップは
床に倒れた女に目をやった。
貴族の坊ちゃん艦長が連れ込んだ愛人であろうか、と最初は思ったがそれにしては短髪で化粧も薄い。
とりあえず意識を確かめようと腕に抱き起こしたとき、シェーンコップは吐き捨てた。
「サイオキシンか!!」
女の瞳孔は薄暗い中にも関わらず最大限に見開かれ、急激な中毒症状が顕著に見られる。
体温は急上昇と下降を繰り返し、口はガチガチと震え下手をすれば舌を噛みそうである。
(幸い、暴行はまだ受けてないようだが…)
とりあえず毛布で身体をくるんでうちの衛生兵に届けておくか…と立ち上がろうとしたとき
「助けて…!」
と女がシェーンコップにすがり付いてきた。
「もう大丈夫だ。危険はない。今から助けるからこの場で少し待っていてくれ」
「いや、離れないで」
ここがベッドの上であれば実に色っぽいセリフなんだがな、と実に緊張感のない事を思ったが
サイオキシンがもたらす異様な怪力か、女の腕を振り解けない。無理に外せば骨を折ってしまいそうだ。
(仕方ない、このまま抱いていくか)
だが女は身をくねらせるので抱き上げるのに一苦労する。やりづらいので手の装甲も床に放り投げ
もう一度抱き上げかけると、指にヌルリとした液体を感じた。
シェーンコップが手を回しているのは腰の下である。つまり粘液の元は―
「ち!まったく」
今度こそ舌打ちをして、さっきの男共をなんでブチ殺さなかったのか今更悔やまれる。
サイオキシンと催淫剤と、最悪のカクテルをこの女性は飲まされてしまっている。
こんな状態で男ばかりの医療テントに持っていっては、傷病者といえども油断がならない。
なんとかしなくては、まあ、方法がないってわけじゃないんだが…
思案の前半から後半のうちに、とる手段はシェーンコップの中では決まっていた。
全部の装甲を外し、中の機能性ウエアも脱ぐと鍛え上げられた肉体が現れる。
相手する女性全員が、まあ、と目を潤ませて胸をはずませた身体であるが、今回の女性は
もっと切羽詰った事情ですでに目が潤んでしまっている。胸も、そうは無い。
キス…は女性の名誉のために省くことにし、ひたすら身体の方をほぐすことに集中する。
できるだけ発汗をうながし、体内から毒分を排出させるというのが目的である。
しかし、実はシェーンコップ自身の欲望という事情もある。
大規模な戦闘が終わった後は、気がたかぶり続け治まりをつけづらい。
そのような時は女の柔らかい体に触れて沈んで、体内の獣を解放するのが一番近道で
なおかつ、彼の嗜好に一番一致する解消法でもあった。
ブルームハルトなぞは筋トレでそれをやり過ごすのだが、まったく奴は青すぎる。
純情な部下を今度こそ大人にしてやらねばな、と上司として気遣いつつ女の身体に手を這わす。
幾度か触れた反応と、そして差し込んだ指に触れる感触で彼女がまだ男を知らないというを知る。
先ほど乱暴されなかったのは、本当に幸運なことだった。あれが初体験では悲惨にありあまる。
(…これからのことについては、それは彼女が判断することだ)
うそぶきながらも手の運びには躊躇が全く無い。幾百も“戦場”を踏んだ男の自信であろうか。
その経験が女の価値を値踏みする。腰つきはまだまだ薄いし、まろやかさも足りない。
だが男の手に丹念にかかれば生来の輝きにまして極上の美酒になるであろう肉体だとみた。
半ば本気で彼女と二度目がないものか、と考えたシェーンコップであるが、一度きりというのも
また刹那的でいいということも、知っている。
差し込む指を二本に増やし、中を軽く掻くように引いて動かす。反応は上々だ。
薬の影響だとしても、それだけで女は快感をえるというわけではないのだ。
より汗を出させるために、救急キットから精製水をだして彼女の口に含ませようとするが
しまりを失ってよだれをたらす口から零れ落ちてしまう。仕方なく口移しで飲ませていく。
狙い通りに汗をかき始めた彼女であるが、もう一箇所からも水分が盛んに溢れている。
すでに下半身をくつろがせていたシェーンコップは、なるべく痛感を生じさせないよう
巧みに腰をひねり、ゆっくりと彼女の入り口を広げつつ自身をねじりこんでいった。
処女の狭さというのはあまりシェーンコップは好きではないが、女の反応は好ましい。
恥ずかしがりながらも身体の快感にまだ意識が追いつかずにとまどうところなど、
男女の運びにスムーズに乗る女との情事の合間だと新鮮に感じられる。
今回の彼女は、くすんだショートの金髪をうなじに張り付かせて喘ぐ声は色っぽいものの
腕は必死に迷子の子供のように自分に縋りついてくるというのが、なんともいじらしい。
目を合わすと美しいブルーグリーンの目が切なげにこっちの目を見つめ返してくる。
目尻からは幾度も涙を零れ落とさせ、それをシェーンコップはこの上ない優しさで舐め取っていく。
もう汗は十分にかいており、このまま二、三時間ほど安静に寝ていれば毒はすっかり抜けるだろう。
しかし、中途半端はお互いにとって良くない。
彼女の中はもうヒクヒクと痙攣を繰り返し頂点が近いことを知らせている。
そのまま彼女の快感を小刻みに煽ってやりそのまま押し上げる。
「あ、あっあっあっっっっ!ふぅ…い、や、あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うっ…く!」
彼女の内部が余韻に震えるのを充分堪能した後に引き抜き、腹の上に自分を放った。
三角巾で拭いとり始末をして、そこに男のものだろうか脱ぎ捨てられた軍服を着せてやる。
ぐったりと気を失った彼女にその黒と銀で彩られたお堅い服は驚くほどに良く似合った。
いや、仕立てたようにサイズがぴったりだ。
「帝国軍に女性兵士はいなかったはずだが…?」
亡命している間に制度が変わったりしたのだろうか、そんなことを思ったが、行為の後は
さすがのシェーンコップでも思考を持続しがたい。自分を探しにきた部下に彼女を引き渡し
今度は自分の休息のため、睡眠タンクへと歩をすすめた。
体力は回復したが食欲が抗議の声をあげているので、早速、豆のトマト煮という簡素な食事を
隊員に混じってとっていると、部下から奇妙な報告を受けた。
一つの脱出ポッドが排出されるのを確認した、けれど乗組員名簿には漏れが無いという。
ピンと脳に引っかかるものがあったのだが
「誤作動だろうよ、“男”は全員いるんだからな」
と不問にしておいた。こうしてシェーンコップの歴史にまた一人、女が記されたのである。
脱出ポッドに乗り込んで乗艦できそうな旗艦に通信をかけながら、女性は一人考えに沈んでいた。
やはりあれは迂闊だった。通信妨害のため人力で伝言するしかなかった状況で、直接目的の艦には
いけず、中継地点として寄ったあの駆逐艦。あの艦の司令部達が元貴族というのは承知していたが
戦闘の真っ最中であるし、短時間であるから大丈夫であろうと読んだ理性が裏目に出てしまった。
根拠の無い特権を奪われた者達が、あんなにも復讐の機会に燃え、てぐすね引いているだなんて
明朗な理念という空気を吸って生きている彼女にはとうてい看破しえなかったのだ。
引き締まった頬の下級兵士とは対照的に、たるんだ頬をした血色の悪い男に暗がりに腕を引かれて
みぞおちを突かれた後、酸素を求めて開閉した口に無理やり押し込まれたなにかの薬…
その後は記憶が途切れ途切れである。
気分が悪くて吐き気のする間に服が剥かれ、冷たい床に転がされたのは覚えている。
そして猛烈な不安と恐怖とで拠り所が感じられなかった自分を、暖かい人肌と
―おそらく、きっとあれは性的な快感というものだったのだろう、それで救ってくれた男の事と。
あの顔は、帝国貴族のような整い方をしていたが、それでも貴族の纏うあの雰囲気はなかった。
次に目覚めたのは老兵の背中の上で、ヒルダを脱出ポッドの格納場所まで運んでくれたのだった。
心配そうに見守る老人に笑顔を見せて、その温情に握手で持って感謝を示し、スイッチを入れたのだ。
そうして脳内のページを繰っていると、目の前の通信機がブンと音を立てた。
「フロイライン・マリーンドルフ。こちらに誘導いたします。周波を合わせて下さい」
スクリーンに映っているのは砂色の髪をした若き勇将、ミュラーである。
「ありがとう、あとはそちらにおまかせします」
通信が切れた後、ヒルダは目を閉じた。ミュラーの艦に収容されるまで一時間はあろう。
少し休めるかもしれない。
狭いコクピットはもう顔の記憶が薄れつつあるあの男の腕の中を思わせる。
自分の変化にはもう気がついている。目が覚めてとっさに確かめたのは自分の体であるが
股間を探ってみても、自分のぬかるみ以外のモノはそこにはなかった。
女として本当に最悪の事態ではなかったことには心の底から安堵したが、失った物も、分かる。
けれど、あれは事故だ。そう思うことに決めた。それに得たものも少なからずある。
人が心まで裸になり立ちすくみ震えあがったときに、人の肌の暖かさほど勝るものはないという
実感から得た経験が…
―単調に鳴る計器の音に、ヒルダの瞼は重さを急速に増していった。
終わり