アッテンボロー×ヒルダ2/◆UyhdNh9lUA(4-244) さん




月光が差す部屋で、涙で濡れたヒルダの瞳は億万の宝石よりも美しく光る。
「ごめんなさい、泣いてしまったりして」
「謝らないで、素直に泣いてしまっていいんですよ。そういう夜は、誰にでもあるものです。
 俺の腕は銀河を包むほど大きくはないですが、女性を泣かせるだけの広さはありますから」
ヒルダが背負ってきたこの数年の重責が、抱きしめられたところから蒸発していくようだ。
彼女の体から強張りが抜けるまで、アッテンボローは静かにヒルダを抱きしめ続けていた。
呼吸が落ち着くのをみて、ヒルダの顔を両手で優しく包み込む。
親しい相手から、男の目に変わった相手を見てもヒルダはそこに留まっていた。
理性では判断できない感情に心が満たされて、足が縫い付けられたようになっていたのだ。
(分からない、でもこのまま部屋に残されるのは……一人になりたくない!)
急激に増した胸苦しさに突き動かされて、救いを求めるようにアッテンボローを見上げる。
視線がかち合う。アッテンボローの顔が近づいてきた。
目を閉じ、その時を待った。
そっと優しく触れるだけのキス。そういうキスもあるのだと初めてヒルダは知った。
「これで、今晩は眠れそうですか?」
アッテンボローが耳に囁いた声にヒルダの体は固くなった。
ここに居て、と口に出せず自分が手を置くところのシャツを握り締めることしかできなかったが
アッテンボローにはそれで通じたようだった。
もう一度、唇がヒルダに降りてきて今度は押し包むように触れてきた。
ヒルダの唇の瑞々しさを確かめるように、幾度もアッテンボローは触れて離れを繰り返した。



映画ならここでfinマークだが、二人は幕を降ろそうとはしなかった。
肩を支え、ヒルダをベッドに座らせると、より肩を引き寄せ深く口付ける。
最初はぎこちなかったが、すぐにのみこんだのかヒルダも同じように返してくれた。
ワンピースの背中のファスナーを下ろし、現れた細く白い肩を優しく指先で愛撫する。
しばらくして唇を離すと、ヒルダは少し早口で自己申告した。
「あの…ずいぶんひさしぶりなもので、その…すみません」
「大丈夫ですよ、俺に任せてください」
一国の女王にずいぶん大きく出たものだと自分のくそ度胸にいっそ拍手でもしたいが
それよりも、無粋でも何でも聞かねばならぬ重要なことがある。
「ええっとその…お持ちですか?避妊具」
「そこの、引き出しに入っているかと」
ヒルダから離れ、そこを開けてみるとそれはあった。未開封の箱が事情を物語る。
ここに訪れることなく、ヴァルハラに去っていたヒルダの夫。
これほど滑稽さと真剣さが同居する事態など、他にあるのだろうか?
ともかくさっさとセロハンを切り、手に一つ握りこんだ。

今まで触ったこともないようなすべらかさと光沢を持つ下着を取り去ると、自分とはまったく
違う白く抜けるような肌が現われた。ヒルダは静かに身体を横たえ、彼の手を待っている。
これまで見てきたヒルダの数々の姿が脳裏を流れていく。銀河の頂点に独り立つ、この女性。
でも今目の前にいるのは、幾万の人々と同じ健気に戦後を生きている一人の女性なのだ。
好きだ、とか愛しているなんて軽々しくも口に出来ないほどの真摯な想いが彼の内にある。
自分に出来ることなら、なんでもいいから彼女にしてあげたかった。



「わたくしもあなたも、あれからずいぶん長い道のりを歩いてきましたわね」
下からそっと手を伸ばされ、アッテンボローの頬が優しく撫でられた。
「まったく、天上で呑気に過ごしている人たちに俺たちの苦労を見せてやりたいですよ」
「本当ですわね」
ヒルダがありか無きかの笑みをそっと浮かべた。

――だが、これからのことには目を瞑っていてもらいたいね。
こんなとびきりのいい女を置いてくたばったあんたが悪いんだからな、カイザー。

ヒルダを押しつぶさないように覆いかぶさり、一児の母とは思えないほどの美を保つ肌に
指を滑らせていく。ほどよく乗った脂が蕩けそうな感触を手のひらに伝えてくる。
手加減しておこうという自制はあっさり破られ夢中でヒルダの身体に手を這わしていく。
ある点に差し掛かったとき、ちょうどそこが弱かったのかヒルダの背が反った。
跡を付けないよう気遣いながらそこを吸うとヒルダの息が乱れ、声が上がる。
平たい腹部を通り過ぎさらに手をのばすと、そこは熱く濡れていた。
ヒルダの足を割り開き、顔を近づける。
「あっ!なにを?…っん!」
起き上がりかけたが、おとがいを反らし再びヒルダの身体はベッドに沈み込んだ。
入り口に舌を差しこみ上の真珠を優しく指で撫で転がし、経験の少ない彼女をほぐしていく。
「やぁ…うぅんっ…ああっ」
そこを弄られ、たまらず喘ぐ声が勝手に出てしまう。何をされているのかも分からない。
ヒルダの声に甘みが帯びてきたのを聞き、アッテンボローは指への愛撫に切り替えた。
差し入れられた二本の指が自在に動くようになり、水気がそこに十分潤ったのをみると
手早くスキンを装着してそこにあてがった。
「…大丈夫ですか?」
「は、い」
初体験の快感に翻弄されまくり、天地が逆さまのような心地だったがなんとか返事をした。
一気に突き入れず、じわりと奥に分け入っていく。お互いの熱が全身をめぐり肌に溶けていく。
ヒルダの耳に口を寄せアッテンボローは彼女に小さく囁いた。返事は彼の背に回されたしなやかな腕。
――彼女が無言だったわけを彼が知るのはもうしばらく後になる。




それを合図にアッテンボローは腰を突き出した。ある所に擦るように動かすと、より中が蠢くのが分かり
外さぬようにそれを続けるとかなりの収縮が生じると共に、ヒルダの全身がさあっとバラ色に染まった。
さながら澄んだ泉にワインを一杯こぼしたかのような、あまりに鮮やかな表れだった。
その収縮にアッテンボローも放出した。二人の距離はそのとき限りなく極限に近づいていた。
だが実その数ミクロンの壁は、映画の二人の距離と同じぐらい、いやそれ以上であったか。

乱れた呼吸と鼓動が落ち着いた頃、身体を離し始末をしてヒルダに冷たい水を差し出した。
クリスタルを持つ手が揺れ、思いつめたヒルダの瞳がアッテンボローに向けられた。
「あなたの想い、とても、とても嬉しく思います、わたくしもそう思っていましたから」
けれど、と一瞬口ごもりアッテンボローに向き直った。
「私は少し…そう、少し、慎重にしなければならない立場なのです。あの人を選んだのも
 自ら進んでこの役割に着いたのも、私の、私の意志でしていることなのですから」
雫がこぼれる寸前で、ヒルダの瞳が揺れる。
少し、に込められた彼女の言葉にならない心情を、アッテンボローは正確に理解した。
そして彼女の強靭さと、しなやかさと、まったくうちのあの人と同じだ、とも思う。
「…あの映画を昔見たときは、なんて意気地のない男だろうと思ってましたよ。
 けれど、今は痛いほど分かります。彼はああするしかなかったんだ、とね」
(男の人からこんなにも優しい目をされたのは、父とあの人と、彼だけだわ…)
「ただ、一つ違うところがあるとすれば…」
「それは?」
「俺は、逆境があればあるほど燃える性格、ってところです」
そしていつの間にクリスタルのグラスを固く握り締めていたヒルダの両手をそっと解いてグラスを置き
しなやかな身体をすっぽり自分の腕に包み込んだ。
「ふう、どいつもこいつも」
「なんですの?」
「こっちも帝国も、あの二人は凡人には真似できない数々の武勲を戦場であげてきましたが、
 一番の戦果はこれ、至宝の花嫁を陥落させたことです。まったく、尊敬に値します」
冗談めかしたように片目をつぶってアッテンボローは大げさに溜息をついてみせた。
切ない思いを双方抱きながら、国も立場も違う二人は朝まで静かな海のように抱き合っていた。






朝食の席、昨夜よりもだいぶ回復したものの暗い表情のヒルダにアッテンボローが話しかけた。
「貴女に、魔法の呪文を教えておきましょう」
「なんでしょうか?」
「これを一言口にするだけでどんな困難もあっという間に消え失せるんです」
「わたくしに教えてしまって、よろしいのですか?」
「いいんです!」
大仰に断言し、神妙な顔で付け加える。
「ただし、あんまり多用すると効果は無くなってしまいますのでご注意を」
「はい」
こっくりとヒルダが優等生のように素直に頷いた。
「じゃ、言いますよ。"それがどうした!"」
「は?」
「それがどうした!はい、言ってください」
「それが、どうした?」
「もっと力強く!」
「そ、それがどうした!」
「うん、上出来です」
「これでいいのでしょうか?」
「いやいや、これはヤン艦隊のピンチを幾度も救った霊験あらたかな呪文です。きっとこれから
 貴女を何度も救うことでしょう」
効果の真偽はともかく、自分の気を慰めようというアッテンボローの優しさが嬉しかった。
ヒルダの笑みに、アッテンボローは少年のように心が浮き立つのを感じていた。



朝食後にハイヤーが呼ばれ、ヒルダが車止めまで見送りに来てくれた。
「またしばらく離れ離れですね」
そんなアッテンボローの言葉にヒルダの顔はなぜか固い。彼女はまだ戸惑っていたのだ。
私はこの人に好感を抱いている、間違いない。けれどあの人に抱いていた気持ちとは違う。
この先も同じように会って、そしてそれから…二人はどうしていくべきなんだろうか?
「ヒルダさん?」
アッテンボローがヒルダの肩に手をかけたその時、眩しい光が二人の目の前に炸裂した。
「テロか!?」
と一瞬肝が冷えたが、植え込みをガサガサと不恰好に横切る姿は敵兵の様子ではない。
元軍人の体が俊敏に動き、逃げる相手をすぐさま取り押さえ後ろ手にひねりあげた。
小型カメラが硬い音を立てて地面に転がり落ちる。踵を下ろし速攻踏み壊したのだが
「っへ、もう遅いよ。本社に転送しちまったからな」
「…分かった、もうお前はいい。痛くして悪かったな?もう行け!!」
不審者はフリーのカメラマンだった。手を払って振り向くと、青ざめた顔をしたヒルダがいた。
「写真が送られたとかいう出版社に憲兵隊を突入させましょうか?」
「いや!そこまでしなくていいですよ」
以外に過激な皇太后陛下の発言に驚く。
「なんとでもなりますから。なーに、俺なら大丈夫ですよ。それより貴女の名誉が心配だ」
「わたくしのことより…」
「このアッテンボロー様に喧嘩売ったことを相手に心底後悔させてやりますよ」
こんな緊急時に、ヒルダに向かってウインクなぞしてみせる。
「うちの艦隊仕込みのやり方でね!」
そしてヒルダに顔を寄せて耳打ちをした。もちろん、ヒルダはそれを快諾した。
不敵な笑みを浮かべるアッテンボロー。
堅物の教師から帝国軍までさんざん引っ掻き回した過去を思い出したのか、非常に楽しげである。



彼の目で踊る陽光を見たヒルダの内に熱が生まれ、そして強力な上昇気流が渦を巻いて立ち昇る。
巻き込まれて、ヒルダの心は一気に空へと舞い上げられた。
(そうか…私が彼に惹かれたのは…)
自由闊達が生きて呼吸をしているかのような男、自分とはまったく違う空気の中で生きている人。

だから、分かってしまった。
この人に自分が付いていく事はないだろうということを。

彼には彼の世界があって、自分にも心から大事にする者達の中に自分の居場所があるのだ。
ヒルダがようやく自分の気持ちに気付いたとき、それはすでに後姿を見せていた。
恋の成就と失恋を同時に出迎えたヒルダの視界が知らず、滲む。
そして、ラインハルトと自分との間に存在したのは紛れもなく愛であったのだという確信が
ヒルダの深いところから静かに湧き上がってきた。
初恋を知る前に愛が訪れ、その愛は初恋よりも儚く消えた。
しかし、愛は初恋が過ぎた後により確かな姿でもって彼女の前に再び現れたのだ。
(さよならを…言えるわね?ヒルデガルド・フォン・ローエングラム?)

顔を上げたヒルダに気がついて振り向いたアッテンボローは、彼女の顔を見てすべて悟った。
昨夜の翳りはどこにも見当たらず、それこそ彼が惹かれた生気にきらめく瞳がそこにあった。
美しい。天空に気高く光る星が地上で人の姿をとったならばきっとこのようであろう。
一度は彼の手元にあった宝石は、ヴァルハラの神の手により天に煌く星へと取り戻されたのだ。
だから、アッテンボローは自分から切り出した。
「俺…は、待っています。貴女が心を注いで育てる新しい帝国の姿を、楽しみに待っています。
 貴女に恥じないよう、俺もやっていきます」
そうして、右手をヒルダに差し出した。その手を受けて固く握り締めながらヒルダは頷く。
「ええ、わたくしもあなたに同じことを言おうと思っていました」
そしてしばし見つめ合う。
悲痛の気持ちが互いに見て取れるが、相手に寄せる親愛の情はそれを遥かに上回ってありあまる。
「御武運を」
「御武運を」
手が離され――ヒルダは息が止まるほどアッテンボローに抱きしめられた。
目を閉じて、自分を暗い森から連れ出してくれた男の生きている証をしばらく頬を寄せて聞く。
風を感じ目を開けると、アッテンボローの姿はなく車のテールランプが遠ざかっていくのが見えた。
晩夏の風に吹かれてしばらく立ち尽くす。涙はとうに溢れていたが、じきに止まるだろう。
ヒルダは踵を返し、自分が居るべき所、帰りたい場所へ迷いなく歩いていった。

バックミラーに遠ざかる山荘が映る。ヒルダの姿はすでに見えなくなっていた。
切られるような痛みが胸に走るが
(悲劇に浸りきるなんてのは俺のキャラじゃない)
シリアスな状況のときほど生き生きと活動を始める性分が、今の彼の心を支えていた。
「あー。あとちょっとで皇帝ラインハルトもヤン提督も成し遂げなかった銀河統一も
 夢じゃなかったのに……なんて、な!」
右手を持ち上げ目にのせる。閉じた瞼の裏が、熱かった。


309 名前:作者 ◆UyhdNh9lUA 投稿日:2006/04/05(水) 17:34 ID:Qmuv4hn1
翌日、アッテンボローがここ最近汚職疑惑を議会で追い詰めている政敵からビジフォンがきた。
自分の差し金とは当然言わず、どれほどダメージを受けているか確かめる為にかけてきたらしい。
適当に相槌を打って相手の卑小ぶりにとことん呆れ、アッテンボローは闘志を一層燃やした。
「どうだ、こうなったら言い開きも出来まい!今度はお前が追われる番だ!」
おいおい自分がやりましたって白状してるも同じじゃないかよ、と底抜けに呆れてしまう。
「ええ確かに載っていますね。でも隣のページもよくご覧下さいよ。いやはや、宣伝ご協力
 まことにありがとうございます。はい。」
彼の手元の雑誌ページには、二人が親しく並び立つ写真とスキャンダラスな煽り文があるが
すぐ次のページにはなんと
「密着取材!“皇帝の真実”緊急発売!現在鋭意執筆中」との宣伝と共に本の出版予定が、
そして皇太后のメッセージも掲載されている。
「今まで遠かったそれぞれの国がこれで近く親しまれますように」
余裕綽々、怒りが半分といった口調でアッテンボローが続ける。
「では、また会議室でお会いしましょうな」
「ぐ…ぐぬぬぬうううう」
喧嘩には勝ったが、これから自分の歩いていく先の道のりを思うと気が遠くなる。
けれどあの人と俺は約束したのだ。あてもしれない約束だけれども。

「だが、そんな約束に男の一生かける事こそ伊達と酔狂ってものじゃないか?」

まだ残暑は続いているが、空だけは青く高く秋の気配を漂わせている。
椅子にかけた上着を掴むと、アッテンボローは彼の戦場へ颯爽と飛び出していった。











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