カリンひとりエチー(4-237さん)


自慰という行為を知ったのは、13歳の夏だったように、カリンことカーテローゼ・クロイツェルは記憶している。

 大好きな女優の情報を検索していたうちに、その女優のあわれもない姿がヒットしたのだ。
 彼女は驚き、かつ、自分の大切な宝物が穢されたように感じて気持ちが悪くなった。
 そのとき10を越えたばかりの彼女にとっては、性はただ汚らしいものであったから。

 それがいつから変わってしまったのか、彼女はよく覚えていない。
 いつの間にか、家族にこっそりと隠れて、女性の裸体の画像や官能小説を漁っている自分に気づいた。
 はじめは見たり読んだりして興奮していただけの彼女であったが、とうとうある日、自分の下着の中に手をすべりこませてしまった。

 目は文字をおいつつ、手でクリトリス、と呼ばれる、蕾を熱心に撫でる。
 甘い吐息と、水音が室内を満たしてゆく。
 まるで何か悪事を働くかのように、扉に鍵をかけ、蒲団にもぐりこんでおこなった。

 最後には、我慢しきれなくなって、パソコンを閉じて両手を使って胸と下とを責めた。
 まだふくらみはじめてもいない胸に、そのときはまだ小さくあまり感じることも少なかった桜の蕾。
 何かがのぼりつめる感触、空気に溶け出してしまいそうな恐怖。
 やがてそれが甘美な喜びと一緒になって、彼女の全身を麻痺させた。

 その夜は、まどろみと手遊びとを、繰り返し行いながら過ごした。
 朝陽がカーテンから透けて降りてきたとき、時計は5時をさしていた。
 彼女は寝台から降りると、シャワー・ルームに向かう。
 湯を浴びながら、彼女は男を知ったわけでもないくせに、少女から女になったような、奇妙な充実感を覚えている自分に気づいた。

 薄く入れた紅茶色の髪の少女に、自慰は晩夏の夢として、美しく気持ちよい存在だとそのときは認識されたのだった。



リンはもともと男という生き物がどうも好きになれなかった。
 知人、友人としてならばいい。歴史上には尊敬にたる人物が数多くいる。
 だが、恋人としてはどうだろう?
 男というものは、勝手に女を孕ませて、期待をもたせ、それを簡単に裏切ることのできる人種なのではないか?
 ふと思い出すのは、さわやかな微風に髪を波立たせながら、美しい声で歌う母親。
 ひとりぼっちで、ずっと幸せそうにカリンには微笑みながら、夫となるべき人物を待ちつづけたさびしいひと。
 わたしは一生、父親を許さない!
 カリンはそう思っていた。
 その強い意識が、彼女に愛情をそそがれ、そそぐべき男性という存在を、無視させていた。



「ふぅ……ん……あぁ」
 鼻にかかった声をあげる。
 大丈夫、今部屋にはひとりしかいない。
 薄闇の世界、カーテンを透けて降り立つ光の梯だけがまぶしい。
 その光は真っ直ぐにカリンにとどき、愛液を輝かせていた。
 甘美な興奮よりも、罪悪感の方がカリンの身体をふるわせる。
 おかずとして用意された数々の雑誌やHPは、彼女には過激で、男性にいじられ女性が喜びに身体をよじる姿が、
潔癖症な彼女に失望を与えていた。
 自分も外から見ればこんな格好をしているのだろうか? 
 それは彼女にとっては深刻な悩みだった。
 なんて汚らしい、と思いつつ、彼女は若さゆえの熱をもてあます。
 処理しなければ、昼間股間のあたりがうずめきだすし、処理すればしたで、欲望はいっそう増してしまう。
 ―――どうすればよいのだろう?
 頭脳は冷静に問う。
 心身は灼熱して快感に歓喜の声をあげている。
 指でクリトリスを大きく弾いた時、彼女の身体が仰け反って、熱い液が指に絡んだ。




 昔に想いを馳せれば、確かに自慰は綺麗な夢だったのだ。
 降りそそぐ陽光、温まる身体、甘い快感。
 それは種族をたやさないための、生物の繁栄の知恵であったのだろう。
 だが、カリンにとっては、男という存在がなくても、自分で自分を快くすることができるのだ、という事実が頼もしかった。

 ―――なのに、何でなのよ!
 二回目に入ろうとしたとき、カリンはふと亜麻色の髪の少年を思い出し、顔を朱に染めた。
 なにものかに対する怒りと、羞恥のために。
 亜麻色の髪の少年は、強く優しい少年だった。
 いや、もう青年といった方が正しいのだろうか?
 仰ぐべき師を失ってから、彼は目に見えて大きくなった。
 喪失を、なにものかが埋めようとした結果なのかもしれない。
 彼は信頼に足る人間だった。
 真面目な、将来の豊かな青年だった。
 そうであればこそ、彼を思い浮かべてしまった自分を、カリンは許せない。
「そうよ、あいつなんて、わたしのこと何とも思っちゃいないんだから」
 小さく呟く。
 それは間違いようのない真実だと、もうひとりのカリンがささやく。
 ユリアン・ミンツ氏のことを想う慰めは、彼女の自尊心が許可しなかった。



 ダヤン・ハーンにおいて初めてユリアンを見たとき、カリンは「甘いマスクで女の子を騙し、遊んで捨てる」典型的な男だと確信した。
それが時の経つにつれ、「誠実で不器用な男の子」と変わっていったが、それを認めるのは、カリンの中の何ものかが拒否していた。
 ヤン・ウェンリーの死後、カリンは悲しみを心の内にしまって立ちつづける青年を見つづけてきた。
それは、悪意を持てるものではなく、むしろ好意的にすら思っていたのだが、それを認識することが何を意味するのか、カリンには
充分過ぎるほどわかっていて、その先にあるものを遠ざけたいために、感想は胸の奥深くに封じこめられた。



 訓練を終え、自室にひきとると、カリンは華奢な身体をベッドに預けた。
それからおもむろにブラウスのボタンを外してゆき、キャミソールを強引に上にあげると胸を揉んだ。
今日はユリアンと少し口論になってしまったのだ。
発端は、本当にささやかな、ささやかすぎるものであったが。
「―――何なのよ!」
 怒りに任せて胸を揉みあげ、あまりの痛さに眉をしかめる。
そっとブラジャーのボタンを外すと、小さいが形のよい胸が姿を現した。
桜の蕾を優しく愛撫する。
自爆なんてあほらしい真似は、もうすまい。
「本当にいらつく男なのよあいつは。
優等生ぶっててそのくせ不器用で、もう少しなんとかならないものなの……!」
 早口に独語する。
頭の中は、亜麻色の髪の青年に怒気をぶつけることで埋め尽くされている。
手は、まるでそれ自体が意思を持っているかのように、ベルトを外して下着の中に入りこんでいた。
「今日だってそうよ。
まったくあいつは……ぅうん!」
 自らによって与えられた快楽に、カリンは小さな悲鳴をあげた。
それと被さるようにして、インターホンが鳴り、カリンのよく知る声が話しかけてきた。
「カリン?
 僕、ユリアンだけど、謝まりたいんだ。
入ってもいいかな」
 ……いいわけ無いじゃない。
心の中でカリンは呟き、それから慌てて服を直して口喧嘩に備えた。







「お父さん、お父さん!」 
 泣きながら、ユリアンにすがりついたとき、カリンは自分の中にあった男性という種への憎悪が蒸発してゆくのを感じた。
涙に溶けだしてしまったのかもしれない。ユリアンとの接吻を、カリンが自然に受け入れられたのは、そのせいだったのだろうか。
 ワルター・フォン・シェーンコップという、三つの赤によって彩られた男の死が、新たなる歴史を紡ぎだし、ひとつの未来を照らしあげた。
それは暖かで、優しい家庭像。


 本来ならば仇とも言えるラインハルト・フォン・ローエングラムの死は、喪失感をカリンに与えた。
それは、ユリアンの表現を借りるのならば、「この時代を生きたものとして」の感傷であったのかもしれない。摂政皇太后として、
銀河帝国の頂点にたった女性の、頬を伝った一筋の光のあとを思うと、胸が痛んだ。
愛するものにおいていかれる悲痛は、この時代を過ごした全ての人々が唯一共有できる感情であっただろう。
「星が落ちたよ、カリン」
 ふたりの間を、風が吹き抜けてゆく。
 ひとつの時代の終焉を、彼らは目の当たりにしたのだ。
黄金樹を焼き尽くして、その灰の中から新たに芽吹いた木々は銀河を覆い、緑の森をつくりあげた。
残された共和主義者たちは、その緑の森が腐り、人々を害そうとしたときのために、民主主義の理想を守り、後世に伝えなければならない。
 カーテローゼ・フォン・クロイツェルはそっとユリアン・ミンツの横顔を見上げる。歴史作家として新たなる一歩を踏み出そうとする青年の肖像が、
そこにはあった。……



 カリンはその夜、確信した。自分がユリアン・ミンツを愛しているということを。そして、拳を握り締めて叫んだ。
「よし! これでユリアンをおかずにひとりエッチできるわ!」
「……いやふつーに僕とやってほしいんですけど」というユリアンの願望(つっこみ)は、カリンには届かなかったらしく、若き歴史作家はその後一年ほどお預けをくらうことになる……。






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