キルヒアイスひとりエチー(4-228さん)



「おい、ジーク!このファイルありがとな。お礼にこれ付けとくよ」
そういって級友から放り投げられたディスクは二枚。
廊下に落ちるところを寸前でキャッチしたキルヒアイスは、彼に貸していた
戦略論の授業の内容をまとめたディスクを確かめ、後の一枚をみて首をかしげた。
そのもう一枚のほうにはタイトルもなにも書かれていない。

不思議に思う気持ちを抱えたままキルヒアイスは割り当てられた寮室にもどり
それをディスクスキャンにかけたが、危険のあるようなものではなさそうだった。
そもそも、お礼とか彼は言っていたがそんなたいしたことはしていない。
かえって助けられることのほうがよほど多いのに。

彼の親友であり守護天使の風貌でありながら、実際はトラブル収集源の
ラインハルトが毎度毎度覚えもないのに吹っ掛けられる決闘乱闘の類で
授業に遅れるたび、その都度機転の利いた言い訳を教師にしてくれている
貴族の子弟らしからぬ気の良い男で、彼の周りに集まる友人もまた多かった。
孤立しているラインハルトはともかく、その側にいるキルヒアイスに
なにくれと話しかけてくれる相手であり、二人が極端にクラス内で浮くことが
なかったのは彼のおかげであった。

その彼が、お礼だといってくれたこのディスク。
見てみようか、とキルヒアイスはその気になった。
ラインハルトは貴重な『皇帝陛下のご配慮』によるアンネローゼ様との面会で
今晩は九時を過ぎるまでは帰寮しないことは分かっている。

机の上の小型パソコンを起動させるとディスクはスリットに吸い込まれていった。




起動させると、画面にはピンクの背景とともに文字列が映し出された。

R-18

それがいったい何を意味しているのかはキルヒアイスも知っている。
まだ彼が実家にいた頃、タンスの隅から偶然見つけ出した雑誌に
派手派手しく露出された女性の裸とともに踊っていたその単語。
あの時はただひたすら頭がカーッと熱くなるだけでクラクラしたのだが
あれを見てからしばらくはキルヒアイスは隣家に呼ばれるのが憂鬱であった。

あの本より露出度はずっと低いのに清潔な衣服からすんなりのびた細い首や
すらりとしたふくらはぎの白さを見ると、アンネローゼにも同じように
綺麗な裸がその服の下にあるのだという想像が勝手に膨らんでしまうのだ。
あんなに素敵な人なのに、そんなことを思ってしまう自分が恥ずかしくて
しかたなかったのだ。

だがその心配もすぐ無くなった。
アンネローゼが、後宮に連れ去られてしまったから。
酒に逃避して腑抜けになった父親に馬乗りになって拳を振るうラインハルト
その率直さがある意味キルヒアイスには羨ましかった。
キルヒアイスは後宮に召し上げられる意味を、もう知ってしまっていたから。


姉を取り戻すために軍人になると誓いを立てたラインハルトに
幼年学校に招かれたとき、同じ怒りをもつものとして、そして
彼の胸につのるアンネローゼへの限りない憧憬をもつ少年として
ラインハルトと同じ道を往くことをキルヒアイスは当然と受け入れた。

それから数年、いわゆる色気とはずっと縁が無かったのだが。
上級生の噂として貴族の特権として、寮外にて放埓を満喫している話が
耳に入ってくるぐらいのもので、二人には興味がないものであった。
それよりもより早く上進するための道を探すことに心血を注いでいた。

そうして数秒ぼうっとしている間に画面は切り替わっていた。
白いベッドがあり、男が一人横たわっているのが映っている。
ずいぶんと殺風景だな、と思っているとピンク色の影が一瞬横切った。
そしてもう一度画面にフェイドインする。どうやらここは病室らしい。
横たわる男に屈みこんだ女性は、看護婦の姿をしていた。




「どうしましたか…?」
女性は優しく男性の肌を拭き清めている。男は傷に触れたのか顔をしかめ
「あの時はしくじった!あのとき同盟軍が卑怯な真似さえしなかったら」
吐き捨てるように言うと、看護婦は男を優しくたしなめた。
「傷にさわりますよ。あら。まだ熱を持って腫れていますわね?」
「そこじゃなくって、ここですよ、看護婦さん」
男が看護婦の手を持って導いたのは自分の股間であった。

いつの間にか看護婦のまとめられた髪は解かれ金髪がふわりと舞う。
不自然に短いスカートはさらにずり上がり、下着が丸見えである。
さすがに先の展開が予測できたが、キルヒアイスの手は停止ボタンに
かからなかった。その頭さえ回らなかったのだ。脳が沸騰していく。

アングルが変わり、女性の顔が映し出される。美人の部類だろう。
キルヒアイスの鼓動が一瞬止まる。彼女の瞳は、深い青玉色であった。
顔の造作は違うのに、遠くからのアングルだと一瞬錯覚してしまう。
男に好きなように身体をまさぐられながら、彼女の口調は丁寧なままだ。
「熱を測りましょうね。ここは、どうかしら?」

一瞬の錯覚が、キルヒアイスの記憶を引き出す切掛けとなってしまった。
キルヒアイスが風邪で寝込み、両親が留守になってしまったとき
看病に来てくれたアンネローゼ。ああして優しく見舞ってくれたのだ。
そうなると彼女のセリフがアンネローゼの声で再生されてしまう。

画面では看護婦の衣装を半ば剥かれた女性が男にのしかかられ
柔らかそうな胸をもまれながら、片方の乳はねっとりとしゃぶられている。
男の顔は映らない。女性の方は長い金髪をシーツに散らし甘声をあげる。
いったん引き出された記憶は止まらない。冷たいタオルを額に乗せてくれた
滑らかでひんやりとしたアンネローゼの指、寝付く前に残してくれた
頬への口付けの弾力のある唇。ジーク、と呼んでくれたあたたかい声。
ダメだ、と意志が止めるが手はズボンの前を解き自身を引き出していた。




もうキルヒアイスの目は画面を見ていない。
アンネローゼと離れて長いのに、その期間は彼の記憶を薄れさせず
反復された回数の分、鮮明な記憶としてキルヒアイスの脳に焼き付いている。
その記憶がよりにもよってこんな時に、これ以上ない甘美さで彼の理性を溶かす。

ラインハルトと同室のため自然の生理にはそれなりに手早く解消していたが
今晩は気遣う必要がないとあって、キルヒアイスの心も解放されていく。
彼の脳内では看護婦姿に身を包んだアンネローゼが淫らな姿勢で
切ないうめき声を上げていた。

サファイア色の瞳を潤ませながらキルヒアイスの手に身体を震わせつつ
彼の股間を優しく包んで上下に擦って「あなたも…いい?」
全裸以上にいやらしいナースキャップをつけたのみの下着姿。
薄目を開けるように見ると、彼女はますますアンネローゼに見えてくる。
その人が、こちらに白いお尻を見せて誘うように揺れる。男が跨った。

アングルは横に移り、ゆすぶられて揺れる乳房が画面に大写しになる。
その白さを際立たせるような浅黒い男の手がその胸をわしづかむ。
手は自身を上下に擦り続けたまま、思わず空いた手の方で羽枕を掴んだ。

あの人の声が、高く大きくなる。
「あ、ああっ…もう…気持ち、いいっ…!お願い、お願いっ!やっ」
砂時計のように括れた腰を掴み、思うままに甘い体を自分の下に組み敷きながら
あの人のお願いをまだまだ聞いてやらない。
「もう、逝、逝きます!ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」




大また開きで男の膝に座り込み、後ろから挿され胸をもみしだかれて
画面の女性は絶叫し続ける。
しかも修正が甘いのか肝心な部分が接写の時はズルズルに濡れたそこと
粘液でブチュブチュに塗れた欲望がはっきり分かる。
性器の露骨ないやらしさと女の快感に溺れた声がキルヒアイスの理性を飛ばした。

いま脳裏に浮かぶ像は、同じような体位でアンネローゼの細い体を
思うままに舌でねぶって身をよじらせ、己をズブズブと突き立てている自分。
「ジーク、ジーク!ああっ!お願いよ、許して…っ」
「分かりました、逝くときは一緒ですよ」
「嬉しい…ジーク!ジーク!!ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「アンネローゼ様、出し…ますよ!」

っく!

擦っていた手にドクドクと熱い液体が零れ溢れていく。
慌てて手近なタオルを取って股間に押し当ててほっとすると同時に
さっきまでの熱情は潮が引いていくようにあっさりと消えていった。
あまりの開放感の強さに放心しながら、画面をぼんやりと見やる。
先ほどまでの痴態が無かったように楚々と看護服を着る彼女の顔は
アンネローゼとはやっぱりそれほど似ていなかった。

自分が空想の中で欲望が赴くままに蹂躙したのは彼女ではない。
アンネローゼである。
快楽の強さに慄きながら、それでもキルヒアイスは先ほどの妄想を
すっかり脳内から消し去ることが出来なかった。

あの人は、清楚なエプロンドレスが似合う清浄の園に住まう人なのに!
深く、深くキルヒアイスは己の浅ましさに落ち込んでいった。
なんて罪深い自分、こんな自分を見たらアンネローゼ様がなんと言うか!
せめて、せめてラインハルト様を助けることでお許しくださいませ。

そしてキルヒアイスは彼自身の誓いどおりにラインハルトの主席につぐ
二番の位置を保守し続けた。
あいかわらず親切でディスクを差し入れる友人はキルヒアイスの努力に
ひたすら感心していた。自分の親切がそれに一役買っているとは露知らず…


終わり。ノシ




【おまけ】

「お前も姉上のところに一緒に連れて行ければいいんだがな」
「いいえ、私には直接関係は無いのですから仕方ないですよ」

心底残念そうな顔をするラインハルトの心的負担を軽くしようと
キルヒアイスはそう言って見せたが、やはりアンネローゼに会えない
自分の境遇を口にしてみると、諦めの気持ちがより濃くなるのであった。
だが、キルヒアイスの心にあるのは失望だけでは無いのもまた事実である。
それをラインハルトに気取られないよう、キルヒアイスは言葉を継いだ。

「お気をつけていってらっしゃいませ」
「ああ。姉上にもお前がよろしくいっていたこと伝えておこう」
廊下に響く靴音が遠ざかり、完全に聞こえなくなってから扉を閉めた。
キルヒアイスの傾向はすっかり友人に見抜かれているようだ。
興奮と後ろめたさがない交ぜになった複雑な心境のままディスクを立ち上げる。
長い金髪の、綺麗なお姉さんタイプの女優が画面にあらわれた…。






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