キュンメル男爵×ヒルダ(4-169さん)




 ハインリッヒが久しぶりに従姉に会いたがっているという。ヒルダはハンスからそう聞くと、上司であるラインハルトから一日の休みをもらった。
ハインリッヒとは久しく会っていないのは事実である。きっと寂しい思いをしているのだろう。
「ハインリッヒ? 入るわよ」
「ヒルダ姉さん! どうぞ」
 青白い頬が、わずかに紅潮したように見える。
 ヒルダの姿を認めたとき、瞳に宿る光が歓喜から困惑に変わった。
「……あれ? どうして軍服なんですか?」
「わたし、一応軍人になったのよ」
「わぁ、すごい! さすがヒルダ姉さんだ。多分帝国ではじめての女性軍人ですよ」
 ヒルダは微笑した。
「ヒルダ姉さんは、やっぱりすごいなぁ……」
 恍惚とした表情である。ヒルダとハインリッヒは、2時間ほど談話した。陽が傾きはじめると、ヒルダは席をたつ。
「そろそろ帰るわね。暗くなるから……」
「え? もう帰るの?」
「ええ、それに仕事もあるし……」
「ラインハルト・フォン・ローエングラム侯爵の秘書としての?」
「ええまぁ」
 珍しく歯切れの悪い返答であった。
「今日くらい泊まっていってくださってもよろしいでしょう? 部屋はいくらでも用意しますから」
「そうねぇ……」
 明日の朝、5時くらいに起きれば、出仕時刻には間に合うだろう。
 ヒルダはそう考えると、うなづいた。
「そうね、そうしましょう」
「やった。ありがとう、ヒルダ姉さん」
 ハインリッヒは微笑んだ。曇りのない嬉しそうな笑顔に、ヒルダは自分の決断が間違っていなかった事を知った。



 食事が済み、ハインリッヒと少し話すと、ヒルダは寝室に向かった。体が熱く、また眠かった。熱でも出たのだろうか? 
シャワーを浴び終えたヒルダのもとに、ハインリッヒの侍従である少年が駆けつけた。
「申し訳ございません、フロイライン・マリーンドルフ。ハインリッヒさまが眠れないので傍にいて欲しいとおっしゃられているのですが……」
「そう、ハインリッヒが……。いいわ、行きましょう」
 ヒルダは快く承諾した。弱く儚い従弟の存在は、ヒルダの母性をくすぐったのだ。
「ハインリッヒ、入るわよ?」
「ヒルダ姉さん……」
 ハインリッヒはベッドに上半身だけ起こしていた。
「どうしたの、顔色が悪いかと思ったらいいわね。よいことだわ」
「ヒルダ姉さん、お願いがあるんです」
「なあに?」
「僕はもうすぐ死ぬでしょう」
「ハインリッヒ!」
「いいえ、僕は知っているんです。知っていて、ヒルダ姉さんに最後のお願いがあるんです」
 ハインリッヒは自分で自分の肩を抱きこんだ。声が過剰に震えていたが、三割がた演技だった。
「……僕、女のひとを抱いてみたいんです」
「……ハインリッヒ??」
「お願いです。今宵ヒルダ姉さんを抱かせていただけませんか?」
「ハインリッヒ、よく聞いてね。
 まず第一に、そういった行為はあなたの体にさわるわ。
 第二に、わたしたちは従姉弟で、倫理的に問題があるわ。
 第三に、あなたのその体でそういった行為を行うのは不可能なのよ!」
「知っています、姉さん」
「だったら……」
 ほっとしたヒルダだったが、次のハインリッヒの言葉で凍りついた。
「だからそういった行為を見せてくださいませんか?」
 絶句したまま固まるヒルダに、ハインリッヒは話を続けた。
「僕、女性の裸体とか痴態とか見るのが好きなんです」
「ハインリッヒ……」
 ヒルダは呟いた。まさかあんなにかわいかった小さな従弟にそんな趣味があるとは。男性って見た目によらないのね、
と、ちょっと現実逃避して考える。
「僕、女性も知らずに天上に行くのかな……」
 さびしそうに、ハインリッヒは独語し、涙をこぼした。完全に演技であるのだが、ヒルダは動転していてそのことに気づかなかった。
「な、泣かないで、ハインリッヒ……」
「だって、僕、僕……」
 しゃくりあげて泣き出す従弟の姿に、ヒルダは決意を固めた。
「いいわ、いいわ、ハインリッヒ。見せてあげる。だから泣かないでね。でも、今日だけよ? いいわね」
 ハインリッヒは顔をあげた。向日葵のような笑顔。
「ありがとう、ヒルダ姉さん……」
 ヒルダは心の中で溜息を吐いた。
 なんでこんなことになったんだろう……。



「で、どうしたらよいの」
 ハインリッヒは嬉々として答える。
「まず服を脱いで」
「……電気、消していいかしら」
「駄目です! 見えないじゃないですか」
「……そうね」
 ヒルダは金具をはずし、ベルトを取った。黒い制服が自然とはだかれ、薄い下着からブラジャーが覗く。
白と淡紅色の、繊細な薔薇のレースでできたブラジャーに、ハインリッヒの瞳は惹き付けられた。
「勝負下着じゃないですか」
「違うわよ……」
 否定する声が、我ながら弱弱しい。
「違いませんよ。誰とするつもりだったんです? もしかしてラインハルト・フォン・ローエングラム?」
 ヒルダは真赤になって首をふった。が、ハインリッヒはまったく信じなかった。
「もしかしてそうなるかと思って準備してたんですか? いやらしいですね」
 軽蔑したような声だった。……なんで自分はこんな目にあっているのだろう……? ヒルダはちょっと不思議だった。
「ちょっと上から揉ませてください」
「え? でも、見ているだけって……」
「そうですね。じゃあ揉んで下さい」
 墓穴を掘るってこういうことを言うのかしら。
「ハインリッヒ、でも」
「約束を破られるのですか」
 非難する響がある。「そうね」と諦め、ヒルダはそっと胸に手をやった。頭痛がして、うまく頭が働かない。



「もっと強く!」
 叱責が飛ぶ。ヒルダはぼんやりする頭で、従わなくちゃ、と考えた。ブラジャーと薄い下着の上から、胸を掴んで揉む。
薔薇のレースが肌に食い込む。
「っ―――」
「感じてるんですか?」 
 楽しそうなハインリッヒの声がした。ヒルダの顔が真赤になった。
「そうですね、もっと気持ちよくなりたいですよね。それじゃあ、下の方のベルトも外して、そこからショーツに手を入れてください」
 ヒルダは無言でそれに従った。
「あっ……」
 ショーツに入れた手の冷たさに、自然と声があがる。
「はははは、体は正直ですからね……人差し指と中指と薬指の中をぐちゃぐちゃにかき回してください。それから、下着の中に手を入れて、
ブラジャーを外して直に揉んで下さい」
 三本の指で刺激された性器は、蜜を溢れさせていた。水音が、静かに部屋に響く。
(いや。何なのこれ……)
 甘酸っぱい匂いに嗅覚が反応する。体が喜びを感じていることに、ヒルダは困惑していた。
「やぁあ……あっ」
 指がクリストスを刺激してしまい、彼女は自分でも予期しなかった声をあげた。ハインリッヒの目が細められる。
「いいなぁ、その顔。ヒルダ姉さんのそんな顔が見られるなんて、すごい名誉ですよ。
 きっとその名誉は今までローエングラム侯爵が独占していたんでしょうね?」
 ハインリッヒは勘違いをしている。ヒルダの頭脳の冷静な部分がそう言った。ラインハルトの顔が鮮明に浮び、逆にヒルダの快感は高まった。
 ブラジャーのボタンを、むしろ積極的にはずして、ヒルダは乳首を人差し指と親指でもてあそぶ。
「あぁあ……あぁあ……あっ」
 ピンクの乳首が、直立している。大理石の肌は、体中炎の神に接吻されたように赤い。
「そんな顔、マリーンドルフ伯が見たらなんていうかなぁ。淫乱な娘だって、きっと悲しむでしょうねぇ」
 ハインリッヒは興に乗ったようにヒルダを責めた。
「僕もちょっと失望しましたがね、あの快活で聡明なヒルダ姉さんが、そんなメス豚みたいな格好しているのは……」
 ハインリッヒは苦笑した。誰がそう仕向けたのか。
「しかしまぁ、感じるものは確かにあります」
 とうとう立っていられなくなったヒルダが、床に崩れ落ちた。
「ちょうどいいですね。ズボンとパンツを脱いで足を開いてくださいな」
 ヒルダは潤んだ瞳を従弟へ向けた。



「そんなこと、出来るはずないじゃない……」
「恥ずかしがらなくて結構ですよ。ここには僕と姉さんしかいませんから。脱いでください」
 ヒルダはしぶしぶ、ズボンだけ脱いだ。薔薇のレースの下着から、薄くくすんだ金髪の恥毛が覗く。
「下着も脱いでもらえますかね?」
「だって、ハインリッヒ……」
「ここまで来て止めるのはなしですよ。それとも僕が脱がしてさしあげましょうか?」
 ヒルダは首をふった。それは恥ずかしすぎる。下着を脱ぐと、蜜が尾をひいてきらきら輝く。ハインリッヒは微笑した。
「綺麗ですね。それ、僕に下さい」
「嫌!」
「……姉さん? 自分は今どんな状態にあるかわかってるんですか? 侍従と医者呼びますよ」
 ハインリッヒの部屋には、いざというときのために侍従と医者にインターホンが繋がっていた。押せばすぐに医師団がかけつけるだろう。
ヒルダはそのことを知っていた。
「わかったわ……」
 彼女は立ち上がると、数歩歩いて、ハインリッヒに下着を手渡した。彼は楽しそうに下着を観察すると、そっと匂いを嗅いだ。
「ハインリッヒ!!」
 ヒルダの顔が紅潮する。
「ヒルダ姉さん、少しうるさいですよ。貴女らしくないですね。ほら、床にお尻をついて股を広げてくださいな」
「……いつからそんな下品な言葉使うようになったの」
「御股をお開き下さいませとでも言えばいいんですか」
 ヒルダは小さく嘆息した。莫迦な約束をした自分に向けてか、従弟のジョークセンスに向けてかは定かではなかったが。
マリーンドルフ伯爵家の令嬢は、床に座った。
「足を開いてください」
「いや……」
「これは要望じゃないんです。命令ですよ」
 ヒルダはしぶしぶ、足を開いた。ハインリッヒは眉をしかめる。
「見にくいですね。膝を両腕でかかえて、もっとよく見えるようにしてください」
「嫌よ……」
「なんなら侍従を呼んでやってもらってもいいんですが」 
 それはもっとお断りしたかった。ヒルダは、膝をかかえてあげた。性器がハインリッヒの目に飛び込む。
「ああ……」
「見られるだけで感じるなんて、意外にヒルダ姉さんも好きですねぇ」
 ハインリッヒの言葉通り、ヒルダの性器からは次から次へと透明な液体が零れだしていた。
 



「やぁ……」
「何が嫌なんです? 頭脳明晰な姉さんらしくないですね。もっと論理的に話してくださいませんか」
「いつからそんなに悪い子になったの、ハインリッヒ」
 むしろ救いを求めるような声に、ハインリッヒは笑って見せた。廃屋を吹き抜ける風を思わせる、空虚な笑み。
「姉さんが誘っているとしか思えないような軍服で来たから。貴女のせいですよ」
「―――そんな」
「まぁそれはいい。そうですね、下の方は充分堪能させていただきましたから、今度は上を脱いでいただけますか?」
「ハインリッヒ、ねぇ、やっぱり止めましょうよ、不健全だわ」
 泣いて許しを請うヒルダを、楽しそうに病弱な従弟は見つめた。
「ヒルダ姉さんのそんな姿が見られるんだ。どうして止められる?」
 口の中だけで呟く。
「姉さん、ヤーかナインか、です。ナインであれば侍従でもよんで脱衣を手伝わせますが……?」
 インターホンに手を伸ばそうとするハインリッヒを、ヒルダは止めた。
「脱ぐわ、脱ぐから止めて……」
 少年は微笑した。むしろ優しげな笑みだった。
「―――上着を落して」
 黒と銀の、華麗な制服が床に接吻した。
「下着も脱いでください」
 薄くブラジャーの透ける下着を、ヒルダは脱いだ。繊細なレースのブラジャーの網目から、白い素肌が顔を覗かせている。乳首は痛ましいほどに立っていた。
「ブラジャーのホックを外して、持ってきて、いや、立つことは不可能そうですね。床にでも置いておいて下さい」
 ヒルダはその通りにした。
 ブラジャーを外すと、豊かな胸が飛び出した。
「……? そうは見えませんが、これは矯正下着というものですか?」
「そんなところかしら」
 顔を赤らめて、ヒルダはそう答えた。両手で覆い隠せないほどの、豊満な乳房。
「確かに、この胸に軍服は、軍人たちに犯してください、と頼み込むようなものですからね」
 ハインリッヒは、素肌に軍服だけ着たヒルダを想像してみた。ヘタな風俗嬢のドレスよりも扇情的だ。



「そんな……」
 ヒルダは視線をずらした。ふと、今まで受けた好奇の視線を思い出したからである。一般的にヒルダが独裁者の寵愛を受けていると
考えられていること、婦女暴行はローエングラム支配下にあっては死に値する行為であることが、ヒルダを護ってはいたのだが。
「歴代の名将にレイプされる自分の姿でも浮びましたかな」
「ち、違うわよ」
「怪しいけれど、まぁいいでしょう。片方の手で胸を、もう片方の手で下の方の亀裂を触ってみてください」
 ハインリッヒは急速に重くなっていく自分の頭脳を自覚していた。彼の体力気力ともに、あまり残されてはいない、はやくヒルダをいかせなければ……。



 いかせなければ? なんだと言うのだろう。
 ハインリッヒには確信があった。僕はもう死ぬ。結局、屋敷から外に出ることも叶わず、女を抱くことすら出来ず、この現世を旅立つのだ。
 哀れんでくれ、などとは口が裂けても言えない。それは彼の矜持が許さない。神は不平等なのだ。一方では矜持のために戦うことが出来、
死んでゆくことが可能な英雄たちがいるというのに、自分はそれを許可されない。それが自分の能力のせいならば納得できるだろう。
 しかし、彼は病気のために豊かな未来の可能性をいくつも放棄しなければならなかったのだ。
「ヒルダ姉さん……」
 声が震える。
 ヒルダはハインリッヒのことはもう眼中にないようだった。進んで胸をいじり、性器内をかき回している。
 彼は夕食に媚薬が混入されていたことを知っていたが(というか彼がそう指示したのだが)、聡明で快活で尊敬していた女性の痴態は、
興奮とともに一種の失望を彼にもたらした。
 結局、この人もメスなのだ。
「姉さん、そんな姿をローエングラム候にさらしているんですか?」
「そんなことあのお方はなさらないわ!」
 ヒルダは、顔を上げて否定した。
 瞬間、潤んだ瞳から涙が漏れて、頬を伝う。
「……きっとね、あの方も貴女のそういった姿を見ればこういった事をなさると思いますよ」
 あの金髪のグリフォン! 美と才を象徴するかのような英雄! 彼は嫉妬していた。ヒルダの後ろに透けて見える男性に、
同じ男性としての嫉視を投げかけていたのだ。
「ヒルダ姉さん……そうですねぇ、ベッドに登ってきてください。立てれますか?」
 もう少しだけ、大神オーディンよ、吾が願いを聞き届け給え。
 深まりつつある肉体的疲労を、どうにかしてごまかしながら、彼は心から願った。



 ベッドに這いつくばるようにして登ってきた女性に、小さく彼は笑いかけた。
「綺麗ですよ、ヒルダ姉さん」 
 全身を、うっすらと汗がおおっている。
 青緑色の瞳が、青白い肌の少年を、おびえるように映す。
 その瞳なのだ。朝露に濡れたエメラルドの中に、蒼い炎がたゆたっている。
「僕のズボンを脱がせてください」
 びくん、と、宝石の中の炎が大きく揺れた。
「―――脱がせれば、いいの?」
「そうです」
 なるべく優しく微笑む。そう、手をかけて、ゆっくりとずらしてくれればいい。隆起した物体を目にして、ヒルダは思わず顔を背けた。
「下着も脱がせて下さったら嬉しいのですが?」
 彼女は、汚物を触るように、それを脱がせた。
 グロテスクな物体が、彼女の眼前に踊り出る。
「―――舐めて頂けませんかね?」
「嫌よ……」
「姉さん、ここまで来てそれはないでしょう。僕だってもう限界なんです」
 哀しそうな顔が、ハインリッヒを直視した。
 ああ、この人に教えてさしあげようか。そんな表情は男の扇情するようなものだと。
 きっと天然で男を誘える人なのだ、この人は。
 ハインリッヒは小さく笑った。よくもまぁ、大本営などという男性社会で無事に生きてこられたものだ。



「舌を伸ばして、そう、初めは先端からでいいんです」
 淡紅色の薔薇のような、可憐な舌がそっと伸ばされる。その姿だけで、充分に魅力的だ。
「ゆっくり、全身を舐めてやってください……」
 ヒルダはそれの味に、苦渋の表情をした。ハインリッヒは微笑した。
「まぁ、美味しいとは言いがたいものですからね。うーん、そう、気をちょっとずらしてあげましょう。お尻を高く上げてください」
「そんなはしたない格好できるわけ……」
「先ほど犬のように性器をあらわに乱れていらっしゃったのは何処のご令嬢でしたかな」
 彼は破顔した。
 ヒルダの、羞恥と憤怒の入りまじった表情の、なんと魅惑的なことだろうか。
 ブルーグリーンの瞳には怒り、けれども唇から漏れる声は歓喜の呻き。
「それは……」
「早く!!」
 悪童を叱り付けるような感覚て命令してみると、美しい伯爵令嬢はしぶしぶ尻をあげた。



 骨と皮で構成された、生気のない手を伸ばす。すっと割れ目にそれを侵入させると、彼女は短い悲鳴を上げた。
「止めないで、咥えてください」
 さらに付け加えられた命令に、ヒルダは一瞬ひるんだ。しばしの逡巡のあと、命令を実行する。
 ハインリッヒは手を動かしながら、熱いものがこみ上げてくることを覚った。
 せまりくる灼熱の快感に目を細めながらも、ハインリッヒは彼を口に含んだ令嬢に目をやった。彼女もそろそろ限界のようで、
処女雪に朝焼けのさしたような肌が、小さく震えている。
「姉さん……姉さん!!」
 彼は呼んだが、女性は答えない。何かに必死に耐えるような顔をしている。
 五感のすべてが性に犯されてゆく。水音、鼻をつく匂い、熱をふくんだ瞳。
 ハインリッヒは不意に絶叫した。
 その瞬間、彼の手にも熱い液体が降りかかった。

「―――ヒルダ姉さん……」
 ヒルダの精液に濡れた顔を優しく撫でて、ハインリッヒは心の中で語りかけた。
「僕はやっぱり死ぬんですね?」
 そうでなければ、なぜこの聡明な令嬢が自分なんかの要求を聞くというのだろう。
 このか弱い女性を抱くことすら、「お願い」しなければならないような脆弱な人生。
 もうひとりの、この愛すべき従姉の仕える男は、自らの矜持に殉じることができるというのに!
「姉さん、やっぱり神さまは不平等なんだ……」
 荒く息を吐き出す口に、人差し指と中指をすべりこませる。わざと水音を立てるようにして、口の中をかき回しながら、ハインリッヒは小さく呟いた。
 







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