海底への誘い‐始りの海・前編‐ポケットモンスター二次創作 紅龍作
「間も無く目標地点に到着します。作業員は各員準備に取りかかって下さい。繰り返します各員は…」

 ここはカントー地方南部の近海……。
 俺はリュウト。昔はポケモントレーナーとして活動していたが、今は遠洋調査船の調査員として乗り込んでいる。この調査船は海底を掘削機を使って掘り起こし、その中の物に歴史的な物や、生き物などがあれば調査して、提出するというものだ。今回も調査機関から調査地点を指定されていたらしい。
 そして船はエンジンを停止すると、目標地点に到着したのだった。俺はダイブ班とは違い、船内に送られてきた物を保存出来る状態にして研究機関へレポートを提出すると言う作業だ。掘削機が動きだし、掘り起こされた物が大きなチューブを通って俺に送り出される。どれもあまりにも長い期間沈んでしまっていたのだろうか、とても保存など出来ない物ばかりであった。
「今日もあまり芳しくないな…。無駄骨だったか…?」
 そんな事を考えながら作業をしていると、掘削機から送り出された物の中に何やら入っていた。
「?……何だ…?これは……?」
 それは、大きな辞典サイズぐらいで厚さはさほど厚くなく、薄い感じの石盤であった。古ぼけているのか、俺は手で不純物を払いのけると、石盤には文字と削れてしまっているが何かの生き物の絵が彫ってあるようだ。
「ん?これは…、見覚えのある文字だが……。そうだ…、これは……。」
 俺はトレーナー時代に遺跡の中を冒険したときがあった。その時にあった古代文字と同じ型だった。
「う…ん…と…、『汝の魂、我の魂と同化し、海原に我、再来するであろう…。』か…?これは…。」
 俺は彫ってある絵を更に良く見てみた。古ぼけているせいか、良く調べないと分からないが絵の輪郭を見る限り何かの翼の有る生き物のようであった。するとその絵の動物の瞳が蒼く光り初め、石盤からその動物の姿の光が現れたのだ。光は一度俺を見据えると、俺の体に向かって直進して俺の体にすぅ…っと入っていった。
「何だったのか……、一体……?」
 俺はこの石盤には何かが有ると確信し、これを自宅に有る研究室まで持って行く事にした。船がハーバーに到着する頃には既に辺りは暗くなり始め、研究室までの海岸の道を月明りが照らしながら、俺は石盤を良く見ていたのだった。
「これは一体何の為の物だろうか……。」
 トレーナー時代に調べていたあらゆる知識を駆使して考えるが一向に考えが纏まらない。
「仕方が無い……。暫く休むか…。」
 そう言って俺は海岸の砂浜に座り込み、海面を眺める。
「海か……。何か関係でもあるのだろうか…。」
 波打ち際に近寄り俺は石盤を海水に付ける……。

「何か…、変化は見られるか………。ぅぐぁ……!!」
 海水に付けた途端に石盤が光始めると突然、体中が疼き始め体が自分通りに動かなくなる。
「…く、…苦しい……体が……、熱い……」
 体が内部から燃え盛るように発熱し、体を冷やそうと無意識のうちに海水の中へ体をつけていた。そのまま硬直状態が続き、頭の奥から響いて聞こえる声がし始めた。
「汝よ…、汝は我と共に永遠に生き続ける……。」
「…ど…、どういう意味だ…!俺とって……ぐはぁ…!!うぅ……ぐっ……。」
 突然意識が朦朧となった。まるで底の無い深海へ沈むかのように……。そしてその感覚と同調するかのように俺の体にも変化が起き始めた。
 全身の細胞が一斉に激しく分裂をし始め、膨れ上がるかのように大きくなり、何時の間にか俺は巨大化した両腕を指の先まで大きく広げていた。そして五本指のままで、爪は吸い込まれるように無くなり、皮膚は柔らかい肌色から弾力はあるが少し硬く、白い光沢がある物になり、全体的に腕から指先までが翼のようになる。
 胴は動物のような滑らかな流体型の体付に、所々筋肉が著しく発達していき、肌色から腕と同じ皮膚へと変わっていく。その一方で、腹部は全体重の半分を占めているかのように膨れて、皮膚は薄青に染まり始める。
「うぐぁぁうぅ……!!」
 俺は水中にも係わらず、声にならない叫びを上げるが、体の変化は更に進んで行く…。尻からは尾てい骨が周りの筋肉と共に急激に伸び始め、太く長い、先端に青い突起物のような物が二本生えた、白い尻尾が姿を見せる。尻尾と共に足も太股が大きく膨らみ、指は五本から三本に数を減らし、足先になるにつれて細く動物的な繊細だが、力強い足に変化していった。
 変化の無かった首周りも変化し始め、首は太く長く伸び始め皮膚は白く染まり、頭は髪の毛が全て抜け落ち海中を漂っている。
「あがぁぁあぁっ…!!」
 海中にいるはずなのに俺は自然と呼吸が出来ている。そして声も水の中でも聞こえるようになっていた。しかし、俺にはそんな事を考えている状態では無く、更に変化が進んで行く……。頭蓋骨が激しい音をしながら変化していく。
 脳天から骨とともに大きく盛り上がっていき、それは角のように先が尖った形になった。顔も扁平気味になると、鼻と上顎が一体化すると、鋭い牙が一対生え口が大きく開けるように広く裂けていた。そして、目の周りの皮膚が盛り上がり、その部分だけ深い青に染まり始め顔から尖るように発達していった。
「ウガァァァアア!!!」
 これまで以上に大きな声が辺りに響くと、背中からは左右に対になるように青い突起が五つ姿を現すと、それまで苦しそうにしていた顔が無表情になり、静かに瞳を閉じていた。そこには巨大な深海に棲む龍のようで、鳥のようにも見える不思議な生き物……。

 そう、俺の体は伝説にしか聞かれていなかったポケモン……、ルギアへと変化していたのであった。しかし、体の急激な変化が終わる頃には『リュウト』と言う俺の意識は変化した体の奥底で醒める事のないであろう、深い眠りについていた。体の元の意識が眠りにつくと、代わりに別な意識が体を支配していった。それには時間は掛からなかった。
 そして、変化した体には『私』と言う石盤に眠っていた意識が静かに、確実にその体を我が物にしていた。そして私はゆっくりと瞳を開く……。その瞳は人間の時のような茶色の瞳から、どこか畏怖を感じさせられる鋭い眼光と、神秘的な深海を思わせる深い色をした澄んだ美しい蒼い色をしていた。
「…すまない……。暫く、君の体を借りるぞ………。」
 そう頭の中で体の奥で眠っている彼に話しかけた。そして大きく鳴き声を発し、深海の中をひたすらある場所まで泳いで行った……。そう……、これから世界で起こる大事件が起きる場所まで………。


海底への誘い‐始りの海‐〜終〜
海底への誘い〜後編〜
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